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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
14/94

第拾肆巻 気の合う二人

第拾肆巻 ()の合う二人


「それじゃあ、絹狸きぬたぬきちゃんの名前は絹姫きぬひめでどうかな?

「はい。有難うございます」

 喜びの表情と共にその圧巻とも言うべき巨大な胸が上下に揺れる。

 今朝、この『牢獄核の間』に来て初めて言葉を交わしたときの何処か引け目を感じているような様子は少し薄れたように典人のりとには感じられた。

「よかったねえ絹姫ちゃん!」

「うん、瞑魔めいまちゃん」

「何か照れるねえ」

 先に名付けが終わっていた『豆狸まめだぬき』の瞑魔めいまと一緒に抱き合って喜んでいる。そう言えば同じたぬきあやかしなので仲が良いとか言っていたような気がすると典人のりとは思い出していた。

 それにしてもこの『豆狸まめだぬき』の瞑魔めいまも『絹狸きぬたぬき』の絹姫きぬひめには及ばないものの、かなりの爆乳の持ち主である。魑魅魍魎たちをこの牢獄核に引きずり込んだ何者かの陰謀か? それとも狸人族の特徴化? どちらにしろこの二人が抱き合って喜んでいる光景は官能的と言うより、圧巻×2の迫力が有る。

(取り敢えずこれは今日のウイニングショットだな。……ウイニングショットは一日に何回あっても良いもんだ!)

 そして今目の前で繰り広げられている素晴らしい光景はしっかりと心のアルバムに加えることを忘れなかった典人のりとであった。

 なにしろ、二人が少しでも身じろぎする度に、その柔らかそうな胸同士が押し付け合いムニュムニュと形を変えているのである。

 典人のりとはしばしその光景に呆けた様に見入っていた。健康的な高校生の典人のりとが拒否する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

「……思いっきり挟まれたい」

 思わずそんな言葉が自然と口から洩れてくる典人のりと

「分かった」

 ところが不意に横合いから声が掛かる。

「へっ?」

 典人のりとがその声に反応すると同時に、典人のりとの身体、腰の辺りに何やら感触があった。

 やわらかいものではない。

 目線を下に下げる。

「えっ? うわあ! 何だこりゃ!」

 見ると自分の腰の周りを巨大なかにのハサミがしっかりとキャッチしているではないか。

 その根元を辿たどって目線を移していくと、左手を大きなかにの手に変化させている、赤髪を後ろで左右二つの三つ編みにしている女の子が立っていた。

 右手は普通の人間の手をしているので、変化させたで恐らく合っているのだろう。

「思いっきり挟んであげるね」

「ちょっ、待っ! ぐえええぇぇぇ!」

 その言葉と同時にかにのハサミに力が入り、典人のりとの望み通り? に思いっきり挟まれていった。

「待って! 待って! 痛い! 痛い! ギブギブッ!」

 思わずハサミをポンポンと二回タップしてギブアップの意思を伝える典人のりと

 それを理解してくれたのか、力を緩めハサミを消し左手を元に戻した赤髪の女の子。

「問題です! 両足8本。横歩きが得意で、眼は天上を見る。さて、わたしは何でしょう?」

 そう言うと再び左手を巨大なハサミに変化させて、まるでカウントダウンでもするかの様にカチカチとハサミを鳴らし始めた。

(今の状況はスルーかい!?  人を挟んだ後、いきなりクイズって……)

「いや、何でしょうも何も、君、『化けがに』だよね」

「正解! 切れるね御館様おやかたさま

「え~っと……ちなみに、外れるとまた、そのハサミで挟まれてたの?」

「ううん、このハサミで……」

「このハサミで?」

「張り倒してた」

「死ぬぞ多分!」

 可愛いが無表情系の顔に微妙に照れた様な表情を浮かべながら変化させた腕のハサミを鋭い音と共に振りぬく化けがにと名乗った少女に、思わず突っ込みを入れてしまう典人のりと

