林間学校、開幕
エリオットは、もう動かなくなってしまった大輔の身体を抱えて叫ぶ。
「なんで……なんでこんなことに!」
その周囲には、倒れ伏す友たち。
エミリア、康太、悠人、ミオ、ミオと仲がいいらしい旅原桃華という女生徒。
ゆっくりと、エリオットの背後から足音が迫る。
「…………おかしい……完璧だったはずなのに」
「か、幽ヶ峰さん……もうやめよう、こんなこと……」
恐る恐る、振り向く。
「…………安心して欲しい……調整済み」
幽ヶ峰の手には、それがあった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
~~~~~~~~~~
時は遡り、朝。
「今日は林間学校だね!」
「ああ。小学校以来じゃねえか?」
俺と康太はそんなことを言いながら、少し時間に余裕を持って集合場所に向かっていた。
「しっかし、前には宿泊オリエンテーションあったし、ちょっと遊びすぎじゃね?」
「そうだねえ。まあ、僕ら一切宿泊しなかったんだけど……」
「うう……いつ行けるんだよ滋賀県……」
そんな取り留めのないことを話しているうちに、集合場所へ着いた。
既にクラスメイトはおおよそ集まっていた。だが、数人ほどはまだ来ていないようだ。
「……なあ、ずっと気になってたんだけどさ」
「……なにかな、大輔」
「…………なんで転移魔法陣前に集合なわけ?」
「飛行機とかじゃないんだ……」
そう、宿泊オリエンテーションの際はここ沖ノ鳥島から飛行機で本土へ飛び、そこからバス移動であった。
なのに、今回は転移魔法陣。
「ここに限って金が無いってのはありえねえ……つまりこれ……」
導き出される答えは一つ。
「お遊び的なイベントじゃ……ない……!?」
「当然だ、阿呆」
頭を出席簿で叩かれる。
「す、須崎のチャンネー!」
「……怒られたいのか?」
「ここにあらせられまするは須崎様ではございませんか!」
「…………朝っぱらからお前はなんでそんなテンションが高いんだ……?」
須崎先生は一つ溜め息をついて、周囲を見渡す。
「ふむ、まあそこそこ集まってきているか。あと来ていないのは……」
「そういえば、悠人がまだ来てないっぽいですね」
「幽ヶ峰さんも来てないなあ」
「ま、そう慌てるほどの時間でもない、言っている間にすぐ来るだろうさ」
と言っていると、本当に来た。
「本当にそんな量を持っていくの……?」
「…………当然」
とかなんとか言っている。なんだろう。
幽ヶ峰さんが両手にキャリーケースを携えていた。
「よう、お二方」
「ああ、大輔、おはよう」
「…………おはっぴー」
「なんだその挨拶。……まあいい、それよりも……幽ヶ峰さんよ、林間学校で俺らがどこ行くか知ってるか?」
「…………知らない」
「知らないでそんな荷物を!? はあ……林間学校、って言っても別に高野山に行くとかそういうんじゃないぜ、今日のは」
「…………じゃあどこに行くの?」
配布されたしおりを読んでなかった。
そう、俺たちは一泊分の着替えぐらいしか持ってきていない。必要なものはほとんど学校が用意してくれているらしいので、そもそも持ってくる必要がないのである。
全体的に見て多いのはリュックサックだろうか。替えの着替えがあれば十分だし。
「っていうか、そんなに何を持っていこうとしてるんだ?」
好奇心から聞いてみた。
「…………守秘義務を行使する」
「そんなヤバいもん入ってんのか……?」
「…………でも、確かに一泊二日でこれはやりすぎたかもしれない。鹿沼、あと出発までどれくらい?」
「あー? あと八分だな」
「…………ひとっ飛び、頼まれて」
「え、俺が部屋に戻してこいってこと……? まあいいけどよ。どっち持ってきゃいいんだ?」
「…………こっち」
示された方のキャリーケースを手に取り、急いで学校から出て蒼空を顕現、学生寮へ飛ぶ。
しかしそこそこ重い。魔導武装で身体能力を強化していれば抱えてしまっても気にはならないが、普通にしているとキャスターでゴロゴロしていても引っ張るのに少し苦労するほどだ。
高速で部屋に着くも、悠人たちの愛の巣に入る術を持っていない。かと言って外に置いておくわけにもいかないし……。仕方ないので、学生寮の訓練室にあるコインロッカーに突っ込んで、鍵を悠人たちの愛の巣の郵便受けに突っ込んでおく。
