第陸拾玖巻 気絶
第陸拾玖巻 気絶
野盗達の頭領、ガズルとの戦いが終わってよりしばらく。
力を使い果たした『川天狗』の天音と重い怪我を押して無理をした『木の葉天狗』の木埜葉が姉妹師弟揃って力尽き、気を失った。
咄嗟に支えに入って受け止めた『センポクカンポク』の餞保と『瓶長』の芽梨茶が二人を地面へと寝かせる。
「手伝う。フンフン♪ ヒョウヒョウ♪」
今は応援に来た『ガラッパ』の嘉良波と『油取り』の亜鳥が、砦の中へと運ぼうとしているところである。
亜鳥が大きな串を4本具現化させ2本ずつをそれぞれ横たわっている天音と木埜葉の隣に平行になるように置く。
もちろん、野盗の血に濡れた大きな串は具現化を解いて消して新しい物を出している。
「こころさ~ん! ちょっと手伝ってくれますか!」
それから、亜鳥が嘉良波に何事か指示を出し、周囲を見渡してから、こころに声をかけ手招きする。
「良いのお!」
呼ばれて駆け寄ってくる『衣蛸』のこころ。
そうしてから、亜鳥はこころが走り寄ってくる間に木埜葉の傍らに置いた2本の棒の橋をそれぞれの手で持ち上げた
「何なのお?」
この棒の両端をもっていてくれますか?」
「これなのお?」
木埜葉の傍らに置かれていた2本の棒の端を亜鳥が持ちながら、同じようにするよう言うのを小首を傾げつつも頭の上にハテナマークを浮かべながら言う通りにこころも棒の反対側の端をもって亜鳥と向かい合って立つ。
「こうなのお?」
「はい、それで身体を少し前のめりに」
「こうなのお?」
「そうそう、嘉良波さんお願いします」
「お任せ荒れ。ひょいっと♪」
掛け声とともにこころの来ていた上着が脱がされ、腕を通って両手にそれぞれ持った大きな串をとおってかぶされる。
こころの来ていた衣装は格ゲー風のコスプレ衣装だったため、着物と違い上半身と下半身が分かれていた。
そのため、このような体勢だと比較的脱がせやすい。
つまりは上半身は下着姿になってしまっている。
ちなみに、下着は以前川辺で水遊びをしていた時に披露した貝殻を模したスカラップビキニとおなじようなデザインで、今回は水色と白のストライプを基調としていた。
「きゃあ! なんでうち、負けてないのに脱がされてるのお! うちは三人目なのお! 強いのお! そう簡単には脱がせられないのお!」
「なんの話? でも、あっさり脱がせられた♪」
嘉良波の表情が心なしか嬉しそうに見えたのは今は置いておくとしようか。
「くぬぬっ!」
抗議の声を上げて顔を上げると対面して反対側を持っていた亜鳥も嘉良波によって同じように脱がされていた。
こちらも最初からこうなる可能性を予想していたのか、上着は着物ではないシンプルな洋服のような作りのものであった。
ちなみに、こちらの下着は濃い緑のスポーツブラタイプで、どちらかと言えば「見せ」の色合いが強いものである。
そして、やはり嘉良波の表情が心なしか嬉しそうに見えたのは今は置いておくとしよう。
余談だが嘉良波の服装は着物である。
「御免なさいねこころさん。命がかかっていますので。即席ですが、応急担架です」
脱がされた亜鳥は至極真面目な表情でこころに謝罪する。
「……仕方がないのお」
その真剣な姿を見てしまえば次の言葉が出るはずもなかった。
「かわる♪」
嘉良波がこころから棒の端を受け取り地面に置く。
「そっとですよ。大丈夫とは思いますが、一応揺らさないようにしてくださいね」
餞保の指示で木埜葉が出来上がった担架に乗せられていく。
こころがそれを眺めていると、 そこへ。
「こころ、あんた敵にまで雑に扱われていたんだって」
急に後ろの方から声がかかる。
こころが振り向けば、『コサメ小女郎』の小雨が嘉良波と同じく他の女の子たちに後を任せてきたのであろう、こころの元へと歩み寄ってきていた。
「そんなことないのお! ちゃんと見せ場はあったのお!」
「はいはい……見せ場って、今のその恰好じゃないわよね?」
「違うのおお! 本当なのお!」
両手を振り回して抗議するこころ。
「はいはい……さきらちゃんから聞いたわよ。賊を二人捉えて、尚且つ日和ちゃんと鈴姫を守ったんでしょ。実際良く頑張ったわよこころ」
いつもいじってくる小雨が不意に優しい笑顔になって言った言葉に一瞬呆けたこころだったが、にんまりとした満面の笑顔を浮かべて自分の腰に手をあてた。
「ふふんなのお」
「上半身半裸で胸を張らない!」
「くぬぬっ! 脱がされた時のセリフを考えておくべきだったの!」
「くやしがるのそっち?」
すぐにいつもの調子に戻っていく二人。
この二人の関係はこれでバランスが取れているのかもしれない。
「もう一つ、どなたか上着の脱げる方二人、同じようにお願いできますか!?」
芽梨茶が天音の分の担架を作るべく、周りにいる女の子たちに呼びかける。
「私も担架作りに一肌脱ぎますの」
そこにいち早く名乗りを上げた『鈴彦姫』の鈴姫が走り寄ってくる。
「鈴姫、あんたそれ以上脱いだら全裸でしょうが」
咄嗟に小雨が止めに入る。
「あら、布を巻きつけた方が、担架に適していますの」
ところが、小雨の言葉にも意に返した様子もなく平然と言ってのける鈴姫。
「そうじゃなくて、全裸になることを気にしなさいよ!」
「別に、全く気になりませんの」
「少しは気にしろ!」
「ほかにいませんか!」
そのやり取りを気にせず他の女の子たちに向かって声をかける芽梨茶。
「は~い、わたしやります!」
「あっ、わたしも手伝います!」
『洗濯狐』の月世と『油徳利』の由利が手を上げた。
「ではお願いしますね。この棒の両端を持って向かい合って立ってください」
「何で私では駄目ですの!?」
「ええっと……善意は嬉しいのですけど、全裸はちょっと……」
問われた芽梨茶が、困ったようにひきつった笑顔で答える。
「納得いきませんの!」
「まあまあ」
今度は鈴姫が抗議の声を上げるのを『琵琶牧々』の日和が諫めに入る。
どんどんと緊迫感が崩れていく。
張りつめていた空気が少し解れてくる気がしていた。
「ふふっ、『露出狂め』ですわ。ねえ、天音」
その様子を火の始末を終え、少し離れた所から見ていた『雪女』の淡雪が小さく呟く。
「淡雪ちゃん、何か言いました?」
その横顔を不思議そうな顔で見つめる『つらら女』の雪良。
「何でもないですわ雪良ちゃん」
そう言うと淡雪は担架に乗せられて運ばれていく天音を見ながら穏やかに微笑んだ。




