第捌拾伍巻 気もそぞろ
第捌拾伍巻 気もそぞろ
典人たちがこの世界で初めてこの世界の住民に遭遇して、それから初めての村にたどり着いた。
基本的に見た目も背格好もそこまで大きな違いがあるようではなく、典人からすれば「外国の人」で収まる範疇であった。
内心ホッとしている典人。
異世界に来て、全く容姿の異なる生物がいきなり話しかけてきたらどうしようかと思っていたので、そこは安堵したが、そういった生物も存在する可能性はまだ捨てきれないと思ってもいる。
なにせ、自分たちの中にも、この世界での呼ばれ方が『猫人族』だとか『魔人族』だとかになっている者もいるのだから。
一先ず交渉の末、一夜の宿を確保することが出来た典人たちは各々旅の疲れを取るためリラックスしていた。
そんな少し落ち着いた中、典人は、村に入った時に少しだけ見かけた子どもたちのことが気になり、考え込んでいた。
あまり栄養価が良くないのか、皆痩せているように思えた。
痩せているのは子どもたちばかりではなく、大人も同じような感じに見えた。
典人にしてみれば、元の世界でテレビやインターネットで貧困に悩む国の映像を見たことはあったけど、それは画面越しのことでいまいち実感のないことに思えたのだ。
だが、この世界で、実際に目の当たりにしてしまうと、何とも言えず身につまされる気持ちになる。
(ただ、たまたまこの村に来ただけだけど、何とかしてあげたいよな。一応、これからご近所さん? になるわけだしさ)
そんな風に考え込んでいる典人の脳裏にあるものが浮かんできた。
「……あれっ? ……??」
典人は首を傾げる。
「どうかされましたか御主人様?」
典人の雰囲気が変わったことに気付いた『木霊』の麗紀が典人に尋ねる。
「いや、良く分からないんだけど、レベル……『青行燈の呼び声』の蝋燭の炎の5本目が寝て起きたら、何いつ間にか消えてた……? それどころか6本目と7本目も消えてるんだ」
「今までは上がった時は一応上がった感覚がしてたんだけどな。気付かなかったのかな? そんなに疲れていたとは自分では思わないんだけど」
その言葉を聞いて、周りの女の子たちは皆、大体の見当を付けていた。
恐らくは、典人が冒険者に成りすました野盗のゼフト達に眠り薬を盛られ眠っている間に、砦の方でもいろいろと終わっていたため気付くことが出来なかったのだろう。
そんなことを知る由もない典人は首をひねるばかりである。
「それはようございました」
「おめでとうございます」
だが、何が起こったか、大よその見当が付いた『藤原千方』の『金鬼』である千金と『水鬼』である千水は口々にお祝いの言葉を述べる。
他の者も口々にお祝いの言葉をくれた。
そりゃあもう、わざとらしいくらいに。
「でも何で? 一気に3レベルもアップするようなことなんて、この旅の最中にあっただろうか?」
「3レベル?」
「うん」
「修行や戦いじゃなくて、何でレベルアップするか分からないんでしょ? たぶん、森を出たことと、異世界の人と出会ったことと、村を見つけたことじゃない?」
『磯姫』の姫埜が早口でまくし立てた。
もちろん口から出まかせである。
「うん、確かに、今までも名前を付けたり、『牢獄核』の境界にあった結界を解除したりした時に上がっていたような気がするけど……う~ん、今回、そんなんで上がったりするものなんだろうか? う~ん?」
再び考え込む典人。
「……良かったじゃん典人」
「メデタイデース! サンヤン! サンヤン!」
それを読んだのか『覚』の慧理が気を逸らすように声をかける。
続けて、『キュウモウ狸』のキキもそれに乗っかった。
再び、まだ悩んでいる典人は女の子たちに口々にお祝いされるが、それがなんとも微妙に空々しい。
「ねえ、これってやっぱり昨日のあれだよね?」
「多分」
『糸取り狢』の射鳥が小声で隣に座っていた『シバカキ』の遥に問いかける。
「3レベルっていうことはもしかしたら、向こうの大掃除も終わったのかも」
「ちょっと、典人様には知らせない方が良いよね?」
「そうですね」
『小豆洗い』の梓も話に加わってきた。
(まさか、野宿したくらいでレベルが上がったりしないよな?)
その間もまだ、うーんと考え込む典人の背中をバンッと勢いよく『磯姫』の姫埜が叩いた。
「痛っ!」
「もう、レベルっていうのが上がったんだからいいじゃない! もっとしゃんとしなさいよね。あっ、勘違いしないでよ。典人のために言ってるんじゃないんだからね!」
「うん、そうだな。レベルが上がってるんだもんな。そうだよな。今は悩むより喜ぶべきだよな。有難う姫埜」
思わぬところで真正面から典人にお礼を言われて姫埜の白い肌が見る見るうちに真っ赤になる。
「なによ。本当に勘違いしないでよね。典人のためにいったわけじゃないんだから」
照れ隠しの動作か、そっぽを向く姫埜。
「???」
「きっ、きっと、成長期なのよ」
誤魔化す様に言葉をつづけた。
「いや、こういうのを成長期って言うのか?」
「あたしが知る訳ないじゃない!」
良い言葉が見つからないのか、多少切れ気味である。
「昔は典人様の年頃では『男子、三日会わざれば刮目して見よ』と申しますし」
そこに、千金が助け舟を出す。
「そういえば、レベル? が上がった時って、何か知らせのようなものはないのですか?」
「うん、考え事をしたりして、よっぽど自分に集中しているか、緒札の方から主張してくるかしないと気づけないね。後はまめに『青行燈の呼び声』の緒札を使って自分で確認するかしないと」
実際は今朝あたりにレベルが上がっていたのであろうが、昨夜は典人は出会った冒険者を装った野盗達に眠り薬を盛られ朝まで熟睡していたため、全く気が付かなかったのである。
「何か合図があるといいのにね」
千水の言葉に。
「こころも言っていたな。「ファンファーレとか、天の声とか聞こえないのお?」って。RPG)じゃないんだから、そうそう都合よくいくわけないって。まあ、オレのレベルが上がったら変わるのかもしれないけれど」
「そうだね」
(それでも、少しだけど皆の状態が見れたり、自覚は薄いけど、皆に妖力の補給ができたり、十分ゲームみたいだけれどな……)
自分で言っていて、あまりみんなの役に立っていないことを思い出して今度は落ち込み始める典人。
なかなかに忙しい思考をしている。
「ノリト! 気ニシテハイケマセーン!」
沈みかけた典人をキキが真正面から、その豊満な胸の中に抱きしめた。
「わぷっ」




