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俺の騎士道!  作者: 多摩川
少年剣士修行編
64/147

とある家族の物語(前)

今回は前編、後編でお伝えします。

後編は明日またアップロードします、よろしくお願いいたします。

―4日後、アルバルヴェ王国、王都セルティナ


(ほほ)(たて)一筋(ひとすじ)の大きなかさぶたをつけ、貴族(きぞく)ではまずいない、真っ黒に日焼(ひや)けした顔の俺は、(つい)に生まれ故郷(こきょう)に帰ってきた。

威容(いよう)(ほこ)る大きな街門(がいもん)、それを取り囲む高い外壁(がいへき)

そしてその奥に見える王の巨大な宮殿(きゅうでん)がそびえている。


「ついた……やっと着いた」


ガーブウルズを出てから約一週間。

東京から名古屋までの距離(きょり)と、同じ長さを踏破(とうは)し、遂に目的地である王都のセルティナに辿(たど)()いた。

空を飛ぶことで、(けわ)しい山も、巨大な大河(たいが)も、数々の領主の関所までもやり過ごし、常識(じょうしき)破りの短期間で旅を終えた俺達。


「げぇー(やっとか)」


ペッカーもこの街を見た時、俺の肩の上で(つか)れたように(つぶや)いた。

今回の殊勲(しゅくん)(しょう)は彼である「ありがとな」と呟いて、俺はペッカーの背中を()でた。

……そして無言(むごん)(うち)に、目の前の(まち)(のぞ)む。


「…………」


故郷に辿り着いたら、何を心に思うのか?と思っていたが。

ホーツリッツの街を見た時のような感動(かんどう)は、もう感じなかった。

実にあっさりしたものである。

そんな感情(かんじょう)の中で、まず()(さき)に考えたのは、家族に会うと言う事だった。

そしてルーシーや殿下(でんか)達にまた会いたい。

今は感傷(かんしょう)(ひた)ると言いうよりも、心に思い浮かべた楽しい計画(けいかく)を早く実行したかった。

……(はや)る気持ちが足を()かす。


「さぁ、これで最後だ……行こう」


俺は肩にとまった相棒(あいぼう)にそう声を掛けると、街道(かいどう)を歩く。

これで苦労は終わると信じて……




「ダメだダメだ!

お前はこの身分証をどこで盗んできたんだ!」

「だから盗んでない!

俺はヴィープゲスケ男爵の息子だ!」


俺は王都の街門に辿り着いた瞬間(しゅんかん)、俺は早速(さっそく)門番とトラブルを()()こす。

どうしてこうなるんだ?


「ああうるさいガキだ!

いいか、ヴィープゲスケ男爵と言えば普通(ふつう)の男爵ではなく、この国の()導士(どうし)頂点(ちょうてん)にある方で、王の信頼(しんらい)(あつ)(かた)だ。

その方の名前を名乗(なの)って、貴様(きさま)ただでは()まないぞ!」

「だったら調べろ!

いや、むしろ屋敷に行ってハラルド(執事(しつじ))を連れて来ればいいだろ!」

「……ああ、そうする。

こんな小汚い小僧が貴族を名乗るだなんて、まったくふざけやがって」


聞こえる用にブツブツ言い(はな)って立ち去る街門の門番。

彼が消えた後、別の門番が代わりに通行人(つうこうにん)荷物(にもつ)やら証書(しょうしょ)の確認をする。

その様子を門の外の日陰(ひかげ)で待つ俺。


小汚(こきたな)いからお前は貴族の子供じゃないって、どういう事なんだよ……」


俺がそう(つぶや)くと肩でペッカーが「げぇ―ぐわ、ぐぅぅぅわー(どこの世界も同じさ、見た目がその人の価値(かち)を他人に(さと)らせる)」と呟いた。

そこで俺は「聖地(せいち)でもか?」と(たず)ねた。


「ぐわ、ぐわぁげぇー(そういう事、むしろこの国より露骨(ろこつ)かな?)」


俺は“聖地”と言う単語から、聖フォーザック王国にあるその町は、(きよ)らかな人が住む場所だと思い込んでいたのでビックリである。

俺の頭の中でその町は、神の教えがきちんと()かれ、そしてその通りに生きる(ひと)(たち)が住む、模範的(もはんてき)都市(とし)なのだと思っていた。

思っていたのとどうやら違う……


「へぇ、聖地と言うから心が綺麗(きれい)な人ばかりかと思った」


それを聞いたペッカーは豪快(ごうかい)に笑ってこう言った。


「げっげっげっ、ぐわぐわぐぅわ―(アッハッハッ、ラドバルムスの信者(しんじゃ)はそうだろうな)」


俺はラドバルムスの信者は善人(ぜんにん)と聞いて、ますますビックリする。

女神フィーリアに敵対(てきたい)する、悪人共(あくにんども)だと思っていたからだ。


「ラドバルムスの信者は良い人なの?」

「げぇ、げぇぇぐわぁぐわわわ、げぇげげげ(まぁそう言う見方もある、善意(ぜんい)(あふ)高潔(こうけつ)で、そしてろくでもない連中さ)」

「フィーリア信徒(しんと)よりも?」

「げぇげ、ぐわぐわぐぅーわぁ、ぐわぁぐー(さぁどうだろうな、結局みんな自分の事で(いそが)しい、自分の流儀(りゅうぎ)(どお)りに()きるのに必死(ひっし)なんだろ)」

