第玖拾伍巻 気を取り直して、いざ、町へ!
第玖拾伍巻 気を取り直して、いざ、町へ!
典人が朝食を終え、砦の倉庫のあるあたりを歩いていると、木桶に柄杓で地面に水を撒いている娘たちを見つけた。
「朝から精が出るね」
「少し和らいできたとはいえ、まだまだ暑くなる時がありますからね」
『瓶長』の芽梨茶が柄杓で水を撒いていた手を止めて典人に応える。
「暑くなってから水を撒けばいいのに」
「それではあまり効果がないんですよ。できれば、暑くなる前の朝にやっておくと温度の上昇を少し抑えることが出来るんです」
ニコニコしながら、芽梨茶が丁寧に説明してくれた。
「昼にやってもいいのですけど、文字通り焼け石に水な状態で蒸し暑くなるだけの場合もありますしね」
『石妖』の清瀬が、その説明に続けて答える。
「あとは夕方になってから撒くのが、夜涼しくなって効果的ですかね」
『藤原千方』の『水鬼』である千水が更に付け加えた。
見事な流れである。
『立て板に水』とでも表するべきだろうか。
「なるほどね。打ち水にもコツみたいなものがあるんだね」
「そうですね」
芽梨茶は典人に穏やかに微笑みを返した。
「典人様はこれから町へ向かうんですよね」
片付けを始めながら清瀬が聞いてくる。
「うん、この前は間違えちゃったけどね」
「そんなことはありませんよ。いろいろと情報も得られましたし」
前回同行した千水がフォローを入れる。
「今回も千水さんは同行するんですよね」
「はい、清瀬さん。村との整合性を取るためにまずは前回のメンバーで町に行って、冒険者登録を行い、その後、村との友好を深めていこうということで」
「その後、みんなも入れ替わりで冒険者登録に町に行くことになるから準備しておいてね」
「「はい」」
◇
今回、典人に同行するメンバーは前回この世界の住人を探しに行ったメンバーである。
すなわち、『覚』の慧理、『糸取り狢』の射鳥、『キュウモウ狸』のキキ、『シバカキ』の遥、『木霊』の麗紀、『磯姫』の姫埜、『小豆洗い』の梓、『藤原千方』の『金鬼』である千金と『水鬼』である千水、そして、今回も典人の影に潜んで付き従う『隠形鬼』である千隠の10名であった。
今回は回り道をする必要性がなかったおかげで、2日ほどで町に付くことができた。
それでも山道の上り下りが多いためそれなりに苦労はする。
主に典人が。
いずれは近道を整備し、もっと時間を短縮できるようにと動き始めている。
町に入るにも村とは違い、出入り口に門兵がおり検問というチェックがあるにせよ既定の料金を払えば、よほど妖しくなければ誰でも入ることができた。
典人たちの格好が既に妖しいのではとも思うが、この地は魔物が出るバレリアス大森林に接しており、町には多くの冒険者も出入りしているため、そういった中には格好だけでなく種族も様々なため、さほど苦労せず通ることができた。
加えて、慧理の能力『悟り』により、門兵の考えを読み、適切な返答を返すことができたことと、何より一緒にいる女の子が全員美少女だったために、門兵も見とれて鼻の下を伸ばしていたというのも大きかっただろう。
ここでよく、お決まりのボディーチェックという門兵特権を使わなかったものだと思うが、そこは慧理がうまく誘導して回避するように仕向けていたようだ。
もっとも、これだけの美少女が揃っていれば、待ち時間も周りの列待ちの人々からの視線を集めていたのだが。
そして、町の出入りについて、いくつか得られた情報もある。
もとより、町の住民は出入りの通行料が不要であること。
住民になるには元々住んでいる者かこの地で生まれ育った者、ある程度の年数おり申請と金を払うことで住民となるからしいということ。
それ以外で早い方法はいずれかのギルドに所属し、そこの身分証明であるギルド証を手に入れることや貴族や大商家の紹介状を持っていることなどがあること。
ただ、殆どのギルドは入会するにもギルド証を手に入れるにも、それなりの期間や実績、入会料などの条件が必要となるので、住民になるよりは早いが多少の時間はかかる。
言わずもがな、紹介状に至ってはコネを作るまでが大変だ。
やはり、最も手っ取り早い方法は典人が考えていた通り、冒険者ギルドで冒険者登録をして冒険者になり冒険者証を得ることであること。
これはギルドの中でも大体のところが自己申告と入会金と少しの手続きだけでギルド証が手に入るからである。
そのほかにも列待ちの間で分かったことがある。
この国はセムニス王国という名の国であること
それから、この町はクガンモンテというらしいこと。
そして、典人たちが最初に訪れた村はクガカ村ということ。
そのほかにもあるが、それよりも……。
「ようこそ、クガンモンテへ」
ということで、典人たちは町に入って早速冒険者ギルドへと向かうのであった。
その途中、やはりこの世界にきて初めての町である。
典人は興奮であちらこちらとキョロキョロ眺めてしまう。
立ち並ぶ街並み、行き交う人々、賑やかな店や露店の声。
どれもが典人にとって、初めての体験である。
「御館様、町を見て回るのは冒険者登録を済ませてからにしましょうね」
千金がそんな典人に苦笑気味にいう。
「あっ、うん」
典人は自分の行動に少し照れたように後頭部を掻いた。
「まあ、気持ちは分かるけどね」
「しょうがないわね典人は」
「イエース! サンヤ……」
抑えているものの、射鳥や姫埜やキキもそれなりに浮かれているようであった。
しばらく歩いていくと、砦には及ばないが、なかなかに重厚な建物が見えてきた。
さあ、いよいよ典人たちの冒険者デビューである。




