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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
80/94

第捌拾巻 典人サイド 危機迫る? のー! 鬼気迫ルデース!

第捌拾巻 典人のりとサイド 危機迫る? ノー! 鬼()迫ルデース!


 野盗の男達の顔に動揺の色が走る。

「雰囲気が変わりやがった!」

「まさか、こいつら王国の手の者か!?」

「罠ですぜかしら!」

「なに、こんな小娘どもに怖気づいていやがる! 数はこっちが30以上。女どもは10人にも満たない。無傷でとらえるのは無理でもなんとかなるだろ」

「そうでした」

「おい、てめぇら! 商品価値は落ちるが、多少傷つけてもいい。特にそこの剣を持った連中は手足の2・3本は構わねえから全員捕まえろ!」

「「へい!」」

 平静さを欠いていた男達はゼフトと名乗っていた男が一喝いっかつしたことで冷静さを取り戻し、それぞれが近場の女の子へと武器をかまえて近づいていった。

 その動きに、『金剛装気こんごうそうき』をまとった『藤原千方ふじわらのちかたの鬼』の『金鬼きんき』である千金ちがねが、冒険者に偽装ぎそうした野盗達側が作った夕食の一部に混ぜられていた睡眠薬の影響で眠らされている典人のりとかばうような位置取りで前面に立つ。

 睡眠薬に関しては野盗達の計画を、『さとり』の能力で心を読んだ『さとり』の慧理さとりから聞いた『木霊』の麗紀れいきがこっそり調べ典人のりとに悪影響がないことを確認している。

 女の子たちについては元々が魑魅魍魎ちみもうりょうであるため、最初から毒のたぐいに対してはそれなりの耐性たいせいを持っており、普段ふだんから睡眠もほとんど必要としない彼女たちからしてみれば、睡眠薬程度では全くもって問題がない。

「ここで『水河決気すいかけっき』を使ったら、ここら一帯水浸しにしてしまいますからつかえませんよね」

 周囲を見渡して『水鬼すいき』である千水ちみずつぶやく。

「それはさすが(さすが)に何かがあったと気が付いちゃいますよね」

 『小豆洗い』のあずさも、典人のりとをそっと見やり千水ちみずの言葉に同意する。

「はあ、しかたありませんね。梓ちゃん、典人のりと様のそばに」

「分かりました」

 戦いには向かないあずさ典人のりとの所に行かせ、千水ちみず自身は刀を抜いて野盗達に斬り込んでいった。


   ◇


 ヒュン!


 不意に男達の集団とは違う、少し離れた森の暗がりから矢が放たれた。

 気にしていたとしても注意深く見ていなければ、まず気づくことのできないであろう一矢。

 それにもかかわらず、眠らされている典人のりとそばに移動していた『糸取いととむじな』の射鳥いとりは死角からの不意討ちであるはずなのに、その矢を、いとも簡単に素手でつかんで見せる。