「ふーん、ペッカーから見てフィーリアってどうなの?」

「げぇぐ、ぐぁっぐあっぐぅあっ、がーがーげぇ(ラリーには悪いがあまり好きじゃない、何より自分を守ることが大事(だいじ)な女だ、だけどラドバルムスと(ちが)って世界(せかい)()えようとはしない)」

「そうなんだ、じゃあラドバルムスは?」

「げぇげがー、ぐわっぐうわっぐぅ……(キレイな奴だよ、心がな。だからこそ(やつ)(おそ)ろし……)」


丁度(ちょうど)この時だった、俺達(おれたち)会話(かいわ)()()むように誰かが声を掛ける。


(ぼっ)ちゃま?」


俺を()ぶ声がして()()く。

するとそこにはメイドの……マリー?


「マリー?」

「坊ちゃま!」


マリーが(あらわ)れた事にびっくりした俺は、思わず彼女の顔をしげしげと見る。

マリーが俺を(むか)えに()るなんて、予想(よそう)もしていなかったからだ。

マリーは聖地帰(がえ)りのお金持ちである、ホークランと言う叔父(おじ)さんの従者(じゅうしゃ)と、結婚(けっこん)した。

彼女は結婚して、ウチで(はたら)くのを()めていたと思っていた。

……悪い予感がする。

……俺は彼女に(たず)ねた。


「なんで?

結婚は?あの野郎(やろう)(つい)に約束を反故(ほご)に……」

「坊ちゃま、結婚はこの前しました。

まだお屋敷でお世話(せわ)になっているだけです」

「(旦那(だんな)は)ホークラン?」

「もちろんです……」


ああ、そうか。まぁそうだよね……

待たせるだけ待たせてトンズラこいたら、あの野郎に()()()()けるところだったぜ。

結婚してもウチで働いていただけか……

マリーはそれよりも俺の姿(すがた)の方にびっくりしたようで、そして(まわ)りを見渡(みわた)してこう(たず)ねた。


「それよりもなんでここまで……

(とも)の人は……そして奥様(おくさま)はどちらに?」

「いないよ、俺だけで帰ってきた」

「え?」


(はと)豆鉄砲(まめでっぽう)()らった顔と言うのがあったら、文字通(もじどお)りこんな顔なのだろう。

忘れかけていた“貴族の常識(じょうしき)”とやらを思い出し、色々と俺が型破(かたやぶ)りに生きてきた事を思い出す。

……で、これ以上質問(しつもん)されるのはめんどくさいと思い始めた。

サッサとここから立ち去ろう……


「時間がないんだ、後で話すから(うち)案内(あんない)してよ」


俺はそう言ってマリーを急かし、俺が正真(しょうしん)正銘(しょうめい)貴族の子だと知って、顔を青くする門番を(にら)みながら街の中に入る。

……勝利感(しょうりかん)が、半端(はんぱ)ない。

多少ふんぞり返って(えら)そうに門を(くぐ)()けると、門の入り口には、見慣(みな)れたウチの馬車が止まっていた。

見た瞬間(しゅんかん)、俺は思った。


(ああ、そうだ。本来(ほんらい)馬車ってこういうしっかりした物だったよね。

隙間(すきま)が開いているスケルトン仕様(しよう)では無かったよね。

これまで乗ってきた乗り物、アレは一体何だったんだろう?)


俺は馬車に乗る前、ウチの光沢(こうたく)がきれいな馬車を()(まわ)しながら、色々(いろいろ)と(かんが)える。


「あの坊ちゃま?坊ちゃま!」


気が付くとマリーが、俺の顔を(のぞ)き込み、心配そうな顔で俺に呼び掛けていた。


「何?」

「何じゃありません、なんで()いて馬車を撫でているんですか?」

「え、泣いてないよ……あっホントだ」


気が付くとうっすら(なみだ)一粒零(こぼ)れている。

自分でもびっくりだ。

マリーはそんな俺を急いで馬車に押し込めると、そのまま馬車を走らせ、(なつ)かしの自宅に馬を走らせた。


(すご)い、マリー。座席(ざせき)(やわ)らかいよ……」

「お。お坊ちゃま……あまり(しゃべ)らないほうが良いですよ。

きっとお(つか)れでしょうし……」

「え、ああ。分かった……」


なんでやねん、なんで俺喋ったらいかんの?

