表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
70/94

第漆拾巻 意気自如(いきじじょ)

第漆拾巻 意()自如 (いきじじょ)


 砦の破壊された裏門の広場では野盗達の頭領と『川天狗かわてんぐ』の天音あまねとの戦いの事後処理が行なわれている。

 『オボノヤス』の夜簾補やすほが張っていた霧は晴れたとはいえ、この異世界特有の二つの月明かりだけの深夜の暗がりの中にもかかわらず、女の子たちは負傷者を運んだり、門が破壊されてできた瓦礫がれきを片付けたりと機敏きびんに動き始めていた。

月世つきせさん、天音あまねさんと木埜葉このはちゃんを大浴場隣の医務室に運んで、身体をぬぐってあげてから手当してあげてください。その後は手の空いている方は大浴場の亜華奈あかなさんたちの応援をお願いします」

「はいっ、分かりました」

 運ばれていく天音あまねに付きおうとしていた『洗濯狐せんたくぎつね』の月世つきせを呼び止め、『すずりの精』の鈴璃すずりがてきぱきと指示を出していく。

「わたしも行きます!」

 その少しとりで側を見れば、先に運ばれている『葉天狗はてんぐ』の木埜葉このはに付きう『センポクカンポク』の餞保せんほり『薬缶吊やかんづる』の冶架やかが申し出ていた。

「あたちも行く! 木埜葉このはちゃんの看病する!」

 そこに『赤殿中あかでんちゅう』の灯狸あかりも加わってくる。

「助かります。他にも怪我をされた方がいるかもしれませんし」

 餞保せんほはその申し出にニッコリとほほ笑んで、冶架やか灯狸あかりに礼を言う。

 他の女の子たちもそれぞれにまだ残っているかもしれない野盗連中の対処に向かっていった。

 一通り場が落ち着いたのを見回して鈴璃すずりが『方相氏ほうそうし』のねりに声をかける。

ねりさん、後をおまかせしてよろしいですか?」

「承知しました」

「そろそろ一段落付きそうなので、砦の周囲の様子を見てきますね」

 一通り指示を出し終えると鈴璃すずりが、その後ろ姿を見送りながら残っていた者に断りを入れて破壊された門へと向かおうとする。

「おひとりでは危険です。単独行動は駄目だとご自分でいわれたではありませんか」

 そんな鈴璃すずりに対して、てっきり後を任せて砦に戻るものと思っていたねりが、一人で砦の外に向かおうとするのをあわてて止めに入る。

「そうですね。自分が注意をしておいて、それでは他の方々に示しがつきませんね。どうしましょうか?」

 鈴璃すずりが右手の人差し指をほほえ考え込むと、砦の方から声が掛かった。

「なら、わたしが付いていくよ」

 鈴璃すずりねりが振り向いた先、そこにいたのは『妙多羅天女みょうたらてんにょ』の妙羅たえらだった。

 妙羅たえらは両脇に2匹の狼をしたがえて近づいてくる。

「縄張りの偵察は狼の得意とするところだからね」

「では、よろしくお願いしますね妙羅たえらさん」

まかせて」

 鈴璃すずりが頭を下げて頼むと、妙羅たえらは軽く請け負って片方の狼の頭をでながら自分の胸をポンとたたいてみせる。

 それから、鈴璃すずり妙羅たえらは破壊されたとりでの裏門をくぐって森の奥、以前まで結界の境界があった範囲の外へと向かって歩き始めていった。


   ◇


 とりで内の会議室のようなある一室では何人かの女の子が集まって事務処理のようなことをしていた。

 そこに。

珠奇たまきさん、こちらの野盗の始末は全員終わりましたよ」

「申し訳ありません。わたしたちの方は能力の性質上、生きてらえた者は一人もいないのですが」

 『七人みさき』の長女設定のみさおと次女設定のみさらが顔を出した。

「えっと……みさおにみさら、お疲れ。心配しなくても大丈夫だよ。他の所で何人か捕らえてくれているから」

 『算盤小僧そろばんこぞう、実は算盤小娘そろばんこむすめ』の珠奇たまきが、机に向かい何やら書いていた手を止めて顔を上げ、入ってきた二人を見てしばし止まり、その胸元を見てみさおとみさらだと理解してからねぎらう。

