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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第二章

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「え、ちょっと、どうしたの」


 急に、かつ静かに涙を流し始めたリリーを前に、リゼは困惑と焦りに身を乗り出した。しかし、リリーは首を横に振るばかりであった。


 リリーの心は、限界だったのだ。


 そもそも、リリーにとって食事とはゴミの中から比較的まともな物を口にする作業でしかない。


 またそのような所業は、世間一般の人々にとって、目に余る行為と認識されている。


 実際、ゴミを漁っている最中に、罵声や暴行を受けたことも一度や二度ではない。


 さらには、肉屋の前を通っただけで睨まれたことからも分かる通り、そのみすぼらしい姿はネズミかゴキブリのように忌み嫌われる対象となっていた。


 運が悪ければ歩いているだけで、いや、目に付いただけで危害を加えられる。相手の虫の居所次第といった具合である。


 そんな中、善意の皮を被った者が時折現れ、食事を恵んでくれることもあった。


 だが世の中はそう甘くはないのだ。


 施された食事を手に取れば「盗まれた!」と叫んで警官隊を呼ばれたり、対価として金や体を要求されるなんてこともあった。


 経験上、無償の施しは罠である。


 リリーはそう学習していた。


 そのため、リゼの行動はリリーにとって恐怖でしかなかった。


 大抵の場合、食事を一口、二口食べれば何かしらのアクションが相手側からもたらされてきたのだが、一向にその気配が感じられない。


 それどころか次々と食事が口に運ばれてくる始末だ。


 不幸の総量は幸福に比例する。


 このあとどのような理不尽な目に遭うのか、リリーは考えただけでおかしくなりそうだった。


 しかし、食事を拒否するという選択肢はなかった。


 お腹が空いていたのは事実であるし、断ったらどんな目に遭うのかも分からなかったからである。


 そうしてついに、想像しうる現実を恐怖が上回り、リリーの心は限界を迎え、それが涙となって表れたのだ。


 また追い打ちをかけるように、涙を見せた代償が想像されて、どうにもコントロールが効かないところまできてしまいそうだった。


 リゼは咄嗟に立ち上がってリリーの背後に回り、優しく抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫よ」


 頭を撫でて、言葉を繰り返す。


「あなたが怖がることは何も起きないわ」


 リゼの体温がじんわりと滲み、リリーの冷え固まった心を少しずつ溶かしていく。


 どれくらいの時間が経過しただろうか。


 ランプのオイルが心許なくなって火が弱々しく揺らぎ、暗闇の中へと伸びる二つの影が濃くなるほど間、リゼはリリーを抱きしめていた。


 そのかいあってか、リリーは落ち着きを取り戻していった。


 目を赤く腫らし、頬にその跡が残っているものの、涙はもう流れていない。


「落ち着いた?」


 リゼの言葉に、リリーは小さく頷いた。


「ご飯はどうする? まだ食べる?」


 リリーはしばし迷って無反応になったが、意を決したように頷いてみせた。


 それから今度は、自分でスプーンを持ち、自分の意思で食事をはじめた。


 元の席に戻ったリゼは、その様子をニコニコしながら見守っていた。




 コクコクコク、と喉を鳴らして一生懸命に水を飲み干したリリーは、出されたご飯を全て食べ終えたところだった。


 一拍置いて、リゼが本題へと入る。


「ねえ、リリー。聞いてちょうだい」


 突然名前を呼ばれたリリーは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


 リゼは気にする様子もなく、話を続けた。


「急な話だけど、あなたにはこれからここで暮らしてもらうわ」


 すでに決定事項であり、自身に選択の権利はなく、問われているわけでもないと理解してなお、リリーは諦めるように頷いた。


「もちろん悪いようにはしない。元の生活よりもずっと良い暮らしができると思う。でも、あなたにはやってもらうことがあるの」


 ああ、やっぱりか。


 リリーはそうなると分かっていながら、自身が失望していることを自覚し、その裏返しにまだ希望を持ち得ていたことへ自虐的であった。


「詳しいことはその時に説明するとして、大まかには三つよ」


 リゼは指を一本ずつ立てて、その内容を語っていく。


 一つ目は初等教育。


 文字の読み書きから始まり、足し算や引き算といった算術、そしてこの国の歴史や地理の勉強が主となる。


 二つ目は戦闘訓練。


 といってもまずは体力と体作りからであり、本格的な格闘術や剣術などは経過を見てである。


 三つ目は魔力について。


 これは少々の座学のあと、実践あるのみといった形式になる。


 リリーはこれらの説明を受けても何一つとしてピンときていなかったが、ただただ機械的に頷いていた。


 ここで首を横に振るなどということはできない。なぜなら、すでに施しを受けた後だからである。


 また、他人の指示には逆らうことなく従うことこそ生きる術でもある。


 リリーの心境をなんとなく察していながら、リゼは気付かないフリをしていた。


「それじゃ、もう遅いし寝ましょうか」


 リゼは言って立ち上がり、リリーの手を取った。


 リリーも立ち上がって、引かれるままに階段を上がり、元の部屋へと戻っていく。


「明日起こしにくるから、それまではこの部屋で好きにしていなさい」


 ベッドに腰を下ろしたリリーは頷いた。


「いい子ね。おやすみ、リリー」


 リゼはリリーの頬にキスをして、部屋を出て行った。


 温もりの逃げる頬を指でなぞったリリーは、ベッドに横になり、そのまま眠りについた。


〇ストーリー要約

・泣き出したリリーを抱きしめ落ち着かせる

・食事を摂り終えたあと、リリーがここで暮らしていくことが決まる

・リゼの要望を聞き、部屋に戻って眠りについた

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