そうは思ったが俺は確かに疲れている。

実際に眠いのだ、そこで俺は言葉(ことば)(あま)え、そのまま目を閉じる事にした。




「つきましたよ!」


マリーがそう言って俺を()こしたのはそれから間もなくである。

完全に()()ちした俺は、かつて感じたことも無い安息(あんそく)の中で目を覚ました。

なんて快適なのか、貴族の馬車は……

()()れた実家(じっか)(にお)いが(こも)る馬車は、俺に幸福感(こうふくかん)をもたらした。

目覚(めざ)めた時に(しあわ)せだったのは、そのせいだろう。

馬車を()りると遠くから、次々(つぎつぎ)と家で働く古い使用人がやってきた。


『坊ちゃん!』

「ガルーナ、ハラルド、ヘーゼル(じい)さん!」


俺は皆の元に近寄(ちかよ)り、そしてそれぞれに()き着いて再会(さいかい)(よろこ)()った。


「おかえりなさい」

「ただいまガルーナ。

お父様は?お兄様は?お姉様はどこ?」


俺が再会の喜びの中で興奮(こうふん)して家族の事を尋ねるとガルーナは「あ、ええと……」と口ごもり、そして(こま)()てたように執事のハラルドの顔を見た。

ハラルドはガルーナを見て一つ(うなず)くと「ここじゃあ何ですから……」と言って俺を家の中に入れた。

俺は客間(きゃくま)に通され、そしてそこでハラルドと二人っきりになる。

そしてそこで彼と差し向かいで座った。


「ゲラルド様、お帰りなさい」


彼はニコニコと(した)しみの籠った笑顔で俺を迎え、そして俺に果実(かじつ)(すい)を差し出した。

それを飲んでノドの(かわ)きを(うるお)す俺。

果実水なんて(ひさ)しぶりに飲んだ、その美味(おい)しさに一瞬我(われ)(わす)れる。


「ははは、一瞬で()()されましたね。

もう一杯(いっぱい)用意(ようい)いたしましょう」

「ああ、ありがとう」

「それよりお坊ちゃま、ガーブウルズにおられると聞いたんですが、一体どうしてセルティナに?」

「ああ、そうだ。お父様にお願いしたいことがあるんだ。

実は今バルザック家が大変(たいへん)な事になっていて……

それで助けてほしいんだ!」

「なるほど……まずは私が話を聞いてもよろしいでしょうか?

ご当主様には私の方から()()ぎますので」

「すぐには会えないの?」

「ええ、グラニール様も、シリウス様も仕事中です」

「そうなんだ、分かった実は……」


◇◇◇◇


「と、いう事なんだ」


叔父が昏睡(こんすい)状態で(とき)()めの魔法が止まりそうな事、それが原因(げんいん)でバルザック家内部に、きな(くさ)()め事が起こりつつある事。

それらを説明し、俺は彼に(たす)けを(もと)める。

話を聞いたハラルドは「なるほど、それは大変でしたね……」と、相槌(あいづち)を打ってしばらく考え事を始めた。


しかし彼の表情(ひょうじょう)()かない、何か言いたくても言えないモノを(かか)えている様な感じが、その表情から()けて見える。

話し終えた俺が、ハラルドの表情から感じ取ったのは“距離(きょり)()きたい……”と言う感情だった。

思っていたものと(あま)りにも違う彼の反応(はんのう)に、戸惑(とまど)う俺。

直ぐに同情(どうじょう)して、助けてくれると思っていたのに……

ハラルドは「それではお坊ちゃま、このままお屋敷でお待ちください」と言って、そそくさと立ち去る。

……その様子に疎外感(そがいかん)を覚えた。

もうこの(いえ)の子ではなくなったかのような、そんな雰囲気(ふんいき)が、見慣(みな)れた部屋や、人々から感じられる。


『…………』


俺とペッカーは、その様子を見て言葉を(うしな)った。

……まるで(こわ)(もの)(あつか)うような、この微妙(びみょう)な空気。

俺達の間に広がる沈黙(ちんもく)

……俺は、何かを口にするのが怖くなった。

そしてそれ感じ取ったのか、ペッカーも、俺の肩の上で(だま)(つづ)ける。


「エリクサーを取りに行こうか……」


沈黙にも、今見た風景(ふうけい)の話にも()えられなくなった俺がそう呟く。

俺の寂しい声に、ペッカーは言葉も無く首を振ってそれに賛同した。

こうして客間を出る俺達。

広い屋敷の、明るくて広大(こうだい)な庭を行く。


以前からこの屋敷に(つと)める、見慣れた庭師(にわし)達は、俺とハラルドの話が()(つた)わったのか、俺の所に近寄(ちかよ)ろうともしない。

……目を合わせる事すらも(おそ)れる彼等(かれら)


(俺が言った事の、何がいけなかったのだろうか?)


