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撃剣のジャック・チャーチル(2)

「連携して! シャーロット! 芭蕉!」

 語気鋭く言い放って、ケイトは鎖鞭を振るう。

「いい反応だ」

 酔いを感じさせない怜悧さで、ジャック・チャーチルはクレイモアをたかだかと掲げると、剣の切っ先が天井を貫いた。

「おっと」

「隙あり!」

 真っ先に切り込んだのは松尾芭蕉だった。

 両手に構えた忍刀が左右からチャーチルを襲う。

「ほっ」

 チャーチルはクレイモアから手を放して自分から松尾芭蕉にタックルを仕掛ける。

 体格の差と、不意を突かれてが相まって、芭蕉の身体が軽々と吹っ飛んで壁に叩き付けられた。

 切り替えが速い。

 戦場で生きてきたものならではの判断力!

 もちろん、ケイトだって黙って眺めていたわけではない。

 背後から回り込むようにして襲いかかった鞭を、チャーチルはあっさりと見切って身体をかがめてかわすと、逆に鞭をつかみ取った。

「……ッ」

 ふわ、とケイトの身体が宙に浮く。

 鎖を掴んだチャーチルが力任せに鎖を振るい、ケイトの軽い身体が遠心力で振り回される。

 急いで鞭を手放したが、もう遅い。

 受け身をすることすらできず、ケイトの身体が天井にぶつけられ、さらにバウンドしてもう一度床に落ちる。

 歪む意識の端で、シャーロットが殴り倒されるのが見えた。

 強い。

 強すぎる。

 心のどこかで、魔法国イースキールのことを見くびっていたのかもしれなかった。

 所詮はチャールズ・カフリンの魔法に頼った、それだけの軍団でしかないと。

 魔法を封じる事が第一義……というよりも、魔法さえ対処すれば、なんとでもできる。

 魔法のアドバンテージさえ封じれば、自分が負けるはずがない。

 一度敗北してなお、心のどこかでおごりがあった。

 認めねばならない。

 今の自分は女帝イェカチェリーナではなく、ケイトという一人の人間に過ぎないのだと。

「退屈だ」

 チャーチルは独り言のように言った。

「誰かが俺に二度目の命を与えたことになんの意味があるんだ? 俺の存在意義は戦うことしかない。にもかかわらず、この世界に俺の相手はいない」

 手をもたげて、天井に突き刺さったままのクレイモアを引き抜いた。

「なあ? 教えてくれよ。俺の人生はなんのためにあるんだ?」

「教えてあげるわ」

 ケイトはよろよろと立ち上がった。

「そのクエスチョンに私なら答えてあげることができるわ、ジャック・チャーチル」

「ほう?」

 チャーチルは鋭い目線でケイトを見下ろした。

「どんな答えがあるっていうんだ? ケイトとやら。教えてくれよ」

「その前に、いきなり攻撃して来るのをやめなさいよ……あいたたた」

 ケイトはしたたかに打った頭をおさえた。

 だらだらと額から血が流れているが、致命傷ではない。頭がガンガン痛むだけだ。

 手に付着した血をべろりとなめとって、再び腰を下ろした。

「さあ、酒盛りの続きをしましょうか、チャーチル」

「やるねぇ」

 チャーチルは笑って、床に転がった椀を拾い上げて、酒を注ぎ直した。

 床に倒れたままの芭蕉とシャーロットに目配せをした。

 おそらく、二人ともすぐには起き上がれまい。

 為政者クラスである自分だからチャーチルの攻撃が直撃してもすぐに起き上がれたが、芭蕉とシャーロットには無理だ。

 ここは、私の土俵だ。

 私が片をつける。

「で? ケイトとやら。どんな答えがあるっていうんだ?」

「まずは」

 頭痛を抑えるために一気に酒を飲み干した。

「私の名前はケイトなんだけど……これは愛称でね。本名はイェカチェリーナというの。イェカチェリーナ二世・アレクセーエヴナ」

「ほう……イェカチェリーナか。いい名前だな」

 ケイトと同じくらいの速度でぐいぐいと酒を飲み進めながら、チャーチルは眉をひそめた。

「イェカチェリーナ二世? お前、まさか」

「ようやく気づきましたか」

 ケイトはごきりと首を鳴らして、さらに酒を飲み進める。

「ええ。お察しの通り、アグリア帝国の前皇帝よ」

「ほぉ……」

 チャーチルは薄く髭の生えたあごをなでて言う。

「皇帝陛下が、こんなに酒が強いとはな」

「最初に感想を述べるのはそこなのね……まあロシア人だから、酒には強いのよ」

 正確に言えば、出身は北ドイツなのだが。

「まだまだ、いくらでも行けるわ」

「そうか。いい友になれそうだ」

 チャーチルはずいとクレイモアをケイトに向けて差し出した。

 ぎらぎらと輝く切っ先が、ぴたりとケイトの鼻先にある。

「出会ったのがここでなければだがな」

「あら。私を殺すつもりなの」

「そりゃそうだろ? イースキールの戦士である俺と、アグリア帝国の皇帝であるあんたとじゃな」

「待ちなさいってば」

 ケイトは目の前にあるクレイモアを無視して言う。

「私ならば、あなたの人生を楽しくしてあげることができるって言っているの」

「そうか。そういう話だったな」

 そう応じはしたが、チャーチルはクレイモアを手にしたままだ。

「で? あんたはどんな楽しみを俺に供してくれるというんだ?」

「私の仲間になれば、いくらでも斬る相手を用意できるわ」

「!」

 虚を突かれたという様子で、チャーチルは目を見開いた。

「一理あるな?」

「でしょう? チャーチル」

 ぐいぐいとケイトは酒を飲み干す。

「あなたは、魔法国イースキールを滅ぼすために生まれたのよ、ジャック・チャーチル。チャールズ・カフリンの魔法ならば、敵が尽きることはない。不死の敵を相手にいくらでも戦うことができるわ」

「だが、ダメだな」

 ざくりと切り落とすようにしてチャーチルは言った。

「弱い相手に従う俺ではない。俺一人で一蹴できるような相手に、従う謂れはない」

「ならば、チャーチル」

 ケイトは杯を飲み干して、立ち上がった。

「改めて、私の力を示しましょう」

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