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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【中部編•想いふ勇者の義】

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第五章 新たな答えに応える者達

 1

 場所は小木海岸から少し離れた町、宿根木(しゅくねぎ)
 重要伝統的建造物群保存地区、その保存地区内に残る板張りで作られた外壁の二階建て家屋は伝統的建造物になり、一部の家屋の屋根は薄く割った板を何枚も重ね、その上に石を置いた石置木羽葺屋根は独自のものだと言われている。もちろん一般家屋もあるのだが、重要伝統的建造物として保全されている家屋は一〇六棟ある。宿根木の細かな歴史は割愛するが、江戸時代後期から明治初期にかけて北前船の寄港地として発展した港町になり、船大工によって作られた町並みは当時の面影を色濃く残し、保存地区とされている。
 そんな宿根木の旅館の一室に座敷童お濃はいる。今は子供ではなく大人の姿になり、開放した窓から入ってくる風を肴に升を傾け、上等の酒に舌鼓を打っている。
「前回、私が佐渡島へ来た時は星空が酒の肴になっていたかよ。人は増え、光が増え、殺風景だった土地が町になり……」開放された窓から空を見ると「東大寺からの星空も、佐渡島の星空も、私の記憶に残る星空よりも綺麗ではない……がそんなおもしろくない星空でも、心から酔わせてくれる酒があれば、記憶にある星空を見させてくれるよ」
 お濃は御膳台へ向き直ると升を置いて箸を取り、平皿にある馬刺しにのばす。純白のサシが入る赤身は厚く、箸先で摘むと肉好きにはたまらない重厚感に喉が鳴ってしまう。小皿に溜まる生姜醤油に片面だけをかすめると、豪快に口に近づける。赤身と脂の独特な臭みには濃厚な旨味もあり、何よりも食感を楽しむための厚切りにお猪口で食べるという勿体無い事はしない。厚みの馬刺しを乱暴に口の中へ入れる。右の奥歯で噛むと臭みが口の中に広がり、左の奥歯へと舌で移動させると旨味が舌にまとわりつく、何度も味わいたいクセになる臭みと旨味だが、馬刺し問わず生肉や刺身は口の中だけで楽しむモノではない。三、四度の咀嚼で喉越しを楽しむように飲み込む、コレに限る。そして舌にある臭みと旨味を洗い流すように上等の酒で舌を湿らせ、喉越しに追わせるように升を更に傾けてグッグッと喉を鳴らす。
「かぁぁぁぁぁぁぁぁ、贅沢よ! 戦の度に使いものにならん馬を信長に隠れて食っていたのを思い出すかよ!」
 馬刺しと上等の酒に舌を踊らせるお濃の正面に、同じ御膳台を前にした梓が深刻な顔をしていた。同じ御膳台とは二人で一つの御膳台になり、食事を終わらせた二人は晩酌をしている。浴衣を着た二人の美女が升を片手に語らっていれば絵になるのだが、梓は先ほどから携帯情報端末を気にするばかりで馬刺しや酒には手を付けていない。
「梓。平泉からはなんと言ってきているよ?」
「先ほど、参謀井上杏奈が茅野健と高田彩乃に戦場を任せ、全体の指揮権を特務員加納と座敷童美代に継承。達也からは、吉法師はオロチとは闘わず、達也と神童いち子の世話役と川崎理子が闘うと……その後の連絡はありません」
「酒を飲めなくなるほどの事かよ?」
「平泉では参謀が指揮から離れなければならない状況になり、オロチは吉法師やお濃様の御助力なく闘わなければなりません。ますます危険になったとしか思えません」