俺はそう思ってますます疎外感を強く持つ。

彼らの反応を見ると、俺の言葉に問題(もんだい)がありそうであるが、俺にはその理由が分からなかった。

俺は彼等と接する事、そのものが怖くなり、黙って納屋(なや)に入り込んだ。

ポンテスが言うには、ここにエリクサーがあるらしい。


「げぇげぇ―(あの柱にある(はず)だぞ)」


ペッカーは場所(ばしょ)を知っていて、俺にその場所を翼で(ゆび)さした。

場所はポンテスが言うように、入って右奥の柱の下である。

俺は柱の根元(ねもと)をほじくり返す。

そして、赤い小袋(こぶくろ)を見つけた。


「ペッカー、これか?」

「げぇ(そうだ)」


俺はそれを聞くと小袋を開けて確かめる。

中にはパラフィン紙に包まれた、コメ(つぶ)ほどの大きさの()(さお)丸薬(がんやく)が3粒あった。


液体(えきたい)だと思った……」


思わずそう呟くと、ペッカーが「げぇ―(液体もあるぜ)」と答える。


「げぇーげぇーげ、ぐわっがーぐわぁ(用途によって違うんだ、傷口(きずぐち)()りかける時はこれを聖水(せいすい)()かして使うんだぜ)」

「へぇ……」


流石(さすが)ペッカー先生、物知(ものし)りである。

俺は無くさない様にこれをしまうと、納屋を後にした。


納屋の(そと)は様々(さまざま)な使用人の人目があった。

遠慮(えんりょ)しがちで、好奇(こうき)()ちたその目が、俺の心のかさぶたをさらう。

視線(しせん)過敏(かびん)なだけかもしれないが、人目が俺に居心地(いごこち)(わる)さをもたらす。

……もっと(しず)かな所に行きたかった。

俺は居場所(いばしょ)(もと)めて、自分の部屋(へや)を見に行こうと思った。

兄貴が結婚して、男爵(だんしゃく)()()()いだ時。

パパやママ、そして姉貴に俺……悲しい事にあのアホな3姉妹(しまい)もだが。新築(しんちく)(はな)れに()()しをしたのだ。

俺は離れの2階にある自分の部屋(へや)がどうなっているのか(たし)かめたくて、離れに向かう事にした。


こうして辿(たど)り着いた離れの外観(がいかん)に、さしたる変化はない。

俺が最後(さいご)に見たのと(おな)姿(すがた)だ。


(……新築(しんちく)の離れが、そう簡単に変わる訳も無いか)


そう思った俺は、離れの(とびら)(かぎ)がかかって無い事を確かめて、(しず)かにドアノブを(まわ)す。

()()れた離れの扉を開け、中に入ると。


……なんじゃこりゃ?


不気味(ぶきみ)なインテリアに侵食(しんしょく)され、人面大根(マンドラコラ)の干からびたのが、首つり死体の様に、屋根から何体もぷらぁーん、とぶら下がるのが目に飛び込む。

それだけではないが、とにかく()(どう)(けい)(あや)しくて異様(いよう)物体(ぶったい)が、(かべ)やら(ゆか)やら所狭(ところせま)しと並んでいる。

一言(ひとこと)で言うと(のろ)われそうな風景(ふうけい)

その光景(こうけい)は、あのベガ、ウィーリア、アイネと言うロクデナシな俺のシスターズが勝手に占拠(せんきょ)して使っていた()(どう)大学の、研究所(けんきゅうしょ)で見たものと(まった)く同じなのである。

前はもっと(ひん)()い、貴族的なおウチだったのに一体どうして……


(うそ)だろまさか……まさかまさかあの女共(おんなども)

いや、それよりも俺の部屋だ……」


急ぎ二階に上がろうとする俺、ところが階段は所狭しとガラクタに侵食され、(あし)(こし)が色々(いろいろ)なものに引っかかる。

この様子(ようす)に悪い予感(よかん)しかしない。

……なんだこの()部屋(へや)、むしろ()屋敷(やしき)

まさか、俺の部屋、まさか……

小走りに部屋に向かった俺。

がばっと自分の部屋の扉を開けた……


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

(にせ)ポンテスがうじゃうじゃいるぅぅぅ!」


犯人(はんにん)?あのバカ姉妹(しまい)しかいないだろ?

6体の偽ポンテスが“バウッ、バウッ!”と言いながら、ウロウロと俺の部屋を飛んだり()ねたり、壁をぶち抜いたり……

もう(いや)っ!わたし()えられない!

俺は「はぁぁぁぁん!」と悲しげな声を上げながら、まともな方の姉貴の部屋に飛び込んだ!


「お(ねえ)(さま)!あのクソ(おんな)(ども)決闘(けっとう)を……アレ?」


俺の大好きなエリアーナお(ねえ)(さま)の部屋は、(から)っぽだった……

……()ない、なんで?

