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俺の騎士道!  作者: 多摩川
青年従士聖地修行編
97/147

秘匿された過去への旅行計画 2/6

―その翌日


「さぁさぁ、買った買った!」

「今なら、(なつめ)一籠(ひとかご)4フローリン(アルバルヴェのお金で3サルトぐらい)だよ!」


ルクスディーヌの市場では、店を構える近場の農民や、商人たちが声を張り上げて商品を売る。

市場は本日の食材を求め、多くの人がごった返していた。

ラリーが謹慎(きんしん)を言い渡された翌日、孤児院傍の市場はあの騒動が嘘の様に、変わらない日常を()り返す。


その市場の中で、ひときわ目立つ美しい女が、買い物籠を右手に下げて歩いている。

長い髪を一纏(ひとまと)めにして、右肩から体の正面に流す、大人と少女が混ざった怪しげな美貌(びぼう)

どこか(りん)とした表情を見せ、そして(のぞ)いた店の店員と楽しげに談笑する。

そして何よりも印象的なのは、とても()んだオリーブグリーンの瞳だ。

……最近この市場に良く買い物に来るようになったこの女性を見て、多くの男がニヤニヤと笑いながら溜息(ためいき)を吐いた。

そして今日も、果物屋(くだものや)の店前で店員二人が彼女の事を噂しあっていた。


「可愛いな、あのツンとしたところがたまらない」

「いやいや、ツンとしているのは見た目だけだって。

俺の叔父(おじ)さんがあの子に、(かみ)()めを売ったんだけど、愛想(あいそ)が良かったってよ」

「今日は、あの背の高い彼氏は来てないみたいだな……」

「なら、声をかけるチャンスだな……」


彼等はそう互いに声をかけると、早速彼女に声を掛けようとした。

……するとその(そば)の、香辛料屋(こうしんりょうや)のおやじが彼等に急いで声をかけたのである。


「やめとけ、お前ら」


止められて面白くなかった彼等は食って掛かる様に、香辛料屋のおやじに声を上げた。


『どうしてだよ!』


すると香辛料屋のおやじが、警戒心も露に声を潜めて果物屋の二人にこう説明した。


「お前ら、あの子の背の高い彼氏の正体を知らないだろ?」

「ああ、なんかこの近辺で頻繁(ひんぱん)喧嘩(けんか)していると聞いた事があるぐらいだが……」

「……それだけじゃない。

昨日大神殿傍のスラムが、聖騎士団に(さか)らった挙句(あげく)、聖騎士団に焼き払われたのは知っているだろ?」

「あの貧民窟の話?