「私から見れば平泉の指揮権が梅田になく、オロチを梅田だけで相手にしないことの方が酒を不味くするよ」
「ご心中お察しします」はぁとため息を吐くと、乱暴に升を取り、酒を一気に喉へ流し込む。熱くなる喉を冷ますようにはぁぁぁぁと息を吐くと、お濃を見やり「お濃様!」と強く呼ぶ。
「なにかよ?」一升瓶を升へ傾けながら梓を見る。「梅田家は、私達は、どうしたら良かったのですか!?」と酔いに任せるように言ってきたため「どうしたら良かったのか、よりも、これからどうしたら良いのかを考えるかよ」と言い、そもそもと繋げると「終わった事や遠い地での戦の事など考えても意味はないかよ。わかる事は、明日に命が散るかもしれないのに、酒を美味く飲めないようでは、この先も同じ夜を繰り返すという事よ」
 お濃は、梓が戦場への思いを割り切れる強さを持っていなく、事後の反省に悔やんでいるとわかっていて言った。終わった事を考えて将来に繰り返さないために反省するのは良いと思う、が今は反省する時ではない。そして戦場から離れた場所にいる者が戦場で闘っている者へできる事は、心配しながらも信じる事だけ。
 もちろん梓はお濃が言葉に含めている意味を理解している。理解していても聞かずにはいられなかったのだ。結果は、戦の前日には小事だと言うように一蹴されたのだが。「お濃様ならどうしてましたか?」と、お濃なら答えてくれると信じて、今は過去を反省する時ではないと一蹴されたが、再度問う。
 お濃ははぁとため息を吐いて升を傾けると、梓の気持ちに答えるために今までの情報を頭の中でまとめる。ふむふむと唇を動かして考えるそぶりを見せると「私なら尻尾切りなど見逃さないかよ。どうしたと問われても……んっ?」とふと頭の中でまとめた情報に違和感があり、言葉を止める。
「どうされました?」
「たしか、八慶と龍馬がオロチを封印したと言ったな?」
「はい」
「巴に八童へ推薦されるほどに成長した八慶と松田家が人間から座敷童にした龍馬が封印したかよ?」
「はい」
「……なるほど、そういう事かよ」納得するそぶりを見せると、頭の中でまとめた情報の中にある違和感を確信させるために整理作業を始める。「梓、毛越寺の封印からも魔獣は出てきているのかよ?」
「はい。前回白オロチが蘇った時に被害が甚大になり、急遽、龍馬が毛越寺大池が池へ封印しました。その封印は神童いち子の封印よりも弱く、白オロチが蘇った時に大池が池から大池跡に再封印をしよ……うと……あれ? それだと魔獣が……」
「気づいたかよ。オロチの封印場所を変えても、大池跡から魔獣が蘇るように大池が池からも封印された分の魔獣は蘇るかよ」
「封印された分の魔獣ということは、毛越寺の魔獣を一掃するために、わざと封印からオロチを出した。もしくは尻尾切りを見逃した……という事ですか?」
「うむ。封印しても、オロチが蘇る度に毛越寺大池が池に眠る魔獣と中尊寺大池跡の魔獣を相手にしなければならないかよ。二手に分かれれば戦力も半減……梓、私は龍馬という者を信長に聞いている範囲でしか知らないかよ。平泉にいる間、その前、何か様子がおかしかった事はないかよ?」
「龍馬のおかしかった事、ですか……?」龍馬はいつでもおかしいと思ってしまうが、お濃が聞きたいおかしい事とは種類が違う。梓は龍馬の行動を思い返す。(奈良県から北海道まで行脚していた時の龍馬は、お気楽でおちゃらけなキャバクラ大臣だった。北海道では支笏湖で黒の鱗を……あっ!)と答えを知らせるようにアーサーの声が脳裏に流れる。

