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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
64/94

第陸拾肆巻 頭領戦 木埜葉 vs 頭領 気負う

第陸拾壱巻 頭領戦 木埜葉このは vs 頭領 ()負う


「えいっ! やあ!」

 裏門の広場では夜の闇に月明かりだけが辺りを照らし出す中、『葉天狗はてんぐ』の木埜葉このはが、刀を幾重にも振るい、野盗たちに頭領と呼ばれていた男、ガズルに向かって果敢かかんに向かい、りかかっていっていた。

 小柄こがら体躯たいくとこの世界で言うところの狼人族おおかみひとぞくならではの敏捷性びんしょうせいを持って相手を翻弄ほんろうするような素早い身のこなしで左右へと走り込み、するどい一撃を叩き込んでいく。

 普通の人間であれば、この木埜葉このはの素早い攻撃に身体が追い付かず太刀打ちできないであろう。

 それが証拠に、始めに忍び込んできた野盗の男達はこの動きに対処することが出来ずに次々とせられていった。

 だが、

「どうした?」

 今は違っていた。

 はたから見れば、見た目通りに子供が大人に突っかかっているようにしか見えない。

 野盗の頭領、ガズルという男の持つ得物は巨大な戦斧であり、重量は重く、斧の刃は厚く、柄は長く、全体として大きい、所謂「重厚長大じゅうこうちょうだい」を絵にかいたような超重量武器である。

 それにもかかわらずだ。

 小回りも剣速も小柄で俊敏な木埜葉このはの方が上の筈なのに、全くもって一太刀たりともびせることが出来ずにいる。

 まるで相手になっていない。

 先ほどまでの連中とは段違いだ。

 野盗になる奴らにもいろいろいる。

 罪を犯して国から追われる事となり国から逃げた者。

 冒険者がルールを破り資格を失い冒険者を続けられなくなった者。

 戦場で傭兵としてやとわれていたがその陣営が負けそうになり逃げ出した者。

 農村で生活していたが食べるだけの収穫を得られず村を捨てた者。

 野盗のアジトで連れ去られた女に産まされそこで育った者……。

 そんな荒くれ者の集まりである野盗という集団に会って、頭領と目される男は往々(おうおう)にしてその強さや力での支配といったものがまず先に立つことになる。

 このガズルという男も例外ではない。

 ふところに飛び込めば、この手の超重量武器は取り回しが効かず威力も格段に落ちる。

 木埜葉このはもそれは理解していた。

 大振りを誘い、すきを作らせようとするが上手くいかない。

 右に走り込み斜め下から斬り上げる。

 が、防がれる。

 すかさず回転して身をひるがえし横へぐ。

 これも止められた。

 だがさらに木埜葉このはは右に走り、今度は体勢を低くして足首をねらう。

 それでも読まれていたのか、ガズルが斧を回し、体勢を低くしている木埜葉このはに掬い上げるように、刃を振るってきた。

 木埜葉このはは咄嗟に斜め左に転がりそれを躱す。

 直後、ブンという風切り音とともに木埜葉このはがさっきまでいた場所を巨大な斧の刃が通り過ぎていく。

 それから素早く木埜葉このはは一旦距離を取り構え直す。

 刀の刃越しに相手を見つめ、刹那せつな思考する。

 自分の攻撃はすべて軽々と防がれている。

 相手の攻撃は得物の割りに素早く、一撃でも当たれば致命傷になりかねない。

 息こそ乱れていないにしろ、余裕がないのは事実である。

「歳の割りにはなかなかのスピードと剣捌きだ。獣人らしく、体格のわりに剣にも重さがある。惜しいな。おめえ、俺の配下になる気はあるか? 優遇してやるぞ」

 そこにガズルから不意に声が掛かる。

 ガズルの声からは下劣な下心のひびきはない。

 もとより先ほどまでの野盗連中から向けられた欲望丸出しの視線とは明らかに違っている。

 ある意味、純粋じゅんすいに興味を持たれたということはすぐに理解できた。

「お断りいたします」

 だが、相手の意図が理解できたことと、それを受け入れるかということは話が別だ。

 木埜葉このはは迷った様子も見せず即座にきっぱりと言い切ると、自分と相手の距離を目で測り、数歩前に歩み出た。

 そして、大きく一呼吸。

「いきます! ワオォオ~ン!」

 木埜葉このはが喉の奥からの咆哮ほうこうを上げる。

 これは『木の子』のが森で羊の皮を被った狼(シープルフ)に襲われていた際、助けに駆けつけた木埜葉このは羊の皮を被った狼(シープルフ)の群れに使った技であり、一時的に相手を怯ませる効果がある。

