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回復役(ヒーラー)なんぞやってられるか!  作者: こしひかり
【第二章】格闘家(モンク)、引退します
30/50

神々の児戯

【偽りの塔】


大陸ユグドラシルの中央にそびえ立つソレは一体いつからあったのか。


100年前?500年前?それとも1000年前?


答えは誰も知らない。

なぜなら、そこに住んでいる神々ですら忘れてしまったのだから―――。


塔の最上階。

未だ地上の生物が足を踏み入れたことのない場所に彼はいた。

黄金に輝く髪。恐ろしいほど整った顔立ち。雪よりも白く透き通った肌。

女神という言葉を具現化したような存在。

それが彼――癒しの神イシュトである。


「~♪」


鼻歌混じりにスキップをするほど彼の機嫌は上々。

そのうちクルクルとターンをし出してもおかしくない。

なぜこれほどに上機嫌なのか?

簡単なことだ。

ハズレを引いた自分以上に大ハズレを引いた者がいたのだから、これを喜ばずにはいられない。


と、イシュトは1つの扉の前で足を止めた。

どす黒く禍々しいオーラは扉越しでも十二分に感じ取ることが出来る。

部屋の主は相当に機嫌が悪いのだろう。

イシュトの口元が歪む。そして―――。


「やぁ、タナトス。調子はどうだい?」


右足で扉を蹴飛ばすと、悪びれる様子などこれっぽっちもないといった表情で部屋の主に問いかける。


「帰れ。機嫌が悪い。殺すぞ。」


タナトスと呼ばれた全身を黒い包帯で覆った人物は呪言でも吐くように淡々と言葉を並べる。


「そう邪険にしなくてもいいだろ?僕等は同じ使命を持った同志なのだから。」


ケラケラと笑うイシュト。

誰が聞いても本心ではないとすぐにわかる台詞。

だが―――。


「同志?はっ、笑わせてくれる。アーレスならまだしも、癒しの神である貴様と死の神である私が同志だと?」


普段なら軽く聞き流すであろうイシュトの言葉も、今のタナトスとっては不快以外の何物でもない。

常人であれば触れるだけで命を落とす【死の風】を部屋中に撒き散らす。

勿論、同格の神であるイシュトに効果などない。

せいぜい湿気の多い風が肌を纏い、不快な気分になる程度だろう。


「相変わらず気が短いな…。勘違いしないでもらいたいが、僕だって君と同志扱いされるのはごめんさ。でも、"今回"の件に関しては仕方ないだろ?それとも君はソレすらも気に入らないとでも言うのかい?」


「………ふん。」


イシュトの問いに無言で答えるタナトス。

分かっている。"これ"は絶対だ。

変えることも拒むことも許されない。

ただ自分は決められたこと役割をこなし、結果を出せばいい。

他の(やつ)がどう考えているかは知らないが、タナトスにとって"今回の件"はどうでもいいことなのだから。

だが1つだけ納得がいかない点がある。

それは自分に渡された駒が"あんなの"だったということ。

別に駒の能力が低いというわけではない。

単純な戦闘力なら当たりだと言ってもいい。だが問題なのは、その外見と中身だ。

他の駒を全て見たわけではないが、最悪だと嘆いていたイシュトの駒がタナトスからしてみればマシな部類に見えたほどだ。


「……気に入らん。」


タナトスが右手を掲げると、大きなスクリーンが空中に浮かぶ。

そこにはイシュトの駒と自らの駒の姿。


「気に入らん。」


はっきりと言い切る。

ヘラヘラとした表情が余計に機嫌を悪化させる。

こんなのが自らの部下兼駒であり、同格ではないにしろ神の席に座っていると考えただけで吐き気がする。

だがタナトスが直接手を下すわけにはいかない。それは禁止されているからだ。


(ではどうする?)


コツコツと机を叩く。


(どうすればこの不快な気持ちを解消出来る?)


コツコツコツコツコ―――。


「………何を考えている、タナトス。」


音が止むと同時に癒しの神とは思えないほど低い声でイシュトが問う。


「別に。大したことではない。」


パチンッと指を鳴らす。

イシュトは気が付いてた。包帯で表情こそ見えないが、タナトスが笑っていることに。


「児戯だ。」


「児戯ねぇ…。」


「死の神である私が命を摘み取るのに問題があるか?」


「駒の命を摘み取るなら問題だろうね。」


「そんなことをするわけがない。だが駒が"偶然"その場にいたとしたらそれは―――。」


「―――事故…だな。」


「だろう?」


屁理屈だ。言い訳にしても無理がある。

だがタナトスは"本気"でヤるつもりはないだろう。

なにせこれは児戯(ゲーム)なのだから。


「僕も観戦してもいいかい?」


「あぁ、構わん。同志よ。」


あの小生意気な女神(ゴミ)が多少でも苦しむ姿が観れる。

ならば多少は目をつむってやるか。

そう結論を出し、イシュトは椅子に腰を掛けた。


◆◆◆◆◆◆◆


「ユキ氏もこっちに来ていたでござるか!」


「それはこっちの台詞だ!サスケ!!」


直接会ったことはないが、固定のメンバーとはVC(ボイスチャット)をしていた。その方が効率的にゲームを進めることが出来るからだ。

勿論何人かは聞き専だったけど。

そしてサスケとジョージは偽りの塔攻略以外でもよく無駄話をしていた。だから聞き間違えるわけがない。こいつはサスケだ!


