↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
13/96

第拾参巻 気を付けよう

第拾参巻 気(鬼)を付けよう


 典人(のりと)は少し呆気(あっけ)に取られて列になった女の子たちを眺めていた。

 『木(き)の子(こ)』という山の妖怪で典人(のりと)が『木(こ)の実(み)』と名付けた幼女の行動により、なし崩し的に魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちの名前付けが始まってしまった感じになったからだ。

 日本の妖怪たちも日本人気質よろしく整然と一列に並んで行儀よく大人しく待っているため、この状況で今更改(いまさらあらた)めてとは言いずらくなっていた典人(のりと)は覚悟を決め一気に名前付けを行ってしまおうと気合を入れなおす。

 恐らくは全員並んでいるのだろう。

 少なくともこの地下空間の『牢獄核(ろうごくかく)の間』の出入り口から出て行った子はいないように見えた。

 妖怪名が名前みたいなもんじゃない? と思いがちだが、どうやら当の妖怪たちからしてみればそうではなかったらしい。

 そして今、四人目の子、座敷童(ざしきわらし)を目の前にしている。

「さっきも言ったけど、オレのことも御館様(御館様)じゃなくてもっと気楽に呼んでくれても良いからさ。みんなも呼びやすいように呼んでくれな」

 再度改めて、周りを見渡す様に話しかける典人(のりと)。その言葉に周りの女の子たちはまだ若干困惑気味の様子だ。

「うん、分かったよ。典人(のりと)お兄ちゃん!」

「ああ、それでいいよ」

 それでも典人(のりと)の意を汲んだのか、典人(のりと)と最初に話した座敷童(ざしきわらし)と名乗る少女が呼び方を変えてくれていた。「お兄ちゃん」と呼んでくるのはこのくらいの年齢の少女ならまあ妥当(だとう)なところだろう。典人(のりと)は柔(やわ)らかく微笑(ほほえ)んでその答えに返す。

(急ぐ必要は無いさ。この辺は他の女の子もおいおい慣れて行ってもらえればいい)

 典人(のりと)はそう考え、名前付けに集中すべく座敷童(ざしきわらし)を見る。

 座敷童(ざしきわらし)は最初にあった時の様にニコニコとして立っている。

(勢いで言ってみたものの、自分にそんなネーミングセンスなんてないし、でもそれなりの名前を付けてあげないとな)

 名付けをしようと思った切っ掛けの子である。気合は充分であった。

「『ざしきわらし』と言う事だから……そうだなあ、『さ』と『き』と『ら』を取って『さきら』なんてどうかな?」

 でもやはり典人(のりと)のネーミングセンスでは咄嗟にはこれが限界であったようだ。

「『さきら』かあ。えへ、『さきら』『さきら』」

 それでも喜んでもらえたようで座敷童(ざしきわらし)の少女は、自分の名前をとても嬉しそうに噛(か)みしめるように繰り返していた。

「有難う! 典人(のりと)お兄ちゃん!」

「どっ、どういたしまして。これも名付け親って事になるのかな? ははっ」

 照れくさそうに鼻の頭を掻(か)く典人(のりと)。

「親? お父さん?」

「お父さんはちょっと。ボクはまだ高二だよ」

「こおに? 小鬼!? ……御館様は人間でしょ?」

「ああ、『コオニ』じゃなくて『コウニ』ね。高校二年生。学生だよ。分かるかな?」

「な~んだ。そうだったのかぁ。えへへ、わたし勘違いしちゃったよ」

 屈託のない満面の笑みで白い歯を見せる座敷童(ざしきわらし改め、さきら。

 つられて典人(のりと)も笑顔になる。

「……次は私」

 さきらの後ろから覚(さとり)が歩み寄ってくる。

 そして、典人(のりと)の前に立ち止まる。

「……エッチ」

「あのお~、もしもし、まだ何も言ってないんだけど」

 立ち止まっての第一声がこの上なく理不尽な言われ様に口の端をひくつかせる典人(のりと)。もしかして先程の典人(のりと)の部屋の前での出会いがしらの衝突未遂による抱きしめの一件が引っかかっているのだろうか?

