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俺の騎士道!  作者: 多摩川
少年剣士誕生編
39/147

猫と青春時代と……

……これは男爵家の問題児が、8歳のチャンピョンになった二日後の事である。




アルバルヴェ王国王太子にして、ラール・アルバルヴェ公爵のリファリアスの屋敷から、一匹のネコが這い出た。


口には一匹の子猫が(くわ)えられている。

そして子猫が嫌そうに「ミャー、ミャー」と泣き(わめ)いていた。

不安含(ぶく)みのその声に、後ろ首を咥えて運ぶ猫も辛そうだ。

()い出た猫の模様は、はち割れ模様で、彼はリファリアス王太子邸から遠く離れると、路上に子猫を口から離して空を見上げる。

……空には真ん丸の月が浮かぶ。

それを見ながら人間の言葉で(つぶや)く。


「どうしたらいいニャ……」


するとこれまでニャーニャー盛んに鳴いていた子猫が、はち割れのネコに顔を向けて言った。


「おなかがすいたニャ……おじちゃん、ママにゃんはどこ?」


するとはち割れのネコは、苦しみを乗り越え、そしてまるですべてを悟ったかのような顔でこうつぶやいた。


「おじちゃんじゃないニャ……

これからは……パパと呼ぶニャ」


◇◇◇◇


俺の名はゲラルド、あだ名はラリー。

知ってるかい?コブラツイストと言う技を。

神のごとく崇められる某有名格闘家の代名詞となっている技の一つだ。

別名“あばら折り”とも言われる。

背後から相手の足、首に自分の足、腕を(から)めて伸びあがると、その痛みで相手が悶絶(もんぜつ)する。

立ち技の一つで他の国では“ぶどうの(つる)(グレイプバイン)“とも言われる。

その威力に、鋼の体を持つと言われた某有名格闘家はこう言った。

……マジで、チョー痛い。




「ぎぃっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

「このクソガキィィィ!」

「いだぃ、いだっ痛ぁぁぁっ、ぎゃぁぁ!」

「ウィーリア、ナイス!

そのままこのクソガキを締めあげちゃいな!」

「分かってる!このガキっ、これからは私達をお姉様と・お・呼びィッ!」

「がぁぁっ!」


本当に女?

本当に魔導士?

そう言いたくなるくらい力強いコブラツイストで締められながら、俺は泣き叫ぶ。


「ほらクソガキっ、サッサと(あきら)めちまえよっ!」

「い、嫌だぁ、誰がお前をお姉様と……」

「ふんぬっ!」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


あばらが折れると思うほどに軋み、背骨から脳髄(のうずい)に掛けて、電撃のように痛みが走り抜ける。

そしてふと右に目を向けると、目線の先には兄貴が……兄貴っ!


「た、助けてお兄様、助けて……」

「…………」

「目をそらさないでお兄様……」

「…………」

「そのまま祈るのはやめてぇぇ!」


祈りの言葉なんざいらん!

現実にこの俺を助けてぇー。




……あれから3分経った。

騒ぎを聞きつけたお父様が助けてくれなかったら、俺はまだまだ絞られていただろう。

ベガ、アイネ、ウィーリアと名乗るクソ馬鹿三姉妹の横暴に、俺はなすすべもなく蹂躙(じゅうりん)されていた。


……連中はひどい奴だ。

俺は出会って3秒後にスタン。

そして出会って2日後にコブラツイストである。

この調子でいくと出会って1週間後には、ジャーマンスープレックスで病院行きだ。


……少なくとも、その可能性は十分にあった。


この間、殴られる、怒鳴られる、こき使われるなんざ、当然のごとく用意されたカリキュラム。

礼儀を教える……と言う言葉を、あの鬼婆どもから何回聞かされたか。

もう耐えられない、アイツらと一緒に居るくらいなら、橋の下で寝泊まりしたほうがまだましだ!


兄貴は全く頼りにならない、ていうか我が家の伝統芸“仕事に逃げる”を実行し、家に寄り付かない……

おかげで魔導オタクの、ついこの前結婚したばかりの義理の姉さんもブチ切れる始末。


こうして我が家は一気に女性が天下を握ることになり、パパは書斎とママの部屋と食堂にトイレそして玄関以外には全く足を延ばさなくなった。

わが父ながら、一体何を考えてこんなに広い邸宅に住んでいるのか分からない。

とは言え、少しでも追い込むと彼もまた間違いなく仕事に逃げ込んで家に帰ってこないのは明白なので、ママさんは何も言わないでいるみたいだった。

……ヴィープゲスケ家、終わってるわぁ。


◇◇◇◇


そんな事があった、翌日の朝の事だ。


「と、言う事があって、俺は今家に帰りたくないんだよね」


学校に(おもむ)いた俺は、さっそくいつもの4人で、王子様の机の周りでおしゃべりを開始する。

そしてみんなの目をチラッ、チラッッと見つめた。


誰か、自宅に俺を呼んでもいいのよ?