―――っと、いかんいかん。

まずはやることがある。社会人として当然のことが。


「んんっ…。は、初めまして。ユキです。」


「おぉ!そういえばリアルで会うのは初めてでござったな!拙者、マスター忍者サスケでござる!」


お互いに自己紹介。

なんだか恥ずかしいな…。サスケはそうでもなさそうだけど。


「サスケはこういうの慣れてるのか?」


「異世界転生は童貞でござるよ。」


「いや、そうじゃなくてだな。」


「??……あぁ、オフ会でござるか!そっちは経験者でござるな。ユキ氏は未経験で?」


「なにせ普段の仕事が忙しくて…。」


「Oh…ブラックでござったか。」


うんうんと頷くサスケ。

説明しなくても会話が出来るって素晴らしい。

そう俺が一人感動していると突然、大きな声がホール中に響き渡る。


「サスケ!!こっちに来なさい!!」


声の主は壇上にいるお姫様。

さっきまでの柔らかい表情が嘘の様に激怒している。

その豹変ぶりに驚いたのかどうかは分からないが、ホール中の誰もがポカンと口を開けていた。


「おぉっと、ソフィアたんに呼ばれたでござる。ユキ氏、また後程!」


そう言うとサスケは一瞬で姿を消し、まるで瞬間移動でもしたかのように壇上へ姿を現す。

なるほど、瞬歩か。あれは便利そうだ。ふむ……今度は忍者になるのも悪くないな。


「ユユユユ、ユウキさん!今の人突然消えて!現れて!えぇぇ!?」


隣にいたアリアンナは相当混乱している様子。

無理もないか。

目の前にいた人間が突然瞬間移動したら誰でもこうなる。


「アリアンナ、落ち着くんだ。」


「でも!あんなこと!!…はっ!まさか幽霊!?」


「違う違う。あれは―――…そう!魔法だ!」


「魔……法?」


「そう!最新の魔法なんだ。」


「な、なるほど…。最新の魔法は凄いんですね…。」


厳密に言えば違うんだが…まぁいいか。納得してるみたいだし。


「こほんっ……。失礼いたしました。改めて紹介致します。私の隣にいるぶ――人物こそ、私の最大の剣であり盾。そして、ルミナス王国最強の戦士でございます。」


その言葉にホール中がざわつく。

半数以上は小馬鹿にしたような笑い声。サスケの実力を知っているだけに腹が立つが、ここはグッと堪えないと。騎士(ナイト)だけに。


…んんっ。

そんなことを考えていると、予想外の人物が真っ直ぐに手を上げていた。


「ソフィア様、発言よろしいでしょうか?」


「貴方は確か……。」


「マルコ=ライエルと申します。」


「あぁ…そうでしたわね。発言を許しますわ。」


「ありがとうございます。ソフィア様、先程の発言……それは姉―――我が国の聖騎士長よりも強い…といった意味でしょうか?」


表情には出していないが、声のトーンが若干高い。

自慢の姉をサスケより下に見られれご立腹といったところか。

若いなぁ…。俺も会社に入社したての頃は、あんな感じだったっけ。


「勿論です。まぁ…先の模擬戦では引き分けに終わりましたが…。」


「聖騎士長と引き分け!?」


「ありえん…。あんな者が…。」


お姫様の言葉で会場が更にざわめく。

というか、サスケと引き分けって…。


サスケがこの世界でどれくらい力を出せるかは分からないが、メイン職を放棄している俺よりかは動けるはず。

そんなサスケと互角に渡り合う聖騎士長ってのは間違いなく上級職持ちだ。

中級職と上級職では天と地程のステータス差がある。それは装備だけで埋めれるものではない。


「参ったな…。」


いざとなったら力ずくで情報をとも考えていたが、下手をしたら返り討ちになってしまう。

こうなったら、なるべく平和的な方法で――。


なんてことを考えていると突然、晩餐会には相応しくないであろう大きな音をたててホール入口の扉が開く。

そこには息を切らし、顔を真っ青に染めた一人の騎士の姿。

どう見てもろくな報告じゃないな。


「た、大変です!!」


「騒々しい!何事で―――。」


当然、お姫様は不快な声をあげる。

――が、次の瞬間。

今までざわついていたホールが嘘の様に静まり返った。

そう―――。


「ま、魔物です!城壁を囲む様に魔物の大群が!!」


最悪の報告と共に。

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