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Tale.Kardia

たった1人だけの図書館

作者: 春の嵐
掲載日:2026/07/01

『夢』に見た世界に憧れを持ち、それはやがて『空想』へと至る。そして、現実――『小説』へと昇華した。

人間って、皆が皆一つの世界を持っていると思うんだ。同じ世界に住んでいるけど、見えない境界線がある。


よく言うでしょ? 「彼は皆と住んでる世界が違う」とか何とか。ある人は幽霊を見たことがあると言って、ある人はそれを信じようとしない。僕は彼らが、別の"界"に存在すると思っている。ちなみに僕は信じない。いてたまるか、あんな怖いもの。


まぁ、要するにそれと同じって事。人にはそれぞれの"物語"がある。それぞれの"感性"がある。同じ構造のはずなのに出力される結果が違う、なんてことはAIにだって再現できない。


だから僕は、それに魅了された。僕の考えていることは、僕だけのものだ。僕の脳のシナプスだけが、僕を楽しませてくれるんだ。

そうして、寝ることが好きになった。『寝る』ということ、それは僕にとって楽園(エデン)に到達したに等しい状態だった。


脳は、色々な"物語"を見せてくれた。時には大海原で仲間と共に大冒険をしていた。王子と姫のロマンチックな出会いを見せてくれることもあった。バチバチのアクション、サスペンスにミステリー……そして僕の苦手なホラー物も。


僕にとって、脳は夜に僕専用の公演を開いてくれる劇団のよう。大切な宝物なのだ。

……でも1つだけ、ほんのちょびっとだけ。脳に対して不満に思っていることがある。それは――




「――おい、聞いているのか!」

「は、はい……!?」


突然耳をつんざくように怒声が響き渡り、僕は『夢という天国』から、『現実という地獄』へと引き戻される。周りのクラスメイトはニヤニヤしながら僕を見ていた。寝ぼけて状況が理解できないでいると、国語の有原先生が再び怒鳴ってきた。


「全く……3年生にもなって居眠りとは、受験生としての自覚はあるのか? 眠気覚ましに、顔でも洗ってこい!」

「す、すみません……すぐ行ってきます」


指示どおりに教室を出る。顔が熱い。やっぱり怒られるのには慣れないな。


先生の言うとおり、僕は高校3年生、れっきとした受験生だ。と、言ってもそんなの皮だけで、実際は勉学に熱の持てない落伍者の内の1人なのだけれど。


運動なんて全くできない、と言うかずっと寝ていたい質。親は良い方なのかと言われたら、困り顔をするしかない家庭環境。正直言って僕は現実世界に辟易していた。


だってそうでしょう? 何をしようとしても否定されるし、何をやっても失敗する。そんなのだから、いまいち生きることに情が持てなかった。多分、それも寝ることが好きな理由の一つなんだろうな。

