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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第参鬼 温鬼知新偏
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第玖拾壱巻 活気付ける?

第玖拾壱巻 活気(鬼)付ける?


「んっ、この音色は」

 典人(のりと)が、散歩(さんぽ)がてら改装工事(かいそうこうじ)の状況(じょうきょう)でも見に行こうと、砦(とりで)の建物から出て敷地内(しきちない)を歩いていると、何処(どこ)からともなく聞いたことのある音色(ねいろ)が耳に入ってきた。

 それは以前、『牢獄核(ろうごくかく)の間』で『琵琶牧々(びわぼくぼく)』の日和(ひより)が奏でていた琵琶(びわ)の音色(ねいろ)だった。

 よく聞けば、その音は正門の方から聞こえてくる。

 見に行こうと思っていた改装工事(かいそうこうじ)の現場は裏門(うらもん)の方だが、別に急いでいるわけでも無し、気分転換の散歩がてらだという事で、典人(のりと)は正門の方へ足を向けることにした。

 その音の方へと辿(たど)って歩いていくと、砦の正門付近から琵琶(びわ)を奏(かな)でている音が、一層大きくはっきりと聞こえるようになってくる。

 さらに音のする方向に典人(のりと)が歩いて行くと、何やら正門前のちょっとした広場に人だかりができていた。

「何やってるの?」

 典人(のりと)が手近にいた女の子に後ろから覗(のぞ)き込(こ)むように、声をかける。

「あっ、御館様(おやかたさま)、こちらへどうぞ」

 声をかけられた『藤原千方(ふじわらのちかた)』の『隠形鬼(おんぎょうき)』である千隠(ちがくれ)がいち早く典人(のりと)のために場所を空けてくれた。

「日和(ひより)ちゃんと美琴(みこと)ちゃんが、演奏会(えんそうかい)を開いてくれてるんですよ」

 千隠(ちがくれ)の空けてくれた場所に立つと、隣にいた『方相氏(ほうそうし)』の練(ねり)が教えてくれた。

 砦(とりで)の正門前はちょっとした広場になっており、路上パフォーマンスには確かにうってつけの場所である。

 そこに『琵琶牧々(びわぼくぼく)』の日和(ひより)と『琴古主(ことふるぬし)』の美琴(みこと)がそれぞれ、琵琶(びわ)と琴(こと)を配置してミニコンサートらしき催(もよお)しを行なっていたようだ。

「鬼族の間では日和(ひより)ちゃん、物凄(ものすご)い人気なんですよ」

 『橋姫(ハシヒメ)』の姫刃(ひめは)が教えてくれる。

「へえ」

 そういわれてギャラリーを見渡してみれば、周りには正門前のため、『牛頭馬頭』の司宇(しう)と真宇(まう)や『橋姫(ハシヒメ)』の姫刃(ひめは)をはじめ、『紅葉(もみじ)の鬼』の藻美慈(もみじ)、藤原千方(ふじわらのちかた)の四鬼(実は六鬼)の面々、『方相氏(ほうそうし)』の練(ねり)、『縊鬼(いつき)』の委築(いつき)など、他にもギャラリーはいるが、見事に鬼の系統の妖(あやかし)が多く揃(そろ)っていた。

「というか現代の時代に合わせて言うのならば、アイドル的な存在(そんざい)ですかね」

『藤原千方(ふじわらのちかた)』の『土鬼(どき)』である千土(ちづち)が説明してくれる。

「へえ、そんなに人気だったとは知らなかったよ」

 改(あらた)めて典人(のりと)が周りを見渡せば、確かに皆うっとりとした表情を浮かべ、日和(ひより)の演奏に聞き入っていた。

「お粗末様でした」

 一曲演奏を終えて、日和(ひより)が可愛らしくペコリとお辞儀(じぎ)をすると、聞いていた女の子たちから拍手(はくしゅ)が起(お)こる。

「はあ、日和(ひより)ちゃん。可愛い。もう、門に縛(しば)り上げて吊(つ)るしちゃいたいくらい愛(いと)しいわ」

『普段はキリッとした感じで仕事をしている委築(いつき)が、うっとりと陶酔(とうすい)した表情で呟(つぶや)く。

「その愛(いと)しさは、駄目な愛だろ!」

 典人(のりと)は委築(いつき)が隣で恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべながら口走った言葉を聞いて、思わず全力で突っ込みを入れていた。

