68
まだ日の浅く、シンと静まり返って夜の気配を残す早朝、リリーたちは全員起きて行動を開始した。
朝食を摂り、テントを片付け、火の始末をして荷物をまとめる。
泉を目指して再び歩きはじめる頃には、日の高くに木の葉の隙間から木漏れ日がちらちらと影を消している。
このままのペースで行けば、日没よりも早く到着するだろうという中、「総員警戒態勢」ジェイドが冷や水を浴びせるようにぴしゃりと言い放つ。
「リゼ、前方からロックバード」
先頭に立つリゼは剣の柄に指をかけ、飛来してくる物体を一刀両断した。
襲ってきたのは、ジェイドが言った通りロックバードであった。
追加で三匹が正面から飛来し、リゼが一匹、すり抜けてきた残りをジェイドとレオンがそれぞれ一匹ずつ対処する。
数は合計で四匹と少なく、高度な連携や特殊な策を弄するものでなかったため、戦闘自体はものの数十秒で決着した。
しかし、この事は全員の警戒度を一段上げる形となった。
誰もが緊張の糸をピンと張り、次の襲撃に即応できるよう備えながら、速度を落としつつも確実に前へと進んでいく。
案の定と言うべきか、魔物は次も現れた。
前方から三匹の狼が木々の合間を縫って躍り出た。
正面中央の一匹をリゼが瞬殺し、刹那の間にその脇を抜けてきた二匹をジェイドとレオンが対応する。
意識がその三匹および、前方へと集中しているタイミングを見計らって、大きく回り込んできた二匹の狼が背後から挟撃を仕掛けてきた。
だが、油断も余念もないダズとリリーが即座に反応する。
ダズはわざと腕を噛ませ、喰いついたところをそのまま地面に叩きつけて首をへし折った。当然のように、ダズの腕には歯形すらついてはいない。
リリーは足に噛みついてこようとしてくる狼に、まだ少し距離の開いた状態で短剣を虚空に振るった。
瞬間、狼の体は縦に真っ二つに別れ、血と臓物をこぼしながら地面を滑った。
このひと月の間に、近距離ながら間合いを拡張できるようになっていたのだ。
そうして結果的に一切の損傷なく、計五匹の魔物化した狼の討伐に成功した。
「弱くね? いや、こんなもんか?」
疑問を口にしたのはレオンであった。
「つーか、罠だろ」
報告では魔物の出現は確認されなかったとあった。
それがこうも立て続けにとあっては、事の真偽を断定することはできないまでも、可能性の一つとして考慮するには余りある。
とはいえ罠が仕掛けられていようとも、その目的を探るという意味も含めて、結局のところはやることが変わらなかったりするのだが。
「罠だったら、なおのこと俺たちが調査しないとな」
気を取り直して前進を再開する最中、「下がれ!」先陣を切るリゼにジェイドが緊急性の高い命令を発する。
リゼは即座に応答して、ジェイドの隣まで後退した。
ジェイドはそれにじっと目を凝らした。
火山から煙が噴き出すように、大地から湧き出て溢れる膨大な魔力を。
他の面々は別の異変に気が付いていた。
もこもこと地面が盛り上がり、人の手のようなものが突き出てきたのを。
何が起こっているのか、起ころうとしているのか、誰もが固唾を呑んで注視する中、土の中から現れたのは頭のない人間だった。
「うぇ、キモ」
「どんどん出てきてんぞ」
それも一人や二人ではない。
呼応するように一人、また一人と手が伸びて、確実に十人は超えてなお増え続けている。
さらにそれらは服を着ており、中には鉄砲や剣を持っている者さえいた。
「これ、調査隊の」
そうあって欲しくはない。リゼは自身の考えが当たっていないことを願いながら、横目に見るジェイドに確認を取る。
「ああ。死んだ調査隊の人たちだろうな」
溢れていた魔力が収まったことでようやく事態を把握したジェイドは、覚悟を決めるようにゆっくりと瞬きをした。
「死体、なのよね?」
「聞いたこともないけど、死体が魔物化してるんだろうな」
そうこうしているうちに全方位から出てきた死体たちは、ジェイドたちをあっという間に取り囲んでいた。
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