ソレよりも、空き部屋があるのに、あのクソ女共はどうして偽ポンテスを、俺の部屋に(はな)()いにしやがるんだ……

まぁ、アイツらに言っても無駄(むだ)だから、(たず)ねるつもりもないけどさ。

俺はとにかく(あき)らかにもう俺の部屋ではない、俺の部屋を後にし、外に出る事にした。


9か月は長い。

その昔、美しかった離れの家を、ぼろぼろのスプラッターハウスに変えるには十分(じゅうぶん)すぎる(ほど)に……

それが分かっただけでも来た甲斐(かい)はあったのだろう。

……ある(わけ)ねぇな。


離れの前の()き地で、何も考えたくなくてボーっとしているとハラルドがやってきた。


「お坊ちゃま、大旦那(だんな)グラニールがお仕事から帰ってきました。

どうぞ執務室(しつむしつ)へ……」

「え、ああ。分かった」


ああそうだ、俺はパパに会いたくて、はるばるここまで(かえ)ってきたんだ。

目的(もくてき)を思い出して急ぎ本宅(ほんたく)に向かう俺。

……会う前から、敵の精神(せいしん)攻撃を食らった気がする。目的をすっかり忘れてたよ。

おどろおどろしいあの家を離れ、おれは(うつく)しくも貴族的な家の中を歩いてパパの元へと向かう。

そして執務室の扉を(たた)いた。


「失礼します、ゲラルドです」

「入りなさい」


パパの声を聞いた時、たまらない(なつ)かしさに(おそ)われた。

(おだ)やかな人なんだけど、俺はパパに(おこ)られるのが(こわ)くていつも緊張(きんちょう)していたなぁ。

不意(ふい)にそんな事を思い出しながら、俺はこの執務室の扉を開ける。


「ゲラルド……随分(ずいぶん)大きくなったなぁ」


俺を見たパパは(おどろ)き、そして次に(した)しみの籠った()みを浮かべて、俺に近付(ちかづ)()きしめた。


「ただいま(もど)りました、お父様……」


俺も抱きしめ返す。

やがてパパは体を離し「こっちに来て話そう」と言って、俺を一組(ひとくみ)のテーブルと椅子(いす)に案内し、着席するよう促した。

向き合って座る俺達。


「ガーブウルズはどうだ?ゲラルド……」

「パパ……あ、すみません。

(みんな)()くして(もら)っています。

ただ、あそこは……

お父様、あそこは人を戦士に変える(ため)だけに存在しています!

僕はこっちで修業(しゅぎょう)できないでしょうか?」

(つら)いのか?」

「辛いです!辛いを()えて俺はあそこに適応(てきおう)してしまいそうです……

あのままあそこに居れば、僕は野獣(やじゅう)になってしまいます!」


俺はここでゴブリン狩りの話をし、そしてゴッシュマが俺を“白銀の騎士”にしようとしていると言う話をした。


「白銀の騎士にすると、狼の家の連中が言ったのか?」

「そうです、素質(そしつ)があると」

「そうか……お前には才能(さいのう)があったのか」

「でもあそこには娯楽(ごらく)も何もないんです。

出来れば(セル)(ティナ)で優しくも、立派な騎士になりたいと思います」


パパはその話を聞くとスゥーっと目を細めて「ラリー、王は優秀(ゆうしゅう)家臣(かしん)を求めているのだよ……」と呟いた。

意味(いみ)も分からず、首をかしげる俺。

パパはそんな俺の様子に「まだ、分からないか……」と溜息交()じりで呟いて、こう話を続けた。


「連中は素質のない者に剣を教えたりはしない、それにガーブの軍は、我が王国軍の精鋭(せいえい)中の精鋭だ。

王都の軍よりもずっと王に(たよ)られている。

……まぁこの話は良いか。

だがゲラルドよく聞きなさい。

もはや私とバルザック家は関係(かんけい)がない。

残念だがな……」

「え?どうしてですか……」


パパは静かに怒りを(たた)えた目でテーブルの上に目線を落とすと、静かに言った。


「お前の母親(ははおや)(ゆる)(がた)(こと)をした。

あの(あと)私は世間(せけん)のいい(わら)(もの)だ。

(ひと)()があれだけ(あつ)まる中で、私をああも侮辱(ぶじょく)した人間は初めてだ……

お前を私の(ことわ)りも無く()れて実家に帰り、そして使用人(しようにん)一緒(いっしょ)()()ちした!

それだけではない、私の様子を見てエリアーナが勝手に家を出ていった……」


ママが“駆け落ちした”と言う話に、俺は思わず(いき)()んだ。

……パパが誤解(ごかい)していると()づいたからだ。

それに(くわ)え、(やさ)しい俺のたった一人の(あね)()(ロクデナシ3姉妹(しまい)(てき)だから)が家を出たと彼は言った。

話を聞いて、俺は思わず「えっ!」と呟く。

パパはその後、(いか)りに(ふる)えながらその話しを続けた。


「エリアーナの行く先は、ファレンの元だ。

その後ファレン・アイルツが王太子殿下と共に我が家にやってきて、結婚を認めてほしいと言ってきた。

認めてもらえるまでエリアーナには手を出さないと(ちか)うとか言ってなっ!

……信じられるか?

もはや娘は乙女(おとめ)では無かろう、周りの貴族もそれを見て益々(ますます)私を噂話(うわさばなし)のネタにするだろう。

それに王太子は何も言わないが、一緒に我が家にやってきたのだ。

殿下の気持ちを(さっ)すれば、(ことわ)れる訳も無い。

殿下は幼馴()じみである、ファレンの恋を(かな)えてやりたいのだ。

……これで私の婿(むこ)は騎士になった。

爵位(しゃくい)のある貴族との良縁(りょうえん)だって、(のぞ)めたモノを……(おろ)かな娘だ」


そう言うとパパは目に(なみだ)()め、鼻をすすりながら言った。


「すべてエウレリア……お前の母親が出て言った事がきっかけなのだ。

アレが出て行かなけれ……

もはやあの女を私は妻だと認めない!」


そう言うなり彼は、(こら)え切れなくなって(つくえ)を“バンっ!”と強く叩いた。

生れて始めてパパが怒りに震える姿を、見た俺は思わず言葉をつぐんで黙り込む。

肩の上のペッカーも同様だ。

パパのそのギラつく目に、見た事が無いほどの殺意(さつい)が籠る。

そのただならぬ様子に怖気(おじけ)づきながら、俺は尋ねた。


「駆け落ちってなんです?

