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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
96/147

秘匿された過去への旅行計画 1/6

―ルクスディーヌの街にある、サリワルディーヌ大神殿の傍にある貧民窟(ひんみんくつ)



……サリワルディーヌ大神殿傍に在った、貧民窟が聖騎士団によって制圧された日の夜から話を始める。


夜の闇が町中を包む頃、この聖なる(ルクスディーヌ)は騒動によって揺れていた。

最初の悲鳴が貧民窟から起きた後、時を同じくして貧民の棲家(すみか)が火を()く。

密集した家が立ち並ぶスラムは、たちまちのうちに恐慌(きょうこう)状態(じょうたい)(おちい)った。

燃え盛る家の光は闇を照らす。

この狂暴な(ともしび)に浮かぶ人々の影、(あらわ)になる逃げ(まど)群衆(ぐんしゅう)の姿。

……広がる火の手、火によって(せば)まる逃げ道、上がる悲鳴、この光景に(おび)える人の絶叫。

身を(ひそ)める暗がりは消え()せ、代わりに現れた倒壊(とうかい)する家屋(かおく)……

そして、貧民を追い立てる武装した聖騎士団の兵士達。

剣や盾がキラキラと(きら)めき、その鉄の輝きに群集はさらに恐怖する。


「大衆の中に魔物が紛れてる!

気を付けろ、広場に全員を隔離(かくり)しろ!」


そんな(けだもの)じみた夜に、兵士に対し大声をあげて騎士達が指示を飛ばした

それに従い、兵士達は人々を広場に追い立てる。

こうして手際(てぎわ)よく混乱を鎮圧(ちんあつ)させる聖騎士団……

そして当たり前だがこの騒動が野次(やじ)(うま)を呼び寄せた。

こうしてこの日、別の市街地から駆け付けた野次馬達は、夜が更けるのも気にせず、バリケード越しに貧民窟や。制圧される貧民達を見た。

野次馬たちはヒソヒソと噂話(うわさばなし)を交換する。


『おい、神殿(しんでん)(そば)の貧民窟は警察も踏み込めないんじゃなかったのか?』

『その(はず)なんだが、あそこの住民がどうやら聖騎士団を侮辱(ぶじょく)したらしいぞ。

アルバルヴェ騎士館の従士から()覆い(バーク)を(うば)って見世物(みせもの)にしたらしいぞ。

そうしたら日没後(にちぼつご)、そのアルバルヴェ騎士館の従士達が、ついに貧民窟を焼き払ったそうだ』

随分(ずいぶん)(くわ)しいな……

アレか、例のお金が無くて生活が厳しい従士から情報を聞き出したのか?

誰がやったんだ、有名な従士か?』

『ラリーって奴らしいぞ……』

『ラリーって誰だ?』

『血に飢えた“狂犬”だよ。

ベニート川沿いの騎士が運営している孤児院があっただろ?』

『ああ、あそこね……』

『ラリーはあそこの従士だが、侮辱したら徹底的に相手をブチのめす事で悪名高い。

今回貧民窟を焼き払ったのも、そのラリーだってよ』

『そんなにひどい奴なのか?』

『ああ、人を刺すことに何のためらいも無いってよ。

そしてそいつがついさっき、貧民窟に忍び込んでいた、リザードマンを発見したんだ。

どうやら人間に化けて貧民窟の中に紛れ込んでいたらしい』

『マジか!だとしたらラリーって奴は手柄(てがら)を立てたな。

だが、そうすると……大神殿は犯罪者どころか、魔物を自分の区域内に住まわせていたって言うのか?』

『そう言う事だな、たぶん騎士団は前々(まえまえ)から怪しいと思っていたんだ。

そうじゃなきゃさすがに(デウレ)保護権(プロテクツ)が設定された聖域を、派手に燃やしたりしない。

それにラリーって奴は迷いも無く、このリザードマンが経営していた、店に踏み込んで、ブスッと奴を剣で刺したそうだ』

『じゃあ、アルバルヴェ人達はこっそり貧民窟を内偵(ないてい)して、怪しい奴をもう洗い出していたって事かっ?』

『ああ、そうじゃなきゃあんなに手際よく人間に化けていた魔物を洗い出したりなんかできねぇ。

被保護権が設定された場所を調べるんだ、人に()められない事だって何でもするさ……

……(聖騎士は)まったく恐ろしい連中だ。

コソコソ()ぎまわって、色んな事を知っていやがる!』


そう話し合っていると、別の物知(ものし)りが会話する彼等に割り込んでこう言い始めた。


『よう久しぶり、こんな所で出くわすとはな』

『おお、一か月ぶりぐらいだな』

『話が聞こえたんでついつい聞いちまったよ。

盗み聞きしたみたいで悪いな』

『ああ、別にいいよ』

『それよりもいきなり話の続きをして悪いけどなぁ。

俺が思うにこれからの問題は、聖騎士団とサリワール(サリワルディーヌ信者の事、この場合は大神殿の神官達が正しい意味)がいよいよ()めるだろうという事だ』

『ああ、まぁ聖域が燃えてるしな』

『大神殿の被保護権がこうもあからかさまに無視されたんだ、これをそのまま放っておけば大神殿の権威(けんい)失墜(しっつい)する。

そもそも大神殿の被保護権が当てにならないとなったら、いったい誰が大神殿の為に働くよ?

