幕間ー マスター・ワースモン
案内役を務めるラリーと言う少年は、肩にペットの鳥を乗せて、悪魔の谷に向かうつもりだ。
それを部下から聞いた、ソードマスターのワースモンは大きな溜息を吐く。
彼はことさら大きな失望を表情に浮かべ、自分の部下に命じてラリーのその奇矯な振舞いを改めさせた。
「はぁ、いくら子供のする事とは言え……
ラリーとやら、期待外れだな。
我々は戦いに赴くのだ。
ペットを連れて行くと言うなら、ピクニックの時に行けばよい……」
部下に苦笑いを浮かべながらそう言ったワースモン。
もしもこれが身内の人間が言い出した事なら、遠慮なく罵倒しているところだろう。
やがて彼は、まるで遊びに行くかのように見えた、遠くのラリーを険しい目で睨む。
もちろんラリーは遊びに行くから肩にペットの鳥を乗せた訳ではない。
ペッカーと呼ばれる彼のペットは優秀な斥候なのだ。
だが本質が何であれ、見られ方が悪いと仕事の評価が悪く、それが多くの困難を招くことを、年齢以上に“経歴を重ねている”彼は知っていた。
なのでラリー少年は、大人しく「申し訳ございません」と言って家にペットを帰らせた。
「すみません、家との連絡用に伝書鳩代わりに使えるかと思いました」
ラリーがそう弁解したと聞いた、マスターワースモンは「はぁ……」と溜息をことさら聞こえるように吐き、後はこの少年の相手をすることも無いと心に決める。
もう一人来ると言う、案内人を待つまでの間、彼は自分の腹心ともいう弟子にこう言った。
「まったく、バームスが案内のできる有望な子供だと言っていたが……
とんだ期待外れだな!」
「クックックッ。
まったくです、ペットと一緒に討伐に参加するだなんて……
子供のする事とはいえ、どういう教育を受けたんでしょうね。
本当くだらない、いい笑いものだ」
「まっ、使えなければ後で送り返そう。
あれじゃ使い物にならなさそうだしな……」
初めて会った人間に対する評価はどの世界も辛い。
彼らの言う常識に照らし合わせて、緊迫感を欠いたと思われる……もっと平たく言うと“おかしい”ラリーの行動は彼等の中で評価を著しく下げた。
この瞬間、彼らの中で十中八九、ラリーはクビにする予定である。
「もう一人もアイツの友人か、期待できるかな?」
思い出したかの様にワースモンがそう呟くと、弟子は苦笑いを浮かべて「さぁ……」と返す。
「とにかく今日は連れて行くしかないでしょう。
地図もあるようですし、我々だけで大丈夫だと思えば、もうそこで帰らしてもよいのでは?」
「そうだな、そうしよう……」
ワースモンはそう言って、ゴブリン討伐の段取りを考える。
そして、遠くにいる別の若者に目を向けた。
「おい、お前はガストン・カルバンの腕前をどう見る?」
「え?まぁ……使えるんじゃないですか。
剣士免状は、いつか与えても良いと思いますよ」
「まぁ、そうだな」
「それにワタレル様は、アイツを宗家の跡継ぎ候補にされるんですよね。
良いんじゃないですか?
