第玖拾弐巻 秋高気爽 (しゅうこうきそう)
第玖拾弐巻 秋高気爽 (しゅうこうきそう)
典人が改装工事の様子を見学に行く途中、砦の正門前の路上パフォーマンスを見たり、厩舎の馬をみたりしながら道草を食っているその同じ頃。
砦の裏門の辺りではそれなりに大掛かりな作業が行われていた。
破壊されたり、焼け焦げたりした場所には、ブルーシート代わりの紺色の大きな布が何枚か貼られ、その痕跡を取り急ぎ覆い隠している。
地面の方はというと。
「砂羅さーん! こちらの方にも砂を降らしてください!」
「あっ、爽さん、はーい!」
「『火を貸せ 火を貸せ!』。千火お姉ちゃん、もう少し火力上げてもいいよ」
「分かったよ灯鞠。任せときな」
『砂ふらし』の砂羅は単独で、『火取り魔』の灯鞠はその能力を生かして 『藤原千方』の『火鬼』である千火と組み、右手で火を吸い取り、左手から砂を放出して、ここら辺一帯を砂で埋め尽くしていた。
血の跡や焼け焦げた跡の手っ取り早い証拠の隠蔽である。
「陽虎ちゃん、こっちは渦巻き紋で」
「はいよ陽泉。すいすいすーいっと」
「奉祈さん、こちらはこのようにお願いしますね」
「分かりました麗華さん」
そこを『禅釜尚』の陽泉の意見を参考に『画霊』の麗華が描いた図面に従い『虎隠良』の陽虎が熊手で砂紋を、『箒神』の奉祈が箒で箒目を、馴らしながら模様をつけていく。
所謂、『枯山水』である
枯山水は基本的には砂と石で表現するため、独特の造形美を作り出す。
「津渦波さん、嘉良波さん、その石はこのあたりに設置してください」
「はいはい清瀬ちゃん」
「分かった。フンフン♪ヒョウヒョウ♪」
見た目に似合わず、物凄い怪力の持ち主である『河童』の津渦波と『ガラッパ』の嘉良波が、とても女の子二人では、いや、大の男数人でも持てそうにない岩を難なく持ち上げて、『石妖』の清瀬の指示に従い運んでいる。
「この石はとても姿が良いですね」
『宗旦狐』の爽が配置された石を眺め感想を漏らす。
「わかりますか爽さん」
「ええ、何処となく、わびを感じさせられるものがありますね」
石を誉められた清瀬はほんのりと嬉しそうな表情を浮かべていた。
「壁も最終的には借景を考慮した壁にしたいですね」
『禅釜尚』の陽泉も楽しそうに加わってきた。
借景とはその場から離れた後方の部分の風景も借りてきて取り入れたように風景に織り込む手法の様式である。
ちょっと簡略化した解説で、一例をあげると、窓の外の風景、例えば富士山だったり、桜の木だったりを考慮して、室内の飾りつけや配置を行うやり方といったところだろうか。
「清瀬、住ミ心地ノイイ石モ欲シイ」
そこに『七歩蛇』の七帆が清瀬の袖を、チョンチョンと引っ張ってお願いしてくる。
「家、枯山水の石はそういうものでは……」
「ダネ?」
七帆のリクエストに今度は困った表情を浮かべる清瀬であった。
◇
こちらでは比較的被害が少なかったためと枯山水とのバランスをとるため、日本庭園風に作り変えが進んでいた。
このような枯山水が日本庭園の一部に取り入れられている様式は前期式と分類されていることが多いようで、比較的古い時代に取り入れられた様式とされる。
あくまで『日本庭園風』と称するのは、基本的に砂と石で表現する枯山水と違い、日本特有の植物を配置する日本庭園を造るには異世界の植物ではかなり無理が出るからだ。
それでもそれなりに見えるのは それぞれの妖の女の子たちが持つ能力の高さによるところが大きいだろう。
「できた」
「こんなもんだろう」
『化け蟹』のはにかが淡々と、『鎌鼬』の真截知が満足そうに、松っぽく整えた木を眺めている。
「何れ、もう少し見栄えの良い木を見付けてきて、こちらに移植したいですね」
『髪切り』の桐霞はちょっと物足りなさそうな感じをしている。
「この世界の植物でなら、上出来だろうよ」
「ええ、本当に」
通りかかった清瀬も感心したように言う。
しばらく、皆で松っぽい木を眺めていると、少し離れたところから声がした。
「おーい! 清瀬!」
見ればそこに、日本庭園側で『古籠火』の呼炉が石灯篭の上に座り、両手を振って清瀬を呼んでいる。
「どうかされましたか呼炉さん?」
清瀬がそちらへと歩いていく。
「清瀬。座り心地をもっとよくしたいから、この辺の角度をもう少し滑らかにしてくれないかなあ」
清瀬がやってくると、呼炉が、早速とばかりに清瀬に注文を付けている。
「呼炉さん、石灯籠は座るものじゃありませんよ」
「良いじゃん、折角作るんだし、使い勝手の良い物にしようよ」
「だ~か~ら、石灯籠はそういう使い方をするものではありません」
「清瀬は相変わらずお堅いんだから」
「これはお堅いという話ではないと思いますが」
「それじゃあさぁ、池の近くに雪見灯籠も作ろうよ」
「何が「それじゃあさぁ」かわかりませんが、秋めいてきたとはいえ、この世界に雪が降るかもわかりませんよ」
「良いじゃん、別に降らなくても、池の水面に灯りが映るだけでも風情があるし、いざ降らないのなら淡雪と雪良に頼めば良いんだしさ」
「勝手に決めないでほしいですわ」
「まあまあ、淡雪ちゃんいいじゃないですか」
「もう! 雪良ちゃんは」
「ええ、でもたぶん、典人も喜ぶよ」
呼炉がニヤニヤしながら言う。
「……しっ、仕方がないですわね」
「よっしゃぁー!」
やったりとばかりに呼炉が両手を挙げて喜んだ。
「クスクス、淡雪ちゃんたら」
「はあ、まだ作るとも言ってないのですが」
微笑ましいものを見る目で淡雪たちを眺める雪良の隣で清瀬が溜め息を付いていた。