 ちなみに『化けがに』は各地に伝承が有り、旅の僧などに化け、人に問答を仕掛け間違えると殴り殺すという妖怪として知られている事が多い。

「名前」

「マイペースだなあ」

 典人のりとの感想を他所に、今度は両方の手をハサミに変化させて再びカウントダウンをするかの様にカチカチとハサミを鳴らし出す赤髪二本三つ編みの少女。

「わっ、わかったから、そのカウントダウンは止めて! ……バケガニだろ……文字を並び替えて……『はにか』なんてどうだ?」

「はにか……有難う」

 取り敢えず気に入ってくれた様子なので、緊張の糸以外の物が切れなくて良かったと典人のりと安堵あんどの息をらす。

「それにしても何でいきなり?」

「二人を見てて横に進まなそうだったから」

「横に? ああ、前に進まないね。だからって、危ないから無闇にハサミで人を挟んではいけません」

「あたし、間違えた? 不正解? 罰ゲーム、脱皮だっぴしないと」

「脱皮?」

 そう言うとはにかは徐に赤い着物を脱ぎだそうとしていた。

「お待ちなさい! 化けがにさ……はにかさん」

 そこに『川天狗かわてんぐ』の少女が止めに入る。

「何をなさろうとしているのです。無闇に殿方とのがたの前で服を肌蹴はだけさせてはいけませんよ、はにかさん」

 昨夜、自分も羽が作り物でない事を証明する為に脱ぎ掛けたのは何処へやらと口には出さない典人のりとであった。ちなみに『川天狗』の少女は天音あまねと名付けられている。

「でも、絡新婦じょろうぐもが「わっちの世界では罰ゲームは脱衣だついが常識」って教えてくれた」

「あの子は!」

「まあまあ、ここは押さえて。典人のりともユリユリなシーンに見とれてないで先、進めなよ」

 今度は、『やんぼし』……夜星やほしがいきなり影から割って入る。

「そう言っても、いやしは大切だと思わないか?」

「大丈夫、いやしならまだまだたくさんいるから」

 そう言って夜星やほしはある方向を指さして良い笑顔を向けてくる。

「はあ」

 典人のりと夜星やほしの言葉に『絹狸』の絹姫きぬひめと『豆狸』の瞑魔めいまが抱き合っている後方を見やり溜め息をつく。

 言っている事に間違いはない。見ているのが前提であればという話ではあるが。そうであれば、これ程癒しな時間もそうそうないと典人のりとも思う。なにせ、ある種の人がキーワードを見ただけで「もうお腹いっぱい!」とブラウザバックとかそっ閉じとかしそうな美少女のオンパレードの様な状況なのだから。

「やっと、半分くらいか?」

 百人の魑魅魍魎ちみもうりょうの女の子への名前付けを始めて早数時間。

 典人のりとは振り返る。

(100人の女の子に名前を付けるの。意外と直感で行けるんじゃねえ? ……そんな事を思っていた時期、オレにもありました)

 所詮しょせんは一介の高校生に過ぎない典人のりとのボキャブラリーではすぐに壁にぶち当たってしまった。

 他の女の子とかぶってはいけないし、漢字もあまり女の子に合わなそうなのはできるだけ避けたいと考えると、知っている文字で使える文字は結構少ないことに気付かされた。

 改めて自分のボキャブラリーの無さを痛感する事となった。

 名前を着け終わった子も名付け待ちの列から外れてはいるが、典人のりとの周りに残っていたり、少し離れて最初に集まって来た時の様に取り囲む様に輪になって名付けの様子に聞き入っている。

 いずれにしても、この地下ホールから出ていった子はいないようだ。

 皆、興味津々といった顔をしている。

 列は徐々に減っては来てはいるのであろうがホール内の人数が変わっていないので、典人のりととしてはこの名前付けの『百鬼昼行ひゃっきちゅうこう』が果てしないデスマーチの様に感じる。

 だが、改めてそれぞれで名前を教え合うよりも、ここで皆に聞いていてもらった方が手っ取り早くスムーズに先に進めると考え、このままにしておくことにした。

 この場で話せない特性とか妖力については面接の時、改めてマンツーマンで話せば良いと考えている。

「えっと、次の子、どうぞ」

 典人のりとが列に向かって声を掛けると、おそろいのくしを髪に刺し、そっくりな双子の様な少女が息もピッタリに走り寄って来て同時に止まる。見た目、典人のりとと同じくらいの歳だろうか。

 お揃いの服で腕は両肩まであらわにし、下は水着の様になっており両足は太腿まで露出し、その付け根からスラリと伸びた美腕美脚を強調している。鈴姫すずひめと名付けられた『鈴彦姫すずひこひめ』の様なきわどさはないため、どちらかと言えば爽やかスポーツ系美少女双子姉妹と言った感じである。

「「私たち、足長手長あしながてながです、どうぞよろしく。典人のりと様!」」

「バイノーラル」

 『足長手長あしながてなが』はそれぞれ手と足が異常に長い妖で、二人一組で足長あしなが手長てながを背負って魚を取る姿が描かれている事が多い。ただ、今見る限りではスラッとはしているが異常という程ではない。また、龍宮りゅうぐうの話にも登場し、龍王りゅうおう眷属けんぞく須佐之男命すさのおのみこと八岐大蛇やまたのおろち退治の話に出て来る足名椎あしなづち手名椎てなづちとの関連も示唆されている。

