降りた先で
破裂音に続き、竜騎士たちが落下していく。
「上へ!」
混乱の中、リーリの声が響く。
飛竜の鞍に立って周囲を観察しつつリーリは「上へ」と叫び続ける。
攻撃を受けた。そしてそれはリーリや竜騎士たちにとって、完全に想定外の状況だった。
ボクもそれは同じだ。
クリエは?
視線をやると、彼女は無事だった。
「ジル君……攻撃は金属の玉によってされたみたいだよ」
クリエの側にいたペリーヌ姉さんがわずかな笑みを浮かべてささやく。
いつの間にか姉さんはクリエの側に浮いていた。
飛翔の魔法で、クリエの乗る飛竜の側へ飛び、さらには防御呪文で攻撃を防いでくれていたらしい。
姉さんは何かをつまんだ自分の指先を見つめながらささやく。
「文様が刻まれている。おそらく飛竜を殺害するための工夫だろう……飛竜は天然の魔法を身にまとっているから、その対策かな。わかっているのは攻撃の正体と、敵は未知の武器をつかっていることくらいかな」
混乱による喧噪のなか姉さんの声がはっきりと聞こえる。
魔法による音の操作をしたのだろう。
ボクが周りの音をかき消したのとは逆というわけだ。
こんな方法もあるのだなと感心しつつ、目をこらして地上をみる。
「マスケット銃だ」
魔力によって強化された視力で地上の兵士をみて一瞬で理解した。相手の武器を。
「ますけっと?」
「なんとなくしっているだけ」
前世の知識がボクに教えてくれる。火縄銃とも呼ばれる武器のことを。
火薬の爆発力で、筒にこめた弾丸を撃ち出す武器だ。魔力を目にあつめて地上をみると、確かにそれっぽい武器をもった兵士達が複数いる。100は楽に超えているが、こちらの竜騎士と比べて圧倒的に少数だ。
先ほどまで何も無かった空間に突如として出現したところをみると、不可視の魔法によって身をかくしていたのだろう。
いつの間にか、不可視の魔法はいろいろな戦場で使われるようになったらしい。
「とりあえずさ、ジル君」
姉さんが冷たい視線を地上に送りささやく。
「クリエちゃんは私が守ってあげるから、地上のアレをなんとかしてきてよ。リーリちゃんが対応を考えるにしても時間はあったほうがいいからね」
途中から、ささやき声はひどく面倒くさそうな響きを帯びた。
確かにこちらから乗り込む手段は悪くない。マスケット銃は連射できないし、飛竜には効果があってもボク一人であれば楽に対処できる。
「ちょっと行ってくるよ」
いずれにせよ、放っておくことはできない。
ボクは意を決して落下することにした。飛行船の端にたたっと駆け寄り。それから下を眺める。敵の集団にある程度狙いをつける。円形に配置された銃をもつ兵士たち、その周囲には真っ黒い獣。さらに中心に2人、そのうち1人はこちらを見ている。
表情はわからないが鋭い視線だ。
『タン』
床板にボクの靴音が響く。
それから重力に任せ落下する。目的地は地上の兵士たちのど真ん中。
鋭い視線を送る人に突撃することにした。
挑発だったとしても問題はない。あれが多分、司令塔だ。
「予想どおり撃ってこないな」
落下しつつ考える。こちらに銃口を向けてはいるが次のアクションは無い。
ボクの知識どおり連発はできないようだ。
「攻撃がないなら、中央に下りて範囲攻撃かな」
地上に降りる直前に、処刑釘の魔法を使う。
破裂し、その破片は鉄の釘となって周囲に襲い掛かる鉄球を生み出す魔法だ。
処刑釘による攻撃が生み出す混乱の中で、敵のトップを制圧する。
「それから……」
あとわずかで地上に降りるという時だった。
こちらを見上げる人物の背後へ、処刑釘の狙いをつけ、詠唱をしようと思ったときだ。
黒い獣の一匹が大きく飛び上がり、バクリと口を開けた。
「思った以上に」
高く飛ぶ獣。
それは巨大な犬だった。犬の口からよだれがこぼれ悪臭を放つ。
地上まではあとわずかとはいえ、まだまだ距離はあった。
「ここまで届くのか?」
飛びかかってくるのは予想外だった。
即座に飛翔の魔法を使い空中で身をよじる。
『ガチン』
あとわずかといった場所で犬の口が金属同士がぶつかる音をたてて閉じた。
器用に空中で姿勢を変える様子は、まるで猫のようだ。
だが外見は犬そのもの。筋肉で盛り上がった肩、首筋は金属製の防具があしらえてある。
観察を続ける余裕もなく、その背後から2匹目が襲い掛かる。
「めんどくさい!」
さっと空中で距離をとり、2匹目の攻撃をかわす。今度は目の前で口が閉じた。牙は鉄で補強してあって、口を閉じる間際に、ちらりと火花が見えた。
続いて3匹目、4匹め。
きりがない。
一応4匹目の攻撃に対しては、かわすついでに鼻先へ蹴りを入れた。
だけど、あまり効いていないようだった。
そのうえ、こちらは処刑釘を使うタイミングを逃してしまった。
先制攻撃をすることなくボクは着地する。
ボクに視線を送った主とは10歩程度の距離。幸運なことに、相手との間に障害となる敵はいない。
着地と同時にボクは突っ込む。
「ずいぶんと大きくなったじゃないか、ジル」
対する相手は余裕の表情をうかべ、なつかしむように言った。白いシャツにひざ下まである黒いローブを羽織った男。
彼は張り付いたような笑顔でボクをみていた。
そして、言葉とは裏腹に青く輝く拳銃の銃口を向けて……引き金に手をかけた。