期待のこもった俺のまなざしを受け止める3人。

ところが、皆は渋い顔で首を振る。


シドは「うちは、伯爵様の家に居候しているから……」と言い。

フィラン王子は「王宮に人を泊める事は出来ないからさ……」と言い。

イリアンは「ウチのお父様は、ヴィープゲスケ男爵と仲がいいんだ。だからすぐに知られてしまうからお勧めしない」と言った。


……そうかよ。

特に、イリアンの目からは“断りたいです”と言う心の声が見て取れる。

お前だけ理由が弱いなぁ、と思いながらも俺は答えた。


「あ、ああ……いやそんなつもりじゃ無かったんだ。

ごめんね、気を使わせちゃって……」


俺はそう言って、その会話から逃げ出した。

すまん……卑怯(ひきょう)な会話の終わり方で。


「それよりも、エスコートの話はどうなった?」


王子が明るい声でそう言うと、皆でその話に食いついた。


「殿下はどうなりました?」


魔導大学の開校式そしてその後のパーティに参加するお話である。

特にパーティは、皆で女性をエスコートして誘うという計画を立てていたのだ。

後にこれは別に強制ではなかったという事が判明している。

実はあの俺を“鼻血”呼ばわりした連中がイフリアネとエルザを誘うために強引に強制イベントだと嘘を吐いたものらしい。


……でも、もうここまで来たらそんな事どうでも良い。

特に、王子様の恋を応援する“元”イケて無いズにとっては好都合である。


そう、我々は王子様とイフリアネをくっつけたいのだ!

可愛いうえに、親切、そしてこの前の大会でも細剣の部で優勝!

腕良し、性格良し、そしてめっちゃ可愛い。

ついでに言うと剣友。

こんな子が王子様と付き合ってほしい。

だから我らは問題なし。むしろ好都合だ!


