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処刑人・山田浅右衛門(2)

「この村は廃村になる」

 山田浅右衛門の言葉を聞いて、ケイトは顔色を変えた。

「どういうこと? 浅右衛門殿」

「言った通りの意味さ」

 ふてくされたように、浅右衛門は横を向く。

「この村ではたたら製鉄を禁じられた。この村だけじゃない。あんたが命じて作ったたたら製鉄のための集落は全て製鉄を禁じられたのさ」

「……それは、つまり反乱を防ぐため?」

 ケイトは額をおさえて言う。

「そういうことになるだろうな」

 ふーっと長く浅右衛門は息を吐き出した。

「別に俺たちは刀や槍ばっかり作っているわけじゃねえ。クワやカマを作るほうが本来の役目なんだが、チャールズ・カフリンにとっちゃそんなのは言い訳にしか聞こえないんだろうよ。農業奨励よりも、反乱防止のほうが優先というわけだ」

「まずいわね」

 ケイトは思いがけず言葉に出してしまった。

 反乱を防止するため、という名目は同じ為政者としてわからないわけではない。

 しかし、それならば武装のみを禁じればよい。

 そもそもの話に戻れば、アグリア帝国は人口増加の加速が当初の課題だったのに製鉄、すなわち農機具の発展を止めてしまえばアグリア帝国は遠からず食糧供給が追いつかなくなり壊死してしまう。

 にもかかわらず製鉄のみを止めるというのは乱暴に過ぎる。

 結局のところ、国家の規模に対してイースキールの治世が間に合っていないために杜撰な対処をするしかない、ということなのだろう……もしかしたら、アグリア帝国の農業生産規模すら把握できていないかもしれない。

 知らず、ぎゅっと固く手を握りしめていた。

「これ以上、私の国を踏み荒らされるわけにはいかないな」

 ケイトは決意を込めて、浅右衛門を見た。

「いくつか質問があります、浅右衛門殿」

「何かな? 皇帝陛下」

「この集落を見張っている、イースキールから遣わされた人物がいますね?」

 代官はほとんどそのままと聞いているが、製鉄技術をそこまで危険視しているならば見張るための人物はいてもおかしくない。

「ああ。いるとも」

 ええと、と浅右衛門は考えるような仕草を見せた。

「名前をなんと言ったかな……南蛮の人でな。この歳になると名前が覚えられん。チャーチルと言ったかな。そう、ジャック・チャーチルだ」

 ジャック・チャーチル。

 名前を口の中でつぶやいた。

 ヨーロッパ圏の名前だが、前世で聞いた覚えはない。

 自分よりあとの時代の人物か、それともロシアまでは名前が轟かなかったのか。

「わかりました、浅右衛門殿」

 ケイトは後ろに控える芭蕉のほうに手を伸ばした。

「芭蕉。刀、貸してもらえる?」

 芭蕉はいぶかしげな表情を浮かべたが、無言で腰から刀を抜いてケイトに差し出した。

 受け取った剣を、ケイトはまじまじと見つめる。

 ノーリが使っていた剣よりも、いくらか短く、そりが少ないほとんど真っすぐの形状をしている。忍刀という、武士が使う刀とは別のカテゴリの武器といっていたのを思い出した。

「浅右衛門殿。失礼をします」

 そう言って、ケイトはうなじの後ろでばっさりと髪を切り落とした。

「……皇帝陛下、何を?」

 ほうけたように浅右衛門が言う。

「私が、そのジャック・チャーチルと話をつけてきます」

 浅右衛門は呆然としてケイトの顔をじっと見つめる。

「しかし……」

「あなたがたが戦いたくないという気持は伺いました。しかし、私は」

 ケイトは自分自身を示した。

「皇帝として、この土地の今を認めるわけにはいきません。このままではこの国は飢餓により滅びます。なんとしても、あなた方には製鉄を続けて頂かなければなりません。そのためにも、話をつけて参ります。ですので」

 ケイトは床につきそうなほど、頭を下げた。

「どうか、話がついた暁には、私に力を貸してください」

「なかなか粋じゃねえか、皇帝陛下。そういうの俺は好きだぜ」

 少しだけ間を置いてから、かっかと浅右衛門は笑みを浮かべた。

「いいだろう。実のとこ、俺もこのまま滅びるのは面白くねえとは思っていた。他の連中は知らないが、あんたのプランに乗るように働きかけてやるよ」

「言ったな? 浅右衛門殿」

 顔を上げたケイトはニヤリと微笑んだ。

「約束しましたよ」

「男に二言はねえ。実行するとも」

 それから、浅右衛門はチャーチルの住む家を示した。

「……じゃあ行ってくるわ。シャーロット、芭蕉、ついてきて頂戴」

 立ち上がったケイトの後ろ姿を見ながら、浅右衛門はため息をついた。

「あの可憐な皇帝陛下に、あの男が御せるものかね?」



「ねえ〜どうして髪切っちゃったの? ケイト似合ってたのにさ〜」

「私の印象を変えるためよ」

 ケイトはショートカットになった髪に触れながら行った。 

 風がうなじに触れて、少しだけ心もとない。

「イースキールの人員には、私の風貌を知らされているでしょうからね。髪をばっさり切っておけば印象がかなり変わる。できれば、私がイェカチェリーナ二世という事実を隠したままで事態を解決したい」

「ケイトの髪、長くて奇麗だったのにもったいない」

「それよりも、二人はジャック・チャーチルという男を知っている?」

 ケイトは後ろを行く二人に問いかけた。

「知らない〜」

「残念ながら」

 そうか。

 せめて、相手の素性が分かればアプローチの仕方もあるのだが。

「ケイト、話をつけるってどうやるか考えているの?」

「チャーチルの居場所につくまでに考える」

 歩きながら、ケイトは答えた。

「わお。ノープラン」

「最悪、殺してしまえばいいのでは?」

 芭蕉が提案した。

「それは……考えたけど、そのあとがまずいのよね」

 ケイトは考え込む。

「次の人物がイースキールから派遣されれば、同じこと。しかもそれ以上に『反イースキール勢力がある』という事実がばれるからもっと状況が悪化する」

 自分たちは、あくまで秘密裏に水面下で計画を進めたいのだ。

 クリティカルな解決策は思いつかない。

 一番いいのは、シャーロットにもそうしたようにジャック・チャーチルを自分の陣営に引きずり込んでしまうことだが、正面対決で完膚なきまでに敗北した今では説得しても難しいだろう。

 結局、アイデアはわかないままにチャーチルの潜む家にたどり着いてしまった。

「どうするつもり? ケイト」

 シャーロットの言葉には答えず、ケイトはじっと家を見つめる。

 内側の様子は伺えない。

「ケイト、あなたは気を急いておられます。一度、作戦を練り直したほうがよろしいのでは?」

 芭蕉の言葉を受けて、確かにそうかもしれない。

 戻ろうか、と声をかけようとした。

 その瞬間、その家の扉がゆっくりと開いた。

「なんだ? お前達は」

 背の高い軍服姿の男が姿を現した。服越しでもわかるほど、筋肉が大きく隆起している。軍人の中でも、前線で戦う戦士だろう。

 おそらくは、ジャック・チャーチル。

 期せずして遭遇してしまったことに、三人の間に緊張が走る。

「見ない顔だな。俺に何か用でもあるのか?」

 じろり、と鋭い目線がケイトを射抜く。

 覚悟を決めて、ケイトは口を開いた。

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