「アシナガ・テナガか……じゃあ、足長ちゃんが芦那あしなちゃんで、手長ちゃんが薙那ていなちゃんでどうかな?」

「「ありがとうございます!」」

 二人が息ピッタリに反対のてのひらをお互いにからめて笑顔でお礼を言ってくる。

 その優雅な所作しょさ大和撫子やまとなでしこしかと言った感じであり、何とも破壊力のあるポーズである。

「えっと、次の子、どうぞ」

 こんどは、何ともフリフリとした衣装を身にまとった10歳くらいの二人組が近付いてきた。

牛頭ごずです」

馬頭めずです」

 流石さすがにこの二人の名前には聞き覚えがある典人のりとではあったが、

「なあ、そのフリフリしたドレス姿は一体どうしたんだ? 作ってもらったのか?」

 着物が多い中ではかなり目立つ衣装に、典人のりとも思わず質問していた。

「こちらに跳ばされて人間種の姿になった時にはすでにこの格好でした」

「跳ばした奴の趣味か。牛頭ごずにゴスロリって……」

「ゴズロリ。ちなみに私は多分付きい」

駄洒落だじゃれかよ! 絶対これやったヤツふざけてやがる!」

 『牛頭ごず』らしき少女を見れば、白いゴスロリ衣装に、その見た目の容姿にそぐわない大きな胸が印象的だ。それに対して『馬頭めず』らしき少女は黒いゴスロリ衣装にスレンダーな体系シャープな面持ちが印象的である。

「それじゃあ、牛頭ちゃんが司宇しうちゃんで、馬頭ちゃんが真宇まうちゃんでどうかな?」

「「有難うございます! わたしたち、門の守護なら日本トップクラスです!」」

 二人が自己アピールをすると同時にそれぞれ手に武器が出現した。その武器は二人の小柄な体躯にはそぐわない程大きな刀であり、典人のりとはそのかなり大きめの刀を見て尋ねていた。

「大きな刀? 薙刀なぎなた?」

「わたしのは牛刀ぎゅうとうです」

「わたしは斬馬刀ざんばとう

 二人は胸を張ってほこらしげに答えるのだが。

「……」

(牛頭の得物が牛刀で、馬頭の得物が斬馬刀ってどうなんだろ? 自虐じぎゃくネタにしかならないと思うんだが……)

「「わたしたち、夢は馬頭観音ばとうかんのん様に罵倒ばとうされることです!」」

「とんでも発言頂きました! 自虐ネタどころかドMキャラか!?」

 またも二人が胸を張って自己アピール? をするが、皆が揃っているホール内で言う内容としては、アレ過ぎてどうしたもんかと目線を別の方向に逸らしかける典人のりと

「今は御館様おやかたさまでも構いません。さあ、どうぞ。ご存分にののしってください!」

「どうぞと言われても」

「さあ!」

「さあと言われても」

「「さあ! さあ! 遠慮えんりょせず!」」

「うっ」

 危害きがいを加える事は無いだろうが、巨大な武器を持って迫る二人の異様な程の鬼気迫る迫力に典人のりとは一歩後ろに退しりぞいてしまっていた。

典人のりと、二人に『牛溲馬勃(ぎゅうしゅうばぼつ)』って言って上げると喜ぶ」

 そんな典人のりとを見かねてか、『さとり』の慧理さとり典人のりとの耳元でそっとささやく。

「ぎゅうしゅうばぼつ?」

 典人のりとはその聞きなれない言葉をオウム返しに声に出していた。

「ああ、ご主人様! 罵倒ばとうしていただけるだけではなく」

「同時にわたしたち両方まとめて、いきなりその様なプレイまで要求して来るなんて何て高度な!」

 二人は恍惚こうこつとした表情で馬の様にブルリと身体を震わせた。

「流石はわたしたち鬼畜の長たる方です!」

「末永く可愛がって下さいませ!」

「鬼畜の長って……間違ってはないのか?」

「……典人のりとめられた。良かったね」

「褒められてな……たのか? 慧理さとり! 一体何を言わせた」

「……四文字熟語」

 問われた慧理さとりはすまし顔で答える。

「そうじゃない! 意味だ意味!」

「……勉強したまえ、学生さん」

 尚も問う典人のりとに、慧理さとり典人のりとの肩をポンポンと叩いて答える。にしても、典人のりとより軽く頭一つ分以上小さいため、何とも微笑ほほえましい光景になっていた。

(教える気ないなコイツ。小悪魔系か)

「……♪ 小悪魔じゃなくて、妖怪。これ重要。ここテストに出ま~す?」

「何のテストだよ! それと、何で疑問形なんだ? それは兎も角、このコンビが地獄の門番で大丈夫だったのか? なんかいろいろ心配になるんだが」

「大丈夫ですよ。

「他にも寅頭とか猪頭とか交代の子はいる」

「大丈夫、なのか、それ?」

「「御主人様、わたしたち、牛馬のごとく働かせていただきます!」」

(突っ込んだら負けなんだろうな)

「……突っ込んでも大丈夫だと思う」

慧理さとり、そこまでにしておこうな」

「……言葉責めは趣味じゃない?」

(突っ込まなくても負けなんだな)

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