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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
126/213

戦闘、天真のトーレス。

      〜〜〜〜〜生徒会の場合〜〜〜〜〜




「……やだなぁッ、邪魔しに来たわけッ?」

 トーレスが笑う。

 生徒会メンバーの中でも精鋭である春乃、斑鳩、紫音の3人がマンションの一室に突入していた。

 そこはかなり広いリビングだ。犯罪者が潜むのに使うには不格好な程に。

「ンなガキが犯罪者やってるたァな」

「もう何人殺しているかわかりません。充分に注意してください」

 3人は魔導武装を顕現させる。

 春乃は1本のナイフを、斑鳩は刀を、紫音は扇子を構える。



「あッはは! いいじゃん、最ッ高! 来いよッ、サンタルフッ!」

  目の前に立つ3人を見ながら、やはり楽しそうにトーレスは魔導武装を顕現する。それはボウガンだ。

「そらッ!」

 トーレスはサンタルフの引き金を引く。矢は射出された瞬間、膨大な数に分裂し飛散した。

「小賢しい真似してンじゃねえ!」

 春乃もナイフを投擲する。瞬間、同じようにナイフが幾つにもなり、その全てを撃ち落とした。それでも勢いの止まらないナイフがトーレスに迫る。

 刺さるかと思われた瞬間、その眼前に女が立ち塞がり、その全てを受け止めた。



「大丈夫?」

「もちろんだよ、母さんッ!」

 それはトーレスの母親である。ナイフによって背中から血を流しながら、しかし笑顔でトーレスに微笑みを向けている。

「狂ってやがんナ……」

 春乃は放ったナイフを魔素(マナ)に戻し、もう一度構える。

「佐村ァ! アイツの首落とせェ!」

「乱暴な上司ですね……ええ、そのつもりですとも」

 斑鳩は居合の構えを取る。

「……?」

 しかし、トーレスは眉をひそめた。明らかに刀が届かない距離で構えているからである。抜刀の瞬間にこちらへ突撃してきても回避は容易であろうほどの距離。




永世(えいせい)流居合術壱の型」

 瞬間、斑鳩の姿が消える。

「────三日月」

 続けられた声は、トーレスの後方から響く。

「!」

 トーレスは慌てて振り向くと、そこには斑鳩が立っていた。それも、トーレスに対し背を向けて。

「隙だらけだよッ!」

 そう言ってサンタルフを撃とうとする。しかし、その寸前に軽やかな金属音が鳴った。それは、刀を鞘に収める音だ。

 続いて、ゴトリ、と。そんな音がした。

「…………あ?」

 それは、トーレスの左腕。



 遅れて、鮮血が噴き出す。

「ッぎ! ぃ、ぁ、ああああああああッ!」

 傷口を押さえて、トーレスがうずくまる。

悪しき(ランヴル)者を(ニンザ)捕らえよ(カフトーラ)……観念してください」

 それは逮捕詠唱。一時的に、対象が生き返るポイントを強制的に拘置所とする魔法である。

「巷を騒がせている割には……随分と大したことないんですね? 母親まで使って……」

「斑鳩ッ!」

「む……」

 紫音の悲鳴めいた声が上がる。トーレスの母が突然、斑鳩に飛びかかったからである。



 ──抜刀まで間に合わないですね……ならば!

灰払(はいばら)い!」

 姿勢を低く落とし、相手の足を払う技。

 それによって、トーレスの母は姿勢を崩して床に倒れ込んだ。

「……邪魔をするのであれば、貴女も逮捕することになりますよ」

 そう警告しながら、斑鳩は距離を取る。

 しかし。

「もう……だからママは失敗作なんだよッ?」

 氷属性の簡単な魔法で傷口を塞いだトーレスが立ち上がって、そんなことを言い出した。

「会長!」

「わァッてるよ! 紫音! アレやんぞ!」

「そう言うとおもてました。時よ(メルタル)減速せよ(クロゥブン)