寝ていたら、現実の自分と一時的にサヨナラできるんだから。


教室に戻るまでの道のり。さっきは先生の怒号で中断されたけど、僕が脳みそに対して持っている唯一の不満が何なのかを教えるよ。

それは……「醒めた後に、内容をあまり覚えられていないこと」。どんなに壮大な物語でも起きた時には忘れちゃう。おかげで、都合いい夢も脳内だけで完結しちゃうんだ。


もしあの本たちが現実に在るなら、僕は少しだけ、現実に希望が持てるかもしれないのに――冷たい水に顔を押し当てながら、誰にも聞こえないため息をついた。


教室に戻る。席に座ると、横に座っている僕の友達――ミナトが小声で話しかけてきた。


「変わらねぇなぁホントに。お前、昨日いつ寝たんだよ?」

「9時ぐらい」

「あぁなるほど、9時ね……9時!?」


ガタッ、と机を揺らしながらミナトが立つ。大声とともにやったものだから、必然的に彼の方向に視線が集まる。

何をやってるんだか――そんな僕の思いも露知らず、ミナトの顔から冷や汗が流れ落ちる。


「何だ竹内、用事でも思い出したか?」

「い、いや……何でもないっす……」


そう言ってミナトは恐る恐る着席した。男子達の笑い声が聞こえる……ちょっとだけスカッとしたような気分だ。まぁ先程までの出来事は、十割僕が悪いのだけど。


つまらない授業も終わり、休み時間。顔を洗っちゃったおかげで完全に意識が覚醒してしまっている僕は、仕方がないのでミナトに話しかけに行った。


「さっきは災難だったね」

「ホントだよ……せっかく優等生演じられてるのに、危うく全部パーになるところだったわ」


そう言ってやれやれと両手を振るミナト。本人はこう言っているが、クラスメイトにも先生にも、ミナトが優等生を演じている事がバレているのを僕は知っている。


「それにしても、お前9時から寝てるとか健康体にもほどがあるだろ」

「その時間に加えて授業中も寝るから半日は寝てるね」

「授業中は起きろよバカ」


2人して笑う。何回こんなやり取りをやったかなんて覚えてない。唯一の親友とこんなやり取りをしていると、いつの間にか僕の学校は終わっている。それがどれだけありがたいことか、ミナトには分からないだろうな。


けど、今日はいつもと違った。ミナトが「そう言えば」と呟いて、バレないように隠れてスマホを取り出す。数秒も経たない内に、液晶に何かが映し出される。


「これ、見てくんね?」

「……何これ?」


僕がパネルを覗き込むと、そこにはとあるウェブサイトが映し出されていた。動画とゲームばかりしている僕にも分かる、有名な小説サイトだ。

ミナトが自慢気に話す。


「最近さ、小説始めてみたんだよな! 前々からちょっと気になっててさ」

「へぇ〜、凄いじゃんミナト。今何話ぐらいなの?」

「今はまだ3話ぐらい。総合でPV50行きそうなんだぜ!?」

「え、凄!?」


実際僕はそのサイトを見たことがないからどれ程凄いのか見当もつかないけど、取り敢えず合わせておいた。


「いつか書籍化とかもできるんじゃない?」

「任せろ、印税で荒稼ぎしてやるぜ! ……それで、さ。提案があるんだけど、いいか?」

「? いいけど……」


首を傾げつつも了承すると、ミナトは声をちょっとだけ低くしてこう言った。


「お前も、一緒に小説やらないか?」

「……え?」


予想だにしないその回答に、思わず声を漏らしてしまう。混乱で頭が働かない。そんな僕のことをお構いなしに、ミナトは話し続ける。


「やっぱ友達と一緒にやってた方が楽しいだろうな、と思ってさ。どう?」

「あはは……考えとくよ」

「ホントか!? いい返事期待してるぞ!」


そしてそこに次の先生がやってきた。スマホを勝手に取り出しているのがバレているのは、言うまでもない……



◇◆◇



学校が終わり、1人で行く帰り道。僕はミナトに言われていたことを頭の中で反芻し続けていた。

僕が、小説? ないない。表現力とかも全くないし、プロットを考えることなんてできるはずがないよ。証拠に、僕の国語の通知表は毎回3を上回ることがなかったもの。

それに……怖い。自分の作った作品が、笑われることが。だから、あの時は言えなかった。


家に帰ってもずっと、あの会話が頭から離れなかった。ご飯を食べる時も。お風呂に入る時も。そして、大好きな睡眠の前でも、『小説』、その言葉が脳裏に焼き付いていた。


これで変な『夢』を見たら笑いものだな、そんな事を思いながら、僕はいつものように眠りにつく――




……まず認識したのは、古い『図書館』にいる、ということだった。戸棚は少し埃っぽく、シャンデリアは弱々しい光を放っている。それでもなぜか僕は整っている、そう感じた。……輪郭は朧(おぼろ)げで、"そうである"気がするというだけだけど。

少なくとも、ここが現実ではないことは分かっていた。どちらかというと……『夢』? でも、この感覚は、あまりにも……


「現実的すぎる……」


え? 自分で喋れる? こんな事、今までは一度だって無かったのに。波の如く押し寄せる情報量を前に、僕の脳はフリーズしていたが――


「こんにちは。"今日も"何かお探しですか?」


その声に驚き、僕は振り返ることができた。そこに立っていたのは――老紳士だった。

なんて言えばいいのだろう……少なくとも僕にはそう表現するしか方法がなかったんだ。よく見てみれば、それは若い大学生のようにも見えるし、お母さんのようにも見えるし、ミナトのようにも見える。でも"老紳士"だと僕は思った。そう、伝えるしかない。


