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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
65/96

第陸拾伍巻 頭領戦 天音 vs 頭領 乱気流

第陸拾伍巻 頭領戦 天音 vs 頭領 乱気(鬼)流


 月明かりに照らし出されている川天狗(かわてんぐ)』の天音(あまね)のその美しい姿にさすがのガズルも一瞬目が奪(うば)われた。

「こりゃあ、珍しい有翼人族(ゆうよくひとぞく)とは、しかも黒か」

 ガズルは思わず小さく呟(つぶや)いていた。

 今までこの大規模な野盗の頭(かしら)として襲(おそ)った獲物(えもの)の中から幾人(いくにん)もの女を自分のものにしている。

 見目の良い村の娘、勝ち気で美しい商隊の女、果ては蝶よ花よと育てられた深窓の貴族の令嬢。

 人族(ひとぞく)の女は言うに及ばず、獣人族(けものひとぞく)の女から魔人族(まひとぞく)の女まで。

 だが、目の前に立つ女は別格の凛(りん)とした美しさがあった。

 年のころは17・8といったところだろうか。

 その黒髪は2つの月明かりがあるにしても暗い夜の闇に合って尚(なお)も艶(つや)を湛(たた)えており、その服装はこの地方では見たこともない衣装ではあったが、この女にはそれが良く似合っていた。

 しかもさらに珍しい有翼人族(ゆうよくひとぞく)で、尚且(なおか)つ、漆黒(しっこく)の翼である。

「ようやくのお山の大将のご登場というところですか?」

 その女からは緊張(きんちょう)も怯(おび)えもない落ち着いた声が発せられる。

「ほう、言うじゃねえか女。……有翼人か、珍しいな。しかもいい女ときてる。気に入ったぜ。俺の女になりな。他の女達より良い生活が出来るぜ。この砦は今日から俺様達『明烏(あけがらす)』の根城になるんだからよ」

 ガズルにしては珍しく「俺の女になれ」と言った。

 何故(なぜ)珍しいかと言えば、いつもであればそんな言葉を掛けることもなく力悉(ちからことごと)くでモノにしてきていたからである。

 だが、この言葉は天音(あまね)にはまるで意味が無い。

 もともと山伏(やまぶし)の流れを引く天狗にとって清貧を旨(むね)とするのが常(つね)である。

 故(ゆえ)に天音(あまね)には何も響(ひび)きはしなかった。

「『明烏(あけがらす)』ですか……『亀』ではなく『烏』でしたか。天狗族としては誠に不本意ではありますが、お山の大将には御誂(おあつら)え向きの名前ですね」

「あ~ん?」

「いえ、こちらの話です」

 正直に言って、砦の者たちは誰もこの野盗達の名前を気にしてはいなかった。

 その為、典人(のりと)にだけ知られないようにと、自分たちにはなじみのある覗(のぞ)き魔の意味の『出歯亀(デバガメ)』から『亀』と呼称していたのである。

「それともう一つ。紫雲(しうん)さんがこの場にいたら「大門(おおもん)で袋叩きにあいますよ」とでも言ったでしょうか」

 天音(あまね)はクスリと唇をほころばせた。

「なにを訳の分からない事をゴチャゴチャと」

「これは失礼。本当に日本(こちら)の話なので、お気になさらず」

「ふん、まあいい。来な。遊んでやるぜ」

 距離があるにもかかわらずガズルが構えるのに軽く振るった巨大な斧の風圧に、天音(あまね)の黒髪が一房揺れた。

「さて、木埜葉(このは)の借りは姉分として返させていただきます」

 穏やかな笑みの天音(あまね)の表情が再び色を失くす。


   ◇


 最初にガズルと戦い深手を負うこととなった『木(こ)の葉天狗(はてんぐ)』の木埜葉(このは)は少し離れた草むらの上に一旦体を横たえられて、『センポクカンポク』の餞保(せんほ)に応急処置の手当をされていた。

 餞保(せんほ)は少し木埜葉(このは)の着物を開(はだ)けさせ、傷口部を確かめそこに薬壺(くすりつぼ)から薬を手に掬(すく)い木埜葉(このは)の傷口に刷り込んでいく。