アテにならねぇ神官達の為に、働く馬鹿は居ねぇよ、それならバルミー(ラドバルムス信者)か、フィロリアン(女神フィーリア信者)になろうかと皆言い出す』

『バルミーはともかく、フィロリアンになる奴が居るか?

だって外国の女(正確には女神)じゃねぇか……』

『馬鹿ッ、だってあの貧民窟を見てみろ!

怖いもの知らずであんな事(スラムの焼き討ち)が平然と出来る連中だぞ?

アイツらの下につけば怖いもの知らずに過ごせるだろうが。

明日からフィロリアンに喧嘩(けんか)()る奴が街に出ると思うか?

ヘタこいて聖騎士団を怒らせたら、アイツ等(貧民達)みたいになるだろ!』

『ああ、そうか』

『とにかくこれからサリワールは巻き返さないと(しぼ)む一方だ。

だけど魔物の潜伏先(せんぷくさき)に聖域を使われていたことがこうして、世間(せけん)(さら)された。

聖地フォーザック王国は、フィロリアンの王が治める国だ……

当然反乱分子や、人間を襲う魔物達の潜伏先なんか、街の中に残す筈が無い。

もしかしたらサリワルディーヌ大神殿に与えられた、被保護権は剥奪(はくだつ)されるかもしれないぞ。

何せアレは聖騎士団にとっては目の上のたん(こぶ)だった……

そして王だって、聖域をそのように使われるのは不本意だろう。

王国の建国にサリワルディーヌ大神殿が、大きな貢献(こうけん)をしたからと言っても、今の王にとっては関係も無いしな。

全ては昔の王が受けた恩だ……』


こうしてルクスディーヌの街では、事情に明るい者達が噂話を一斉に振りまく。

そして噂が世論(よろん)を形作り、そして剣を交えない“新しい戦い”の為の武器となる。

……実はこれは余所者(よそもの)と、一筋(ひとすじ)(なわ)ではいかない現地に精通(せいつう)した者の戦いなのだ。


この事件をきっかけに、聖戦の成功を目指す一部のフィロリアンは、その障害(しょうがい)となったサリワールを、町の運営から排除(はいじょ)しようとし始めた。

と、言うのも。

元々聖騎士団に対して協力的では無かった、サリワルディーヌ大神殿とその神官達は、聖騎士団にとって好ましい存在ではない。

……もちろん聖騎士団に所領や荘園を守護(しゅご)してもらっている、元侵略者達の子孫、つまり聖地フォーザック王とその下の貴族も同じだ。

つまり現在サリワール達は、排除とまではいかないまでも、無力化したいとフィロリアン達に思われているのだ。

それに対し既得(きとく)権益(けんえき)を守りたいサリワルディーヌ大神殿はそれに反発していた。

だから結果として、貧民窟を燃やしてしまったラリーは、この状況をいよいよ白日の下に晒してしまった事になる。


……ここで改めて、今回ラリーがした事を列記しよう。

潜伏した魔物を偶然(ぐうぜん)にも発見し。

聖騎士団を侮辱した者を後悔させ。

大神殿が保護していた筈の区域において被保護権を否定するかのように、焼き討ちを行った(もちろん彼が街に火を放ったわけではないが、皆からはそう(もく)されている)

彼が叔父から(なぐ)られたのはこの“やりすぎ”を(とが)められたからだ。

特に貧民窟に火を放ったのは、サリワルディーヌ大神殿の権威の否定と同義である。

あそこは神殿の区域であり、そこを異教徒に派手に破壊されたのは、さすがに大神殿も見過ごすことが出来ない。

大神殿は聖域侵略の不当性を世間に訴え、聖騎士団は自らの行動の正当性を、治安などの意味で訴えた。

……それに対して聖騎士団は言う。

大神殿は犯罪者を匿い、ルクスディーヌを危険に晒すつもりなのか?……と。


派閥対立が深刻化し始めたルクスディーヌ。

ドイド・バルザックはラリーが、その政治状況を作り出すきっかけになったのだと、思った。

だが、ラリーが殴られるその前に、彼を(かば)う声が、意外な所から実は上がった。

ダナバンド王国出身の、聖騎士団総長デアメア・グラディオが庇ったのだ。

もちろんラリーは総長に会って話した事も無い。

なぜ彼がラリーを助けたのか?については後日お話しする。


長らく更新に時間がかかり申し訳ございません。

次回の更新は 2/16 7:00から8:00の間となります。

宜しくお願い致します。

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