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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第参鬼 温鬼知新偏
90/95

第玖拾巻 英気を養う

90 第玖拾巻 英()を養う


 典人のりとたちが、牢獄核ろうごくかくの結界のあった場所より外側、この世界の探索たんさくより帰還きかんしてから次の日。

 朝早くから砦内とりでないの一部の改装工事かいそうこうじおこなわれていて、少しさわがしい以外は典人のりとたちが探索たんさくの旅に出る以前と変わらぬ、いつもの日々が続いていた。

 そんないつもの朝食時。


 ムシャムシャハムハム


 大食堂の一廓いっかくではいつもとちがう、あるしゅ、お約束のような光景がり広げられていた。

 白い髪の色白の少女、『おしら様』の白葉しらはが、木製のボウルに、山のようにこんもりられた葉物類を、ただ只管ひたすら一心不乱に食べ続けているのである。

 その食欲はとどまるところを知らないように見えて、白葉しらはの食卓の周りには食べ終わったボウルの積み重なった山がいくつも出来上がっていた。

 それはもう大食い番組の出場者もかくやといった感じである。

 というか、こんなにたくさんの木製のボウル、いったい、いつ作ったのであろうか?

 答えとしては、『河童かっぱ』の津渦波つかはが妖力を使った能力の一つである『椀貸わんがふち』で具現化したものである。

 『椀貸わんがふち』とは、そのわれははっきりしないが、むかしつかほこら、池のふちに「膳椀ぜんわん○人前」と書いて投げんでおくと、翌日にはその数だけのおぜん茶碗ちゃわんが用意されているという伝承にそくしているようだ。

 ちなみに、典人のりとがこの異世界にばれてから、全員の食器がそろっていたのも、典人のりとが来たことにより『牢獄核ろうごくかく』が作動して妖力の回復かいふくし始めた津渦波つかはの『椀貸わんがふち』のおかげであった。


 ムシャムシャハムハム


「「はあ~!」」

 まわりの女の子たちも、呆然ぼうぜんとした様子で、その食べる姿をながめめている。

すごいですねぇ」

 心底しんそこ関心した様子で『葉天狗はてんぐ』の木埜葉このは溜息ためいきらす。

「そうですね」

 「七人みさき」の次女設定であるみさらも、思わずといった感じで相槌あいづちを打っている。


 ムシャムシャハムハム


 典人のりとも、そんな呆気あっけにとられている見物人の集団の中にいた。

「これはいったい?」

 突如とつじょ典人のりとは腕を組んで考えみ始める。

 しばらくして。

「まさか! 妖力がりてないのか!?」

 思い当たるふし辿たどり着いたのか、ふと、典人のりとが心配な表情をかべる。

 以前の食事時、『オボノヤス』の夜簾補やすほから、食事はらなくても妖力でおぎなえるが、食べることによって、妖力の節約せつやくになるというようなことを聞いていたからだが、他の女の子たちはいつもと変わりない様子で、白葉しらはだけがこのような状態じょうたいである。