 この姉妹、いや『七人みさき』の7姉妹は一見見ただけでは判断が付きにくい。

 この世界に跳ばされてきてからならかなりの年月は経っているだろうが、それなりに話すようになったのは典人のりと召喚しょうかんしてからの事になる。

 ゆえにまだ個々の性格やくせなどといった特徴的な違いを見分けるにいたってはいない。

 それを見分ける方法は胸元にあるホクロの数である。

 ただ、本人は全く気にしてはいないが、珠奇たまきが他の子の胸辺りを凝視ぎょうししているのははたから見ると、自分の胸にコンプレックスを持っているのだろうかとも思えてしまう。

 繰り返すが、全くそんなことはないのだが……。

 ちなみに、みさき7姉妹の胸の大きさは全員同じで平均サイズである。

「そうですか」

「安心しました」

 長女設定のみさおは納得したようにうなづき、次女設定で補佐をするポジションになってしまっているからか、何かと気を使ってしまうみさらが、ホッと胸をでおろす。

「お疲れさまでしたみさおさん、みさらさん。お茶の用意ができていますのでどうぞ」

 お盆に2人分のお茶とお菓子を乗せた『宗旦狐そうたんぎつね』のそうが歩み寄ってくる。

「「ありがとうございますそうさん」」

「お茶請ちゃうけは梓さんが日持ちするからと作り置きしていってくれた落雁らくがんです」

「へえ、いろんな形があるんですね。可愛い」

「色も種類があって、よくこれだけの色を」

 落雁らくがんとはもち米の粉や米粉、小麦粉などに砂糖や水飴みずあめを着色料と混ぜ、木型に入れ押し固めて乾燥かんそうさせて作られた『打ちもの』と呼ばれる干菓子ひがしの一種で、名前の由来には諸説あり、わたってきた際の音の変化や白い中にある黒いつぶが雪の上に降り立ったがんのようだというところからきているという説がある。

「木型は麗紀れいきさんといほらさんが作ってくれたんですよ。砂糖に変わる甘味や色も麗紀れいきさんが森で探してきてくれて。こちらにみさささんたちの分もありますので、一緒に持っていきますね」

 そういいながら『禅釜尚ぜんふしょう』の陽泉ようせんがその場に残っている他のみさき姉妹たちの分を用意している。

「すみません陽泉ようせんさん。手伝いますね」

「大丈夫ですよ。それよりもお疲れでしょ」

「こちらは手こずる相手もいませんでしたので」

「そうですか。それは何よりでした」

 やはり何かと苦労性なみさらが陽泉ようせんとともに運ぶのを手伝い始めた。

「でも、何人かはかべえてとりでの外へ逃走したみたいですね」

 そんなやり取りの様子を見ながら、みさおが珠奇たまき懸念けねんしていることを投げかけてみる。

「それも心配ないよ。紫雲しうん千補ちほたちが砦の外に逃げた連中の処理をしにあみを張ってくれているからね」

「そうですか」

「多少は無理をしている子たちもいるかもしれないけれど、おおむね、計算通りだね」

 珠奇たまきは軽く伸びをしてから窓の外を見やる。

 窓の外には夜簾補やすほの張っていた霧も晴れ、この世界が異世界であると証明するかのように輝く二つの月が静かに夜の空に浮かんでいた

 珠奇たまきは体を傾け、机に片肘かたひじを付き頬杖ほほづえをしてその月を見ながらつぶやく。

「そろそろ、砦内も掃討戦に移行かな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