ママは誰も男を近づけさせていませんよ?」

「嘘をつくな!

自分の母親をかばっているのは分かる……

だがな、お前達は使用人と一緒に暮らし、まるで家族のように暮らしているんだろ?」


一瞬(いっしゅん)、この男は何を言っているのか?と思った。

そして次の瞬間(しゅんかん)、俺はパパに弁解(べんかい)した。


「パパ、それは誤解です!

ワナウはあの(ゆき)(ぶか)いガーブで男手(おとこで)として(やと)われているんです。

月給だって5000サルトも毎月払(はら)っているんです!」

「……信じられぬ。

第一我慢(がまん)できるのか?」

「パパ、何を言っているんですか?」


何を“我慢”できると聞いているのか、分からず俺は彼の顔を見た。


「……ふぅ」


躊躇(ためら)うように溜息(ためいき)()いた父の姿を見て、俺は彼が言っている我慢とは“性欲(せいよく)”の事だと気が付いた。

怒りを(おぼ)えた俺は、パパに食らいつく!


「パパはママの貞節(ていせつ)を信じてないんですか?

信じていないんですか!」


俺はパパがママの貞節を疑っていると知って、俺は激怒(げきど)して立ち上がった。


「ママはずっと綺麗なままだ!

アイツ(ワナウ)がママに近付く事なんかある物か!

俺はお兄様の名前を借りてまで、お母様の収入を助けた!

アイツを雇うため、王都の二倍の給料を要求(ようきゅう)したアイツの為に……

ゴブリン狩りをしてまで、家族がいつか一つになる時の為に頑張ってきた!

