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獄中賢者は侮れない  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第一章 聖女を見いだす
20/101

最優先事項

 バサバサと鳥の羽ばたく音が独房に響いた。

 お使いに行かせたチャドが戻ってきたのだ。


「カァ」


 服従の魔法を緩めると、チャドは一仕事を終えたと主張するように鳴いた。

 もっともボクが操って飛んだわけなので、一仕事したのはボクなわけだけれど。


「これで魔法陣は手に入るっと……」


 ボクはチャドを撫でながら、問題が一つ片付いたことに安堵する。

 ウルグにペンと紙を持っていき、こちらの依頼の了承も取り付けたのだ。


 ちなみに、ペンは監獄の入り口にある記帳台から借りてきた。


 木のツルで編んだ小さな籠をルルカンに背負わせて、そこにペンとインク壺を投げ込み運んだ。

 黒猫ルルカンの背負った籠にインク壺を入れるのは大変だった。

 猫は身軽だけれど、手足は器用さにかける。

 ましてや背負った籠に、インク壺を静かにいれるのは大変すぎた。見つからないかとヒヤヒヤした。

 口にくわえるだけでいいペンとは大違いの大変さだ。

 

 でもその甲斐はあった。

 同調と服従の魔法陣が手に入る。


 ウルグが魔法陣を描いてくれる。

 数日かかるらしいが、その程度は待つことに問題無い。

 同調はともかく、服従魔法は残り使用回数わずかだったので、ギリギリ何とかなったわけだ。


 これで問題が一つ解決。


 ところが新しい問題がでてきた。

 魔物の暴走……スタンピードだ。


 斥候虫がいた事から近いうちに確実に発生する。

 付近に、襲われそうな場所が無い事から、ターゲットは監獄で確定だ。

 時間にはまだ猶予がある。


 斥候虫の前羽の色が赤いことが根拠だ。

 文献では、斥候虫にある青の斑点が大きくなるという。

 そして斥候虫の前羽が赤と青の斑点から、青一色になれば10日以内にスタンピードが起こるらしい。


 ボクが始末した斥候虫の亡骸を見るに、まだその段階には至っていない。

 時間的な余裕があるというわけだ。


 だから、その余裕のある時間を利用し、色々と手を打たなくてはならない。

 まずは規模だ。

 スタンピードの規模を調べなくてはならない。

 

 斥候虫が何匹いるのか……それで規模が判明する。

 一匹だけであれば御の字だ。

 斥候虫の存在は監獄の兵士にも知れわたっている。

 まったく無防備ということはないだろう。


 斥候虫が一匹しかいない程度のスタンピードであれば、監獄の守備だけ対処可能だ。


 ボクはダラダラと過ごせばいい。

 クリエとおしゃべりしながら穏便に独房で過ごす。それでもって、この監獄を出る方法を考えれば良い。


 幸いウルグという知り合いも出来た。

 それに当初の予定通り、兄弟子達が何とかしてくれる可能性も捨ててはいない。


 それからスタンピードの発生理由も知りたい。

 監獄がスタンピードに見舞われるという状況が理解できない。


 スタンピードが発生する理由は、大きくわけて3つだ。

 例えば、飢えた魔物の群れが餌を求めて街を襲う。

 これが一番よくあるパターンだ。

 魔物は他の動物のように、自分より弱い動物を襲ったり、植物を食べて生きている。

 もしくは空中に漂う瘴気や魔力を吸い取る。

 あるいは死肉をあさるか。

 スタンピードが起こるのは、その全部もしくは何かが、何らかの理由で失われた時だ。


 だけれど、この監獄の周りではそのようなことは起こっていない。

 森の緑は豊かだし、過剰に瘴気が撒き散らされているということはない。

 魔物や動植物が大量死していることも、チャドで飛び回り周囲を観察する限り無い。


 残りの理由は、一つが魔術儀式により魔物が狂って街を襲う場合。

 軍隊が魔物を利用して街を襲う場合に、この方法が利用される。

 もう一つは上級の魔物が、下級の魔物を伴って街を襲撃する場合だ。


 魔術儀式というのは考えにくい。

 監獄を襲う存在がみあたらない。

 スタンピードを人為的に起こすためには、目立つ祭壇などを用意する必要がある。


「まてよ……」


 そこまで考えて、この監獄特有の事情に思い至った。

 ここはもともと悪神ズィボクの施設を利用している節がある。


 施設の機能が生きている。

 もしくは何らかの理由で急に動き出した可能性は捨てきれない。


 そこまで考えて、すぐさま調べることにした。

 床に手をつき魔力を這わせる。

 その反応で、ここの施設がどれほどの力を持つのか推測できる。


 簡単な調査だが何もしないよりはマシだ。

 スタンピードが起こるのであれば、分かりやすいほどの反応がないとおかしい。

 そうでないと、外部にいる魔物をおびき寄せることすらできない。


 ところが予想外に何もなかった。

 それどころか、ここの施設は力を失いつつあった。


 少なくともボクが独房にぶち込まれた時より、ずっと力は薄い。

 来た時に、うまく魔法の行使ができずに、石のベッドが柔らかくならなかったことがある。

 あの時は頭をしこたま打って、ひどい目にあった。

 だが、今の状況であればそのようなことは起こらないだろう。

 そこそこ手を抜いても魔法は完成するはずだ。


「どういうことだろう」


 斥候虫はあの一匹だけで、スタンピードは大したことがないのだろうか。

 そうであれば良いのだが、何かが引っかかり胸がざわめく。


『カンカン』


 考え込んでいると扉がノックされた。

 クリエだ。


 とりあえず調査は繰り返そう。

 毎日調べたほうがいいだろう。

 潮の満ち引きのように、施設の力は強くなったり弱くなったりするのかもしれない。

 それは継続して調査をしていかないと判明しないことだ。

 それから付近のパトロール。斥候虫が他にいないかを調べる。

 あまりにも数が多いようであれば、クリエを通じて監獄の誰かに話をする。

 やれることは沢山ある。

 そして最優先すべきは……。


 ボクは「はいはいー」と返事をしながら、最優先事項を考える。


 最優先事項は、クリエの安全。

 彼女が危険にさらされないことが大事だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔導書に書かれている陣が必要と。 キャンバスの陣を模写するのは賢者様であっても難しいということですね。
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