戻ると、須崎先生が点呼を取り始めた。
黒鳥も参加するらしい。首のチョーカーはGPSや盗聴、ドライブレコーダーよろしく映像まで残されるので、ユニオンと接触しようとしてもむしろこちらに情報が渡るという寸法だ。しかもチョーカーそのものにもその機能が備わっていながら、上記と同じ効果の魔法を掛けられている。身体に直接魔法陣を刻まれているとも聞いたが……。
全員が集まり、俺たちは魔法陣によって転移する。
到着してから転移魔法陣が設置されている部屋から出ると、そこは見慣れぬ建造物の中だった。
「ここは本土にある学園所有の山だ。で……これからお前達がそれはもう頑張るであろう場所だ」
「はあ、そりゃまあ、林間学校ですし」
俺はそう返す。
「どういう内容のものか、は言っていなかったな?」
「え、いや、しおりが配られて……」
「臨機応変にしたまえ。それでは、健闘を祈る」
『え?』
クラスメイト達の素っ頓狂な声と同時に、俺たちの足元に突然魔法陣が現れる。
景色が一変した。
~~~~~~~~~~
「クソァーッ!」
そこは静かな森であった。
鳥が歌い、木々の葉は踊り。
俺が逃げる。
「孤立したァーッ!」
そう叫びつつ、後方確認。
今、クモの胴体にムカデの脚、カマキリの前足、頭はハエでありながらコーカサスオオカブトの立派なツノを持っているという見る人が見れば失禁しながら嘔吐するような真っ白の魔物に追いかけ回されている。
ハチャメチャにキモい。
転移させられた時点で俺は一人ぼっちであった。
孤独からくる悲しみに暮れていると、俺の心境を察した心優しきキモい魔物が草葉を掻き分けて俺のもとに現れ、熱心なラブコールと言わんばかりの咆哮を上げ、俺に襲いかかってきたのである。
「蒼空、来い!」
俺は愛槍を取り出し、跳んで逃げることにした。
で、そもそもアレはなんなのか。学園所有の地に魔物が湧いているのか、あるいはアレも学園が作ったという人工的な魔物なのか。
『あー、あー、聞こえているかな、諸君?』
頭の中に須崎先生の声が響く。思念による会話で何故声のテストをしているのか。
『これはサバイバル訓練である。諸君はランダムに敷地内に転移させられ、困惑していることだろう』
心底している。
『諸君らのやるべきことは私たち教師陣が待つ学園の施設へ到達することである。しおりに記載されていた行事予定も、一泊二日、というのも嘘だ』
なんと惨いことを。
『そして、こういう森や山のような自然の多い……人の手が入っていない場所は基本的に結界が張っていない。田舎に大規模な結界は張れんからな』
その辺りの事情はよく知っている。田舎には人が少ない故に悪意も少なく、よって発生する魔物も弱いものが多いのだが、それでも人のことを襲うことに変わりはないし、猟銃などでも傷は付けられない。
結界を張るにも金が掛かる。マンパワーなのだから当然だ。
魔力のコスト面から、山奥や深い森のような、普段から人が立ち入らない場所には結界が及ばない。
『で、今回は我々の用意した人工魔物を数種類放ってある。そいつらは魔物と同じように倒せるし、しかしそいつらに殺されても復活が効く。便利なものだよ』
魔導犯罪者を相手にする訓練であれば魔法が使える人間をあてがえばいいが、魔物となるとどうしても人間では訓練相手になりえない。生物とかけ離れすぎているからだ。
『魔物の倒し方は心得ているな? 魔導武装のみで倒すなら傷付けて修復の早いところを探す。魔導武装に魔力を纏わせるなら一定のダメージを与える。魔法ならこちらの魔力で魔物を構成する魔力を吹き飛ばす、だ』
魔導武装のみが俺には一番いいやり方だ。だが、一人でもそもそと訓練室に篭って練習していたものを試す機会でもある。試してガテン系。
『ちなみに、負けると学園施設に送られる……が、死んでこちらに到達すると様々な罰ゲームを用意している。こういうのをやらないと、わざと死ぬ輩が出てくるからな……あ、それを乗り越えてでもこちらに辿り着きたいというのなら話は別だが……今の2年生が去年この訓練を行った時、罰ゲームでガチ泣きする生徒がいたぐらいには過酷だから、覚悟しているといい』
絶対に……死ねない……ッ!
こうして、俺のサバイバルが始まった。




