合流成功
「……で、なんだってこんなことに……?」
学園施設を探して森を跳び回っていると、それはもうとんでもない爆発が遠くで起きたのを確認したので来てみるといつものメンバーが勢揃いしていた。
「目視だけでも百近く魔物が集まったもんだから、つい……」
何故そんなになるまで放っておいてしまったのか。
「まあ、メンツが揃ったみたいだから良しとしようよ。で、結構時間が経ったみたいだけど……なにか手がかりはあったかな?」
悠人が言う。あるわきゃねーだろ。あったら合流しないでそっち向かってるよ。
「ここ広すぎない……?」
「俺がそこそこ全力で跳び回って気配もなかったんだ、相当だぜ」
一度、俺の高度限界まで跳んでみたが、果てが見えなかった。或いは、魔法か何かで空からの目視を阻止しているのかもしれない。
「とにかく歩くしかねえよ。そういうイベントだぜ、これ」
「そうだね。やるしかないか」
そういうことになった。
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日が落ちてきた。昼でも仄暗かったものが、夕方になっただけでかなり暗くなっている。木々の先さえ見通せるか怪しいところだ。
「まずいな……灯りもロクにない状況で夜になると魔物が接近してきても気付きにくい」
「あいつら、昼夜関係ねえからな。睡眠って概念ねえし……でもお前ら魔素の動きとかでわかるんじゃねえの?」
「人工魔物は普通の魔物と反応が違うんだ。マイナスのエネルギーがほぼ感じられないんだよ」
「つまり?」
「わからないってことだね」
「くそ、どうすっかなあ」
俺がぼやくと、エリオットが挙手をした。
「ちょっといいかい?」
「なんだ?」
「休む場所が必要だと思うのだけれど……そう、壁と屋根があるような……」
というエリオットの言葉に、
「うんうん、確かにそうだね」
「今から木を切ってツリーハウスとか作る?」
「洞窟などを探すのもいいかもしれませんわね」
といった具合に賛同が集まる。
だが俺は言う。
「なんで?」
「えっ」
エリオットだけでなく俺以外の全員が一斉にこっちを見た。
「野宿では……?」
俺が小さい頃はそうだったよ……?
「なんで!?」
「だってサバイバルだろ?」
「それはそうだけれども!」
地に耳を付けて寝ると足音で敵の位置がおおよそわかるしね!
「ツリーハウス……とまでは行かないけど、安心できる環境が欲しいんだ」
「まあ、休憩所を作ろうってのは悪い案じゃないとは思うけどよ……」
どうやって作るの、それ。
「魔導武装で伐採から建設までやるのかよ? どれだけ時間がかかると……」
「普通に魔法で作るんだけど……」
「…………」
真っ先に魔法という手段を排除した自分が憎い。
「で、具体的にはどうやって作るんだよ?」
「土属性の魔法の中に、木を操るものがあったはずだ。とは言え……」
エリオットはそう言ってメンバーを確認する。
「いないんだよね、土属性に精通してる人が……」
まあ、別に得意とする属性がなんであれ他の属性の魔法を使うことは出来るのだが……そもそも魔法を使うには最低限、詠唱を覚えていなければならない。
属性を意味する属性詞に動詞を組み合わせるだけで詠唱そのものはなんとかなるが、属性によって魔力の流れが微妙に違う。
まあ、風属性の魔力の使い方で他の属性魔法を使用しても発動はするが……風属性風味になる。
例えば炎属性だと発生時の風が強くなるので火力が少し上がる。水属性だとちょっとミストっぽくなる……といった具合。
「ここまで人間がいてよくもまあキレイに土属性だけいないもんだな」
「流石に、家を建設するレベルの魔法となると、純粋な土属性じゃないとダメだろうさ。……そういや、悠人はどうなんだよ?」
禁呪でどうにかならんのか。
「うーん、そもそもどういう魔法語使えばいいんだろう……一応、全文禁呪で構成されてる建築魔法はあるけど……」
「あるけど?」
「出てくるの、魔城なんだよね……。近付くものを全て魔砲で自動迎撃したり六本足で歩いたりするよ。これは長時間かかる調整の必要のない、威力向上の前提文付与のタイプじゃなくて全文だからすぐ詠唱できるけど……どうする?」
「ここにある森が地図から消えるから却下だ」
「まあそりゃそうだよね」
とは言え、どうしたものか。もう最悪、魔城でもなんでも出してもらってもいいかもしれない……。
「あーあ、土属性使いのランクSとか通りがからないかなー!」
「呼びましたか~?」
「わーーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然、真後ろから声が聞こえた。しかもほぼゼロ距離で。馬鹿な、マジで気配を感じなかった。
「自然環境に溶け込み、視覚以外の認識を阻害する土属性固有魔法です~」