「……ここで典人(のりと)の頭の中で、私の妄想着替えシーンが流れる予定」

「ねえよ、そんな予定。どんな予定だよ!」

 どうやら関係ないらしい。

「……違うの?」

「違ってな……じゃなくて、他に言う事は無いのかよ」

 覚(さとり)はその言葉に可愛らしく小首を傾(かし)げる。

「それから、どうせ見るなら妄想着替えシーンじゃなくて、妄想シャワーシーンだ!」

 典人(のりと)は両腰に両手を当て胸を張って断言する。

「……正直者?」

「心が読めるのに、無駄に嘘(うそ)ついてもしょうがないからな」

「!」

 覚(さとり)はその言葉に素直に驚いた様な表情を浮かべた。

「脱線しちまった。名前を付けるんだったな。そうだなあ……」

「……♪」

(それじゃあ、「覚(さとり)」は「さとりちゃんで)

「……安直過ぎ、もっと考えた名前を希望する」

「まだ何も言ってないんだけど……心を読んだのか? 勘弁してくれよ。ここにいる100妖(よう)? 100鬼(き)? ああもう、100人でいいや! その100人に名前を付けるんだぞ。とてもじゃないけど、考え着かないし、考えられても覚えきれないし一致しなくなる。分かり易いのが一番だ」

「……なら、せめて漢字を当てて」

「そのこだわりは?」

「……平仮名だと只の読み仮名になってしまうから」

「何だよソレ。……はあ、分かったよ。それ位なら考えるよ。なぁ、他の子も漢字じゃなきゃダメか?」

「……それは、その子たちが考えると思う」

(助かったぁ。正直そんなに漢字詳しくないぞ。姓名判断とか画数判断とかさっぱり知らないし)

 典人(のりと)はほっと胸を撫で下ろしていた。名前を付けるからにはちゃんとした名前を付けては上げたいが、ゲームクリエイターじゃないんだから、そんなにホイホイとぴったり合った名前が思い付く訳もなく、できれば今後の為にも速く覚える為に名前と特徴を一致させておきたい。となれば、シンプル・イズ・ベストである。

「じゃあ『理に慧(さと)いで『慧理(さとり)』でどうかな?」

「……慧理(さとり)……うん♪」

 慧理(さとり)は感情は見えにくいが喜んでいる様ではあった。

(はあ、自分で言って何だが、まだあと95人のこってるんだな)

 典人(のりと)は心の中で大きく溜め息をつくのであった。

「……頑張れ、お父さん……将来、子供を作った時の名づけの練習になる」

「おまっ! 何言ってるんだよ。って言うか、また人の心を読んでるだろ」

「……あっ、まんざらでもないんだ。相手はこの中だと……」

「おわあ。ちょっと、慧理(さとり)! いや、慧理(さとり)様! それ以上は止めようか」

 典人(のりと)は慌(あわ)てて慧理(さとり)の口を塞ごうとするが、慧理(さとり)は難なくその手を躱(かわ)す。

「……仕方がない。先に進まなくなるし」

「はあ、分かってるなら、勘弁してくれよなあ」

「……♪」

 何かいきなりドッと疲れた様子の典人(のりと)に対し、慧理(さとり)の方はというと、とても機嫌が良い様子に見える。

「つっ、次、の人」

「我(われ)は山婆(やまんば)じゃ。我(われ)に良き名を付けるのじゃ」

 トテトテという擬音が聞こえてきそうな足取りで近づいてきた少女、もとい幼女が時代掛かった口調で話掛けてきた。多分サンダルを履いていたらピコピコという音がするに違いないと典人(のりと)はその音を幻聴(げんちょう)していた。

(これが、鬼婆(おにばば)!? ロリBBAの間違いだろ? しかも「のじゃロリ」じゃねぇか)