突然話しかけられた事に戸惑っていると、老紳士がそのまま語りかけてくる。


「今日は珍しく迷っておりますな。どれ、私が選んでみましょうか」

「あ、はい。お願いします……」


しくじったぁ……聞くタイミングを完全に逃してしまった。分からないことだらけだったのに。「貴方は誰だ」とか、「ここは何処か」とか、知りたかったのに。

そして、"今日も"ってどういう事だ? 少なくとも僕は、ここに来たのは初めてのはずだけど……


僕の気持ちを知ってか知らずか、老紳士が軽い会話を持ちかけてくる。


「しかし、今日の貴方は本当に珍しい。いつもは私に見向きもせず、さっさと本を取っては読みながら退館してゆくのに」

「あぁ……えっと? すみません?」

「あぁ、申し訳ありません。そういった意図で述べたわけではないのです」


そう言って老紳士は朗らかに笑う。対照的に、僕の顔はガチガチの真顔だったことだろう。


……今の会話で、ここが僕の脳内だということがはっきりと理解できた。そして、何故かは分からないが意識がはっきりした状態でいられる。これも『物語』なのだろうか?


考え事をしていると、どうやら目的地に着いたらしい。老紳士は脚立を用い、背を伸ばして上の棚から1冊の本を抜き取る。


「本日のおすすめはこちらです。名は『ファンタジア』。異世界とサスペンスが調和した名作です」

「あ、ありがとうございます」


そう言って出された本を手に取る。埃を払い、試しに数ページ読んでみた。すると――


目の前に、数人の大人が出現する。服は僕の知っているものと違うが、その手に持つ小道具から、彼らが探偵であることが分かった。床には、ゲームで見るような剣が突き刺さったお姫様。指先にはダイイングメッセージが見て取れる。


『犯人は、この城に住む誰かだ……絶対に許せない』


探偵らしき集団の1人がそう言うと、彼らは消え失せた。僕は息を呑んでいた。

なんだこれ……めちゃくちゃ面白そう!


「お客様、お借りになりますか?」

「で、できるんですか!?」

「えぇ、カウンターにどうぞ」


そう告げて老紳士は歩き出す。それについて行き、小ぢんまりとした机の前にやって来た。そばにある紙をちぎり、そこに何かを書き込んでいく。


「あの、バーコードとかはないんですか?」

「中々更新ができていなくて。お手間を取らせて申し訳ありませんね」

「い、いえいえ、大丈夫です! お気になさらず!」


そんな会話をしているとどうやら手続きが終わったらしく、僕は先程の本を手渡される。


「それではごゆっくりお楽しみください。……またのご利用を、心からお待ちしております」


その言葉を最後に、僕は現実に還ってきた。

……今のは、何だったのだろう。『夢』……にしては随分とはっきりしていたし……そう考えていると、一つの違和感に気がついた。


あれ? 僕、あの図書館のことめちゃくちゃ記憶してない!? 今までそんな事なかったのに! 本日(?)何度目かの驚きだった。


それに図書館だけでは無い。あの時借りた本の内容を、鮮明に思い出せる! そんな事もあってか、今日一日はずっと起きたままでいられたのだ。……まぁ上の空だっただろうけど。


休み時間中、ミナトが話しかけてくる。


「珍しいな。もう午後なのに、まだ一回もお前が寝てないなんて……今日は槍でも降ってくるのか?」

「さぁね〜。降ってくれれば学校休めるし、できればそうであってほしいけど」

「言えてる……それで、どうだ? 昨日のこと、考えてくれたか?」


ミナトが願うようにこちらを見てくる。

――僕は怖かった。意気込んで作ったものへの嘲笑だけじゃない。それに辟易して、簡単にやめて――ミナトに、呆れられることを。そんなことないって、分かってるのに……でも――


「……ごめん。他の人を、誘ってほしい。僕には、無理だから」


言って、しまった。決して言ってはいけないことを。


「……そっか。分かった、無理言ってごめんな」


そう言って踵を返していくその背中が、あまりにも寂しげだったのを覚えている……



◇◆◇



茜色の空の下、やっぱり一人の帰り道。その足取りは、踏みしめるごとに重くなる。やっぱり、断るべきじゃなかったかな……なんて後悔しても、もう遅いけど。胸が、キリキリと痛んだ。