とは言えめんどくさがりな彼がどこまで、話を進めているのか。

実は昨日の朝、いつもやる俺とイフリアネの朝練に合流した彼に、二人っきりで話す機会を与えた俺は、この顛末(てんまつ)がすごく気になって仕方がない。

結末は、はてさて……


「へへ、今度僕がエスコートすることになった……」


王子様ははにかんだ笑みを浮かべながら、そう呟く。

思いのほか上手く行ったことに安堵(あんど)する俺達。


『…………』


俺達は黙って“エっへっへっへっ”と笑い、そして意味もなく王子様と握手(あくしゅ)する。

王子様も「ありがとう……」と呟いて、握手を返した。


「イフリアネに言ったら、なんて返しましたか?」


シドがナイスな切り口で話を切り出すと、王子様は「相手が居ないならいいよ、って言われた!」とはしゃぎながら答える。

俺等も一緒にはしゃぎまわる、彼の喜びは親友である俺達の喜びでもある。

次にイフリアネは誰か好きな人はいないのか?とか、誰も声を掛けなかったのか?などを話し合った。


やがて話は別の方向に脱線し、王子様が思い出したように「シドはどうなった?」と、尋ねた、

俺も気になったので、同じことを尋ねると、彼は「余った人と行くよ」と事も無げに答えた。

するとイリアンが「シドは本当に冷静だよね、僕はどうしよう……」と(なげ)いた。

王子様はそんなイリアンが心配になり「相手が見つからないの?」と聞いた。


「クラリアーナは一人で行くって言うし。

ウチの親戚で同じぐらいの年の女の子が居ないんだ」

「エルザは?」

「エルザかぁ、もう埋まっているんじゃないかな?」

「いや、昨日イフリアネに聞いたらまだみたいだよ」

「え、そうなの?ありがとう殿下!誘ってみるよ。

ラリーはルシェルと行くんだよね?」

「う、うん」


するとシドが何気ない感じでこう尋ねた。


「でも意外だったよね、ラリーがルシェルって……」

「え?なんで。

スタイルもいいし、結構美人だと思うけど……」


俺がそう答えると、殿下も「身長を気にしない人なら、ルシェルは確かにかわいいよね」と言った。

一瞬、もしかして(ねら)っていたのか?と下らない心配をした俺。


まぁとにかくこうして俺達は、ませたお子ちゃまトークを存分に楽しみ、そして学校が終わるといつものようにマスターボグマスの元に通うのだった。


◇◇◇◇


訓練はいつもの(ごと)く始まり、そして激しくも合理的な訓練は、いつものように夕方に終わった。

夕方、皆がお迎えの馬車で帰る頃、俺だけは一人残って井戸の(そば)にたたずんでいた。


「あツツ、また豆を(つぶ)した……」


(てのひら)に出来る剣タコを潰した俺は、井戸からくみ上げた水で、血が止めどなく噴き出る掌を洗った。

剣を強く握ったまま、何度も何度も振ると、こんな感じのタコと言うか、豆ができる。

剣タコ(豆)を(つぶ)すごとに掌は固くなり、そして剣を握る握力も上がる。

やがていくら剣をふるっても、剣で掌の皮が(めく)れる事がなくなるらしい。

とはいえまだ子供の掌とは(やわ)らかいもので、前より硬くなったとは言っても、掌に次々と剣タコが生まれ、そして破れては俺を苦しめる。


(ああ、クソ!忌々(いまいま)しい皮めっ。早く硬くなって捲れない物になれっ!)


俺がそう思って洗っていると、近くで花のような香りがしたのでそっちに振り向く。

そこには、イフリアネが得意げに軟膏(なんこう)をもって立っていた。


「ふふ、欲しかったら、お願いしますお嬢様ってお言い」

「お前は俺の姉貴かッ!」

「ラリー」

「はーい、はいはい。

お願いしますお嬢様、私めに軟膏をお与えください」


イフリアネはそれを聞くと「よろしい」と言って軟膏を差し出した。

随分(ずいぶん)と得意げである、しかしそれもまた可愛い……もし王子様の思い人でなければエスコートしたい可愛さだ。

俺は受け取った軟膏を掌に(なす)り付ける。

するとそれを見ていた、イフリアネは俺にこう尋ねた。


「ラリーはルーシーとパーティに行くの?」


ルーシーはルシェルのあだ名である。


「うん、ルシェルと行く事になった。

エスコートが必要だなんて聞いていなかったから助かったよ」

「え、バラより美しいのに?」


言われた俺は思わず“ブッ”と吹き出し、そのままむせ返った。


「ラリー、好きなら好きって言いなよ。

それ全然男らしくないよ……」

「そ、そうだね。まぁ、うん……」


お嬢様、鋭い突っ込みありがとうございます。意味もなく内臓をえぐるような衝撃なんでござぁますよ、それ……


まだまだケチで偉大な聖マルコの教えをモノにできていない俺は、妙な汗を(ひたい)に浮かべながらイフリアネから目を背けた。


「ああ、顔真っ赤だ。

ルーシーに言ってあげようかな」

「うるさい!ソレよりもイフリアネもフィラン様と一緒に行くんでしょ」

「うん、聞いてるでしょ?」

「もちろん」

「よく見るとカッコいいよね、殿下」


イフリアネの言葉に俺は思わず(なまり)のようなつばを飲み込む。

フィラン様が王子であることは秘密である。

それを知ったと言う事に、思わず青ざめた顔でイフリアネの顔を見上げる俺。

すると彼女は透明感のある笑みを一つ浮かべるとこう言った。


「別に彼が王子様であろうとなかろうと、別にどっちでもいい。

そんなこと……大したことじゃないもの」


そしてそのままクルリと(きびす)を返すと、いたずらっ子のような笑みの横顔を、肩越しに俺に見せながらこう言った。


「じゃあねラリー。エスコートが上手く行かないと、ルシェルに嫌われちゃうよ」

「ん、ああ。分かった、ありがとう」


何故かその様子にドキッとしながら、俺は手にした軟膏の缶を意味もなく掌の上で回していた。

ああ、いかんいかん。

あの女は好きになったらいかん!