 だが、肋骨(あばらぼね)が何本か折れているようで、振れるたびにわずかに木埜葉(このは)の身体がピクリと反応する。

「さあ、木埜葉(このは)ちゃん、建物の中に行きましょうか」

 幸い肺には刺さってはいないようではあるが、あまりこの場でこのままにしておくわけにはいかない。

 早く安静にできる場所に戻り、服を脱がせて包帯で固定しておく方が良いだろう。

 他の見えない所にも深手を負っているかもしれない。

「餞保(せんほ)……さん……ここに……いさせて……ください」

 抱き起こそうとする餞保(せんほ)に木埜葉(このは)が願う。

「駄目ですよ木埜葉(このは)ちゃん。早くちゃんとした所で安静にしないと」

 医療に携(たずさ)わる者としては至極真っ当な言葉である。

「お願い……くっ……します」

 縋(すが)るような目で餞保(せんほ)を見つめ、力の入っていない手で餞保(せんほ)の手を掴んでくる木埜葉(このは)。

 こんな戦闘中の場所で、今も傷口に響くのか、大地をくじる振動や斧を振るう衝撃波の余波で時折木埜葉(このは)が握る手からピクリピクリと餞保(せんほ)の手に痛みを堪(こら)えている感覚が伝わってくる。

 それでもこの場にいたいと目で訴(うった)えかけてきた。

「……分かりました。ここで治療を致します」

 木埜葉(このは)の、ここで天音(あまね)の戦いを見届けたいという思いが伝わったようで、餞保(せんほ)は何かを言いたいのを飲み込み、代わりに大きく息を吐くと表情を引き締め覚悟を決める。

 それから、そこよりも柔らかそうな草の上を捜し、木埜葉(このは)の傷口が痛まないようにそっと地面に寝かせるのであった。


   ◇


 ガゼルが無造作に『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』を大地に数度たたきつける。

 そのたびに大地をくじり、その土石を孕(はら)んだ衝撃波が天音(あまね)に容赦(ようしゃ)なく襲(おそ)い掛かっていった。

 しかし、天音は研ぎ澄まされた動きで左右にそれを難無く躱(かわ)しす。

「妖術『天狗の礫(つぶて)』!」

 それどころか無数の石を散弾のように飛ばして応戦してみせた。

 ガズルも何てことない様子で斧(斧)を立てそれを躱して見せる。

「ほう、さっきのはまぐれじゃなかったか。似(に)たような技を使うとはな。面白い。 少し力を入れるぞ」

 明らかに自分の方が威力が上だと言わんばかりの嘲笑(ちょうしょう)を浮かべてそういうと、ガズルはまた『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』を大地へと振るう。

「!」

 そして、その言いようが正しいことを証明するかのように、その威力と速度は先ほどまでのものより一段上がっていた。

 何とかそれを躱(かわ)す。

 背後に衝撃波が壁(かべ)に衝突(しょうとつ)する轟音(ごうおん)が響(ひび)いた。


   ◇


「凄い音がしましたけど」

「さっきからしているのは何の音ですの? 空(そら)さんの太鼓の音じゃありませんし」

 『琵琶牧々(びわぼくぼく)』の日和(ひより)が『鈴彦姫(すずひこひめ)』の鈴姫(すずひめ)と一緒に様子を見に出てきた。

「ああ! 門が壊れてる!」

「木埜葉(このは)ちゃん!」

「大丈夫ですか?」

「今、水を持っていきます」

 そのあとからも別の場所から『赤殿中(あかでんちゅう)』の灯狸(あかり)や『洗濯狐(せんたくぎつね)』の月世(つきせ)、他にも『油徳利(あぶらとっくり)』の由利(ゆり)、『瓶長(かめおさ)』の芽梨茶(めりさ)など そこに次々と現れてくる女たち。

 どの女もうら若く、そして早々お目にかかる事の出来ない整った顔立ちをしていた。

「ほほう、本当に女だらけだな。しかも報告の通り人間だけじゃなく狐人族(きつねひとぞく)に、そっちは何だ? よく分かんねえな。まあ、いいか。おいおい、下っ端(したっぱ)の話通り選り取り見取りの上玉揃(ぞろ)いじゃねえか」

 女たちは少し距離を置いて立ち止まる。

 それもそのはず、集まってきた子たちはどれも基本的に非戦闘系の子たちばかりであった。

 一介(いっかい)の野盗風情であればともかく目の前にいる男は明らかに格が違う。

 下手に加われば足手まといにしかならない。

 そのことを直感で理解しているからこそ手が出せずにいる。

「面倒臭せえから、全員で一斉に掛かってきても良いんだぜ。そうだな、夜明けまで俺様を楽しませろ。それで生き残れたら、俺様の手元に配下として置いてやる」

 その言葉に皆が一斉に動き出そうとする。

「それには及びません。私(わたくし)が一人でお相手致します」

 静かだが、有無も言わせぬような空気を感じさせる言葉に、皆がその場で立ち止まった。

 あくまで天音(あまね)だけで相手するようである。

「ほう、いいのか? 折角生き残れるかもしれねえチャンスを棒に振ることになるんだぞ」

「それはどうでしょうか」

(このままでは他の子たちや砦(とりで)に被害が出てしまいますね)