別に男爵家の跡継ぎがソードマスターでなくても」
「ふ、ふふ……
それもそうだな、必要なのは“資格”だ。
男爵家を継ぐ者が我々には必要なのであって、何も本当のソードマスターが必要なわけではない。
要はソードマスターでさえあれば“偽物”でもいいのだ」
「そうです、どうせこれからの本当の男爵はライオ・フレル様なのです」
「まぁ、せいぜい私も家格を上げさせて貰うとするか……」
「ついて行きます、ワースモン様!」
「ふ、ふふ……
お前もいい目を見せてやる。
ボグマスなんかよりも、ずっとな……」
◇◇◇◇
……ここでソードマスター、ワースモン・コルファレンの事を話す。
現在53歳の老騎士であるワースモンは、仕える主を幾度も変えた流歴の騎士である。
現在、彼には主は居ない……
騎士爵位はあるが、領地はなく、僅かな年金が国家から支給される身分である。
なのでライオ・フレル・ダブリャンの戦働き(傭兵)に参加し、その分け前が彼の収入の多くを占めていた。
……さらに唐突で恐縮だが、ここでソードマスターの説明をする。
ソードマスターと言うのは、聖騎士流と呼ばれる剣の流派に於いて、クリオン・バルザックが説いた、全ての剣の理を納めた者と言う意味がある。
数万人いる剣士の中から、現在僅かに26名の剣士しかいない。
マスターとなるための修業がどれだけ険しいのかは、この数字が物語るだろう。
一応、その下のヒエラルキーを説明すると。
ソードマスターの下に数百人の剣士免状と呼ばれる、資格の保有者。
その下に武装免状と呼ばれる資格の保有者がいて、こちらは約1万人いる。
そして、このソードマスターだが……
彼等は多くの戦士たちから尊敬される存在である。
実際に、アルバルヴェ王国でもソードマスターと言うのはとても大事にされた。
実際に彼等はそれほど強いのである。
主のいないワースモンが爵位を保持し、年金を貰う事が出来ているのはそれが理由なのだ。
……もし彼がソードマスターでなかったら、この国家から支給される、捨扶持のような年金すら出てなかっただろう。
流石にアルバルヴェ王国も、ソードマスターをおいそれと外国に奔らせたくはないのだ。
紛争になった時、敵の戦力を上げてやる必要はないという判断からである。
この様にして食うには困らないが、かと言って自分が積んできた厳しい修行に見合うほどの何かを、貰っている訳ではない。少なくともそう思っているワースモンは、この歳になって多くの不満を胸に抱く様になった。
53歳と言う年齢は、若い頃と違って多くの好機も、そして満足に動く肉体もワースモンから引き剥がす。
そして“衰え”は、元々明るかった彼の性格に影響を及ぼした。
……気が付けばワースモンは、若い頃と違って、楽観的に物事を見れなくなったのである。
残念だがこれが“老い”だ。
特に彼を悩ませたのが目だ、目が若い頃と違ってよく見えない。
目は鍛える事が出来ず、そして必ず衰える。
高速で振った際、剣の切っ先が見えなくなる瞬間が50歳を過ぎて現れだしたのだ。
自分の自尊心の源泉である、剣の切っ先が……
これらが53歳の彼の胸に不安の影を忍ばせた。
ワースモンは焦った、このままだと俺はマスターでありながら、何もない男として終わってしまう、と。
王国に飼い殺されて終わってしまう、と……
自分よりも弱い人間、満足に功績も立てられなかった人間が家格を上げて騎士や、官僚として活躍している中、自分は何をやっているのか?
このまま腕の良い“根無し草”で終わってしまうのではないか?
焦りが自分の人生とやらを、後悔を伴って彼に振りかえさせる。
だが若い頃少しの事で喧嘩し、次々と仕える主を節操も無く変えてきた過去を持つ彼は、今や明確に仕える主は無い。
……諸侯からの評判だって悪かった。
年月はそれ位には有名な男に、彼をしてしまったのだ。
この老人は、世間から自由を求める荒鷲のような男だと噂され、貴族家のしきたりに従わせるのは無理だと思われている。
……だから10年前から仕官の話も、ソードマスターである彼の元に来なかった。
今は心を改めたと、いまさら自分で自分の事を喧伝するつもりにもなれない。
……自尊心がそれを許さなかった。
だがそんな彼でも戦場での働きは抜群で、傭兵としての仕事ならいくらでも仕事はあった。
だがそれも寄る年波には勝てない、自分でも昔とは違うと言う違和感が、絶えず胸にこだまする。
安定しない収入、衰え行く肉体。
そして、年老いた自分を顎で使う、ただ家柄が良いだけの若い貴族……
