表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち
67/101

橋を壊す

 辺りの様子が慌ただしい。

 先ほどまで整列して飛んでいた飛竜は目まぐるしく動き、新しい陣形を作ろうとしていた。

 リーリが乗った飛竜はといえば、ボクたちよりも少し下の高度をホバリングしている。

 彼女は、周りに集まってきた側近たちへ指示を飛ばしていた。

 その顔は真っ青で痛々しい。


「すぐに壊せるの?」


 彼女を一瞥したボクは、そばを飛んでいた竜騎士へ問いかけた。

 真新しい金属鎧に全身を包んだ彼は、目隠し部分を跳ね上げていて、遠くをみていた。

 今は緊急事態だ。リーリには見ておけばいいとは言われていたが、何もしないという気にはなれない。


「すぐには壊せません。そう聞いています」


 急に問われたからか、若い彼はビクリと震えた後、ハキハキと答えた。

 それから彼はやや上ずった声で続ける。


「私も、橋を壊すということについて聞いたのは昨日のことなので、詳細は存じておりません。ですがリーリ様は2時間程度とおっしゃっていました」


「2時間?」

「かの大賢者様が使われていたという時間の単位であるとは存じていますが、それがいかほどの時間を示しているのかわかりません」

「それならわかるよ。朝起きて準備をして、隊列を整えて飛び立つまでの時間が2時間程度だね」

「さようですか」


 彼は飛竜をホバリングさせながら、コクコクと大きくうなづいていた。

 跳ね上げた目隠しが、カチャリと降りて、その顔面を覆う。

 最初は警戒しているのかと思っていたが、どうも違うようだ。

 緊張してガチガチになっているだけらしい。


「橋に向かって進む騎馬兵を抑えなくてはならない」


 ぼんやりと地上を見つめて小さく呟く。


「上空からはさほどの数には見えない。だけど、目に見える状況が正しいとは言えない。先ほどまで騎兵の姿なんて全く見えなかったのだから」


 さらに呟き続ける。考えをまとめなくてはならない。早急に。


「世界に名を轟かせる将軍がわずかな兵で援軍に駆けつけること自体が怪しすぎる。彼に他を圧倒する力があったとしても……」


 ひとしきり考えをまとめて「ふぅ」と、息を吐いた。


「ちょっと行ってくるよ」


 ボクの側にいた皆に笑顔を向けて、それからタンと船べりから何もない大空へと背面跳びをきめた。


「あぁ、それがいいね」


 ふわりとした浮遊感のなか、セリーヌ姉さんはそう言って笑った。


「行くってどこに?」


 落下し始めたボクに向かってクリエが大声で問いかけてきた。


「ちょっとばかり橋を破壊してくるよ」


 笑顔で叫ぶ。

 ボクの体は大空に舞い落ちる。

 先ほどまで乗っていた飛行船は、あっという間に小さくなる。

 背中に風圧を感じながら小さくなっていく飛行船を目で追った後、くるりと体を反転する。今度は視界に地面がうつる。地面へ頭を向け、体を垂直にして、できるだけ早く落下できるようにと体勢を変える。

 ゴゥゴゥと、けたたましい風音が耳に響き、バタバタと服が風を受けてたなびく。

 風圧の中、落下速度はどんどんと増し、地上は近づいてくる。

 思ったよりも距離が遠く、地上へたどり着くまでは余裕があった。

 町へと向かう騎馬兵はまだ橋に到達していない。

 この調子で行けば、彼らが橋を渡り始めるよりも先に着地できるだろう。

 正確なところはわからないが、なんとなくそう感じた。

 なんとなくだ。

 その直観を信じて行動を始める。

 巨大な橋を凝視して呪文を唱える。リズミカルに小声で素早く、それに合わせて右手と左手を機械的にうごかし詠唱印を結ぶ。口ずさむ言葉も、詠唱印も、たった一つの魔法を実行するため。

 つまりは同時に3つの魔法を使うわけだ。

 使う魔法は、橋を破壊するため、最も確実なものを選択する。

 魔法は十分余裕を持って完成することができた。


「処刑魔法、円形ギロチン」


 そばに黒く燃える魔方陣が浮かび、ブワリと一瞬でかき消えた。それに続いて魔法が動き出す。

 騎馬兵は突出した一騎が橋を渡り始めたところだった。大将軍も、彼に続く騎馬兵も橋に到着していない。


『ガンガンガン』


 分厚い鉄の盾にハンマーを打ち付けた時のような音。

 同時に、3つの太い木枠が橋を取り囲む。

 大きな3つの木製のリング。

 それは灰色の橋を飾る腕輪のようでもあり、巨大な橋を飾る巨大建築物にも見えた。

 さらに木製のリングの中に巨大な刃物が出現する。

 鈍く輝く刃はゆっくりとスライドしていって、ガリガリと不気味な音を立てて灰色の橋にその刃を立てた。

 橋もなかなか頑丈なようで、あっさりと切断させてはくれない。


『ミシミシ』


 大きな音を立てて、巨大な刃に石造りの橋は抵抗する。身もだえるように橋が歪んだ。

 手応えはあった。魔法は確実に橋を壊すイメージがもてた。あとは時間の問題だけだ。

 地上まであとわずか。10を数えるほどの間に地面へたどり着くような距離だ。

 そのまま叩きつけられても問題ないだろうが、少しだけ余裕があったので追加の魔法を唱える。


「球形防御陣」


 周囲を取り囲む球状で透明な障壁を作る魔法。

 着地の直前で完成した不可視のバリアは、出現と同時にパリンと割れた。

 地面との衝撃により壊れてしまった。

 だけどある程度の衝撃は吸収してくれたみたいで、落下の衝撃は大したことがなかった。

 わずかばかり残った衝撃を、膝と肩、背中といった形で地面にぶつかる体の部位を変えながら軽減する。


『ズザザッ』


 空を見上げる仰向けの姿勢でボクは地面をすべった。

 それからすぐに起き上がり、橋へと警戒の視線を送る。


『ズゥン』


 視線をやったと同時、地面が揺れた。

 ビリビリと全身に響く音が鳴った。

 巨大な橋が円形ギロチンの刃に負けて、押し切られて破裂し、破片をまき散らす。

 視界に映ったのはちょうど橋が壊れる瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