まったく、自分に自信がある女はこれだから恐ろしいぜ、まったく……




さて今日の馬車の送り迎えは実は断っていたので、テクテクと家に歩いて帰った。

魔導大学と我が家だと大体30分ぐらいの距離でちょうどいい。

それに時間をかけて歩く冬の道は結構好きなのだ。貴族街の街並みもきれいだしね。

……それに、別にすぐに家に帰りたくはなかったというのが大きいんだ。実際はね。


学校や習い事が全て終わると、あの忌々しい姉貴たちと顔を合わせなければならないのが正直苦痛なんだ。

エリアーナ姉貴以外の姉貴は“お姉様”なんて呼びたくもない。

どこか。帰り道のどこかで帰宅を諦めるようなトラブルが起きないかなぁ……


そう思って歩く冬の道……

するとそんな俺の希望を叶えるかのように、路上から“ミャー、ミャー”子猫の鳴き声が聞こえてきた。

ふと気になったので声のした方に足を向ける。

すると、哀れにも路上の片隅にある、ぼろきれの詰まった箱の中に、長毛種のかわいい茶虎の子猫が、たった一人で切なくも、悲しい悲鳴を上げていた。


捨て猫だ……かわいそうに。

俺はこの小猫が自分に重なって見えた。

きっとこの子も鬼のような家族にいじめられ、せめてもの情けと言わんばかりに、ぼろきれの詰まった箱の中に入れられ、そしてこの路上に捨てられていたのだ。


思わず子猫を抱き上げ、そして軟膏まみれの掌に(つつ)んだ。

その瞬間確かめた、小さく、柔らかいその感触。


こんな可愛いモノを、寒空の中に放り出すなんていったいどんな鬼婆が思い付いたのだろう。

ひどい事をする奴は世の中にたくさんいる、その事実に俺は思わず胸がつぶれそうになった。

掌の子猫を胸に抱きあげ、そして頬ずりした。情が湧く、この子を飼っていいかどうか親に聞いてみようと思った。


「お前うちの先住ネコと上手くやれるか?

ちょっとエロが入った変な奴だけど悪い奴じゃないよ……」


子猫が答えるはずはない、じっと俺を見つめるだけである。

その様子を見て、俺はこの子を連れ帰ると決めた、そして立ち上がると子猫を抱えて帰路についた。

そんな時、腕の中の子猫が言った。


「おじちゃん、パパニャンがどこに居るのか知らニャい?」

「……うん?」


なんだろ、まるで実家のような感覚が……

腕の中の子猫を見下ろす。

子猫は可愛く「ミャー」と鳴いた。


「……気のせいかな?」


首を(かし)げた俺は、再び家路(いえじ)を急ぐ、すると再び子猫が鳴いた。


「パパニャン、目元が黒くて鼻が白いんです。

パパニャンを探してるんです」

「……あ、ああ」


言葉が(しゃべ)れて、目元が黒くて鼻が白い猫なんて、この世に何匹もいるはずがない。

……犯人は奴だ!


◇◇◇◇


「ふざけんな!クソ猫ッ。

お前は遂に何をやらかしたんだ!」


牛乳をバスケットにいれ、今まさに我が家の屋敷を脱走しようとしている、クソ猫を捕まえた俺は、そのまま納屋(なや)に子猫ごと連行し、そしてそのまま尋問を始めた。

西日が差す納屋で、ポンテスはひどくおびえた様子を浮かべ、神妙に俺の叱責を受ける。


「し、仕方がなかったニャ!

ムッチャかわいい猫が居たのニャ!

だから春先、ムラムラ……」

「ムラムラするなっ!

で、この子をどうするんだ」

「パパニャン、(さみ)しかったニャン……」


子猫は、しょぼくれるうちのネコに寄り添い、そして小さな顔を彼のおなかに押し当てる。

ポンテスは「う、うう……」(うめ)くと、消え入りそうな声でこうつぶやいた。


「どうかこの事は内密に……」

「ふざけんな!そんな勝手な事が許されるものかっ。

この事はママに相談……」

「やめてニャ、それだけは絶対にだめニャ!

この事がペッカー先生にばれてしまうニャっ!」


ポンテスは腐った事を、必死の形相(ぎょうそう)で言い放つ。

その言葉にカチンと来た。

だが、あまりにも必死な顔でそう言うので、イライラしながら尋ねた。


「どうしてペッカーに知られたらダメなんだ?」


するとクソ猫は、絶望に満ちた顔でこう言った。


「実はパパニャンと一緒ニャ」

「あん?」

「実はニャーは……故郷に嫁さんが居るニャ!」

「…………」


はい?何を言っているのコイツ……


「ニャーは確かにクソにゃ、でもニャ。

それだからこそ、ニャーはペッカーが恐ろしいニャ。

浮気者に対してあの男が優しい事は無いニャ、むしろ必ずぶっ(つぶ)されるニャ。

お前も見たニャ、キレたペッカーが街一つを混乱の(うず)に叩きこんだことを……

もしもそれが、この王都で起きたら。

パパニャン(グラニール)、首ニャ!」


そんな馬鹿な、と思ったが、ネコは必死の形相で言う。


「嘘じゃないニャ、アイツは潰すとなったら、他の人の迷惑は一切考慮(こうりょ)せず潰しに来るニャ!