「……典人、それは妖怪に失礼。妖怪の存在理由を否定しかねない」

「だってさあ、鬼婆(おにばば)なのにこの外見だぞ! ってあのぉ、慧理(さとり)ちゃん」

「……なあに? 典人(のりと)♪」

「隣に張り付いて、オレの考えを読むのは止めにしませんか?」

「……ダメぇ?」

 天人(のりと)は上目遣(うわめづか)いで見上げてくる慧理(さとり)に思わずドキリとしてしまう。

 実にあざとい。

 完全に遊ばれている。

 手玉に取られている

 心が読める美少女である。小悪魔どころの騒ぎではない。

 多分、全くもって勝ち目がない。勝てる気がしない。

「ああ、御館様よ。間違えんで欲しいんのじゃが、我(われ)は鬼婆(おにばば)ではなく山婆(やまんば)なのじゃ」

「へっ?」

 正直、典人(のりと)は言われた違いが分からなかった。

「そうじゃのう。歌舞伎(かぶき)や能(のう)で演じられているのが鬼婆(おにばば)で、我(われ)は昔話(むかしばなし)の「三枚のお札」の方なのじゃ」

 何となく分かったような分からないような典人(のりと)であった。

「ゴホン。それで、我(われ)の名の事なのじゃが」

「おおっ、済まない。そうだな、それじゃあ……」

(『やまんば』だろ。『や』と『ま』と『は』を使って『や』と『ま』を入れ替えて……漢字は、ロリBBA聞いた後だと『ま』は麻婆豆腐しか出てこないし……)

「『麻弥刃(まやは)』なんてどうだ?」

「麻弥刃(まやは)か……うん、良い名なのじゃ。気に入ったのじゃ! 礼を言うのじゃ」

 満面の笑みを浮かべた麻弥刃(まやは)のあどけない笑顔を見ると、安直な名前の付け方に、少し罪悪感が芽生える気がするが本人が気に入ってくれたなら良しとしようと典人(のりと)は頭を切り替えることにした。

「……開き直った」

「切り替えたと言ってくれ!」

 麻弥刃(まやは)のピコピコと幻聴の聞こえてきそうなトテトテという歩きの後姿を眺めながら典人(のりと)は慧理(さとり)に答えていた。

「次の子、どうぞ!」

 典人(のりと)は列の先頭に向かって声を掛けた。

「は~い!」

 今度はオーバーオールのスカートに赤い靴を履いた白のハイソックスという姿の元気の良さそうな女の子が走ってきた。

「兎人(うさぎにん)? 比較的現代風だな」

 典人(のりと)の前で軽くジャンプしてピョンと停止した女の子は、クリッとした赤い瞳にショウトカットの髪の毛の上の方からピョコンと飛び出した二つの白くて長い耳が特徴(とくちょう)的だ。年のころは11~12歳くらいだろうか。

 典人(のりと)は兎(うさぎ)の妖怪って何だろうと考える。が、意外と思い当たらない。昔話とかでは結構出てくるのになあとは思うのだが、妖怪の類となると浮かんでこない。

「ケセランパサランです。よろしくお願いします典人(のりと)お兄さん」

 そう言うとケセランパサランと名乗った少女はぺこりと可愛らしくお辞儀をしてきた。

 長い兎の両耳がピコピコと動き、実に愛らしい。

「ケセランパサランって、あのぉ、フワフワした毛玉で持っていると幸運になるって言う、あれ? だよね」

 典人(のりと)は自信なさげに問いかけた。確か田舎で御爺ちゃんからそんな話を聞いたような気がする程度のうろ覚えだったからだ。

 その当時はちょっとしたブームにもなったようだが、典人(のりと)の生まれる遥(はる)か昔の話である。

「はい! よくご存じですね」

「小さい頃に田舎で、空から雪が降ってきたのに喜んではしゃいでいた俺に、爺ちゃんが話してくれたことがあったんだよ」

「何だかうれしいなあ、えへへ」

 はにかんだ様に照れ笑いをする少女。

(まったくもって面影がないなあ)

 昔聞いたイメージからそう思いつつ、名前を考え始める典人(のりと)。

(ケセランパサランって長いから、ここはシンプルに)