様々な現実と、様々な思い出が、心に淀んだ澱のように彼の胸の内に降り積もる。
貴族だけではない。
真面目に主に仕え、信頼が厚い家臣共が、主の権威を嵩にして、仰々(ぎょうぎょう)しく自分に仕事を申し付ける。
その一部始終がこの歳になると、殊更疎ましい。
彼等から恩着せがましく報酬を貰うとき、言いようのない屈辱がさらに澱となって、ワースモンの胸に降り積もる。
こうして心を埋め尽くす言いようのない、焦りと、不安。そして様々な類のネガティブな感情。
誰にも打ち明ける事の出来ない、暗い影に苦しむワースモンは、今更だが仕官を望むようになった。
だが、戦しか能がない、評判の悪い老人を雇う貴族は居なかった。
そんな時、彼の耳に届いた知り合いの仕官話が耳に入る。
相手は30代も半ばを過ぎ、腕は確かだが戦功が乏しい一人のソードマスター、ボグマス・イフリタス。
彼は仕えていたルシナン伯爵家が、密貿易等に加担して男爵にまで没落し、その影響で彼は騎士爵までも取り上げられていたのだ。
本当は罪に問われるかもしれなかった彼だが、先々代のバルザック男爵と仲が良かったこともあって、ヴィープゲスケ男爵家から助命嘆願が出され、それが為に罪に問われる事は免れたのだ。
この顛末を聞いたとき、ワースモンはまぁ、ツイてない話だと思った。
ボグマスにそんな犯罪めいた事が出来るとは思えなかったからだ。
平たく言うと“潔白”だと確信していたのである。
そして同門の誼でもあり、かつソードマスターでもあるボグマスの事が気になり、新妻を娶った彼の為に、自分の部下にならないか?と誘った。
収入がなくて困るだろうと思ったのだ。
ボグマスは、命を助けてくれた王の寵臣、ヴィープゲスケ男爵の頼みで剣術学校の教師を務めなければならないらしく、感謝をしつつも丁重に断った。
そして彼はなんと、6歳の子供に剣を教える教師になったのである。
鬼すら恐れるソードマスターが幼稚園の園長……そう思うと、大変おかしい。
ワースモンは彼の不幸を心から笑い、そして“俺がこうならなくてよかった!”と心から思ったものである。
それから2年後……
ボグマスは仕官した、王の直属の騎士として騎士爵を復活させたのだ。
それだけではない彼は何と、第二王子の剣の師に正式になったのである。
驚くべき話はまだあって、その教え子はヴィープゲスケ男爵の息子、イリアシド伯爵の跡継ぎ、王国第二の勢力であるシルト大公のたった一人の娘と、同じくシルト大公に仕えるキンボワス、ワズワスと言った重鎮の伯爵家が名を連ねている。
それだけならまだしも、王都で行われた剣術大会で彼の教え子が優勝した事で、他の名門貴族の子弟も彼を剣の師として仰いでいるらしいのだ。
なぜ?と思った……
何故落ちぶれ、騎士爵を失った男がこうも幸運に恵まれたのだ?
おかしいではないか!私は奴よりも輝かしい戦功に見舞われ、多くの功績を上げた。
ただ生き方が器用ではなかっただけで、何故奴よりもみすぼらしい人生を送らなければならない!
血は、嫉妬で沸き立つ。
ボグマスの幸福が、憎悪を胸に掻き立てる!
そんな時である、一人の男が自分に手紙をよこした。
ライオ・フレル・ダブリャンである……
仕事を自分に割り振ってくれる、付き合いの長い有力者だ。
手紙の内容は、会って話したいと書いてある。
ライオ・フレルが本拠地としているダブリャンと言うのは王都の近郊にある、豊かな村の名前である。
そこで、ワースモンは折りをみて手紙の誘いにのって、このダブリャンにある屋敷を訪れた。
会ってみて、幾らかの挨拶を交わした後、ワースモンは、思いつめた顔の、ライオ・フレル・ダブリャンにこう言われたのである。
『今の男爵家は、危ういとは思わないかね、マスター?』
ワースモンもまた、聖騎士流引いてはバルザック家に縁の深い者である。
事情をよく知る彼は『ええ、このままでは王もご不満に思うかもしれません』と答えた。
バルザック家と王を繋ぐのは、ヴィープゲスケ男爵家の存在が大きい。
前の男爵夫人が、現バルザック家当主のガルボルムの妹だからだ。
丁度手紙が彼の元に届いた時は、その妹が夫婦喧嘩で家を飛び出して、実家であるバルザック家の本拠地、ガーブウルズに帰ってしまった時である。
これは当主が動けない状態にあるバルザック家としては、大変な事だった。
と言うのも、このせいで王と、バルザック家を結ぶ縁が全くと言っていいほど無くなってしまったからである。
……少なくとも傍からはそう見えた。
『やはり王の傍で近侍できるものが、将軍となるべきである。
そうは思わないかね?