それなのに、どうしてお父様は信じなかったんだ!」

「うるさい……」

(だま)らないよパパ、どうしてパパは……」

「うるさいっ!黙れゲラルド」


パパは(つい)()えきれないとばかりに(さけ)んだ。

パパが叫ぶ姿を初めて見た俺はショックを受けて立ちすくむ……

パパは目元に手を当て、静かに机に顔を()せると、しばらく黙った。


「…………」


俺と彼の間に、沈黙が流れる。

お互いに冷静になれる時間が必要だった……

俺はしばらくした後、自分が(あやま)るべきだと気が付いた。

父親に楯突(たてつ)くなんて、どうかしている……


「お父様、申し訳ございません……」


パパは、低い声で「ああ……」と言って、そして黙った。

俺はいたたまれなくなり、そして言った。


「パパはこの話をどこで聞いたんですか?」

「お前の手紙と、噂話でだ……」

「お父様、最後にママの消息(しょうそく)を聞いたのはいつです?」

「お前の手紙が届いてからは聞いてない……

もういいだろうゲラルド、お前は私の息子だ、お前の面倒(めんどう)はきちんと見るから……」


そうじゃない、そうじゃないよ……パパ。

俺はそう言う事が出来ず首を振るって言った。


「……お父様、ガーブウルズに帰ります」

「……そうか」


帰ると言った俺に、パパはまるで拒絶(きょぜつ)するような声でそう答えた。

きっと俺もまた、彼を拒絶したような印象(いんしょう)を与えたのだろう。

……それが分かると辛かった。

だけど()いた(つば)を飲み込む方法はない、言葉(ことば)はも口から(はな)たれた。

俺は椅子から立ち上がりながら言った。


「パパ、もうすぐ僕に弟か、妹が出来るんです」

「…………」

「パパの子供です、間違いなく……」


パパは俺の言葉に反応(はんのう)(しめ)すことなく、机に(ひじ)を置き、目元を手で(おお)ったまま身じろぎ一つしなかった。


「…………」


俺は何と言ったら良いかも、そしてどう思って良いのかもわからなくなり、この執務室を後にした。


「う、ううっ……ううっ」


部屋を出た瞬間、俺は(くや)しさがこみ上げてきた。

そして(はや)(ある)きでこの場から立ち去りながら、人目をはばからず泣いた。

……生まれて初めてだった。


「うわぁあぁぁ、ああ……うわぁぁぁっ!」


悲しさで心は塗りつぶされ、周囲(しゅうい)目線(めせん)は気にならず、みっともなく、そして見苦(みぐる)しく泣き叫んだ。

悲しかった、悔しかった……

見ていた景色の(きら)めきは、俺にとっては(やさ)しいものではなかったと知った。

俺にはあのガーブの雪しか、野獣の様なあの人達にしか残されていなかったのだ。

家族はもう終わっていた、俺だけが終わってないと思っていたのだ。


……ママが、パパに連絡(れんらく)を取っていない理由も初めて理解できた。

ママはパパに対して復讐(ふくしゅう)するために、わざわざ二倍の給料を払ってまで、ワナウを雇ったのだ。

こう言う噂が流れるように期待(きたい)してだ。

望み通りパパを苦しめた俺のママ。

……愚かにして、(ほこ)(たか)い人が俺の母親だと知った。


俺はもうこの家に用はなく、そして滞在(たいざい)する事も出来ない……

涙をこらえ、腰の剣を握りしめ、肩に乗るペッカーの沈黙(ちんもく)に支えられ。俺はこの家の門を潜って外に出る。

……もうここに来ることは無いのだろう。

振り返って立派な屋敷の門を見ながら、俺はそう思った。

そして俺は()ても無く道を歩き続ける。


◇◇◇◇


「あ、おいしい……」


お腹が空いた俺は、魔導大学の(そば)飯屋(めしや)で食事をとった。

……せめて皆に会いたかった。

うろついていたら誰かに会えるかな?と期待したのである。

……直接会いに行けばいいのに、実家で心がへし折れていた俺は、情けない事にここで中途半端な事をしている。

とは言え食事の味は素晴(すば)らしかった。

ショウガの味が効いて、とっても美味しい肉料理である。


あんな事があった後でも食欲があると言うのだから、俺の性格も中々図々(ずうずう)しい。

とは言え残り俺がこの街でやるべき事なんて、考えてみたけど何も無い。

後は、急いで回収(かいしゅう)した薬をもって、ガーブウルズに帰るだけである。

そこで、どうせならしっかり飯を食って帰ろうと思ったのだ。


「どうだい学生さん、ウチの料理は?」


俺があまりにも美味(おい)しそうな顔でご飯を食べていたからだろう、お店の主が俺を学生と勘違(かんちが)いして声を掛けた。

俺は勘違いを正すことも無く「(すご)く美味しいです、ショウガの味が()いて……」と答えた。

店主はカウンター越しに「がははは、そうだろ?」と言って、良い笑顔で微笑(ほほえ)んだ。


「最近南の海の向こうから、新鮮(しんせん)なショウガがやって来るんだ。

ウチの王様がかなり頭の良い人だからね、マルティ―ル同盟と一緒(いっしょ)に貿易会社を立ち上げたのさ。

シルト(大公)の野郎も、一枚噛()んでいるそうだ。

おかげで南国(なんごく)物産(ぶっさん)が、最近だと簡単(かんたん)に手に入る。

干したショウガも外国に売れるって言うんだし、しかも美味しくて体にも良い。

ショウガ様々(さまさま)だよ、ウチの(おかあ)もあれくらい役に立ってくれれば()いんだけどな」

「へぇ」

「ショウガが(きら)いなのは医者(いしゃ)だけさ」


そう言って店主は洗い物に取り掛かる。

会話の内容は俺の好奇心(こうきしん)刺激(しげき)した。

ほんの少し王都を離れただけで、世間(せけん)はめまぐるしく変化している。

このショウガの味がそうだろう。

王国は貿易(ぼうえき)を強化し、その果実(かじつ)をさっそく王都の人間は口にしている。

流石に都会は流行(りゅうこう)敏感(びんかん)なんだなと、感心した俺。

……やはりガーブ地方と違うと、実感(じっかん)せざるを得なかった。

田舎(いなか)大嫌(だいきら)い……


シティボーイに改めて成りたくなった俺は、食事代を払ってこの店を出て行き、次に堂々(どうどう)と魔導大学付属の剣術学校の門を(くぐ)る事にした。

……留学制度(せいど)があるかどうかを知りたくてね。

家には帰れないけど、留学生(りゅうがくせい)としてなら別に、ねぇ……

食事も終え、店主にチップも(はず)んだ俺は、そそくさとこの店を後にする。

飯屋から少し歩いた所にソレは在る。

王立魔導大学付属(ふぞく)、剣術学校。


カン、カン、カーン。


門をくぐる前から、「イケイケぇっ!」とか「逃げんなっ!」と言う威勢の良い声が響き渡る。

その声に合わせる様に、(ぼっ)(けん)同士が衝突(しょうとつ)し、(かわ)いた音を立てる。

ああ、(なつ)かしき剣術学校独特(どくとく)の音。

随分(ずいぶん)と音が増えて(にぎ)やかになったんだなぁ。

そう思って中に入ると、なんと俺が最後に見た時よりも倍ぐらいの人数が剣を振るっているではないか。


「ひぇ、前は6人しか居なかったのに……」


初めの頃よりも、随分と様変(さまが)わりした物である。

中の様子をもっと間近で見たかった俺は、剣を合わせる皆の傍に近寄(ちかよ)る。

結構(けっこう)みんなレベルが高い、中でも一番奥に居る剣士は剣の振りも早く、そして技術的にも相当(そうとう)高度だ。

その妙技(みょうぎ)に思わず見とれている俺。

彼は(またた)く間に相手を刺突(しとつ)すると、相手に礼をした後、(ヘルム)を脱いで俺に手を振った。


あ、殿下(でんか)だ!