「そんなのあるのか……超便利じゃん土属性。履修しようかな……」
「えへへ~、おすすめです~」
そう言ってぽわぽわとした笑顔を浮かべるゆるふわ女子、旅原さん。
しかし今更ながら何故ここに。……という旨の質問をしてみた。
「大きな爆発が見えたので~、ミオちゃんがいるのかと思いまして~」
「なるほど」
ランクSってばそんな方面でも目立つんだなあ……。
「どうして土属性を探してたんですか~?」
「拠点を作ろうって話をしてたのよ、桃華」
「あっ、ミオちゃん! いたんだね~」
「ええ、まあね。ところで、桃華は建築の魔法って使えるかしら?」
「木と土、どっちがいいですか~?」
「できれば、ツリーハウスみたいなものだといいのだけれど」
「おまかせあれ~。……土よ、命を芽吹かせよ」
旅原さんが魔法陣を展開させる。俺たちの目の前に大木が現れた。
「あとはこれを加工するだけなんですけど~……ちょっと大変なことになってますね~」
「……ああ、そうらしいなあ……」
ゆっくりと気配が近付いてきている。それも、かなりの数だ。
「悠人、どうするよ?」
「まさか、逃げるって言うのかい?」
「……だよなあ」
草を掻き分けて近付いてくる音から察するに、完全に囲まれてしまっている。まあ、俺なら跳んで逃げられるのだが……流石にこいつらを置いてはいかない。
「というわけで……ちょっと運動、しようか!」
非常に気が乗らない。というか攻撃通じないから逃げてたのに……。
「行くよみんな! 旅原さんの邪魔をさせないようにね!」
おおッ! という声とともに、俺と旅原さん以外の全員が散開し、人工魔物に向かっていく。
みんな……すごいやる気だ……ッ! 俺とはわけが違うッ……!
「……鹿沼くんは行かないんですか~? ……分かれよ、身を斬れ、並び立て……」
詠唱とともに、大木がキレイに割れたり自ら丸太になったり、家っぽい形を作っていく。すげえ、すげえけど……作り方合ってんのかそれ……?
「俺はここで撃ち漏らしの対処をするよ……」
どうせ突っ込んでもロクな戦力にならないので。
遠くの戦闘音を、俺は一応出すだけ出した蒼空を手慰みにいじいじしながら聞いていた。
空が綺麗だ……あれ、おかしいな、景色が歪んで見える……。
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旅原さんお手製の家が完成した。どこからどう見ても本格的なツリーハウス……じゃない!
「木の上に……キャンプ場で見るようなコテージがそのまんま乗ってるんだが……?」
「ツリーハウスってあんまり見たことがなかったので~」
「確かに、あんまり見ることないよね」
俺と悠人がうんうんと頷く。テーマパークにあるのを数度見たことがあるかどうか。
「なので、分かる範囲のものを作って乗せてみました~」
「これが……ランクS……ッ!」
なんという豪胆な発想なのだろう。さっきまで野宿とか言ってたのが恥ずかしい。ランクDの貧相な発想だということだろう。
「逆に……なんで乗ってるのあれ……?」
「全て魔法で固定してあります~。完全に具現化しきっているので、魔力が切れることはないです~」
「なら、安心だね」
魔法には出てきてもすぐ消えてしまうものと、物質をそもそも作ってしまうものがある。土属性や水属性のほとんどは後者だ。
「ハシゴは縄梯子なんだね。へえ、すごいなあ」
「あ、そっちは女子用です~」
悠人が縄梯子を登ろうとしたところを旅原さんが止めた。
「もう一軒、男子用に建てておきました~。どっちも人数が同じなので大きさは同じくらいですけど~、見分けが付きやすいように間取りや外観は変えてあります~」
あの十分にも満たない時間で二軒……だと……!?
「すごいなあ……魔法の操作が緻密で、それも同時に幾つもの処理を行うなんて」
悠人がべた褒めしている。珍しい。
「そんなことないですよ~。ずっと家やお城を作って遊んでいたので~」
「それにしたってこんな魔法操作はすごいよ」
「…………氷の城よ」
旅原さんを褒めまくる悠人を傍目に、ボソッとそんな声が聞こえた。
「えっ? 待って? なんか足元が寒いんだけ……どおおおおおおおおおおおおお!? 凍ってる! 凍ってるんだけど! 氷が! 上がってきてる! 身体を徐々にィーッ!」
ペキペキと音を建てながら、俺の身体が凍っていく。
「…………おかしい、予定ではもう百倍は大きいのに……」
「幽ヶ峰ェェェァーッ! やめて、死ぬ、死んじゃう! もう胴体まで! 胴体まで来てるから氷がァァァァァァーッ! 詠唱通りミニチュアの城みたいな造形をしてるゥーッ!」
「…………芸術品」
「助けてェーッ!」
……顎まで来たところで、解除してもらった。もう少しで死ぬところだった。
もうやだ……ツリーハウス入って寝たい……。