家に帰った後も、全く眠れなかった。暗い暗い部屋の中で、天井を見上げ続ける。手を伸ばせば届くはずなのに、酷く遠く感じられた。


やっとの思いで眠りにつくと、再びあの図書館へと戻ってきた。僕と彼しかいない、僕だけの『図書館』。僕はあの老紳士を探そうと図書館内を歩き回った。借りた本を返すためだ。


視界の先に、人影を捉える。何やら本の位置を整理しているようだった。邪魔になるかなとは思いつつ、声を掛けてみた。


「すみませ〜ん、返しに来たんですけど……」


声をかけられた彼――彼女が振り向いた。本当にびっくりした。昨日の老紳士ではなく、今度は同級生ぐらいの女子に見えたのだ。一緒に働いているのだろうか……?


「あ、えっと、すみません。同じく働かれている年配の方かと思い……」

「? えぇ、私がそうですが」


……ん? やばい、理解が追いつかない。つまりこの人はあのおじいさんで、あのおじいさんはこの人で……駄目だ、思考がループしてしまう。

僕の頭が慌てふためいているのをよそに、その女の子は「あぁ!」と手を叩いた。


「なるほどなるほど、昨日と姿形が違うように見えるのですね?」

「えぇ、まぁ、そうなんですけど……そうなのかな?」

「私の年齢の姿は、今のお客様の精神に関係します。"穏やか"であるなら老熟して見え、逆に"激しく揺れ"ていれば、若く見えるでしょう。何か、お心当たりはございませんか?」


そう言われて、僕はミナトとのことを思い出した。また、胸が痛みだす。胸を軽く抑えて俯く僕を見て、何かを察した彼女(?)が続ける。


「……これ以上詮索するのは、やめておきましょう。今の貴方に、合う本を持ってきます。少々お待ち下さい」


そう言って足早に立ち去っていく。その間、僕はミナトの事を考えていた。何が正解なのかは、分からなかった……




そして、木造床の軋む音と共に、彼女が小走りでやって来る。その手には、1冊の本が握られていた。


「これは、『月と哲学』という本です。若者が少なからず持つであろう悩みに、哲学者である著者が自らの論理を用いて答えてくれています」

「ありがとうございます……ここで読んでもいいですか?」

「えぇ、構いませんよ。ごゆっくり」


そうして僕は1人になる。渡された本を手に取り、読んでみる……とある文章とともに、目の前に、ミナトにそっくりの人物が映し出されていた。机に向かって、思い悩んでいる。僕は咄嗟に話しかけるも、彼の耳に届くことは無い。

――抱きついてみた。初めて彼が反応した……僕は何をやっているのだろう。こんな事をしても、現実のミナトに届くはずがないのに。そもそもこの人は、ミナトじゃないのに……それでも言わずにはいられなかった。


「ごめん、ミナト」


文章に書いてあったこと、それは――『正直になること』だった。

「あんなに楽しみにしてくれていたのに。下手だと思われたくないからって、断って……君を、傷つけたよね」


彼が、少しだけ俯いた。

「嫌いになんて、なってないよ。ミナトは僕の友達だよ、一生の……!」


そう言うと、彼は粒子となって消え失せる。消える前、その顔が笑っているように見えたのは、きっと気のせいではない。そう信じた。



◇◆◇



「……おや、もうお済みですか?」

「はい。とても、参考になりました」

「それはよかった、おすすめした甲斐があります。では、お借りになりますか?」

「そうします……それと、1ついいですか?」

「はい、なんでしょう?」


朗らかに笑う"老紳士"に向かって、僕は思ったことを話してみる。


「前々から、ちょびっとだけ不満だったことがあったんです。ここで借りられる本たちは、みんな面白い。だけど、現実に帰ってきたらその内容を思い出すことはできなかった」


老紳士は静かに話を聞いてくれている。


「でも最近は、ちゃんと借りられているからかしっかり思い出せます。ここに来るのが、楽しい。でももし僕がここに来れなくなったら――いつか僕が死んじゃったりして、『脳も使えなくなった』なら、ここはどうなるのですか?」