 木埜葉このは咆哮ほうこうを放つと同時に、硬直状態こうちょくじょうたいであろう頭領と呼ばれていた男に向かってりかかっていった。

 しかし、

「ほう、珍しい。特殊スキル持ちか。差し詰め相手を萎縮いしゅくさせる効果ってところだろうが。だが」

 ガズルは軽々と巨大な戦斧を横に振り抜いた。

「俺様には意味がねえ」

「くっ!」

 気付きはしたが、急に止まろうとした木埜葉このはは避けるのには間に合わない。

 咄嗟とっさにそれを刀を立ててその背をもう一方の掌で支え後ろに跳び防ごうとする

 が、まるでガズルは机の上にあった空のはいを気が付かずに振った手であやまって吹き飛ばしてしまったかのように無造作に振り抜いていた。

 目の前にいる標的の木埜葉このはなどいないかのごとく。

「ぎゃん!」

 弾き飛ばされるように横に薙ぎ払われた木埜葉このははそのままの勢いに押され吹き飛ばされ壁に激突する。

 ドンッという、強い衝撃音がした。

「かはっ!」

 上下で抑え、斧の刃とはり結んだ形となったおかげで、直撃は避けることが出来たようだが、壁に背中からまともに叩き付けられたため、肺から空気が強制的に掃きださせられる。

 続いてズルズルと地面に沈み込む木埜葉このは

 見れば、巨大な斧の風圧でなのか、肩と反対の脇の下の服が切れ、そこから除いた素肌から真っ赤な血が流れ出ていた。

(たった一閃いっせん、風圧だけで……)

 反応が間に合わず、刀を盾にまともに刃を合わせることができていなかったら、恐らくは上半身と下半身が分断されていたであろう。

 さらに言うなら、『一本だたら』のいほらがきたえてくれた刀だからこそしのぎきったが、普通の刀ではまず間違いなく刀ごと両断されていたに違いない。

(いほらさんの刀のおかげで……いほらさん、有難うございます)

「ほう、この俺様の『獄壊ごくかい魔戦斧ませんぶ』の一閃いっせんで両断できなかったか。いい反応でもあるが、何より剣に救われたな。変わった形だが、なかなかいい剣を持っているじゃねえか。

 どうやら、このガズルの持つ巨大な戦斧は普通の武器では無く、特別な魔法武具であるようだ。

「……」

 木埜葉このははガズルの言葉には答えず、代わりに立ち上がろうとする。

 直接斬られたわけではないのに、切れた傷口がズキリと痛む。

 木埜葉このははそれでも奥歯をきつくかんで立ち上がった。

(こんどは空から)

 刀を一度(さや)に収め、翼を具現化すべく両手で印を結ぼうとする。

「何もさせねえよ!」

 何事かを察したガズルが離れたその場で斧を地面に向かって振り下ろす。

 ドゴンという轟音と共に巨大な斧の直線状に地面を削り土煙を伴う衝撃波が木埜葉このはに向かって襲いかかってきた。

(なっ! ……間に合わない!)

