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オカエリナサイ

「おや、おかえりなさい。お邪魔してますよ」


夜半に秋葉原にたどり着いた充が車庫から店に入ると、バックヤードでは常住と宮塚がカップラーメンを食べていた。


「ええと……ただいま? おかしいな。確か店の鍵は締めていったはずだけど……」


「いや、裏がいてましたよ。不用心なんで留守番してました。」


ラーメンをすする箸で充たちが入ってきた扉を指差す常住。

まるで自分たちがここにいるのは善意の結果であり当然だとでも言わんばかりだ。


「常住さん、もうちょっとちゃんと話しましょうよ」


宮塚が尖った口を差し挟むと常住の鼻の頭にはシワが寄った。

台所でゴキブリを見つけたような目つきで宮塚を睨みつける。


「いえね、今日の夕方あたりにこのあたりに置いてたセンサーが異常値を示したので見に来たんですよ。そしたらまあ何というか、お店の周辺まわりがいろいろおかしくなってまして」


「御名答。タイムスリップしてたんですよ」


充が冷静に返す。が、その表情はいくばくか厳しい。充にとって二課はついさっき、自分たちを簀巻すまきにして神戸港の魚の餌にすることまで考えていた連中なのだ。


「やっぱりそうでしたか。あの異常値はタイムスリップ由来のものだったんですね」


「で、なんで店の中に……?」


「『本日休業』の札はかかってなかったので入口から入ろうとしたら何かの力で弾かれたんですよ。で、裏が開いてたんで、どうなってんだろうなと扉を開けたらそれまでのアレコレがスッと落ち着いてしまって……そのまま放っておくと不用心なのでお留守番をと」


「ふうん……?」


充は少し眉をひそめながらも2回、3回と大きく頷いた。


「多分、その干渉でこちらのタイムスリップが中断されたんだと思いますよ。急にこちらに引き戻されたのはそういう理由だったんですね」


「もしかして、お邪魔してしまいましたか?」


「いえ、どちらかと言うと助かったかもしれません」


常住は1994年の神戸で充と二課との間であったことを知っているのだろうか。であれば、あの場からいなくなった自分たちのことも記録に残っているかもしれない。

ただ、それが今回のタイムスリップで起きた出来事だとは断定はできないはずだ。


もしあの時の二課の男たちが充と未来を危険人物だと断じ、記録を残したのであれば、今日を待たずして二課は充達に何かしらの行動を起こしていてもおかしくない。それがなかったということは、つまり、そういうことなのだ。


充は分かったようなわからないような理屈と因果を頭の中で並べて、なんとか自分を取り繕った。



◆ ◆ ◆



「それで、これがA6からの干渉を打ち破った装置ってわけか?凄いね」


宮塚のジュラルミンケースの解説を受けるとひとしきり感心する二人。


「凄いといえば、眼の前でいきなりバイクと車が消えたのにはびっくりしましたよ」


「ああ……」


1994年では充はバイクで、未来は車で車庫から出かけていったのだがこちらではそのままここにあったらしい。

それがあるタイミングでどちらも車庫から消えたのだという。


「……まあ、その消えた車に乗って帰ってきたわけだからなあ。そういえばバイクは途中で熱田神宮に置いてきたままだ。あれどうなってるんだろう」


「タイムスリップ先で大移動してたんですね。それで何かしら整合性が取れない事情が発生した、と」


宮塚も分かったような分からないような顔をしつつ何とか状況についてこようとしている。

試しに二課の記録をみてもらうと、確かに1994年末、熱田神宮にバイクを1台預けたことになっており、車体はそのままになっているらしい。


「30年も動かさなかったら、流石にあちこちいたんでるだろうなあ」


「94年末にニノニと接触したんですよね? 熱田以降の記録が見当たりませんが……」


「あ、そうなんだ?」


充と未来は頬の筋肉を若干引きつらせながら笑ってみせた。

あんな出来事がなかったことになっているなら、その方が良いに決まっている。


そんな二人の顔を常住はキョトンと見ていた。


「じゃあ、我々は帰ります。ここで夜を過ごすとまた旦那が怒っちゃいますし」


二課の二人を見送ると、充は大きなため息をついた。

未来も気持ちは同じらしい。

二人は自然に互いの体を抱き寄せ、しばらく黙って寄り添っていた。



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