ニャーはアイツが恐ろしいニャ。

恐ろしいと言った恐ろしいニャ!

信じるニャ小僧、信じてくれニャぁ……」


あまりにも必死なので俺は、さてどうしようかと考えた。

子猫もけなげに「パパニャンをイジメるニャ!」とか言うし。

そこで仕方なく俺は「分かった、じゃあこれまでの恩とチャラだからな。で、どうして子供が出来たのか教えてくれ」と言った。


ネコは絶望した顔に喜色満面の笑みを浮かべて答える。


「おお、ありがとうニャ!

実は話すと長くなるのニャが……」




実際に長くなったので短く言うと、ある日ウチのクソ猫は春先ムラムラしながら歩いていると、王太子様の家の窓に、真っ白い美しい毛並みの長毛種の猫を見かけた。

で、ムラムラしているから3日間必死に口説き、そしてワンナイトラブに成功。


そのまま何事もなく日々を過ごしていたら、3日前に散歩の途中で王太子の家におびえた様子のこの白い猫が居たので挨拶(あいさつ)したのだ。


所が逢った瞬間噛()まれる、引っ()かれる、ぶん殴られるなどハードな攻めを体感し、その後に教えてもらったのだが、他のネコよりもはるかに長い期間妊娠し、この前出産したことが分かった。

一週間前に生まれたのがこの子猫。しかも男の子。

そして一匹だけしか生まれなかった。

ネコは基本多数頭生まれるからさすがにおかしいと思った、この白猫は大いに(あわ)てた。

しかも、この子が人間の言葉を喋れると知ってますます気味が悪くなり、父親であるウチのクソ猫に押し付けたのだ。




「それが昨日の夜ニャ……ニャーはどうしていいのか分からないニャ」

「うん、まぁいつも自信満々のお前が落ち込むくらいの出来事なのは分かった。

でもペッカーに知られたくないなら……

手段は一つしかない」

「なんニャ?」

「この子はよその家の子にする」


するとうちのエロクソ猫は覚悟はしていたようで、仕方ないといった風にうなずくと消え入りそうな声で言った。


「分かったニャ、でもウチと関係のない家にして欲しいニャ。

後、できるだけ優しい子が良いニャ、紹介して下さい、お願いしますニャ」

「そうか、それなら実はアテがある。

前からお前の事を気に入っている家族が居るんだ。

その家なら大丈夫だと思うぞ」

「ニャ!そんなところがあったのは知らなかったニャ、そこはどこニャ?」

「そこはな……」


◇◇◇◇


「と言う事があったんです、お願いできませんでしょうか?」

「ラリー、ありがとう。僕らはずっと友達だ……」


俺は早速その足でポンテスを伴って王宮に行き、王子様に面会を申し込みかくかくしかじかとお話しをした。

王子様はすっごい笑顔で綿毛のような、ポンテスの息子を抱き上げる。

ずっと前から喋れる猫が欲しいと言っていたのだから、これ以上ないほど喜んでいる。

弟が出来たと喜ぶ彼に、そばにいる王太后様もお喜びだ。


猫と一緒に王宮内を歩いていろいろな人に新しい家族を見せに、王子様はさっそく部屋を飛び出す。

なので取り残された俺と、王太后様は少しお話しすることになった。

彼女は言った。


「ラリー、猫を分けてくれてありがとうございます。

しゃべれる猫の存在は、きっと他の王家(アルバルヴェ王国別家)の方にも自慢できることでしょう。

それにしてなんと嬉しそうな王子の姿……

弟も、妹もいない子ですから、きっとそんな子が欲しかったのでしょうね……」


こうして我がアルバルヴェ王国の王家には、人間の言葉をしゃべる猫が飼われることになった。

しかもモコモコのふわふわ。

王様はこの猫をたいそう気に入っているそうだ。


……正直、俺も可愛いコイツと、ウチのネコを取り換えてほしく思えてきた。

だってウチのネコ浮気者なんだもん。


あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


もっと頻繁に更新しなきゃ、頑張る一年にします。

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