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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
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第捌拾漆巻 辛気くさい

第捌拾漆巻 辛()くさい


 野盗『明烏あけがらす』の襲撃しゅうげき撃退げきたい……・撃滅げきめつして以降、とりでの女の子たちは後片付けに追われることになった。

 典人のりとたちが帰還きかんする前に、陰惨いんさんな現場の痕跡こんせきを全て完全に消しておかなければならない。

 証拠隠滅しょうこいんめつとも言う。

 まずはこの世界の情報を得るために、わずかに生かして捕まえた連中の対処だ。

「生きたまま捉えた連中はどうするの?」

 『ヤンボシ』の夜星やほしが壁にもたれながら訪ねた。

勿論もちろん、この世界の情報をかせていただきますよ。慧理さとりさんがいれば楽だったんですけど、典人のりと様のサポートについて行かれましたし、尋問は、そうですねえ……愛刃まなはさんと薙夢ちむさん、あと委築いつきさんにお任せしましょうか」

 『すずりの精』の鈴璃すずりほほに手を当てながら考える。

「分かりました」

「分かった」

 『なまはげ』の愛刃まなはと『むち』の薙夢ちむ了承りょうしょうの意を返す。

鈴璃すずりさん、亜鳥あとりさんもさそっていいですか?」

 『縊鬼いつき』の委築いつきが少し考えてから鈴璃すずりに提案する。

「構いませんよ」

「はいはーい、わたしも手伝います!」

 そこに『清姫きよひめ』の祈世女きよめが元気よく手を上げた。

祈世女きよめさん貴女、ごう……尋問するより先に焼き殺しちゃうでしょ。まずは一応、情報収集をしておかないと。まねかれざるお客様とはいえ、折角のこの世界の住人なのですから」

 鈴璃すずりから、あんにダメ出しされる。

「ええぇ~」

「まあまあ、焼却処分しょうきゃくしょぶんは後でたのみますので、機嫌を直してください」

 『箒神ほうきがみ』の奉祈ほうきが、不満げな顔をしている祈世女きよめなだめに入った。

奉祈ほうき、せめて火葬かそうと言おうよ」

 それに、夜星やほしが突っ込みを入れていた。



「さーて、これ、どうしたもんかねえ」

 とりでの裏門側では、腕組うでぐみしたまま、『豆狸まめだぬき』の瞑魔めいまが裏門の惨状さんじょうながめながら考え込んでいた。

 裏門は大きく破壊され、少し離れた所でも建物やかべが、燃えたり破壊されたりで思ったよりも被害が出ている。

魔埜亜まのあちゃん、思いっきり男に蹴りを入れて壁に叩き込んで破壊してたよね」

 そう言いながら『馬の足』の魔埜亜まのあほほをツンツンとつつく『槍毛長やりけちょう』の陽槍ようそう

「正門の方をはじめとする大半の所は大した被害ひがいもないし、死体の処理だけで済みそうだけど、こっちはねえ」

「とにかく、典人のりとさまに見せる訳にはいきませんから、何とかごまかしませんと」

 『石妖せきよう』の清瀬きよせ瞑魔めいまとなりで同じく思案している。

「いっその事、和風庭園にでも作り変えるかい?」

 『虎隠良こいんりょう』の陽虎ようこかた熊手くまでかつぎながら言う。

枯山水かれさんすいなら任せておきなよ」

「それいい! やろうやろう!」

 魔埜亜まのあが勢いよく賛成する。

 周りを見渡せば、他の子も異論はないようだ。

「んじゃ、石の見立ては清瀬きよせまかせることにしようかねえ」

「ええ、任せてくださいな」

「あと、目隠し代わりのブルーシートの代用に、大きな青い反物たんもの絹姫きぬひめ千尋ちひろにたくさん用意してもらわないと」


   ◇


「どうやら野盗の連中にじって、『帝国』とかいう所の連中が、『王国』への侵攻の橋頭堡きょうとうほを探していたみたいね」

 『絡新婦じょろうぐも』の紫雲しうんが今現在、砦外とりでがいやそのほかの場所から得ている情報を開示する。

 くわしいことは現在、生かして捉えた連中からごう……尋問じんもんしている最中なので後日、より正確な情報が出ることになるだろうが、一先ひとまずのこの場での判断材料として提示ていじすることにした。