そうでなければ王に疑われても仕方がないと思うのだが……』
『しかし、ご当主様は……』
『マスター、男爵様はもう長くはない。
残念だがな……
だが男爵家をこのまま潰す訳にはいくまい、多くの騎士が路頭に迷う。
そこでバルザック家の後継者が必要だ、まだ当分先の話になるだろうが、クリオン・バルザック様の血をひくもので、マスターになれそうな若者が居るのだ』
『ほう?』
『この前ご当主様に毒を持ったと疑われて死んだハギタル殿(カルバン家当主)の息子、ガストン殿だ』
『え!いや、しかし……』
『まぁ待て、ガストン殿は過去にこだわらない。
ただ剣の修業がしたいのだ、今はガルボルム様が生きているから憚られるがな。
だけどもどうだろう……
もしも男爵様に不幸があった時、誰が継承権を持つのかを考えると……ガストン殿を同情する者は居るだろうが、彼を嫌う者は居ないのではないか?』
『まぁ、ハギタル殿の罪ですから……』
『あれも言いがかりだと思うがな。
まぁ良い、継承権を持つ者として、私も名が挙がっている。
だがもし私が選ばれたとしても、それはソードマスターが男爵を継ぐと言う、我が一族の伝統にそぐわないと思う。
まぁ、剣の腕前は自覚している……
だから男爵を継いでも、私は次の継承者の為の橋渡しの役目を務めたい。
これはもう一人の有力な継承者である、ワタレル殿(ワーマロウ家)も同じ思いだ。
どうだろう、マスター……
ハギタル殿の忘れ形見、預かってみては貰えまいか?』
……魅力的な話に思えた。
ライオ・フレル・ダブリャンの声音は蠱惑的な響きに満ち、今の状況を的確に言い当て、そしてこれから必要なアイデアとして悪くない。
ただ、男爵を毒殺しようとした男の息子であると言うのが心に残る。
それが表情に滲んでいたのだろう、気が付いたライオ・フレルが囁いた。
『ガストン・カルバンには手柄が足りない。
だからみんなの信用が得られない、彼は信頼に値する男だと、私には見える』
ワースモンは(そうじゃない、毒殺の件があるからだ)と思ったが、傭兵仕事の一番の依頼人であるライオ・フレルにはそれが言えなかった。
そこで歯切れも悪く『そうですか……ライオ・フレル様にはそう見えると?』と答えた。
ライオ・フレルもそんなワースモンの心の動きは手に取るようにわかる、そこで『マスター、疑っていますな』と言って、誠実そうに微笑んだ。
次に彼は軽い口調でこう提案した。
『ではどうでしょうか……(ガストン・カルバンに)一度会ってみては?』
意外と軽い口調で言われたら、人はたやすく“ハイ”と言うモノである。
今回もワースモンは軽く……『まぁ、お世話になっているあなたの頼みです。お会いするだけでしたら』と答えてしまった。
それを聞くとライオ・フレル・ダブリャンは、してやったりと言った顔で、子供の様な表情で笑う。
『実は今日、この屋敷に来て頂いています』
ライオ・フレルの声は弾むようだった。
この様子にワースモンはハメられたと気が付く。
だがここまで準備が良いと、面白く感じられて苦笑いが浮かぶ。
結局彼は『では会いましょう』と流されるままに答えた。
こうしてワースモンはその日、別の部屋に待機していた、例のガストン・カルバンに会った。
ガストン・カルバンと言う若者は、正直言って印象の良い若者だった。
面通しが終わった後、ライオ・フレル・ダブリャンと再び会談したワースモンは尋ねた。
『具体的に私にどうして欲しいと、お考えで?』
ライオ・フレル・ダブリャンはニヤッと笑ってこう答えた。
『こういう言い方が正しいとは思ってないが、彼はこのままだと犯罪者の息子のままだ。
そこで、彼に手柄を立てさせ、他の者に認めさせたい。
そうしないと、誰も彼の剣の師になりたがらないだろう』
『ええ、私も躊躇わざるを得ないです』
『でしょうね。他のマスターの目線も気になる、あまり良い様に捉えない者も多い筈だ。
そこで私は彼に手柄を立てさせたい。
悪い評判を払拭させるのは、これが一番だ……
マスターワースモン。
ガーブウルズに居る“母無し子”と呼ばれるゴブリンを知ってるか?』
『ゴブリン?
