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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
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くだらないやりとり

「脱獄前に、少し罪滅ぼしをしておこうかと。そのための情報収集さ」


 フェンリルの質問にビカロは即答した。


「ジル坊に会うことが罪滅ぼしになると?」

「そうじゃない。ここに来たのは情報収集にすぎない。集めた情報で罪滅ぼしをする。で、何をやるかは考え中。ちょっと手を貸したい人がいてね」

「それはクリエ嬢だな。なんどか視線を感じた」


 クリエの名前が出てきたことに「え?」と思わず声がでた。

 思った以上にその声は大きかったようで、ビカロは軽くステップを踏み、ボクから距離をとった。


「なんだか人聞きがわるい。まぁ、クリエさんに手を貸したいというのは本当だけどな。彼女を傷つけてしまってね。脱獄前に、罪滅ぼしをしたい。もっといえば、彼女にマシな生活をさせてやりたい」


 ビカロはボクを見て、にやけ顔で弁明した。

 両手を突き出しフルフルと軽く振る仕草がうさんくさい。


「傷つけたって?」


 何をやらかしたのだと、ビカロに問う。思わず語気が荒くなったが、しょうがない。


「あぁ、いや。酷い言葉を吐いてしまった。彼女が善意からしてくれた差し入れに、文句をな……」

「文句?」

「いや、そのだ……クッキーが小さいって……」


 思ったより、しょぼい話だった。

 差し入れが少ないって。見た目と違って子供っぽい事で怒る人らしい。


「いい年してるんだから、お菓子の量で怒っちゃダメだよ。で、話を戻すけど、独房の人と会うのと、クリエの生活を良くしたいは別の話に思うけど」

「だから情報収集さ。いくつかのプランは思いつくが、俺の手段は非合法なものばかりだ」

「非合法は不味いよ。だってクリエは善人だよ」

「あぁ、そうとも。だから独房を巡っている。この監獄が、前評判通りなら、この監獄には彼女の力になれる人が可能性が高い」

「ウルグのような?」

「まぁな。ここは政敵を排除するにうってつけだ。処刑には抵抗があっても、一時の投獄なら……いいだろうってやつだ」


 一時の投獄か。ふと部屋のスライム状の身体を震わせるローベが目にとまった。


「でもさ、一時にはならないでしょ? そこのローベが悪さをしていたわけだし」

「お偉いさんにとって、手を汚さなければいいんだ。戻ってこないことが分かっていても、目の前で処刑されるよりもマシだってことだ。別に正義感からじゃない、罪悪感を減らしたいってのが理由だ」

「勝手なもんだ」

「貴族など勝手な者ばかりだ。だから、そういう理由で、ここの独房の住人はそれなりの地位にある者ばかりだ。お前だってそうだろう? 太虚のジル」


 たいきょ?

 なんの事だろうとフェンリルを見ると「嘆かわしい」と小さく呟いた。


「嘆かわしいってなんだよ」

「ラザムがお前につけた二つ名だ。大空、根源、そのような意味を持つ」


 のそりと立ち上がったフェンリルが、ボクに近寄ってくる。

 そして、もう一度「嘆かわしい」と呟いてから言葉を続ける。


「ジル坊は、ラザムを尊敬しているといいながら、その尊敬すべき師匠のつけてくれた名前は忘れるのだな」

「名より実だよ。やっぱり」


 自分に二つ名があるとは驚きだ。

 家から出ない人間に「おおぞら」とか、変な感じだ。


「まぁ、いい。だが、なぜ……ビカロと言ったか、お前はそれを知っている。ジル坊は、賢者として呼ばれるにふさわしい者ではあるが、そこまで有名ではないぞ」

「そりゃ、上級看守室にあった囚人リストを見たからな」

「え? どうやって?」


 ビカロの言葉に驚く。ボクがルルカンやチャドを使って、じっくり進めていた事を、彼はすでにやり終えていたらしい。


「普通に、忍び込んだんだが……。怪盗ビカロの名は伊達じゃないだろう?」

「そうなんだ」

「微妙な反応だな。まぁいいか。ともかく、俺にとっては、この監獄程度なら庭のようなものだ。ここの看守達は、思うに、そこの……えっと、ローベに頼り過ぎていたってことだろうな」

「すごいね」

「ちなみに、昨日から飯も看守達と一緒に食っている。チョロい奴らだ」

「バレないの?」

「適当な看守に変装しているからな。人は他人の顔をまじまじと見ない。声と雰囲気だけでごまかせる。ちなみに、ここの飯は意外と良い。今日の海鳥のソテーは強めの塩がアクセントになっていた」


 骨付きの、鶏肉?


「ずるいよ」

「飯なんてどうでもいいと思っていたんだがな。実はそうでも無いらしい。自分の事はわからないものだ」


 ちらりとフェンリルを見る。こいつ、また寝ている。

 なんてことだ。このビカロという人といい、フェンリルといい、自分ばかり良い物を食べている。


「で、結局、ビカロさんは食事が美味しいって言いにきたってこと?」

「いや。情報収集だと言っただろう。さっそくの質問だが……」


『カンカン』


 聞き慣れた扉をノックする音。差し入れの時間らしい。

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