「なっ! バカな!」

 ゼフトと名乗っていた野盗のかしらおどろきの声を上げた。

「ワタシの大切ナ典人(ノリト)ニ危害ヲ加エヨウトシマシタネ」

 それを見た『キュウモウ狸』のキキが激怒し、左手に炎をともし、野盗の男達の間を走り抜け装備に火をけていく。

「へーイ! カチカチ山デース!」

「えっと、狸は火をけられる方だと思ったけど、まあどうでもいいや」

 実際は射鳥いとりに対して矢を放ったのであろうが、仲間思いのキキからしてみれば同じことだろう。

 その際、男達が腰に下げていた剣やふところかくし持っていたナイフを素早く抜き取り、それを使い次の男へと投げつけたり、りつけたりしていった。

 実に見事な手際である。

 『キュウモウ狸』は普段は非常に陽気で人当たりが良いが、自分の身内を傷つけられると怒りをあらわにし、危害を加えた村に放火や盗難を仕掛けたという。

「うわああっ!」

「イエーイ、コレガ本物ノジャパニーズ神通力デース!」

「熱ぃっ!」

「火系等の魔法使い!」

「ノー! 魔法様デース!」

「ぐへっ!」

 ちなみに『魔法様』の『魔法』は地元での呼び名や摩利支天の法から来ているといわれており、マジック(魔法)とは関係がない。

 ゆえに、この会話のやり取りは全く何の意味もなかった。

「『つたかせ』。キキさぁん、森が近いので火の取り扱いにはあ、十分注意してくださいねえ」

 麗紀れいきが他の野盗の男たちの足につたからませて動きを封じながらキキがやり過ぎないように苦言をていする。

 ただ、何処どこかのんびりとした口調のため、いまいち迫力がない。

「スマン、スマンデース!」

 キキの方も何処どこか憎めない態度で謝ってから、一応は麗紀れいきの言葉に配慮してか、手にともしている炎を消し、その代わりに今度は野盗の男からかすめ取った剣を踊るように振るい、りかかっていった。

「サンヤン! サンヤン!」

「がはっ!」

「あと、この辺りのお」

「サンヤン! サンヤン!」

 実に楽しそうに。

「ぎゃあああ!」

「情報を聞き出さないといけませんのでえ」

「サンヤン! サンヤン!」

 とても軽やかに。

「ごぼっ!」

「何人かは生かして捉えておかないといけませんしい」

「サンヤン! サンヤン!」

 なのに無慈悲に。

「しっ、死にたくない! 助けてくれ。なっ! ぐふっ!」

「……はあ、わたしのぉ、役目にい、なりそうですねえ」

 大きくため息を付いた麗紀れいきは捉えていた男達の拘束をさらに厳重にしていくのであった。


   ◇


「んぐぐう」

 一方で『磯姫いそひめ』の姫埜ひめのはツインテールの黒髪を伸ばし、声を上げた野盗の男の一人の口を髪の毛で巻いて締め上げ引き寄せていた。

 男は咄嗟に口元に手を伸ばし髪の毛の拘束から逃れようともがく。

 しかし、黒髪の拘束こうそくは大の大人の力をもってしても引きちぎることが出来なかった。

 それもそのはずである。

 古くは女性の髪の毛をんで綱とし、大きな丸太や岩を引っ張ったという。

 それがさらに姫埜ひめのの妖力で強化されているのである。

 そう簡単には切れようはずもなかった。

 もがけばもがく程深く食い込み、男の顔を締め上げていくことになる。

 そして、とても華奢きゃしゃな少女の腕力とは思えないような力で少女の元へと引き寄せられていった。

「もう、静かにしてよ、典人のりとが起きちゃうじゃない! あっ、勘違いしないでよね、典人のりとの寝顔を見てたいわけじゃないんだから」

 顔を赤らめて恥じらうように、あるいは照れをごまかすように言い放つ姫埜ひめの

 とてもその場にはそぐわない表情である。

 だが、そんな事考えている余裕はこの男にはない。

「んぐう」

 さらに男を締め付けている髪の毛に力が入り、男はくぐもった苦悶くもんうめき声をらす。

「確かあなた、あたしの髪で抜いてほしいとか言ってたわよね。何と言う偶然、喜んでよね私の本性は磯姫。ご希望通りに髪の毛で抜いて上げるわよ。うふふっ、血をたっぷりとね」

 そう耳元で嬉しそうにうっとりとした口調でささやく。

「んぐぐぐっ!?」

 血を髪の毛で抜く?

 男にとっては何を言っているのか分からない。

 だが、それとは別の、何か得体のしれない根源的な恐怖がこの男の全身を襲っているのを感じていた。

 それと同時に、ツインテールのもう片方の髪の毛のたばが、蛇が鎌首かまくびもたげるように野盗の男の前へと持ち上がってくる。

「むぐうううぅ!」

 ただの髪の毛にも関わらず、男は何か言い知れない恐怖に目を見開く。

 そして。

「うぐっ!!!」

 その髪の毛のたばが野盗の男の心臓めがけて突き刺さった。

 本来は『狂声きょうせい』という奇怪きっかいな叫び声を上げ、相手を恐慌きょうこう状態におとしいれ、混乱し硬直したところにたたき込むのだが、今回はその能力は使わなかった。

 理由は至極簡単しごくかんたん

 せっかく熟睡じゅくすいしている典人のりとを起こしたくなかったからである。

「さあ、私のためにたっぷりとくまで出しなさいよね」

 姫埜ひめのはそう言って、あやしく微笑ほほえんだ。


   ◇


 ヒュン!