 天音(あまね)は考えをめぐらす。

 その間にも天音(あまね)の思考を邪魔するかのように『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』が大地に振り下ろされ土石を巻き込んだ衝撃波が天音(あまね)に迫(せま)っていった。

 それを翼を広げ、空に飛んで回避する。

 術式の印(いん)を組んででないと翼を具現化することのできない修行により天狗となった『木(こ)の葉天狗(はてんぐ)』の木埜葉(このは)と違い、天音(あまね)は純粋な天狗族であるため翼は体の一部である。

 故(ゆえ)に自由自在に扱うことができた。

 そしてそのまま空からの攻撃に切り替えることにする。

 天音(あまね)はいったん距離を取るため大きく旋回(せんかい)した。

「まさかこの『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』が地面をえぐって、その衝撃波で攻撃ができるだけのデカい斧(おの)だと思ってないだろうな?」

 そう言ってガズルが『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』を中空で一閃すると、突風の塊が上空の天音(あまね)目掛けて飛んで行った。

「!」

 驚きはしたものの、飛んできた空気の刃を天音(あまね)は難なく身を捩(よじ)って躱(かわ)す。

 その後も2度・3度と風の刃が飛んでくる。

 それも躱(かわ)してみせた。

「こりゃあいい! コイツで鳥を狙(ねら)うのはやったことなかったがよ。楽しいじゃねえか」

 ガズルはさらに数度、風の刃を乱れ撃つ。

 しかし、天音(あまね)も縦横無尽に動き風の刃を避(さ)けていく。

(あの風の刃、思ったより威力がありますね。ギリギリで避けようとすると気流の乱れで態勢が崩(くず)される)

「まだまだ行くぞ!」

 さらに飛んでくる速度が上がる。

 それでも翼を翻し鮮やかに避けていった。

「『妖術『天狗の旋風(つむじかぜ)』!」

 それどころか今度は逆にそれを避けつつ、天音(あまね)も応戦してみせる。

「ふん!」

 しかし、ガズルは『獄壊(ごくかい)の魔戦斧(ませんぶ)』を一閃して、あっさりと天音(あまね)の『天狗の旋風(つむじかぜ)』をかき消してしまった。

 数発の撃ち合い。

 だが、このままでは拉致(らち)が明かないだろう。

 何れにしても遠距離での攻撃だけではこの男を倒すことはできないことは天音(あまね)も充分理解していた。

(もう少し)

「これはどうかな?」

「!」

 また、風の刃が飛んでくる。

「しまっ!」

 同じようにかわそうとした天音(あまね)は躱そうとした先の気流が乱れ風の刃が飛んできたことに動きを止める。

 同じと思っていた風の刃は少し遅く、後から放たれた風の刃が今までより速いことで追い抜きざまに気流を乱れさせ、結果逃げ道を塞(ふさ)ぐ効果を齎(もたら)していた。

 二つの風の刃により起こされた気流の乱れのせいで、少し態勢が崩(くず)される。

 その間にも先に放たれた遅めの風の刃が天音(あまね)に迫(せま)っていた。

 気付いたが、反応が間に合わない。

「『妖術『天狗の旋風(つむじかぜ)』!」

 咄嗟(とっさ)に直撃の威力を『天狗の旋風(つむじかぜ)』を当てることにより多少は弱めたものの、やはり直撃は免(まぬか)れずわずかに肩や足の着物が裂(さ)けていた。

「天音(あまね)お姉(あね)さま!」

 木埜葉(このは)だけでなく、その場に集まっていた女の子たちが一斉に息を飲む。

「ほう、軽かったとはいえ、さっきの俺を強襲(きょうしゅう)してきた時の技で直撃を避(さ)けるため、咄嗟(とっさ)に相殺(そうさい)したか」

 そう。

 凌(しの)ぎはしたが 多少のダメージを負うこととなった。

 漆黒(しっこく)の羽根が数枚、夜空に舞い散る。

 天音はゆっくりと大地に降り立った。

(あの技で衝撃波を飛ばせるであろうことは予想が付いていましたが、大地をくじりながらより、思ったよりも速い。翔(と)ぶのは格好の的ですか)

 今ので、少なからず翼を傷(いた)めてしまった。

 飛べないわけではないが、まだまだ速さを増すことが予想できる風の刃を避け続けて翔(と)ぶには無理がある。

「ならば」

 そういうと天音(あまね)は天狗の羽団扇を刀へと変化させた。

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