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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
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軽い男

 着地と同時、眼前の男が引き金を引いた。

 

『タァン』


 乾いた音が鳴った。


 あっ、と言う間もなく、目の前に青い弾丸が見えた。

 さっと首をかしげる動作で弾丸をかわす。

 対する男は、かぶった帽子が飛ばないようにしながら、片手を帽子にやって、こちらへと距離を詰めてくる。


「ジル坊、大きくなったな」


 ニコリと笑う男。語る口調が、まるで親戚のおじさんのようだ。


「誰?」


 ボクは質問しつつなぐりつける。


「覚えてないか……それもまた仕方ないな」


 男は悠々と交わした。足の運び、身のこなし、ボクとそっくりだ。

 それが示すのは、彼がボクと同じ師の元で戦い方を学んだ人間だということ。

 つまり彼は同じ賢者の称号を持つ者だ。


「兄弟子の一人?」

「ご明察。武器商賢者レッザリオだ」


 笑顔を崩さず男……レッザリオは、ボクの胸に拳銃を突きつけた。


「私を憶えていないのはショックだよ。私はお前のおしめを……」


 レッザリオが言い終わる前に、ボクは拳銃を持った手をパチンと手で叩く。拳銃が男の手から離れて、大きく宙を舞う。


「で、おしめを変えてやったのに……とか言いたいわけ?」

「いやいや、そこまではしてない。ズィロが代えているのを見たことがあるだけだ」


 言いながら、レッザリオは空を見上げ宙に舞う拳銃を目で追い、落下地点を予測し駆け出す。


「見ただけかよ」


 そう言いながらボクはレッザリオを追う。

 それからは軽口を叩きながら、殴り合い。

 拳銃をなんとかキャッチしたレッザリオは笑顔を崩さない。

 身だしなみに気をつけながら、帽子が飛ばないように手で押さえながら戦う。

 レッザリオは強くない。だけど、ボクの攻撃はなかなか決定打とはいかない。

 大きな理由は周囲の犬たち。

 4匹の巨大な黒い犬は、レッザリオと連携しながら僕に攻撃を加えてくる。

 それらを交わしながら反撃する。

 レッザリオはヒラリヒラリと身をかわし、犬はボクが殴っても効いていないようで怯まない。

 手応えはあるが、犬には通じていない。殴るだけでは意味がなさそうだ。


「このままではらちがあかない」


 相手の思惑どおりの状況にあせってしまう。

 レッザリオの意図は明らかだ。

 犬たちと男は、協力しボクと対峙することで、マスケット兵を守っているのだ。

 バスケット兵は、玉込めをしている。

 彼らの持つマスケット銃が、ボクの知っている知識どおりであれば、一回の射撃ごとに火薬の詰まった筒に鉄の球を押し込める作業が発生する。

 そのための時間が必要なのだ。

 マスケット兵の次玉装填の時間を稼ぐために、レッザリオはボクへと攻撃を加え、注意を引きつけている。


「しょうがない」


 小さくため息をついて意を決する。

 相手の攻撃を食らうのは覚悟の上で、周囲一帯に、魔法攻撃を仕掛ける。


「もともとあったプランだしね」


 自分に言い聞かせながら、両手の指をうごかして手早く詠唱印を組む。

 相手はその隙を見逃さない。

 笑顔のレッザリオは、接近して拳銃を放つ。円筒形のシリンダーがカランと回る様子がみえた。

 直後、弾丸が放たれる。

 ボクは何とか紙一重で避けつつ、魔法を完成させる。

 ちりっと髪に弾丸が当たったが問題は無い。

 右手の手のひらには赤黒い鉄球が生成される。その正体は錆びた鉄釘の塊。

 それを少しだけ上空に投げ上げる。

 この魔法……処刑釘は、空中に投げ上げた鉄球が弾けることで、周囲に錆びた釘を炸裂させるものだ。

 だけど鉄球は炸裂できなかった。

 上空に打ち上げた途端、犬がその大きな口でバクリと飲み込んでしまった。


「それは知っている」


 釘を飲み込んだ犬を笑顔で眺め、レッザリオは言う。

 思った通りにことが運んで、余裕の様子のレッザリオは油断していた。

 ボクはその隙を見逃さない。

 手を伸ばし、レッザリオの手を握った拳銃ごとつかむ。


 『バキン』


 ボクが力をいれると、鈍い音がして、レッザリオの顔が苦痛にゆがんだ。

 彼の手ごと拳銃を破壊したのだ。ボクはこのまま握った手を離すつもりはない。


「ひどいな」

「リーリたちをやらせないよ」


 レッザリオが無理矢理な笑みを浮かべる。


「リーリ達か……。ジル坊、あんな公爵に構うな」


 脂汗をかいているがレッザリオは余裕の笑みを崩さない。


「何を企んでいるんだ?」

「企んでは……まぁ、企んではいるが、それとこれとは別だ。せっかく再会した弟弟子に、助言をしてるだけだ。ソレル領は既にない。あれは……」


 レッザリオは体の力を抜き余裕の様子でリーリ達竜騎士の方を見上げる。


「ソレル領はすでにないんだよ、ジル坊。全てを失ったにもかかわらず、妄想を抱く彼らは、近く破綻する現実から逃げている。落伍者だ」

「落伍者?」

「投降しろ。悪いようにはしない。可能な限り望みを聞いてやる」


 悪寒が走った。

 レッザリオは嘘を言っていないと思った。

 それを信じてしまう。自分の直感が怖い。


「さて……と、私がコレを使う前に決めてくれ」

「しまった」


 ボクは話にとらわれて油断したことに気がつく。

 レッザリオはボクと会話しつつ、自由になった手で詠唱印を作り魔法を使っていた。

 結果として、自由になった彼の左手には、人の背だけほどある長い円筒状の武器が握られていた。


「さて、もう一度言うぞ。投降しろジル坊。悪いようにはしない」


 レッザリオは穏やかな顔でボクに問いかけた。

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