ああ、もちろん知っているけど」

「実際に聖騎士団の誰が焼き払ったのか、までは知らなさそうだな」

「ああ……」

「あの子の彼氏だよ」

「ええっ!」

「あの子の彼氏はな、想像以上にやばい……完全に頭がイカれてる」


そう言うと、香辛料屋のおやじは、素早(すばや)く周囲を見回すと、声を潜めて彼等に話した。


「俺も今日初めて知ったんだがな。

あの子の彼氏は、聖騎士団の中でも有名な従士だ。

名前はラリー・チリ。

別名は“狂犬”ラリー……

アルバルヴェ人だが、あまりにも素行(そこう)が悪く、何でも小姓(こしょう)だったころに従士の両足をへし折り、そして川に投げ捨てた男だ」

『ええっ!』

「それだけじゃない、侮辱を受けたらたちどころにキレ、そして相手を半殺しにするまで決して許さない。

また剣術の腕も確かで、アルバルヴェ騎士館の中でも、騎士を除けば3本の指に入る腕前だそうだ。

そして相手を剣で切ったり、刺したりすることに無上の喜びを覚える、生まれついての殺人鬼なんだとさ」

「そ、そんなやばいのが、どうして聖騎士団に居るんだよ!」

「そこまでは俺もわからん。

だが言えるのは、アイツはそんな血に飢えた“狂犬”で。

それを危惧(きぐ)したアルバルヴェ騎士館ではとても奴が、手に負えないから追い出したんだ。

そしてそれを拾ったのが、“狂犬”ラリーよりも何倍も強い豪傑(ごうけつ)である、ソードマスターの騎士ヨルダン。

だから奴はアルバルヴェ人でありながら、同盟騎士館に所属して、騎士ヨルダンの盾持(たても)ち従士を(つと)めている」


香辛料屋のおやじの話に、果物屋の二人は顔を青くした。

そして人ごみの中に消えようとしている“狂犬”の彼女の後姿を見る。

そんな彼等に香辛料屋のおやじが言った。


「ラリーを見ても、たぶんそうは見えないだろうがな。

だが昨日、俺の知り合いが貧民窟で遊んでいて、夕方から騎士団に包囲(ほうい)されたから仕方なく酒場で飲んでいたんだ。

すると聖騎士団に追われて、男が逃げ込んできたんだが、そこにラリーが現れた。

奴は躊躇(ためら)いも無く人を斬りつけ、そして奴に逆らったその酒場の店主の(ふと)(もも)を顔色一つ変えずにブスッと剣で刺した!」

『…………』

「酒場の床は血まみれさ、()いが()めるような光景だったそうだ。

酒場の店主はそれでもラリーを(ののし)った。

そうしたらどうなったと思う?」

「分からねぇよ……」

「……あの女の彼氏は(うれ)しそうに笑うと。

ナイフで店主の鼻を()いだんだ……」

『!』


(ちな)みにこの話は(うそ)である。

だが今更真実を知る(すべ)もない。

そして何よりも重要なのは……話としては、ソチラの方が面白いという事だ。

話を聞いた人の心臓(しんぞう)を、(うそ)鷲掴(わしづか)みにする。

これを聞いた果物屋の店員二人は、無意識のうちに、自分の鼻を(さわ)った。

そして恐怖が胸を締め付ける。

それを見た香辛料屋のおやじ、彼は再び周囲を見回すと彼等に言った。


「本当にやばい奴は、やばそうには見えないモンなんだ。

ラリーの事はよく知っている、奴はウチで頻繁に生姜(しょうが)を買うからな。

アイツはウチの生姜が大好物なんだ。

しかも値切ったりもしないし言い値で買う。

よく笑うし良い奴なんだよ……

だけど一言でも奴を侮辱してみろ、アイツは本当に血の気が多い。

しかも人を殴るのに一切(いっさい)躊躇(ちゅうちょ)しねぇ。

実際、この市場でも何人かの奴がラリーに殴られてる。

だから俺は、ラリーが買う生姜は、その日獲()れた一番いいモノにしている。

アイツは言い値で買うから、それでちゃんと(もう)けも出るしな。

お前らもおかしな物を売らない方がいい、だったら良い物を少しだけ高く売った方がまだマシだ。

それと……ラリーの女には手を出すな。

お前達の鼻がなくならない様に、忠告しておくからな」


そうまで言われたら、二人はあの可愛い“狂犬”の彼女に声をかけるのを(あきら)めた。

あんな美しい女の子はそうそういないが、だからと言って彼氏に自分の鼻を削ぎ落されるなんて御免である。

遠くでは野菜を買った彼女に、野菜売りのおやじが「あんたの彼氏に、俺が親切だったと伝えておいてくれ!」と言っているのが聞こえる。

美しいオリーブグリーンの目をした彼女は、それを聞くと、顔を真っ赤にして微笑み、そして足早に市場の奥へと向かう。

あそこは肉屋が並ぶ通りである。

香辛料屋のおやじと果物屋の二人は『きっと鶏肉(とりにく)を買うのだろう……』と話しながら、しばらくラリーの話をし始めるのだった。


◇◇◇◇


ここ最近、俺の趣味(しゅみ)が変わった。

この家の俺の城と言えば台所(キッチン)である……

俺はその台所の中にある、香辛料が入った小瓶(こびん)が並ぶ、戸棚(とだな)(なが)めるのがマイブームなのだ。


クミン、ナツメグ、グローブにチリ……そして生姜、にんにく、胡椒(こしょう)にオリーブオイル。

食べる物を美味(おい)しくしてくれる、素敵な仲間達。

こいつらの手にかかれば、あの(ひど)(にお)いがする塩漬けの豚肉だって早変わりする。

塩漬けの豚肉にグローブをさっとまぶし、そしてオーブンから取り出すときの姿が分かるだろうか?

肉汁やタレを何度も上から(かさ)()けし、飴色(あめいろ)に変わった豚肉が、油をジュープシューと()き上げながら、グローブの甘く香ばしい香りとともに現れるその様を。

そして一緒に焼いた豚肉が乗ったプレートの野菜が、豚肉の旨味(うまみ)を十分に吸い込み、(あや)しく輝くその姿。

……香辛料がこの世に在ってよかったと思える瞬間である。

俺は今日の献立(こんだて)を考えながら、代わりに買い物をしてくれた、レミの帰宅を待っていた。


「今日は何を買ってくるかなぁ……」


買い物をレミちゃんにお願いした俺は、細かい注文を付けずに、彼女の食べたいものを買ってくるようにお願いした。

明日も時間があるので、時間がかかる料理でも、作ってやろうと考える。

こうして待っていると、ついにレミちゃんが帰って来た。


「お帰り、何買ってきたの?」


そう言って出迎(でむか)えると……

明らかに不機嫌そうな彼女が立っていた。

……何が起きたのでしょう?


