第捌拾陸巻 同気相求 (どうきそうきゅう)
第捌拾陸巻 同気相求 (どうきそうきゅう)
典人たちが村を見つけ、その村の代表者らしき者と交渉し、一夜の寝床を借りた翌日。
ちなみに村の名前はトールフ村というらしい。
『小豆洗い』の梓をはじめとする女の子たちが、異国の者に良くしてもらったという口実で、お礼と称して、朝から料理を手伝っていた。
『シバカキ』の遥が森に入り鳥や小動物を仕留めてきたり、『木霊』の麗紀や『キュウモウ狸』のキキが好みや野草、キノコなどをあっさり見つけてきたりしてかなり大漁となった。
ちなみに、密かに『藤原千方』の『隠形鬼』である千隠も獲物をしとめ、典人や他のトールフ村の者には気づかれないように、『金鬼』である千金や『水鬼』である千水にこっそりと渡していた。
そこは昔からの阿吽の呼吸というやつであろう。
朝からこの村ではなかなかお目にかかれないほどのちょっとした豪華な食事が出来上がる。
そのおかげか、村の人たちも大分軟化してくれたようで、子どもたちなどは周りに寄ってきて、物珍しい異国の装いに喜んでいた。
「お姉ちゃんたち、みんなきれい!」
「服が変わっているけど、素敵」
子どもたち特有の無邪気な笑顔を浮かべているのは良いのだが、やはり栄養価が足りていないのだろうか、どの子もかなり痩せていた。
典人はどうにもそのことが気にかかって仕方がなく、どこか心に引っ掛かったままでいる。
(今日の朝食が少しでも足しになると良いんだけど)
そうして朝食を終えてから、町へ向かうとトールフの村の人達には告げて、村を立つ準備を始めた。
実際は途中で森の中、ヴァレシアス大森林に入り、砦に戻るのだが。
「短い間でしたがお世話になりました」
「あんたたちなら、また歓迎するよ」
灰色の髪をしたトールフ村のリーダーらしき男フィリップが、大分気を許してくれたらしく、昨日とは違い、穏やかな口調で見送りの言葉を述べる。
「マタ、来ル時ハ鳥、取ッテキマスネェ」
「これは見透かされているな。一本取られたよ」
笑いが起こり、何とも和やかな雰囲気の中、典人たち一行は送り出された。
◇
典人たちが遠くになり、その姿が小さくなっていくと、子どもたちが手を振りながら追いかけ始める。
出遅れた一人の小さな女の子が、みんなに追い付こうと一生懸命走り出す。
「あ!」
そこで石に躓いたらしく、前につんのめった。
「きゃっ!」
地面にぶつかる瞬間。
「おっと」
誰かの腕に支えられ難を逃れる。
「大丈夫?」
「うん、有難う……お姉ちゃん、だれ?」
女の子が振り向きお礼を言った後、先ほどの人達の中にはいなかったと思う、だけど、何処か雰囲気は似ている女の人を見て疑問を口にする。
『隠形鬼』の千隠であるのだが。
「私? 私はあの人たちの仲間だよ」
そう言って、典人たちの方を指さす。
女の子はその行動に誘われ、典人たちが歩いていった方を見る。
「ふ~ん、そうなんだ!」
次に、女の子が振り向いた時には助けてくれた女の人はいなくなっていた。
「あれ???」
◇
少し時は遡り。
砦内のある会議室の中。
襲撃してきた野盗の集団を殲滅してから、一夜明け。
「天音は?」
『血塊』の覇里亜と共に、牢獄核の入り口を護っていた『画霊』の麗華の報告を聞いていた『算盤小僧、実は算盤小娘』の珠奇が、入ってきた『センポクカンポク』の餞保に尋ねる。
ちなみに覇里亜は念のために、まだ牢獄核の入り口を護っていたりする。
「大丈夫です。疲労で眠っているだけですから。けがは大したことないですし、薬を塗っておきましたから。今は先に目を覚ました木埜葉ちゃんの看病で自室で安静にさせてもらっていますよ」
「木埜葉ちゃんが看病って! 木埜葉ちゃんも酷い怪我をしてたそうじゃないですか!?」
珠奇の傍にいた『禅釜尚』の陽泉が驚いたように目を見張り言う。
確かに、怪我の度合だけなら、木埜葉の方がよっぽど重症の部類に入る。
「本人が看病すると聞かないもので。一応、治療もしましたし、お目付け役に冶架さんたちが付いていますから大丈夫でしょう」
苦笑をしつつ餞保が陽泉に答える。
「ほかに怪我をした者は?」
「いほらさんが切り傷を負っていたみたいですけど、一緒にいたのが真截知さんでしたので、その場で血止めをしてくれたおかげで、大事には至っていません。後は、わたしの薬を塗っておきましたので、切り傷ならすぐに治ると思います。ただ、着物が血で汚れていたようで、それを見た月世ちゃんが大騒ぎして、無理やり脱がされていましたけど」
再び餞保が苦笑する。
「そう」
珠奇も軽く微笑み短く答えると、餞保に席をすすめた。
「餞保さんどうぞ」
すかさず『宗旦狐』の爽が横合いからお茶とお茶請けを差し出す。
「ありがとうございます爽さん」
「いえ」
餞保は爽からお茶を受け取ると、一口飲んで息をつく。
「それにしても、まさか、今の状態の妖力で猛気を纏って戦おうとするとは……」
麗華が独り言のように言う。
「あの娘は典人様に対しての贖罪の気持ちが強いですからね。自分の身をを削ってでも典人様のためになると考えを決めたのなら、無茶も平気で行なうでしょうね」
『角盥漱』の湖真知が静かにその問いに答えた。
「わかるのですか?」
「ええ、痛いほどに」
爽の問いに、湖真知は静かに頷く。
『角盥漱』は小野小町をその由来に持つ妖であるが故、情の機微には敏感である。
当の本人の小野小町は誰に靡くこともなく、生涯独身を貫き通したため、「穴のない女」と噂されたとも伝えられているが。
「病んデレなのお」
『ガラッパ』の嘉良波に脱がされてから、新しい衣装に着替えて会議室に来ていた『衣蛸』のこころが、お茶請けのおせんべいをポリポリ食べながら言う。
「私たちは多かれ少なかれ皆そうでしょ」
こころと一緒に来ていた『コサメ小女郎』の小雨がお茶を飲みながら答える。
「何にしろ、あの技はしばらくは使えないだろうね。妖力もそうだけど、身体にも相当な負担が掛かったはずだからね」
珠奇が冷静に分析した。
「野盗の連中は根絶やしにしましたし、しばらくは平穏が続くのですから、そのような事態にはならないのではないかと」
『古椿の霊』の小椿が予想を述べる。
「だと良いのだけれども」
「やれやれ、天音さんや千金さんなどは「一筋縄ではいかない子たちですからね」
『縊鬼』の委築が肩を竦めて言う。
「委築さんも人の事は言えないでしょ」
小雨がすかさず突っ込む。
「皆、多かれ少なかれ典人に執着しているからね」
「珠奇さん、珠奇さんも冷静に分析しているように言ってますけど、珠奇さんだって、典人様の妖力補充能力検証の一件ではかなり無茶しているじゃないですか」
こちらは『禅釜尚』の陽泉が穏やかな口調で指摘する。
「さて、後は砦の修復やら後片付けやらなんだけど、典人に気付かれないようにしないといけないね」
「「了解!」」
今更な話。
魑魅魍魎の妖であるから当然といえば当然なのではあるが。
100名全員が筋金入りの闇&病んデレ属性である。