俺も手を振り返し、そして急いで彼の元に駆け寄る。


「ラリー!いつ帰ってきたんだよ?」


彼は再会するなりそう言って俺に抱き着いた、俺も抱擁(ほうよう)を返す。


「殿下お久しぶりです!

たった今帰ってきました」


殿下は前よりも(あご)がシャープになり、元々美形(びけい)の顔立ちだったが、それに精悍(せいかん)さが加わった顔をしていた。


「大きいね、ラリーまるで大人みたいだよ」


背丈(せたけ)の違いは明らかになり、俺は彼よりも(あたま)(ひと)つ以上大きくなってしまっていた。

殿下はそんな俺に心配そうな顔を一つ浮かべるとこう尋ねた。


「話は聞いているよ、大変だったね。

剣はまだ続けているの?」

「もちろんです、今は“狼の家”の剣士ゴッシュマを()にして(はげ)んでます」

「フーン……もうボグマスじゃないんだ」


一瞬だけ、殿下は俺を睨むような目を向けたが、次にニコリと笑って、イリアンやシドを呼んでくるように、後輩に命じた。


「ここで待ってて、リアを呼んでくるから」


そう言うと、彼はイフリアネを呼んでくると言ってどこかに向かう。

リアとはイフリアネの愛称(あいしょう)である。

そうかそうか、愛称で呼びあう仲にお()(あそ)ばしましたかぁ。

うん、()いね。上手(うま)くいっているみたいで。

彼の変わらぬイフリアネへの気持に思わずほっこりしながら、俺は次々現れる知り合いと抱き合って再会を喜んでいた。

やがてその中から一人のアホが現れる。


「ヘイ!ラリーっ」

「おおっ、リジェス!」


クラリアーナの親戚(しんせき)で最高のアホが現れた。

先輩を決して(うやま)わないこいつ、いきなり現れるなり俺の脇腹(わきばら)をえぐって来る。

俺もコイツの脇腹を(こぶし)でえぐった。


「いってぇなラリー!

お前後で覚えておけよ」

「うるせぇ、お前後輩だろ!」


とは言え(うれ)しい物で、彼を抱擁して再会を喜ぶ。


『ラリー!』


今度は別の二人の声が響き渡る、俺は急ぎそちらに目を向けると、そこにはシドやイリアンの姿があった。

嬉しくなった俺は()けだし、彼等の元に()ると、そのまま彼等に抱き着く。


「久しぶりだな、イリアン、シド!」


俺がそう言うとイリアンが「お前はでかくなったなぁ」と言った。


「ラリー、変わらず元気そうだね」


シドが嬉しそうにそう話しかけ、俺も嬉しくなって「シドは?可愛(かわい)い子見つけたかい」と尋ねた。

するとシドは目を丸くしてキョロキョロと辺りを見渡し始める。

その様子をからかうように、近寄ってきたリジェスが言った。


「シドは今、クラリアーナ様とお付き合いしているんですよ!」


ニャンですと?

シドはいつも冷静な彼らしからず、顔を赤くしながら「まぁ、いいじゃん」と言って顔をそむけた。


「おいおい、ちょっとシドさん……

(くわ)しくお話聞きましょうかぁ」


俺は嬉しくなって、仲間のコイバナを掘り出そうとした。

その時である。


「ねぇフィラン、アホのラリーが帰ってきたの?」


アホって……そう思って振り返ると、なんかそこだけキラキラしたオーラを振りまきながら、イフリアネが粗末(そまつ)な練習着を着てこちらに近寄ってきていた。


「イフリアネ、久しぶり!」


思わず抱きしめようと近寄ると「近寄るな馬鹿!」とリジェスが……

おう、そうだったな……

俺とリジェスのその様子を見て、イフリアネはケラケラと笑い「ラリー大きくなったね、もうオジさんだぁ」と言った。

なんでだよ!

俺が憮然(ぶぜん)としているとそこへ、騒ぎを聞きつけたボグマスが現れた。

遠くからでも分かるその存在感ある姿に、俺は思わず遠くから頭を下げ、次に彼の元に近寄った。


「マスターお久しぶりです!」

「ラリー、大きくなったなぁ。

見違(みちが)えたぞ、お前ガーブウルズに行ったんだってな?」

「そうなんです“狼の家”に今います」

「そうか、あそこはきついし名門の道場だからな。

それにしても、お前が礼儀(れいぎ)正しくなるなんて……」

「え、どういう事?」

「初めて会った時、こいつは生意気だと思ったが……今はだいぶ成長したんだなぁ」


アレ?俺ってそう言う子供だったっけ。

そう思っているとボグマスはパンパンと手を叩きながら「ほらお前達、練習(れんしゅう)に戻れ」と言ってみんなを()らせた。


「それじゃあラリー、そこのベンチで話をしようか。

これまで何をしてきたのか、教えてくれないか?」

「ええ、喜んで。

実は自分も聞きたいことがあるんです」

「分かった、それじゃあゆっくり聞こうか」



いつもご覧いただき、誠にありがとうございます。

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