 今度は何人か固まっていた男達の中から、千金ちがねに向かって至近距離で矢が放たれた。

 冒険者への偽装ぎそうをしていた男達のうちの、ベンスと呼ばれていた弓使いである。

 しかし、千金ちがねまとっている『金剛装気こんごうそうき』の防御幕はキンッ! というおおよそ布の服を着ている女の子からするはずもない高い金属音をさせてあっさりとその矢を退いてしまう。

「何!?」

 ベンスが目を見張る。

 だが、そのタイミングに合わせて、おのを持った精悍せいかん風貌ふうぼうの男が千金ちがねに向かって突進してくる。

「うおおおおっ!」

 こちらは同じく冒険者に偽装していた男達の中のブランツと呼ばれていた斧使いの年配の男であった。

 千金ちがねの後ろには典人のりとが寝ている。

 けるわけにはいかない。

 千金ちがねはだき出しの左手を上げて、頭をかばうようにかまえる。

「その腕、もらったああっ!」


   ギンッ!


 重厚な金属と女性の柔肌やわはだがぶつかったとはとても思えないような硬質こうしつな音を立てて、斧が千金ちがねの手の甲あたりで止められる。

 もちろん、千金の腕に傷一つ付いた様子は一切ない。

「バカなっ!」

 千金ちがねはここで初めて右手で刀を抜いた。

「ぐはっ!」

 さやからの抜刀による相手のがら空きとなった右脇腹から左脇腹への一撃。

 ブランツは腹を切り裂かれ、斧を落とし、その場にくずれ落ちた。

 一方、ベンスは驚きはしたものの、千金ちがねに矢が効かないことを理解すると、今度は射鳥いとりに向かって至近距離から矢を放った。

 だが、今度は放った矢が、いとも簡単に手でつかまれる。

「そんなまさか! この距離で」

 先ほど別の場所から飛んできた矢を素手でつかんだのは偶然だとどこかで思いたかったベンスは、自分の矢がしかもこの距離で掴まれたことに呆然とする。

 そこに。

「ぐっ!」

 矢を掴んだ射鳥いとりが投げ返し、ベンスのひたいに突き刺さる。

 ベンスはそれで絶命した。


   ◇


 慧理さとりは基本的に戦闘向きではない。

 だが、相手の心を読める『さとり』にとって相手の攻撃を避ける事は容易であった。

 ひょいひょいと、軽やかに男達の剣から身をかわし逃げる。

「待ちやがれ!」

「逃がすか!」

 幾人かの男達が慧理さとりを追いかけるそこに。

散弾さんだん玉石混交ぎょくせきこんこう!」

「痛えっ!」

「ぐはっ!」

「のわあっ!」

「ぎゃああ!」

 始まりと同時に森の草むらに飛び込んでいた『シバカキ』のはるかが、妖力で放った拳大の石から小石まで無数の石礫が野盗の男達に向かって飛んでいく。

 その威力は野盗の男達の軽装など簡単に貫いてしまうほどの威力を持っている。

 そう、慧理さとりおとり

 まんまと慧理さとりにおびき寄せられ射鳥いとりの射線上に飛び込んだ男達が貫かれて次々と倒れていった。


   ◇


 ……。

 夜の空にはこの世界特有の二つの月が、かろうじて暗闇から辺りを救い出している。

 焚火の火が揺れ、くべられていた木のぜるパチパチという音が、やけに夜の闇に響く。

 程なくして、30人はいたはずの野盗の集団は、か弱そうな女の子たちによって駆逐くちくされることとなった。

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