「なあ、白葉しらはちゃん。何処か調子が悪いんじゃないのか?」


 ムシャムシャハム


 心配して話しかけた典人のりと白葉しらははしばし食べる手を止めてキョトンとした表情を典人のりとに向ける。

くわの葉じゃないのが、ちょっとね……へっ? 何で? いつもと変わらないよ」

「でも、今までそんな大食いキャラじゃなかっただろ?」

 そう言われ白葉しらはは自分の食卓しょくたくの上のボウルの山を見渡みわたし、合点がてんがいったという様子で、大きく一つうなづいてから、典人のりとふたたび見た。

「ああ、これですか。ちょっと事情がありまして」

「事情って?」

「それは乙女おとめのヒ・ミ・ツということです」

「なんだよそれは?」

「まあ、後日分かりますよ。あっ、麗紀れいきさん、お代わりお願いします! どんどん持ってきちゃって下さい」

 そういうと、またムシャムシャと葉物類を食べ始める白羽しらは

「はーい」

 白葉しらはの声に厨房ちゅうぼうの方から『木霊こだま』の麗紀れいきのおっとりとした返事の声が返ってきた。


 ムシャムシャハムハム


かく、調子が悪いわけじゃないんだな」

「ほれはほひょうひまふ(それは保証ほしょうします)」

 リスのように、両頬一杯りょうほほいっぱいに葉物を頬張ほおばりながら白葉しらはこたえる。

「口の中のものを食べ終えてから言え!」

 お行儀ぎょうぎが悪いから、良い子のみんな真似まねしないようにね。

 そんなやり取りをしていると、しばらくして

「ヘーイ、白葉シラハ、オ待チドウサマデース」

 両手に一つずつ持ったボウルにこんもりと山盛やまもりの葉物類を乗せて『キュウモウ狸』のキキが、何とも楽しそうにおどるような足取りで厨房ちゅうぼうからやってきた。

 というか、実際じっさいおどりながらやってきたのだが、器用なことに、ボウルにこんもり盛られた葉物はまったく落としてはいない。

「はりはトウ、キキはん、ムシャムシャハムハム」

 食べる手を止めないまま、お礼を言ってボウルをけ取る白葉しらは

 そして。


 ムシャムシャハムハム


 典人のりとになんだか意味ありげな言い方をしたまま、ふたたび一心不乱に食べ続ける白葉しらはであった。


 ムシャムシャハムハム


   ◇


 典人のりと改装工事かいそうこうじをしているという裏門へ、見学しに行こうと廊下ろうかを歩いていた。

 すると、前方を見れば、廊下ろうかの向こうから『紅葉もみじ』の藻美慈もみじがこちらに向かって歩いてきているのが見て取れた。

藻美慈もみじさん」

 典人のりとは少しはなれた所から手をって藻美慈もみじびかける。

主様あるじさま御機嫌ごきげんよう」

 品のある歩き方で典人のりと近寄ちかよ挨拶あいさつする藻美慈もみじ

 その少しあと。

 廊下ろうかの向こうから、何やら動物らしき物体が典人のりとたちのほうに向かって歩いてくるのが見えた。

「えっ、おおかみ! なんでこんな所に!?」

「ああ、妙羅たえらさんが具現化しているおおかみですね。何でも、改装工事かいそうこうじのための資材をはこぶのに使っているそうで。妙羅たえらさんいわく「人海戦術じんかいせんじゅつ」ならぬ「狼海戦術ろうかいせんじゃつ」だそうですよ」

 藻美慈もみじはクスクスと上品に笑いながら典人のりとに説明する。

 典人は一瞬、少し身構みがまえたが、藻美慈もみじの説明と自分も見覚えがあることに思い立ち緊張きんちょういた

 少し前、『木の子』のが行方不明になったさい典人のりとさがしにいって、この世界の生き物であるひつじおおかみを合わせたような生物におそわれた時、それを助けてくれたのが、かれら『妙多羅天女みょうたらてんにょ』の妙羅たえら具現化ぐげんかしたおおかみたちだった。

 ちなみに、後で典人のりとたちは知ることになるのだが、このひつじおおかみを合わせたような生き物、この世界でいうところの魔物で名を羊の皮を被った狼(シープルフ)という。

 狼は典人のりと藻美慈もみじのことを気にした様子もなく、二人の前をスタスタという足音と共にけていく。

 そのさいおおかみの首に何かがき付けてあるのが見て取れた。

 おそらくはその中に資材が入っているのだろう。

 藻美慈もみじわかれ、また石造いしづくりの廊下ろうかを歩いていると、また狼とすれちがう。


 スタスタスタ


 それからしばらくして、もう一匹、典人のりとわきを走りけていく。


 スタスタスタ


 さらにもう一匹。


 スタスタスタ


 典人のりとはその場で立ち止まる。

 ……。

おおかみが1ぴきおおかみが2ひきおおかみが3びきおおかみが4ひきおおかみが……」

 典人のりとまぶたが段々と下がっていき、ボーッとしてくる。

 そこに。

主様あるじさま御機嫌ごきげんよう」

「ああ、藻美慈もみじさん、ご機嫌ごきげんよう」

 藻美慈もみじがすれ違いざまに挨拶あいさつをしてきたので、典人のりとのボーーッとしたままそれにこたえる。

 そのまま藻美慈もみじ廊下ろうかの向こうへと姿すがたを消していった。


 スタスタスタ


おおかみが38……あれっ?」

 さっきちがったはずの藻美慈もみじと、またちがったような気がして、はたとわれに返る典人のりと

 そこに『コサメ小女郎(こじょろう)』の小雨こさめがやってきた。

「どうかされましたか主様ぬしさま?」

「いやさぁ、おおかみかぞえててボーッとしてたんだけど、さっき一度()ちがったはずの藻美慈もみじさんが、また同じ方向から通り過ぎたような気がしたんだよ」

おおかみかぞええ? ……べっ、別の子では?」

「そうかなぁ?」

「きっと、見間違みまちがえですよ。」

 そのあと小声で文句を言う。

「何やってるのよ藻美慈もみじは。作法さほう完璧かんぺきなのに、こういうところざつなんだから、もう」

「何か言った小雨こさめさん?」

「いっ、いえ、何も。あっ、そうです主様ぬしさま! 

 小雨こさめは思わずつぶやいて出てしまった言葉に、あわてて取りつくろった態度たいどをとる。

「そうですか。日本で歩き旅をなされていたとはいえ、このれない地での長旅でしたし、きっと、疲れがまっているのでしょう! もう少し、ゆっくり休まれては如何いかがですか?」

 妙案みょうあんとばかりに両手を合わせて明るい声を出す小雨こさめ

「うーん、そう思って、ちょっと散歩さんぽしてこようかなと思ってるんだ」

「それがようございます主様ぬしさま

 ちょっとわざとらしい微笑みを浮かべる小雨こさめ


 スタスタスタ


 その間も、おおかみたちは丹丹(たんたん)と荷物を運ぶために典人のりと小雨こさめの前を走り抜けていくのだった。


 スタスタスタ

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