「それじゃあ、世良(せら)ってどうかな?」

「はい! 有難うございます典人(のりと)お兄さん!」

 一回軽く跳ねて喜ぶ世良(せら)。

「あっ、そう言えばケセランパサランって、確かおしろいが好きだったよね。ベビーパウダーで良ければ持っているけど、それでも大丈夫?」

「本当ですか!!! わーい、嬉しいなあ! でも何で典人(のりと)お兄さんはそんな物持ち歩いていたんですか?」

「何日もの歩きでの旅だと、炎天下(えんてんか)で何時間も汗だくで歩くから、汗疹(あせも)対策で持ってたんだよ。いやあ、リュックサックを背負ってる肩の部分とかにできると擦(こす)れて痛いんだよね。これが」

 頭の後ろに手をやりながら典人(のりと)が照れたように笑って答えた。

「できれば無香料無着色のものだと嬉しいのですが」

「ああ、それは大丈夫」

「では、少しでいいですから分けて下さい」

「いいよいいよ。全部上げるよ」

「いえ、あまり多くても良くないので、もし良ければ少しずつご褒美(ほうび)として下さい」

「分かった」

 謙虚(けんきょ)な子だなあと思いつつ典人(のりと)は世良(せら)の頭を軽く撫(な)でた。ついでにそのフワフワで柔(やわ)らかそうな長い耳もしっかりと撫(な)でていた。

「でも何で外見が兎人(うさぎにん)? ケセランパサランって、白い毛玉ってイメージしか浮かばないんだけど」

 典人(のりと)はひとしきり世良のフワフワの耳の感触を楽しむとその手を世良の頭から離し、ふと思い浮かんだことを口にした。

「ちゃんと毛玉ですよ。ほら」

 そう言うと世良(せら)は、徐(おもむろ)に後ろをくるりと跳ねて向き直り、いきなりスカートをたくし上げお尻を丸出しにした。

「なっ! 何やってるんだよ世良(せら)」

「何って? これですよ。これ。ちゃんと見てください典人(のりと)お兄さん」

 そういうと可愛らしいパンツの上からちょこんと出ているふわふわの毛玉を指さして顔だけ笑顔で典人(のりと)の方を振り返っている。

 よく見ると(ガン見と言う意味で)、可愛らしいお尻を包んでいる薄いピンク色のパンツの上に、確かに典人(のりと)のイメージするケセランパサランの毛玉の形をしているフワフワの物体がその存在を主張していた。俗に言う、兎のシッポである。

「って、本体それかよ!」

 突っ込みを入れながらも視線はまくり上げているお尻にロックオンして離さない。

 典人(のりと)はそれを食い入るように見ている。健康的な高校生の典人(のりと)が拒否(きょひ)する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

「典人(のりと)様」

 隣にいた『木霊(こだま)』の麗紀(れいき)が、たしなめるように声を掛ける。

「えっと、世良(せら)ちゃん、いいかい。女の子なんだからもっと恥(は)じらいを持ってだね。まあ、無邪気なのは可愛いけど、恥(は)じらいというのは大切で、チラリズムという様式美も捨て難くてだな」

 しっかりガン見しておいて、今更説得力の欠片も無い事を言う典人(のりと)。

「……典人(のりと)、諭(さと)す方向が間違ってる」

 慧理(さとり)が的確に突っ込みを入れてくる。典人(のりと)も内心では慣(な)れないことはするもんじゃないなと分かってはいたのだが。

「はじらい?」

 言われた世良(せら)は何の事と言わんばかりにキョトンとしてしまっている。

「典人様、もともと人や動物の形を取っていなかった者達に、そう言った類の事を求めるのは難しいかと」

 自身も元は人由来ではなかった木の霊である麗紀が説明する。ただ麗紀は樹齢が長い上、元の日本でも人の姿を取ることが出来ていたため多少は人間の機微(きび)の理解はあるようだ。

