その道は遠く、あの道は近い
相変わらず誤字脱字量が凄いことになってます。
見直してはいるんですが、発見出来ない場合もあるので感想などで教えていただけると嬉しいです
物理攻撃役上級職業【格闘家】
ほぼ一切の魔法が使えない代わりに闘気を扱うことが可能な職業。
装備可能武器は拳・爪の2種類。
ステータスの特長としてはHP・STR・DEXが高いが魔法防御力は低い。
そして、この職業最大の魅力は全上級戦闘職中1~2を争うほどの高火力が叩き出せるということだ!
だが、世の中そんなに甘くない。
高火力は出せる。高火力は出せるのだが―――。
「えっと…まずは破拳から入って次に連撃…。そしたら震動脚して次が………なんだっ…け…?」
かなりぎこちない動作で演舞をする男がいた。
俺である。
「だぁぁぁ!スキル多すぎんだよ!こんなもん覚えてるのか一流格闘家は!?」
パンク寸前の頭を抱える。
先も言ったが格闘家は全戦闘職中、最も高い火力を出すことが出来る。
ただしそれは、格闘家の覚えている全64にも及ぶスキルを一回も間違えることなく回すことによって初めて可能となるのだ。
ちなみに格闘家が覚える64というスキル数は全攻撃職中、文句なしでトップ。格闘家だけに。
「せめて初歩的な連続技だけでも覚えておかないと…。」
連続技とは特定のスキルを繋げて使用するというもので、物理攻撃役の基礎中の基礎である。
例えば連撃というスキル。
このスキルの基本攻撃力を100としよう。これを破拳というスキルの後に使用すると115に上がる。
更に震動脚というスキル。基本攻撃力65のこれを連撃の後に使用すると80に上がるというわけだ。
ここで1つ疑問が浮かぶと思う。
なぜ連撃の後に震動脚を使わなければならないのか?
連撃の基本攻撃力は100。連続技で出しても震動脚は80。
だったら、連撃を2回使用した方が有効的なのではないか?と。
残念ながらそれは不可能である。
格闘家は仕様上、同じスキルを連続して使うことは出来ないからだ。
連続技は格闘家にとっての生命線ともいえるだろう。
「む?あれは…。」
スキル窓を眺めながら歩いていると1つの影が。
大きな体と頭には立派な角が伸びている。刺さったら痛いじゃ済みそうにもない。
「バッファローか。」
あの敵はよく覚えている。
ゲーム序盤のお使いで【バッファローの角を50個集めろ!】というクエストがあった。
クエストとはNPCから受けることの出来る仕事みたいなもので、達成すると金やアイテムが貰えるというものだ。
「よし。練習相手には丁度いいな!」
見た目のわりに大して強くないこのモンスター。記念すべき格闘家としての初戦を飾るにはうってつけの相手。俺は早速バッファローを見据えて構えを取る。
「白虎の型…。」
そう口にすると白い光が身体中を纏う。
これが闘気というやつだ。
格闘家には型という永続スキルが存在する。
型の種類は3種類。
攻撃特化の白虎の型。防御特化の玄武の型。速度特化の青龍の型。
ん?鳳凰と麒麟はどうしたって?
残念ながら、その2つはまだ実装されておりません。今後のアップデートにご期待下さい。
というのが運営のお返事である。
「しゃぁ!いっちょやってやるか!」
気合い十分。
掛け声と共に、俺はバッファローへと向かっていく。
◆◆◆◆◆◆◆
「まぁ…こうなるよな…普通…。」
大きなため息と同時に肩を落とす男が――もういいか。
結果だけいえば、バッファローとの戦いは圧倒的な力の差によって、俺の勝利で幕を閉じた。
そう。
圧倒的な力の差、でだ。
俺は【千年の記憶】をオープン初日から今に至るまでプレイしているゲーマー。
メイン職こそ回復役ではあるが、ほぼ全ての職業レベルを上限一杯まで上げきっている。
加えて、装備している武器や防具も回復役までとはいかないがどれも高性能な逸品ばかり。
そんな俺が初心者向けモンスターに攻撃をするとどうなるだろうか?
答えは簡単。
一撃必殺の文字通り、1発殴って勝負が決まってしまうのだ。
「これじゃ練習にならねぇ…。」
低レベルの装備に切り替えれば、まぁ多少は練習出来るかもしれない。
だが思い出してほしい!
異世界に来る前の俺(厳密にはユキ)は直前まで偽りの塔に挑んでいた。そしてプレイヤーが所持出来るアイテム・装備には限りがある。
つまり!低レベル装備を持っている余裕など、俺にはないのだ!
「もういいや…。格闘家の練習はまた考えよう。」
気持ちを切り替え、俺は所持品リストの窓を開く。
俺にはまだやらなければならないことがある。
アスタルクの街に行かなければならいないという目的が。
地図を見る限りアスタルクの街に結構な距離がある。
ニーナが言っていた通り、今のペースで歩いていけば早くても3日はかかるだろう。
野宿をするのも悪くはない。
普段の生活では味わえない大自然を堪能するのも一興だ。
だが!それよりも大事なのは!フカフカのお布団に入ること!
睡眠の重要性を俺は主張する!
なので、可能な限り早くアスタルクの街へ到着する必要がある。
そこでネックになるのが移動手段。
前にも言ったが転移魔法は怖くて使えない。
となると、残された選択肢はただ1つ。
"乗り物"を使うのだ。
「こいつでいいな。」
所持品から馬笛を選び、ポーチへ手を差し入れる。
すると小さな馬の彫刻が彫られた1本の笛が姿を現した。
躊躇うことなく笛を吹くと、明後日の方向からもの凄い砂煙をあげながら近付いてくる1頭の馬の姿が。
「おぉぉ!ブリュッツェン!本当に来てくれたのか!!」
目の前に現れたのは綺麗な黒毛の大きな馬。
我が愛馬ブリュッツェンである!
ちなみに名前設定は特にないので、俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。
「よしよし、いい子だ。さっそくアスタルクの街へと向か――。」
優しく首を撫で、手綱を握った次の瞬間。
「ヒヒーン!!」
「え?ちょ…ま……!?」
ブリュッツェンは前足を高々と上げると、猛スピードで走りだ―――痛い痛い痛い!!
「とまれぇぇぇ!!ブリュッツェェェェン!!」
馬に引きずられながら土煙を上げる男がいる。
そんな男に俺はなった。