第玖拾陸巻 気前が良い
第玖拾陸巻 気前が良い
現在、典人たちは冒険者ギルドの入り口の前に立っていた。
石造りの重厚な建物を前にして、典人はちょっと感動モノだ。
その瞳が、ウルウルというべきかキラキラというべきか、妙な輝きを帯びている。
それも仕方のないことであろう。
ライトノベルをはじめとするファンタジー小説上での話の主たる舞台の一つ、空想上の場所が、目の前に現実として存在しているのだ。
何処か、憧れといった場所に対峙して、心躍らないわけがなかった。
繰り返して言うが、 現在、典人たちは冒険者ギルドの入り口の前に立っている。
冒険者は複数人の集団で活動することが常なため、冒険者ギルドの前で典人たちが集団で屯していても、さほど目は引かないが、それでも10人は少し多めである。
加えて、女の子は皆美少女なのだ。
所謂『ハーレムパーティー』のように傍目からは見えている以上、すぐに目を引くことにはなるだろう。
この場での長居は無用であった。
「さっさと中に入りましょう」
「ええ」
『藤原千方』の『水鬼』である千水と『木霊』の麗紀が、冒険者ギルドに入るべく、一歩踏み出そうとする。
それを。
「Stop!」
『キュウモウ狸』のキキが、両手を広げて見なを止めた。
「コウイウ時ノオ約束ガ有リマース。ココハ私に任セテクダサーイ」
皆を制すると、キキは徐に皆より一歩扉の前へ立ち、静かにその大きな胸一杯に息を吸い込んだ。
「えっ? まさか!」
「それはちょっ!」
何か、不穏な空気に気が付いた『糸取り狢』の射鳥と『磯姫』の姫埜が、慌ててキキを止めようとするより早く、キキが声を発する。
「頼、モガ……」
間一髪。
咄嗟に『藤原千方』の『金鬼』である千金がキキの口を塞ぐことができた。
「やっぱり」
「やると思った」
「……心を読まなくても読めた」
『小豆洗い』の梓、『シバカキ』の遥、『覚』の慧理はお互いを見やり肩を竦め合う
「いいですかキキ、それは道場破りの際の決まり文句ですよ。冒険者登録をしに来た場所に、道場破りしてどうします」
「Oh! ソウデシタ。コレハ間違エマシタ。スマン、スマンデース!」
「決まり文句、なの、か?」
千金がキキを窘める言葉に、典人が困惑気味に呟く。
「じゃあ、作法」
「それも違う気が」
典人の肩越しから、ヒョイと顔を出す遥に、典人が苦笑いで返す。
「ほらほら、遊んでないで、さっさと中に入りましょう。目立ってしまいますよ」
「そうですね」
千金の言葉に、梓も同意の意を示す。
「では、改めて参りましょうか」
仕切り直しとばかりに、麗紀が声をかけ扉へと歩き始めた。
そして。
大きく重厚そうな気の扉を開けて、中へと入っていく。
冒険者ギルドの中はある程度予想通り広いホールが存在していた。
これも予想通り、入口の扉が開くと、それまでザワザワと談笑していた中にいた冒険者達が一瞬、喋るのをやめて静かになり、典人たちに視線が集まる
とはいえ、それは受付前のホールにいる連中だけであって、隣に併設している食堂のような場所からはそれなりに賑やかな声が聞こえてきた。
恐らくは酒場も兼ねているのだろう。
ホールにいる連中も大半は自分たちの話に戻っていったが、それでも流石は冒険者というべきか、油断なく値踏みするような視線はいくつも注がれていた。
中には女の子の顔を見て下卑た視線を向けてくるものも何人かいたが、それに気付かないはずもない。
特に慧理は言うまでもないが、千金と千水と射鳥もだ。
それに、意外に思うかもしれないが、キキは人の悪意にはかなり敏感であった。
基本全員が気が付かないふりをしているが。
それを抜きにしたとしても、典人たちが入口から受付カウンターに向かって歩いていく途中では周りからのヒソヒソ話す声が耳に届いてくるものだ。
「なんだありゃ、可愛い娘ばかりじゃねえか」
「来るところを間違えてるんじゃねえか? 娼館はあっちだぜ
「ヒュー、いいじゃねえか」
「まじめな話、依頼人の方じゃないのか?」
そんな冒険者達の声を背に典人が代表して受付のお姉さんに声をかけた。
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
それをにこやかな笑顔で出迎えてくれる受付のお姉さん。
見事な営業用スマイルである。
「ようこそ冒険者ギルド、クガンモンテ支部へ。冒険者登録は15歳以上からになります」
「オレは17歳です」
「そちらのお嬢さん方は? 15歳未満の子もいるように見受けられるのですが」
(あっ、まずい。射鳥や遥はどう見ても子供だよな。種族とかで誤魔化すか……)
などと典人が内心、冷やあせをかきながら頭をフル回転させて考えていると、脇から慧理が口を出してきた。
「……射鳥と遥と姫埜が15歳未満」
(おい、慧理。確かに七つの緒祝いの御札のひとつ、雲外鏡の万華鏡の能力で見た設定の年齢はそうだけど、それを馬鹿正直に言わなくても、見た目が幼く見えるだけって言っておけばいいんじゃないか?)
典人が慧理に小声で耳打ちした言葉に慧理は首を振って否定した。
(……この世界に年齢や正体を見破る魔法があるかもしれない。それなら下手な嘘は止めた方がいい。それに、後から登録する子たちの中でも、さきらや木の実はどう見ても無理)
(ああ、たしかに)
(それと門番の心を読んだ時分かったこと。子供は出入りにお金はかかっていない)
(なるほどね)
などと二人でやり取りしていると。
「そうですか。では残りの方々が登録ということでよろしいですね?」
「……それで構わない」
ということで、この世界での設定とやらに従って15歳以上となっている子たちが冒険者登録を行なうこととなった。