 典人(のりと)は一つ咳払(せきばら)いをしてから、真面目(まじめ)な顔を装(よそお)って世良(せら)に言った。

「ゴホン。とっ、兎に角だ。他の人の前でやってはいけませんからね」

「はーい」

 元気の良い返事が、世良(せら)から返ってきた。

(今日のウイニングショットだな)

 そして、先ほどの素晴らしい光景はしっかりと心のアルバムに加えることを忘れなかった典人(のりと)であった。

「次の人、どうぞ」

 典人(のりと)は次の女の子に声を掛ける。

「はい!」

 列の先頭に並んでいた12~13歳くらいの女の子が走り寄ってくる。長い癖のない綺麗な黒髪で前髪は真ん中から三角に額が見える様に分けている。所謂日本の昔のおてんば姫といった感じの少女であった。

「わあ、近くで見ると一層好みの顔のタイプ!」

 妙に体を密着させてくる。

「私(わたし)、清姫(きよひめ)と言います。よろしくお願いしますね典人(のりと)さま。良い名前を付けて下さいな」

「えっと、『清姫』ってすでに名前がちゃんとあるよね。だから、付け直す必要ないんじゃないかな?」

「そんなあ! これは禊(みそぎ)なのですから、典人(のりと)さまに名前を付けてほしいです」

「禊(みそぎ)って……でもさあ」

「一目ぼれなんです。ぽっ」

「えっと、名前を付けるんだったよね」

 典人(のりと)は慌(あわ)てて話題を変えた。いや、元に戻した。

(え~っと「きよひめ」をそのまま使って、禊(みそぎ)っていってたし、あとは合いそうな漢字を当てて……)

「『世を祈る女の子」で『祈世女(きよめ』)って言うのはどうかな?」

「『嫁(よめ)』ですかあ! そんなあ、典人(のりと)さまあ」

(しまった! 引っかかったのそこ!? こりゃあ、名付けに失敗したか!)

「それならいっその事『嫁希望』で『希嫁(きよめ)』でも構いませんよ!」

「いっ、いや、禊(みそぎ)の意味もあるんでしょ? 祈世女(きよめ)でいこうね」

「そうですかあ。典人(のりと)さまがそう言われるのでしたら、私何でも従います! ポッ」

「うっ、うん。そうしてくれると俺も嬉しいなあ、ははっ」

「はい! 不束者(ふつつかもの)ですが末永くよろしくお願いいたします、旦那様(だんなさま)! あっ、不束者(ふつつかもの)と言っても太くもゴツゴツもしていませんよ。何でしたらご覧になりますか、旦那様(だんなさま)?」

 祈世女(きよめ)はちゃっかりどさくさに紛れて『典人(のりと)さま』から『旦那様(だんなさま)』に変えている。

好きに呼んで言いと言った手前、よほど変な呼び方で無ければ気にしないつもりであった典人(のりと)ではあるが、この呼び方は想定していなかった。何故か背中に冷たいものが流れる様な感覚がしている。

「いっ、いや、ともかく、よっ、よろしくね、祈世女(きよめ)ちゃん」

「はい、そちらの方は残念ですがまたの機会に。嫁が旦那様の御仕事を妨げてはいけませんね。それでは何時でもお待ちしております、だ・ん・な・さ・ま」

(物凄く可愛いのだけども何かこの子ヤバい気がする。逃げねばという本能が働くのだけど逃げるとさらにヤバい事になりそうなそんな漠然とした不安が止まらない)

 この勘は正しい。

 清姫(キヨヒメ)は古典芸能などの説話で『安珍清姫(あんちんきよひめ)』として登場している。

 旅の僧侶として立ち寄った美男子の安珍(あんちん)に一目惚れした清姫(きよひめ)が安珍(あんちん)に置いて行かれたことに激怒し蛇の姿となって追いかけ、最後は寺の鐘の中に隠れた安珍を火を吐いて焼き殺したという伝説がある。

 この時、典人(のりと)は生まれて初めて『男の勘』と言う物が確かにあると思えていた。

 『女の勘』ではない『男の勘』である。それは一種の緊急警報に他ならないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。