「つまりこの森の周りには少なくとも帝国と王国があるということだね」

「そうなるかしらね」

 『算盤小僧そろばんこぞう、実は算盤小娘そろばんこむすめ』の珠奇たまきの言葉に紫雲しうんと返す。

「でもさあ、それじゃあ、全員殺してしまってよかったの? それとも全員殺してしまったのは失敗だった? 今尋問中の人間だけでも生かして返す?」

 優柔不断ゆうじゅうふだんな性格のせいか、何処どことなくオロオロとした態度で『七人みさき』の三女設定であるみささが効いてくる。

「今回は最初から一人も返すつもりがなかったからこれでいいよ」

 その様子に珠奇たまきがニッコリと答えて見せた。

「それに、橋頭堡きょうとうほを探していると言っても、たまたま野盗が結界の亡くなったこの砦を真っ先に見つけただけの様ですし」

 言葉の後を『宗旦狐そうたんぎつね』のそうが補足する。

「じゃあ、『帝国』とやらには知られていないと」

「どうでしょうか? ここを新しいアジトにしようとしていた野盗達の間では知られていますし」

「えっ? 全滅させたじゃん」

「いいえ、藻美慈もみじさんの経験上、どうやら、元のアジトにこの砦を占拠後物資を運んで来るための人員と見張りの人員が残っている様です」

「それじゃあ、まだ」

 みささが不安げな表情を見せた。

「その件なら大丈夫。砦の戦況から判断して、前倒しで、藻美慈もみじが別動隊で野盗のアジトに強襲して、さっき戻ってきたから。そのうち顔を出すんじゃないかな……言ってる傍から来たみたいだね」

「ただいま戻りました。制圧はとどこおりなく」

「そう。お疲れ様」

 『紅葉もみじ』の藻美慈もみじの報告に珠奇たまきねぎらいの言葉をかける。

「お土産が結構あるのですけど、どういたしましょうか」

「ひと? 捕虜? それとも捕まってた人たち?」

「いえ、野盗は全滅させました。捕まっているかと思っていた女性は新しい女……つまりは私たちのことですね。が、手に入る目算で、売り飛ばしていたみたいでいませんでした。持ち帰ったのは金品と食料、それと馬が十数頭ほどですね」

 藻美慈もみじの追加の報告に珠奇たまきが思案を始める。

典人のりとには金品は砦内に隠し財産があったとでも言えば、まあ、ごまかせるか。問題は馬だね」

「野生種を捕まえたという事にすればいいんじゃないかな。羊のような狼も存在していたわけだし」

 藻美慈もみじと共に野盗のアジトを強襲して戻ってきた『二口女(ふたくちおんな)』の双葉ふたばが、藻美慈もみじの後ろからひょっこり現れて提案する。

「まあ、それが無難かな」


   ◇


 野盗『明烏あけがらす来襲らいしゅうから数日後。

「ここで一旦状況整理をしておこうか」

 珠奇たまきが口を開いた。

 この世界から見れば、突然現れた異物でしかない自分たちが、自分たちの居場所を確保するための指標とするべく、今回の事におよんだ。

「今のところ、雑魚ざこなら一人で10人程度は余裕がありそうね」

 『コサメ小女郎こじょろう』の小雨こさめが感想を述べる。

「楽に倒したようにみえますけれど、さくろうしてとりでに引き込んだうえ、尚且なおかつ、わたしたちはさきらちゃんの『家内繁栄かないはんえい』の能力下にありましたからね」

「まあね。実際はこちらも十分に準備して迎え撃ったからね」

 鈴璃すずりの見解を珠奇たまき肯定こうていする。

 『座敷童ざしきわらし』のさきらが使っていたという『家内繁栄かないはんえい』は『()の敷地内にいる身内の基礎能力値を上昇させる』という見た目には分かり難いが極めて重要で効果的なものだった。加えて、さきらは砦内のある程度の状況は把握することが出来るようで、今回のような防衛戦の場合、大変有用な能力となる。

「まあ、これでそれなりにこの世界の人間の強さを計る試金石にはなったかな。さすがに大将格は一対一だとかなり苦戦するみたいだね」

「それで、今の状態での戦力分析としてはこちらが万全の態勢だったとしての話ですけど、雑兵ぞうひょうなら一人で10人程度、少し腕の有る者なら4~5人程度、かなり腕の立つ物なら一対一で何とか、更に腕が合ってスキルや魔法、特殊な武具といった物がある場合は限界ギリギリか、3人くらいでといったところでしょうかね」

「ただ、この世界には人間の中にも、昔のボク等の世界の人間と同じようなボクたち怪異かいいあやかしが使えるような『能力』に似た『スキル』というものがあるみたいだから、一概いちがいにはいえないけれども」

