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獄中賢者の世界再生記  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第二章 ラザムの弟子たち

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ちょっとした戦い

 ガラガラと破片が落ちていく。僕の背丈を超えてはるかに大きな石も、砂粒のような小さな石も。ほとんどの破片がは橋が架かっていた崖へと落ちるが、多少はボクの周りにも落ちた。

 ドスンと灰色の巨石が落ちて砕けた。

 続いて砕けた巨石の破片が灰色の砂煙を巻き起こす。

 四散する橋を形作っていた巨石と、その破片。

 実際に壊れた様子を見ると圧巻だ。

 タイミング的には、騎馬兵たちが橋を渡る直前で魔法は成立していた。

 壊れることが確定の橋の中を騎馬兵が通ろうとすることは考えにくかった。

 だから警戒は念のため。

 ボクはそう思って、砂埃が舞って視界の悪い状況でも、ずっと崖に向かって警戒の視線を送り続ける。

 たまに頭上へと落ちてくる石の破片を軽く手ではらいながら。


「なんだ?」


 自分の背丈ほどの石が頭上に落ちてきた。

 それは問題では無い。問題は手ではじいた時に感じた視線。

 目の前の壊れゆく橋からではなく、視線は左右、そしてボクが背にした町からも感じた。

 ただの視線であればどうということはないのだが、感じた視線は異様な感じだった。

 体を動かさず眼球のみを左右に動かしながら視線の正体を探る。

 姿は見えない。はるか遠くから見ているようだ。

 殺意は感じない。

 ただ見ているだけのようだ。害は無い……。

 気持ち悪いが、いったん無視を決め込こんだ。


「ふー」


 静かに息を吐いた。

 気を落ち着けて、砂埃でぼけて見える橋があった場所へと警戒を向ける。

 その瞬間だった。ボクは敵の接近を許していたと気がついた。

 ズンと重い衝撃が脇腹にあった。

 続けてビリビリとした痛みを覚えた。

 何だと思った瞬間、ふっと目の前に金髪の男が出現していた。

 してやったりと、勝ち誇った笑みでボクを見上げる男。大きく踏み込み、握り込んだこぶしで、ボクの腹を殴りつけたようだ。

 およそ戦闘に向かないヒラヒラしたレースの目立つ赤茶色の服。

 きっと念入りにセットしたであろう金髪には白髪が交じっている。

 まるで舞踏会に出るような格好でボクに戦いを挑むらしい。

 気づかない間に接近した彼は返す手でもう一度ボクの腹を殴りつける。

 電撃系の魔法を行使していたらしい。しびれるような痛みが全身を駆け巡った。


「少し痛いや」


 魔法が得意でないのか、それとも手加減しているのか、たいしたことの無い痛みを受けて、軽口がでてしまう。

 というよりコイツは誰だ?

 壊れゆく橋の中に男の姿は見えなかった。


「それなら」

「お前が」


 僕と男の声がかぶった。

 相手が何を言おうとしたのかわからない。だけれど目の前の男が、不可視の魔法を使っていた本人だとわかった。騎馬兵を隠したように自分の姿を消して突撃してきたのだ。


「だったらお前を倒せば相手の場所を疑う必要はなくなるね」


 何も言わず必死に攻撃を送り出す男に向かって語りかける。

 彼は不機嫌そうに眉根を寄せた。

 つづけて数度の殴り合い。その身のこなし、戦闘スタイルから同門だと気がつく。格闘で隙を作って接近した状態から魔法を相手に叩き込む。これは大賢者ラザムが考案した戦い方だ。相手はおそらく兄弟子に当たる人間だ。


「グゥ……」


 男が呻く、実力には大きな差があった。

 余裕の中で、ボクは周囲からの不気味な視線に注意を払う。

 どのような状況にも対応できるように、右手はフリーにして、左手のみで目の前の男と戦う。

 実力の差は圧倒的だ。相手が1つの動きをする間に、僕は5つの動きができる。

 彼の綺麗に整えられた髪は戦いの間にほどけて乱れた。


「お前がいなければ、ソレル領を踏み台にできたのに!」


 男が叫んだ。


「知らないよ、そんなこと」

「私がァ、田舎貴族とそしりを受ける事もなかった! あんな小娘におびえる事も無かった!」


 格闘しつつ男は叫ぶ。自分の栄光が、周りを見返すのだ、などとボクには理解できない言葉を繰り返し言いながら攻撃してくる。

 まるで駄々をこねている子供のようだと思った。

 相手をする気になれず、彼の言葉を聞き流しながら、攻撃をさばき反撃する。

 彼の攻撃はお粗末なもので、容易く対処できた。どちらかといえば、相手の攻撃をかわしながら、周りの様子にも注意を払い、彼の背後を警戒することに神経をすり減らす。


「私を、お前までも、私を、無視するのか!」


 ボクの態度が気に障ったのか、必死の形相で彼は叫ぶ。

 伸ばした彼の手はむなしく宙をつかんだ。


「だから知らないって」


 周りの視線は得体が知れない。

 目の前の男がそうだったように、姿が見えないのかもしれない。

 さらには壊れた橋を彼のように渡ってくる騎馬隊がいるかもしれない。

 疑い出せばきりが無い。

 早めにケリをつけたほうが良さそうだ。

 ボクは彼を圧倒する。殴りつけ、蹴りを入れる。

 彼は髪を振り乱し、必死になって食らいついてきた。

 何度も何度も「こんなはずがない」とうめいていた。想像以上にタフだなと、そんなことを考えた。


「悪いけれど構ってられない」


 彼に対して、とどめとばかりに脇腹にこぶしを当てる。ミシリと音が鳴る。最初に受けた攻撃のお礼とばかりに、同じところへの重い一撃。


「まだだ」


 口から血を吐きながら彼は言った。

 攻撃を覚悟していたようで、ボクの一撃に耐えきった彼は震える右手をボクの顔面へと向ける。


「雷撃、蝕雷」


 彼の右手が紫に輝く。射程の短い電撃を放つ、一般攻撃魔法。だけれど破壊力はすさまじい。


「ははは、やってやったぞ。あとは小娘だ。あれには何も無いことを皆に知らしめて、私は偉大に、偉大に……」


 勝ち誇って彼は叫んだ。

 何をみて喜んでいるのか……。魔法はボクに届いていないのに。

 彼に対して興味はなかった。どうでも良かった。それより周囲の状況が気になっていた。


「そういうのは当ててから言うべきだったね」


 ボクは勝ち誇る彼の後ろにたっていた。

 魔法が、けたたましい放電音を上げ、稲妻を放っていた時、ボクは軽々と体を翻し背後をとっていた。


「じゃあさよなら」


 捨て身で放った魔法が外れて、男は唖然としていた。

 そんな彼の背後に回っていたボクは、彼の襟首に手を当て掴み、ぶん投げた。

 つい先ほどまで橋が架かっていた崖へと。

 彼はされるがまま底の見えない暗い崖へと落ちていった。

 結果的には、ボクと男の戦いは、ほんの一時の出来事だった。

 戦いが終わっても、砂煙が辺りを覆っていた。

 崖の向こう側から渡ってくるような存在は何もなかった。

 周囲の視線も感じない。

 ただ遠くの方でこちらを見ている騎馬兵が数人見えるだけだ。

 向かってくる様子は無い。

 そしてふわりとした風が吹いて、一気に砂埃を消し飛ばした。

 ようやく視界が晴れて、ふと上を見上げると、空では竜騎士たちが歓声を上げていた。

 それは橋が壊れたことを目の当たりにした彼らが勝利を祝う声だった。

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