『…………』


レミちゃんは俺を(にら)みつけると、そのまま俺の脇を通り過ぎ、(けわ)しい空気を(まと)わせたまま台所に入る。

俺はそのまま彼女の後ろを追いかけ、そして声を掛けた。


「な、何……何か市場で言われたの?」


すると彼女は「はぁ……」と(こと)(さら)不機嫌(ふきげん)そうに溜息を吐き、俺を睨むとこう言った。


「市場はお前の噂でいっぱいだった。

お前のせいで私までも“狂犬”だと思われた」

「誰がそう言ったの?

言った奴を見かけたらそいつに礼儀(れいぎ)を……」

「だからなんでそうなるんだ!

騎士は昔から“礼儀(れいぎ)だ、敬意(けいい)だ”とうるさいが、その中でもお前は特におかしい!

お前の代わりに買い物に行くだけだと思っていたら、野菜を売る店で、お前に”俺が親切だったと伝えてくれ“と言われた。

それ以外の奴も、お前を恐れて私に声もかけない。

お前のこれまでが、何もしていない私の評判までも()(おとし)めている!」


お……おうふ。

なんかムッチャ切れてるぞ。

だけどそれ、言いがかり……


「サリワールに至っては、私が居るだけで敵意むき出しにして睨みつけて……

広場には無数の貧民が住処も無くたむろし、その嘆きの声が市場にまで聞こえそうだ。

どうしてあそこまでやった?

ただ()覆い(バーク)を取り返せば良かったのじゃないのか?」

「いや、だからあれは勝手に燃えたんだ!

俺は誰もあの日殺してないし、家にだって火を付けてはいない!」


俺がそう言うとレミは、そのオリーブグリーンの瞳でまっすぐ俺の目の奥を覗き込み、次に溜息を吐きながら「それが事実でもだ……」と呟く。

それに苛立ちながら俺は言い返したッ。


「俺だけが悪い訳じゃない!

アイツ等は俺達騎士団の名誉を傷つけたんだ!

しかも町の中には当たり前の様に魔物が潜んでいた。

多分あの日だけじゃなくて、連中はずっとそうしてきたんだ……

聖騎士団は毎年戦死者を出しながら、聖戦を継続(けいぞく)している、そうやって領地やこの町を守ってきた。

バルミーとも戦うし、魔物とだって戦った。

それなのにあの町はそんな俺達を嘲笑(あざわら)うかのように……」

「私は騎士団の話はしてない!

お前の性格の話をしているんだッ!!」

「!」

「どうしたらお前のその気の短い性格が治るのだ?

お前はむしろ、気が短いを通り越して少し異常だ……」


そう言われた瞬間俺の心臓が冷えた様に、冷たくなった。

胸が痛み、そして背中から寒気が走る。

思わず顔色も青ざめていった……

それを見てレミは、あわてて訂正するように言った。


「別にお前の全てが悪い訳ではない。

他人にも優しいし、話をしていても面白い。

子供や老人にだって親切だ。

卑怯(ひきょう)な性格でもないし、真面目なところもある、面倒見だって悪い方じゃない。

だけどもほんの少しでも侮辱されたら、もう駄目。

相手を徹底的に叩きのめした……

どうしてそんなに手が早い?

何も考えず、躊躇いも無くどうして人を傷つけてしまうのだ?」

「だって、そいつが相手を見ずに俺に対して喧嘩を……」

「だぁかぁらっ!

……はぁ、もう無理」


そう言うと何も答えを出すことも無く、レミは台所を後にした。


「話は終わってない!俺は……」


そう言って彼女の後を追おうとしたところ、彼女と入れ違いに一人の僧服の男が入ってきた。


「こんにちは、久しぶりだな」

「!」


それはどこにでも居そうな僧侶服を着た男で、白髪で清潔感が(ただよ)う僧侶だった。

……彼はサリワルディーヌと名乗る、俺にしか見えない男である。

彼は台所にある椅子(いす)の一つに目をやりながら「座らせてもらってもいいかな?」と尋ねた。


ご覧いただきありがとうございます。

次回の更新は 2/17 0:00から1:00の間です。

宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 狂犬ラリー君の逸話と、彼をまっとうな騎士にしてくれる?彼女と、幽霊先輩騎士の面会に心踊ります! ラリー君が喧嘩っ早いのは生まれてからが大変でしたからね… 個人的になよなよした半分女のよう…
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