 時計のような紋様の魔法陣が春乃の身体を包む。そして、春乃の動きが不自然なまでに速くなる。まるで、映像を早送りしているかのように。

「ッし! ぶっ殺すッ!」

 飛び上がり、ナイフを無数に顕現させては投げ始めた。

 しかし。

「ほら──ママッ! 人間ごっこは終わりッ!」

「……ガ、ァ?」

「ぶち殺してよッ!」

「ィ、ァァァァァッ!」

 トーレスの母が苦しみ出す。しかし、放たれたナイフは既にトーレスに向かっている。



 だが、トーレスの母から伸びた黒い影が、その全てを撃ち落とした。

「あァン?」

「まったくもう、パパは行ったっきり帰ってこないし、ほんとにダメだなあッ。でもま、いいやッ! 僕はこれ治してもらいに帰るからッ! ママも適当に帰ってきてねッ!」

 そう言いながら、トーレスは切り落とされた自分の腕を拾い上げる。

「佐村ァ!」

「わかってま……おっと!」

 居合の構えを取ろうとしたところを、トーレスの母が妨害する。



「チッ、ウザってェな!」

 ならばと春乃がナイフをさらに顕現させ、振りかぶる。

「じゃーねッ! 久々に楽しかったよッ!」

 それらを投げた途端、ふ、と。トーレスの身体が消えた。ナイフは空を切り、虚しく壁に突き刺さった。

「あら、逃げはったで?」

「紫音、巻き戻せッ!」

「相手が見えへんと無理やで」

「そうだったか……くそ、佐村ァ!」

「今忙しいんですよ! ぐっ、この!」



 斑鳩は抜刀し、数多の触手を生やしている、つい数分前まで人であったモノの相手をしていた。

「……で、アレが半魔(ナルクス)かよ、キモいったらねえナ」

「流暢なこと言ってないで援護してくださいったら!」

 実のところ、生徒会の面々は生きている半魔(ナルクス)を見るのは初めてであった。

「くそ、どこをどう斬ればこの人を人間に戻せるんですかね……!」

 無論、半魔(ナルクス)に対する知識もそこまであるわけではない。

(レン)を壊しゃいーだろ!」

「どこにありますかね!」

「大丈夫? 時間止めよか?」

「傷跡を見ないと行けませんから! 治る速度によりますし……うわっ!」



 触手の攻撃を防ぎ損ねた斑鳩の頬に切り傷ができる。本当に小さな、かすり傷。

「あ、まずいですねこれ……」

 しかし、本気で斑鳩は焦り始めた。

「…………なに、してくれてはんのん?」

 紫音が、本気でキレるからである。

 普段は何があろうとも露骨に怒らず京都人らしくあらあらうふふと皮肉を吐きまくる紫音であるが、しかし唯一、怒りをあらわにするのが。

 斑鳩に危機が迫った時である。

「ま、まずい……」

 斑鳩としては、この目の前の半魔(ナルクス)の女をあまり傷付けずに救いたいところなのだが。



止まれ(フォスタオル)!」

 魔法陣が半魔(ナルクス)を取り囲む。すると半魔(ナルクス)の動きは完全に停止した。

 時空魔法。それが紫音の得意とする魔法分野である。

「とりあえずこっち()い、止めとくさかい」

「わ、わかりました」

 斑鳩は内心ビクビクしながら、止まった半魔(ナルクス)から離れて紫音の傍へ移動した。



「ララッ!」

 斑鳩が離れた途端、突然リビングの奥から男が現れた。その身体は傷だらけだ。

 その男は魔法によって停止させられた半魔(ナルクス)に触れる。

 瞬間、半魔(ナルクス)の姿が掻き消えた。同時に、男の姿も消える。

「次から次へと……なンだってんだヨ」

 ウンザリしたように春乃が言う。

「ダメですね、公崎くんもトーレスを確認できないと言ってます」

「効果範囲外か?」

「彼が今いるのは窓際の席ですから、そこから見えないのであれば別の方角でしょうね」



「今度はアイツを現場に連れてくンぞ。ッつーかヨ、今日はなんだって来なかったんだ?」

「女の子とデートだとか」

「ブッ殺してやろうかな」

「相手はアルカニリオスの王族ですから。心象を悪くさせるのも、ね。僕と紫音が勝手に行ってきなさいと許可しちゃいました」

「愛は引き裂けんのや」

 春乃は深い溜め息をつく。本当にこいつらは真面目なんだか不真面目なんだか、と。



「幸い、あいつら自体の実力はまったくもって脅威とは言えねえナ。せいぜいランクAだかBってとこだろうヨ」

「手の内がわからない程度でしかありませんからね」

「せめて空が見えりゃ、あたしでも一発なんだけどナァ」

「外で犯罪者と戦うことがあればええけどねぇ」

 3人はそんなことを言い合いながら、部屋の捜索を始めた。

「……ここにも人を半魔(ナルクス)にする手段になるようなものはありませんね」

「禁呪の類か、あるいは手に持つタイプの道具だと見るべきだろうナ」

 斑鳩は部屋を漁っていて、ふと思う。



 普通の家庭のような感じだ、と。

 どの部屋を見ても魔導具らしいものは見当たらない。魔導犯罪者の拠点には、大概他のメンバーと連絡を取るための魔導具が置いてあったり、一部の部屋が仕事部屋のようになっていることが常だったのだが。

 斑鳩はそのまま残りの生徒会メンバーに現場の保存を命じて、部屋の外に出る。

「……本当に、何がどうなってるんですかね」

 その声は、夜の闇に吸い込まれていった。




「おい、見ろよアイツ、いっちょ前に黄昏てやがるゼ」

「こら、茶化さんの」

 …………そんな声には、耳を傾けないことにした。

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