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第十七話 完全なる決別

 ……嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!! 


 ランクA+のグリフォンが殺されたラクトは、現実逃避に頭を抱えていた。


 俺の、俺のグリフォンが……こんなにあっさりと……!!


 わなわなと体を震わせ、ラクトはリヴを見る。


 駄目だ……。あり得ない、認められない!! この俺が、自ら切り捨てたリヴ()に負けることも!! あのリヴがここまで強力な魔物になることも!!

 このままでは、俺の……俺のメンツが立たない!! 


 あくまでラクトが気にするのは、自分の立場であった。


 だが、認めなければ!! リヴは、強い!! だから、再び俺が手に入れる!! 元々奴は俺が手に入れたんだ!! けどどうする? どうやって奴を……。

 ――そ、そうだ……!


「リ、リヴ!!」


 先程までの高圧的な態度は一変し、ラクトは下手に出るかのような態度でリヴの名を呼んだ。


「俺は、お前を信じていた!!」

「……あ?」


 唐突に意味の分からないことを言われたリヴは、ポカンと口を開ける。


「お前の力は停滞していた。だから俺は、あえてお前と契約を解除し、パーティーから追放することでお前を追い込んだんだ!! ほら……獅子は我が子を谷へ落とすと言うだろ!!」

「……」


 有体ありていに言って、ラクトはとてつもなく無様だった。自らがリヴの価値を見誤り、悪意を以て彼を捨てたにも関わらず、こうして擦り寄ろうとしているのだから。

 

「だから戻って来い!! 今度はちゃんとした食事も用意する!! お前を心から歓迎してやる!! 俺が、お前を導いてやる!!」


 どの口が言うのだろうかと思わずにはいられない戯言を吐き続けながら、ラクトはリヴに手を伸ばした。

 ラクトは必死だった。

 A+のグリフォンを倒したリヴと、何としても再び『奴隷契約』を結びたい。自分のメンツを回復したい。纏わりつく劣等感を払拭したい。


 ――彼の欲望はどこまでも自己中心的で、自己完結な欲望だった。


「はは、はははは!!」


 その言葉を聞いたリヴは、大声で笑う。


「ラクトさん。それは無理な話だぜ」

「ど、どうしてだ!? 不満があるなら言え!!」


 隠し切れない苛立ちを含んだ口調で、ラクトは言う。


「不満? ンなの決まってんだろ」


 リヴは息を吸い、そして……。


「むさ苦しい男のアンタにテイムされるより、美人のレヴィさんにテイムされる方が百万倍良いに決まってんだろうがよォ!!」

「……は?」


 何を、何を言っているんだコイツは……?


 理解不能なリヴの発言に、ラクトは面食らった。


「俺はよぉ、ラクトさん。今最高に『幸せ』なんだよ。それこそ、アンタの所にいた時とは比べモンにならねぇほどにな。この生活続けるためだったら……明日死んでも良いぜ」


 ――いや、嘘。レヴィさんと付き合うまでは死ねねぇ。


 リヴは内心でそう訂正した。


「……お前ぇ……!!」


 ラクトは鋭い眼光でリヴを睨み付ける。

 それに対し、リヴは笑って返した。



「お、おいおい何か良く分かんねぇけどリーヴって魔物が勝ったぞ……」

「つーか、結局アイツ何なんだよ……。腕とか生え変わってたぞ……。あんな魔物見たことねぇ……」


 試合が終わったことで、観客席に座る観客たちの中には改めてリヴのことを疑問視する者が増えてきていた。

 それに対し、ユーゴたち『グラディアス』の面々は、


「じょ、冗談でしょ……。あんな奴がグリフォンを……」

「信じられ、ません……! 何か、何かカラクリがあるはずです!!」

「そうだ!! でなければおかしい……!!」


 口々にそんなことを言っていた。

 ――その時である。


「おーおー、派手にやってんなぁ」

「全くです。流石にこればかりは看過できません」


 信じられないモノを目撃したように唖然としているユーゴたちの横を、二名の男女が通り過ぎた。



 ラクトにきびつを返し、リヴはレヴィさんの元に駆け寄った。


「レヴィさぁん!」

「リヴー!」


 子供のように笑うリヴに、レヴィは大人の包容力を以て彼を迎え入れる。


「俺やりましたよ!」

「うん、頑張ったね!」


 よしよし、とリヴの頭を撫でるレヴィ。


「次はいよいよ決勝っすね! 任せて下さい! 俺もう負ける気しないんで!」


 再生の力に応用がくと理解したリヴは得意げな表情でそう言った。


「うん! けどごめんね。決勝は多分出れない!」

「……へ?」


 満面の笑みで言うレヴィに、リヴはポカンと口を開ける。


「おいレヴィ」


 すると、突如としてレヴィの名を呼ぶ声が観客席から聞こえて来た。


「はは、やっぱり来たね」


 そう呟くレヴィ。それはまるで来るのを期待していたかのようである。レヴィの視線は、観客席にいる二人の男女に向いていた。


「っと」

「……」


 そして、二人の男女はリヴたちが立つ闘技場へと飛び降りた。


「やぁやぁ久しぶり二人共! 紹介するねリヴ。あっちの生意気そうな男がマルス、隣にいるクールで可愛い女の子がイクノ!」

「は、はぁ……」


 マルスとイクノという名の者たちを唐突に紹介されたリヴは、何と反応していいのか分からなかった。


「レヴィ。これは一体何の真似だ?」

「んー、何が?」

「とぼけるな。その魔物だ」


 マルスはリヴを指差した。


「レヴィさん。ここは人の目が多すぎます。ギルドへ行きましょう。その魔物も連れて」


 イクノがそう提案する。


「はーい。じゃあ行こうかリヴ」

「あ、うす」


 こうして、リヴは大会を途中で棄権し、レヴィとその知り合いたちと共にギルドへ向かうのだった。

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