 実際、過去の逸話(いつわ)には、ある琵琶(びわ)の名器の音色に魅了(みりょう)された鬼が、その琵琶(びわ)を盗(ぬす)み出し、朱雀門(すざくもん)に紐(ひも)で吊(つ)り下げたというものも残っている。

 そんな話は知る由(よし)もない典人(のりと)ではあったが、妙に不安に駆られて、片付けを始めていた美琴(みこと)に近寄(ちかよ)っていって話掛けた。

「美琴(みこと)ちゃん、しっかり見張ってて上げてね」

「ま~か~せ~て~く~だ~さ~いぃ~」

 相変わらずのおっとりとした口調で美琴(みこと)が請(う)け合う。

(こっちはこっちで不安だなあ)

「何をおっしゃいます典人様、よ~く想像してみてください。琵琶(日和)が縛(しば)り上げられて門に吊(つ)るされている姿(すがた)を」

 異様な熱(ねつ)の籠(こも)り方で持論(じろん)を語った後、委築(いつき)は琵琶(・・)が門に吊(つ)るされている光景を想像し再び恍惚(こうこつ)とした表情を浮(う)かべる。

 それにつられてか、典人も琵琶(日和)があられもない姿(すがた)に縛(しば)り上げられ門に吊(つ)るされている光景を妄想(もうそう)し、恍惚(こうこつ)とする。

「「いい」」

 二人の吐息交(といきま)じりの感想がピタリと重(かさ)なる。

 だが、二人の脳裏(のうり)に映(うつ)るのは、似(に)て非(ひ)なる光景であった。

(…緊縛(きんばく)で羞恥(しゅうち)で放置(ほうち)だなんて!)

「…ほう、緊縛(きんばく)で羞恥(しゅうち)で放置(ほうち)とは」

 『覚(さとり)』の慧理(さとり)がいつの間にやら典人(のりと)の隣まで来ていて典人(のりと)の心を読んでいた。

「なっ! 慧理(さとり)、おまっ!」

「緊縛で羞恥で放置だなんて!」

「御主人様、何て高度なプレイを!」

 それに反応した司宇(しう)と真宇(まう)がわたしたちもといわんばかりににじり寄(よ)ってくる。

「「一生憑(つ)いていきます!」」

「いや、オレが言ったわけじゃないから」

 言ってはいないが、妄想(もうそう)はしていた。

「ああ、また新しい扉を開いてしまいそうな!」

「開かんでいい!」

「御館様に閉ざす門は有りません」

「何の門だ!? 何の!?」

「「聞きたいですか?」」

(本当にこの二人に突っ込んだら負けなんだろうな)

「……突っ込んでも大丈夫だと思う」

「だから慧理(さとり)、そこまでにしておこうな」


   ◇


 ヒヒーン!


「あれっ? 馬の嘶(いなな)きのような声が聞こえた気がするけど?」

 典人(のりと)は砦(とりで)内から馬の嘶(いなな)きのような鳴き声が聞こえてきたことに疑問(ぎもん)を覚(おぼ)える。

 確かにここは砦(とりで)だけに馬の厩舎(きゅうしゃ)であろう場所があったのは見て回って知っていたし、砦(とりで)なら当然かとも思っていた。

 しかし、この砦には馬はいなかったはず。

 考えられるとすれば、 『馬魔(ぎば)』の瑠宇魔(るうま)が妖力で具現化して出現させる玉虫色の馬を見たことはあるが、この馬は瑠宇魔(るうま)が騎乗(きじょう)するとき以外は常時具現化していることはないので違うと思われる。

