現在 理由
「それって、バブは日本にいられるの?アメリカに戻んなきゃならないの?」
思わず話に食いついた。
食後のガンがガムを口に放り込む。何年も前に禁煙してからの習慣だ。
「それは今回のミッション次第、かな。」
なんだか歯切れが悪い。
「まずべべが聞きたいのは、大吾のレクチャーの件よね。」
シノブさんがガンの隣に座りながら話を修正した。
これは、この話は終わりだという事。きっと今聞いても、これ以上の話は出来ないんだろう。
一応、承知した振りをするけど、気持ちはざわざわしたままだ。
バブが帰国できるかできないかは、私にとって大問題だから。
でも仕方ない。私も軌道修正。
「その件はバブが戻ってから話そう。」ガンがべべの気持ちを見透かしたように言い添えてくれた。
今度こそ納得する。
「それでどうしてバブが大吾の?」
まず、とガンが話し始めた。
「バブはべべの野外での技術を買ってたよ。」
それなら、と言うのを我慢して次の言葉を待つ。
レクチャーは、言葉が悪いが洗脳のような側面あるから。
自分が今までしてきた事を、こんな風に伝えるのは辛いと思う。
でもそれは。
「でもそれは、私達みんなわかってるから。」
話を遮ってしまう。ガンに後悔して欲しくない。
5歳の子供が。
自分は戦うための兵器になるなどと、受け入れるべきじゃない。そんな事はわかっている。
でも、私達はそういう風に生まれついたのだ。
そういう、子供を売るような実の親を持ってしまったのだから、仕方ない。
そして、同じように戦う子供は世界中にいる。
そういう世界に生きている。
だけど、不幸じゃないよ。ここには家族がいるから。
べべはそう言って、ガンの目を見た。5歳の自分が生き延びる為に、命と、技術と、希望を与えてくれたガンに、感謝していると伝える。
だから、今、生きてるんだよ、お父さん。
「そう言ってくれて、ありがとう。」ガンが吸い込んだ息を静かに吐く。テーブルの上に乗せた手を見ていた。
代わりに大きく深呼吸したシノブさんが言った。
「でも、バブはべべにはさせたくなかったの。べべが負い目を持って生きていくなんてダメだって。自分がやるって言ったのよ、あの子。」
そして、必ず大吾が生きて戻って来れるように、生きる力を伝えるってアメリカから電話してきたの。
いつの間にか親代わりみたいになっちゃってねぇ、と笑う。
ホントはシノブさんも複雑なんだろうなと思いながら、バブの気持ちを推し量った。
去年、初動訓練で命を落とした子供がいた。
出発までの7ヶ月を一緒に過ごした。まだ仮の名だった。
「ちゃんと名前も呼んであげられない。」握った拳を震わせたガンの心の中はもっと震えていたんだと思う。
その連絡が来た日。みんな言葉を交わす事もなく、各自の部屋に戻りその子の魂の為に静かに祈った。