そのゴブリンのせいで、他のマスター達の弟子が何人か死んでいるとは聞いてますが……』
『それを討伐してほしい』
それを聞かされた時、ワースモンの顔に、苦渋が走る。
ゴブリンをソードマスターが討伐するなんて、通常はあり得ない話である。
ワースモンは、明らかにがっかりした声で答えた。
『ゴブリンを……少し物足りないですね』
正直断りたいと思った、もっと歯ごたえがあるモノを斬りたい……
ところがそれを見越したライオ・フレルは魅力的な提案をしてきた。
『タダとは言いません、もし私が男爵になった暁には……私に仕えませんか?
あなたの腕は安くないことは理解してますよ』
『ガーブで?』
『ダブリャンでも、あそこなら王都にも近い……』
……ずっと誰かが言い出してくれないか?
そう待ち望んでいた提案である。
それを聞いたときワースモンはニヤリと笑ってこう答えた。
『最初からそう言ってくれればよかったのに……』
『…………』
『よろしく願います、我が主!』
ライオ・フレル・ダブリャンはそれを聞いた瞬間尊大にふんぞり返り、そして右手を差し出した。
急ぎその手を取り、その手の甲に口づけするワースモン。
『忠誠を……』
『うむ……』
こうしてワースモンは、秘かにライオ・フレル・ダブリャンの配下になった。
◇◇◇◇
このゴブリン討伐と言う、ソードマスターがやるには随分と格が低い仕事に、ワースモンが神経を尖らせる。
彼のこれからが、この仕事に掛かっているのだ。
さてしばらく時間が経ち、ようやくジリがラリーの元にやってきた。
その手には荷物がいっぱい抱え込まれている。
彼はラリーの元にやって来ると手にした荷物の半分を渡した。
「服を持ってきた、水洗いの奴だ。あと水筒もある」
「ありがとう」
「どう?なんか気難しいって聞いたぞ……」
「なんだか、俺等は歓迎されてない。
ペッカーを連れて行こうとしたら、見下されたよ……」
「マジ!じゃぁ今回は斥候は居ないの?」
「ああ、そうなる」
「嘘だろォ、しかもこいつら石鹸臭いぞ……
奴に見つからないかな?」
「見つかると思っていい、逃げてくれたら幸いだけど……
奴は罠を好む、どうなるんだろ?」
「……ああ、ラリー。
実は今回これを持ってきた」
「なに?」
ジリはそう言うと手のひらサイズの小さなボウガンを見せた。
「これはジリが作ったのか?」
「ああ、お前がいつかアイツに戦いを挑むと思って、こっそり用意したんだ。
卑怯かもしれないけど、アイツはやばい。
いざとなったらこっそりコイツに毒を塗って打ち込むつもりだ」
それを聞いたラリーは目に感動の涙を浮かべ、次にジリの肩を抱いた。
「背中を預けられるのはお前だけだ……」
「ああ、でもこれ位しか出来ない……」
「十分だ、感謝する。一生忘れない」
ラリーはジリから体を離すと「じゃあ、今からマスターの所に挨拶に行こう」と言って、ジリを連れてワースモンの元へと向かった。
悪魔の谷、そして“母無し子”と呼ばれるゴブリンが、この地にずっと語れる伝説となった日がやってきた。
この悪名高いゴブリンが6歳を迎えた夏の事である……
いつもご覧になっていただきありがとうございます。
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