 典人(のりと)は興味(きょうみ)を引かれて、馬の嘶(いなな)く方へと足を運(はこ)んだ。

 ヒョイッと覗(のぞ)いてみた厩舎(きゅうしゃ)の中には、やはり確かに数頭の馬がおり、おいしそうに飼葉(かいば)を食(は)んでいた。

 その近くで馬たちが食べている様子を見つめている『豆狸(まめだぬき)』の瞑魔(めいま)の姿(すがた)があったので、典人(のりと)は近づきながら声をかける。

「どうしたの、この馬たちは?」

「ああ、森の開けた所に野生馬がいたんだよ。それを愛実(あみ)たちが捕まえてきてくれたんだ。今はこの厩(うまや)で世話してくれているよ」

 勿論(もちろん)、これは嘘(うそ)である。

 実際は砦(とりで)を襲撃(しゅうげき)してきた野盗『明烏(あけがらす)』のアジトを逆に藻美慈(もみじ)たちが奇襲(きしゅう)を掛(か)け、その際に手に入れてきたものであった。

 とは言え、野生かどうかなんて、典人(のりと)が見て見分けがつくわけもなく、この先、馬は必要になるわけだし、野盗関係については典人(のりと)には内緒にしておくことを皆で決めたので、一先(ひとま)ずは納得(なっとく)さえしてもらえる理由であれば何でもいいわけだった。

「へえ、この世界では野生種がいたんだ。地球じゃ、野生種はいなくなって、今確認されているのも大昔に飼われていた者が野生化したものだって、どっかで聞いたことがあったけど」

「そうなんですか? 知りませんでした。ご主人様は物知りなんですね。こちらの世界ではまだ存在するようですね」

 『七人みさき』の長女設定であるみさおが餌(えさ)の準備をしながら感心したように言う。

「それほどでもないけど」

 典人(のりと)が、みさおのその反応に照(て)れたように右手を頭の後ろにやり掻(か)き始める。

 そこへ丁度。

 『馬魔(ぎば)』の瑠宇魔(るうま)もやってきた。

「どれ、妾(わらわ)の目に叶(かな)う馬はおるかのう?」

 すると。


 ヒヒッーン!

 ブルルルルッ!


 途端に室内にいた馬たちが、興奮(こうふん)したように暴(あば)れ出した。

 いや、怯(おび)えだしたといった方が合っているだろうか。

「誰(だれ)か、急いで愛実(あみ)を呼(よ)んできておくれでないかい」

「わたし、行ってきます!」

 瞑魔(めいま)の声に、『ケセランパサラン』の世良(せら)が、返事するが早いか、即座に厩(うまや)から飛び出ていった。

 『鐙口(あぶみくち)』は昔、戦場(いくさば)に討(う)ち捨(す)てられた馬具が妖(あやかし)となったもので、ここでは一番馬の扱(あつか)いに長(た)けている娘(コ)である。

「連(つ)れてきたよ!」

 それからすぐに世良(せら)は愛実(あみ)を連(つ)れて戻(もど)ってきた。

 愛実(あみ)はすぐに馬たちを宥(なだ)め落ち着かせていく。

「どうどうどう。よしよし、いい子だね」

 その手際(てぎわ)は見事なものであった。

 ただ、馬たちは落ち着いてはいるものの、怯(おび)えた雰囲気(ふんいき)は消えておらず、何かから距離をとるように一か所に固まって典人(のりと)たちの方を向いている。

 いや、どちらかといえば、典人(のりと)たちの方を向いているというより、背中を見せないようにしているというのが正しいだろうか。

「突然(とつぜん)、どうしたんだ一体!?」

 いきなりの出来事に、典人(のりと)は困惑(こんわく)してしまう。

「あっ!」

 思い当たる節(ふし)があったのか、みさおがポンと手を打ち、小さな声を上げた。

 そして、瑠宇魔(るうま)の方を向き、ピッと指を突き刺して言う。

「瑠宇魔(るうま)さんは厩(うまや)への出入り禁止です」

「なんでじゃ!」

 以前も語(かた)ったが、もう一度語(かた)っておこう。

 『馬魔(ぎば)』は路上を歩いている馬を突如(とつじょ)として死に至らしめるという恐(おそ)ろしい魔性(ましょう)の風で、この風にさらされた馬は肛門(こうもん)が何か太い物を突(つ)き刺(さ)し込(こ)まれたようにポッカリと大きな穴を空けられているという。

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