彼は、真顔になって黙り込んだ。そして、静かに。とても静かに真実を告げた。


「崩壊します。なんせ、ここはあなたの脳の中なのですから」

「……ここにある物語達は、どうなるのですか?」

「同じく消えます」

「誰にも、知られることなく……?」

「はい」


その問答の後、幾ばくかの、静寂が訪れる。手を握りしめる僕が再び喋りだすのを、彼――いや、少女はただ待ち続けていた。


「……そんなの、あんまりじゃないですか」

「と、いうと?」

「昨日読んだ探偵ものも、今あなたが渡してくれたこの哲学の本も、世に出すべき名作だと僕は思っているんです! なのに……なのに! こんなにたくさんある物語達が、誰にも知られないまま朽ち果てるだけ、だなんて……」


僕の目から、大粒の涙がこぼれる。僕に感情を与えてくれるこの本達も、こんな僕に尽くしてくれるこの人も、誰にも知られることなく消え去るだけ……? 心の未熟な僕にとって、そんな運命は受け入れられなかった。


「それでも、良いのです」


少女が、言葉を発した。その時の彼女の声は、今までの中で一番優しい声色だった。


「この図書館は、『貴方自身』なのです。この物語達も、私も、貴方から生まれたのです。貴方の経験、見識、思想……全てをまとめて、カタチにするのが私の仕事。貴方とともに消えることができるのなら、本望というものです」

「っ、でも……!」

「……もし、どうしても貴方が『彼ら』を世に解き放ちたいのであれば」


彼女は一呼吸置き、告げた。


「小説でも、書いてみたらどうでしょう」

「え……」

「貴方から生まれた作品が、貴方の手によって生命を吹き込まれ、世に旅立つ。できるだけ多く放ちたいなら、小説が最も良い」


何も話せない僕に、彼女は微笑んで言った。


「この作品を生かすのも、大切にしまっておくのも、貴方の自由です。私"達"はいつまでも、貴方をお待ちしておりますよ」


その言葉を最後に、再び僕は目が醒める。そして、少しだけ考えて……僕は自分の未来を決めた――



◇◆◇



「ねぇ、ミナト」


次の日、学校に着いた僕は、すぐにミナトに話しかけに行った。


「お、おはよう……なぁ、昨日は――」

「昨日は、ごめん。あの言葉、撤回していい? 僕、やっぱり小説やりたい。ミナトと一緒に」


ミナトが目も口も大きく開いて僕を見る。その顔が、だんだんと笑顔に変わっていくのを、僕は微笑みながら静かに見ていた。


「まじで!? まじかぁ!!」


そう言ってミナトは両手を上げて大はしゃぎする。周りを少し見てみると、女子達は珍獣を見るかのような目で見つめているのが分かる。そんな光景も、今はすべてが美しく感じた。


「ちなみに、なんで小説やろうと思ったんだ?」

「自分の頭の中を、みんなに見せてみたくなったんだ」

「へぇ〜、そりゃかっこいいな! ペンネームは?」


その問いに、少しだけ考えていた"名前"を返す。


「『春の嵐』、とかにしようと思ってさ」

「なるほどな、名前から取ったわけか! それで、どんなジャンルを書くんだ? やっぱり、なろう……とかか?」


その問いに、あの時に決めた"答え"を伝える。僕の中で待ち続けてくれている、あの老紳士と『図書館』にも、届く事を願って。


「僕は――」



◇◆◇



そして今日も、僕はその図書館へと通う。入った時、彼が話しかけてきた。

「こんにちは」

「あ、こんにちは。えっと――」

「全て、聞いていましたよ。『私小説』として、私たちを描く――あ(・)な(・)た(・)ら(・)し(・)い(・)、粋なことをしてくれますね」


僕の恩人はそう告げた。シワのある顔に、優しい笑みを浮かべて。

今回は、僕の作品をお読み頂き感謝します。小説にはまりだしたのが今年の5月頃……そこからずっと、楽しい時を過ごさせてもらっています。

そして今回、私小説じみたものを、等身大の高校生として精一杯書かせていただきました。少しだけ、達成感を感じております。


人間は皆、『夢』を見ますよね。僕もあなたも。あれがどうやって生まれるのか、僕はずっと疑問でした。


僕は、「図書館みたいだな」って思ったんです。誰かがおすすめの本を取り出して、僕に見せてくれる。それは朧げで、破茶滅茶なことも多いけど、変わらず僕を楽しませてくれる。


そして同時に、『夢』は僕にとって『目標』という意味になりました。


いつか、僕の中の物語を全部見てもらう。それが僕の、今の『夢』です。


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