両片思いをこじらせて(エルの言い分)2
間空いてしまってすみません。しかもまだ終わりません。不定期な亀更新になりますが、もう少しお付き合い頂ければと思います。
その後、ベルは部屋にこもったまま、夕飯にも入浴にも出てこようとはしなかった。
深夜、僕はベルの部屋の前で生乾きの髪をくしゃっと掻きむしった。
ベルのいつにない様子。原因はーーまあ、十中八九というより百発百中でヤツだろう。
ヤツが原因ということは、直接は関係ないとはいえ、間接的には僕にも原因があるんだろう。元をたどれば間接的にも僕は無関係な気がしないでもないけど。
双子の勘というヤツだろうか。なんとなく、ベルはまだ起きているような気がした。
ドアノブをひねると、予想外に鍵はかかってなかった。
「ベル。入るよ」
特に止める声も聞こえなかったから中に入ると、月明かりの中、ベットがこんもり膨れ上がっているのが見えた。
「ベル?」
返事はない。
「起きてるんだろ?」
掛け布団がひくりと動いた。やっぱり起きていた。
僕はベットに近寄ると、そっと布団ごしにベルを撫でた。
「何があった?プレゼントは渡したんだろう?」
僕の問いかけにも、身を硬くしているのかピクリとも動かない。
僕は、はぁ、と大きくため息をつくと、ベットに腰掛けた。
「何があったのか知らないけど、ご飯は食べなきゃダメだよ。お風呂も入ってないだろ?」
僕は何てことないことを思いつくままに語りかけたけど、ベルはちっとも反応を示してはくれなかった。
こんなことは、思い出せるかぎり、初めてのことだった。
「ねぇ、ベル……」
僕は諦めに近い気持ちで呟いた。
「僕はベルが好きだよ」
ベルが、息を飲んだような気がした。
「たとえベルが僕のことを恨んでいようが、憎んでいようが……大嫌いだと思っていようが、僕はベルが好きだよ」
祈るような気持ちで、僕は続けた。
「ベルの頑張り屋なところ、面倒見のいいところ、お人好しなところ、優しいところ、全部大好きだよ。ベルが僕をどう思っても、僕は絶対にベルのことを嫌いにならない。ベルは何も悪くない。だからベル、お願い、返事をして?」
言い終わるとほぼ同時に、ベットが飛び起きたベルが抱きついてきた。肩を震わせ、嗚咽を堪えながら、必死にしがみついてくる。
僕はぎゅっ抱きしめ返しながら背中を撫でた。
「大丈夫だよベル。ベルは何にも悪くない」
僕の言葉に、一瞬さらに強くしがみついて、
「うわーん」
と子供のように声をあげて泣き出した。
いつもクールで頼れる姉御肌なベルが、手放しで感情を露わにしている。
「嫌いなわけないじゃない!私だって好きよ!」
「うん」
「嫌いになれたら楽だったのに!」
「うん」
「エルこそ何にも悪くないじゃない!」
「うん」
「カインが全部悪いのよ!私の気持ちも知らないで、いつもエル、エルって!」
「うん」
「いっそ冷たくしてくれたら諦めがつくのに」
「うん」
「時々不意に優しいから」
「うん」
「だから、無駄に期待しちゃうのよ」
最後にベルは、僕の胸におでこをすりつけながら、切なそうにそう呟いた。
「本当に、ひどいヤツだよ」
「うん」
「バカで無神経で自分勝手で思わせぶりで」
「うんうん」
勢いをつけすぎて落っこちるんじゃないかと思うほど、激しく首を振るベルが可愛くていじらしくて、思わず声をあげて笑ったら、つられるようにベルもくすくすと笑いだした。
「……少し、落ち着いた?」
「……うん。ごめんね、エル。カインのエル馬鹿は今に始まったことじゃないのに」
「本当だよ。僕達はかれこれ10年、いや15年近くヤツの奇行に付き合ってやってるのに、一体何があったんだ?我慢強いベルが泣くなんてよっぽどだぞ?」
僕の問いかけに、ベルは一瞬うっと息をつまらせ、顔ごと視線を横にそらした。
その頬が心持ち紅く染まっているように見えたのは、泣いて体温が上がったせいだろうか?
「ベル?」
名前を呼ぶと、なんだか気まずそうに視線を彷徨わせ、僕と目があうと一瞬悔しそうな表情を見せたあと、ふうとため息をつき諦めたようにふっと笑った。
「キスされちゃった」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「……は?」
「……プレゼント、渡したら、ありがとうって笑って……ペアリングだって言ったら、その、抱きしめられて……そのまま」
う、うおぉぉぉ!あのヘタレ!!やっと、やっとそこまで!
いつも僕にはうざいほど抱きついてくるくせに、ベルが相手だと手すら握れなかったヤツが、ついに覚醒したか!ってか、いきなりキスとか飛ばしすぎだろあの馬鹿!
ちょっと興奮して思考が飛んでいたが、ふとおかしいことに気づいた。
ヤツがようやくベルに手を出したのは喜ばしい(と言うと語弊があるが)ことなはずなのに、なんでベルはこんなに傷ついているんだ?
「……はじめは触れるだけのキスだったから、何をされたのかよくわからなくて」
「でも、その、気づいたら……し、舌が」
え?ちょっと待てあの馬鹿!いきなりディープ?!いままでどんだけ抑制してたんだ!理性吹っ飛びすぎだろ!
「そのまま、手が胸に」
やーめーろー!聞きたくない!姉と幼馴染のそんな生々しい話聞きたくない!ってか一気にどこまで行ったんだあのクソボケ!
「触れたと思ったら、いきなり突き飛ばされたの」
「……え?」
「……カイン、すごく動揺した顔をして、ごめんって」
あの馬鹿まさか……
「間違えた……って言ったの」