 鈴璃すずり総括そうかつしたものに珠奇たまきが付け足しをする。

「そう考えますと、今の状態では有力者や国に目を付けられるのは得策ではないですね。わたしたちも力や技量、能力の熟練度などというものを上げていきませんと」

 はあっとめ息をつきながら『七人みさき』の長女設定であるみさおがべる。

「無双は無理なのおを」

「たしかに」

 少しお茶ら桁『衣蛸ころもだこ』のこころの言いように、『一本だたら』のいほらが真面目な表情で応じる。

「いほらも手こずってたみたいだけど、苦戦というほどでもなかったじゃんか」

 いほらのそのいいように『鎌鼬かまいたち』の真截知またちが首をかしげる。

「いや、そうでもない。あの中のおさの男を見て、自分の半身とも言うべき神刀かみかたな天目一あめのまひとつを出さざるを得ないと判断した。結果、着物や義足はあの有様だ。妖力も天目一あめのまひとつの具現化で大分使ってしまったからな。しばらくは具現化できない」

 いほらは義足は予備の物を装着し、着物は『機尋はたひろ』の千尋ちひろたちにつくろってもらっている。

 その間、しぶしぶであるが、皆に支給されている若草色のメイド服を着ている。

「いほら、あんた涼しい顔をして、何無茶やってんのさ」

「空いても手加減抜きで来たからな。本調子には遠いが、礼は失せまいよ」

「はあ、堅物かたぶつめ」

 呆れ混じりに真截知またちが言う。

「ここにもいたか、平然とした顔で無茶するヤツが」

 自分も人の事は言えないと言われたばかりの珠奇たまきが、苦い表情を作る。

いずれにしても今のままではこの世界の野盗風情を相手にするのが精々といったところでしょうか」

 そう、鈴璃すずりがいうと、皆この先に起こりうるかもしれない困難こんなんな状況をおもんばかって、真剣な面持ちになる。

 鈴璃すずりたちは気づいていない。

 野盗風情ではあったが、明烏あけがらすがかなり大規模な野盗の集団であったという事を。

「もっと、力をつけませんと、一国の兵がめてきたら、今のままではひとたまりもないですね」

「そうだね。この砦に近い国は3国。それぞれ国名はセムニス王国、トラウゼン帝国、バーレタリア公国というらしい」

 みさおの言葉にうなづきながら珠奇たまきが、ごう……尋問じんもんで得た情報を開示する。

「じゃあ、一番近いのはセムニス王国ってことになるね」

いくさを舐めない方がいい。野盗に毛の生えた程度ならまだしも手練れの軍が数を揃えて来られたら、太刀打ちするのは難しくなる」

 真截知またち何処どこか好戦的な言い様に、『藤原千方ふじわらのちかた』の『土鬼どき』である千土ちづちが真面目な顔で、苦言をていする。

「今回は野盗風情で運が良かっただけってことだね」

 同じく『火鬼かき』である千火ちかもいつもの陽気さがなく言う。

「多勢に無勢」

「それは経験からかしら?」

「ああ、苦い(・・)経験からだね」

 小雨こさめの問いに、本当に苦そうな経験を思い出しているように千火ちかが語った。

 しばらく、室内に重い沈黙ちんもくの空気が流れる。

おそらくは自分たちの成長には典人のりとの成長が関係してくると思う」

 その思い空気を破ったのはいほらだった。

 これには皆がうなづく。

「たぶんね」

「戦いの後で、まだ高ぶっているのもわかるけど、まだ戦を行なうとは決まっていないからね。典人のりとの考え次第だよ。だから恐らくは平和的にかかわっていこうとすると思うけどね

 珠奇たまきがべつの方向性をしめす。

「そっ、そうですね」

 『絹狸きぬたぬき』の絹姫きぬひめが、それに同意する。

「みんな妖力の節約でかなりストレスが溜まっていたみたいだね。ここぞとばかりに、妖力を使って得意の能力を使ってたも結構いたみたいだし」

 その言葉に室内にいた何人かの女の子が恥ずかしがるように赤くなる。

 そこからはとりとめのない雑談があちこちで始まっていく。

 女の子たちが会議室で盛り上がっている途中、『コボッチ』の千補ちほが会議室に駆け込んできた。

典人のりとさまたちが帰ってきたよ!」

 その報告に、皆が喜色の声を上げる。

「では、皆でお出迎でむかえの準備をいたしましょうか」

『『は~い!』』

 鈴璃すずりの言葉に、皆が一斉に席を立った。

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