 翼を具現化させるために印を組み精神を集中しなければならない木埜葉このはは反応が一瞬遅れる。

 まだまだ未熟ゆえ、仕方のないことではあるが、それが致命的だ。

「がはっ!」

 今度は巨大斧からの大地をくじりながら襲ってくる衝撃波しょうげきはの一撃を防ぐこともかわすことも出来ずに、まともに正面から受ける事となり、再び砦の壁へと叩き付けられてしまった。

 木埜葉このはごと叩き付けられたその衝撃波の一撃で砦の壁の一部が破壊される。

 轟音ごうおんとともに立ち上がった土煙が晴れると、そこにはくずれた瓦礫がれきと共に辛うじて残った石壁に背中を預けぐったりとしている木埜葉このはの無残な姿が現れた。

(くっ……あっ、あばらがやられました。早く立ち上がらないと……)

 木埜葉このはは意識が朦朧もうろうとしながらも懸命けんめいに瓦礫の中から立ち上がろうと、刀を杖に足に力を込める。

 しかし、支えにしている刀がカチャカチャと鳴る音が木埜葉このはの身体の状態を如実にょじつに物語っていた。

(まだ……戦えます!)

 だがやはり、力を込めたはずの足が言う事を聞かず、途中まで立ち上がりかけて、再び瓦礫がれきの中にくずれ落ちてしまう。

(はやく立ち上がらないと……)

 口元から血がしたたり、襟元えりもとへと流れ落ちる。

 ふと、木埜葉このはの頭上に影が差す。

(!)

「思った以上に頑丈がんじょうだな」

 木埜葉このはが見上げた目の前には巨大な斧を肩にかついだガズルが歩いてきており、木埜葉このはを見下ろすように仁王立ちしていた。

「一度は聞いたぞ。少しもったいない気もするがよう。あきらめな。俺は俺の軍門に下らなかった以上、女子供でも容赦ようしゃはしねえぜ」

 さしてしくも無さそうにそういうと、ガズルは巨大な斧を高々と頭上に振り上げた。

典人のりと様、天音あまねあねさま、御役目すら果たせず、不甲斐無ふがいない僕ですみません)

 それでも気丈に目を閉じることなく、木埜葉このはは野盗の頭領と呼ばれていた男を最後まで見据みすえようとしていた。

「ほう、これから縦に真っ二つになる覚悟は出来ているようだな」

天音あまねあねさま!)

 木埜葉このはは月光に照らされてにぶく光る巨大な戦斧を見つめながら心の中でつぶやく。

 ガズルが殺戮さつりくいしれるかのような笑みを浮かべた。

「『妖術『天狗の旋風つむじかぜ』!」

 頭上から声がした瞬間、ガズルは巨大な斧を振り上げたまま、後ろに飛びのいた。

 その直後。

 強烈な風の塊が地面に叩き付けられ、先程までガズルのいた場所をくじった。

 すかさず背中に黒い翼を持つ少女が上空から大きくその翼を羽ばたかせ、木埜葉このはとガズルとの間に割って入るように降り立ってくる。

 『川天狗かわてんぐ』の天音あまねであった。

 その手には『天狗の羽団扇はうちわ』と呼ばれる、八手やつでの葉に似た形のものがにぎられている。

 天音あまね間髪かんはつを入れず手に持っていた羽団扇はうちわを振るう。

「妖術『天狗のつぶて』!」

 それと同時に無数の石礫いしつぶてがガズルに向かって飛んでいく。

 だが、ガズルは顔めがけて飛んで来る石つぶてを斧を盾にして難なくかわす。

 天音あまねはその隙に木埜葉このはを抱きかかえると、その場から離脱して、距離を取り、少し離れた場所に轟音ごうおんを聞き付け駆けつけてきた『センポクカンポク』の餞保せんほ木埜葉このはたくそうとする。

「……申し訳……ありません。おあねさま、力及ばず……」

「いいのですよ木埜葉このは。良く持ちこたえました。後はわたくしに任せて安静にしていなさい」

「はい。天音あまねあねさま」

 木埜葉このはは安心したのか、少しだけ微笑を浮かべるとゆっくりと目を閉じた。

 天音あまねはそんな木埜葉このはの口元の血をぬぐってやると、頭をやさしく一撫ひとなでする。

餞保せんほさん、木埜葉このはをお願いします」

「はい、お任せください。 ……天音あまねさん、御武運を」

 天音あまね餞保せんほ木埜葉このはをお願いすると、ゆっくりと野盗の頭領へと振り返った。

 空気が、ピンッと張りめる。

 その顔はいつもの穏やかな表情は無く、まるで感情の抜け落ちた例えるならば能面のような冷たい美貌びぼうたたえていた。

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