『今、特務員梅田から連絡があったのだけど……北海道まで来る途中に伝言とか預かってない?』

 龍馬が巴からの伝言をアーサーと杏奈に『伝え忘れていた』のをアーサーが龍馬に確認した時の言葉。当時はただ忘れていただけだと思っていたが、
「り、龍馬は我々特務員と奈良県から北海道へ行脚していました。その道中に巴から座敷童管理省に向けた伝言を預かっていたようですが、特務員なら携帯で大臣や参謀に伝えられるのに我々に何も言わず、行脚を続け、北海道では支笏湖で黒の鱗を採っていました。そして……」
「お主達が平泉に行ってすぐにオロチは蘇り、今に至る、といったところかよ?」
「はい」
 龍馬を疑いながらまとめた情報は【龍馬が今回の騒動を作った張本人かもしれない】という推測を作り、もし毛越寺の魔獣を封印した龍馬が後々の事を考えて毛越寺大池が池から蘇る魔獣を一掃したいと思っていたとしたら、キャバクラ大臣とはいえ幕末の英雄坂本龍馬、その頭脳と行動力から推測だけに止まらなかった。
「あっぱれ!!!! あっぱれよ!!」
「あっぱれ、ですか?」
 腹を抱えて笑うお濃を梓はキョトンとしながら見るしかなかった。
 お濃は升の中にある酒をガバガバと口の中に入れるとぷはぁと息を吐き、一升瓶を升へ傾けながら「龍馬は平泉に立ち寄った際に封印に亀裂を入れ、時期を見てお主達を平泉へ行かせたのよ!」と言いながら一升瓶を掲げると更に「毛越寺大池が池の魔獣を全て天に還すために策を持ち寄り、巴を出しぬきおったよ!」ドンと畳に一升瓶を置くと「さとが外におったのは予想外だったと思うが、しずか•八慶•八太という戦力に加え、黒の鱗という保険まで用意しておる周到さ。今では青の鱗まで大量に所持しておるよ!」升を取ると口に付けながら「龍馬という者の策、読めなんだ、読めなんだ、あっぱれよあっぱれよ!」
 ガバガバと酒を飲むお濃に龍馬を批判する言葉はなく、逆に、良策だと褒める。魔獣被害はあくまでも座敷童側の都合になるため、人間には関係ない。座敷童なら人間のようにちまちました責任追及をしないで策として割り切れるという事だ。
 梓は座敷童のように割り切る事ができない龍馬への疑惑を「龍馬が毛越寺大池が池の魔獣を一掃するための策だった……」と考え直し、後々の追及は龍馬と仲良しの杏奈に任せるのが一番良いと思うことで割り切る事にした。
「おそらく松田家当主も龍馬の策に協力しておるよ」
「!」お濃の不意を突く言葉に心音を跳ね上げると「何故、松田家当主も協力していると思われるのですか?」と聞く。
「世話役といち子がいる平泉で、弥生の子孫は『オロチの尻尾切り』を見逃しておるのを忘れたかよ?」
「!」
「弥生の子孫ではないという私の予想が外れたのは残念よ。理子という者は弥生の子孫かよ」
「それでは梅田家が……」
「いや、松田家当主が龍馬の策に協力しているとなれば、先の予想も深読みしていたとしか言えないかよ」
「何故ですか?」
「梅田家……いや、今回の場合は達也に対しての評価を下げてはおらぬ。逆にさとを見つける機会を作ったと高評価しなくてはならなくなったかよ。何故なら、龍馬の策では中尊寺の魔獣を八慶が相手にしている間に毛越寺の魔獣を龍馬が一掃、弥生の子孫がオロチを見張り時間稼し倒すはずだからよ! がははははは!」
「八慶も……?」八慶という新たな協力者に疑問符を浮かべる。
「この策を成就させるためには、平泉での協力者が三人必要よ。まずはオロチを監視し毛越寺の魔獣を掃討した後にオロチを倒す者。次に、中尊寺で第二と第三の魔獣を相手にできる者。そして、毛越寺の魔獣を掃討する者。東北でこんな策を秘密裏にやれる座敷童は、頭の堅い巴か問題事になれている八慶ぐらいよ」
「巴も協力していたという事ですか?」
「いや、龍馬は巴を協力者にできんよ。何故なら、巴は東北での問題事に松田家が加担するのを好まないかよ」
「それで世話役を蚊帳の外にしたのか……」と平泉で翔が黒の鱗一〇万枚で弾丸を作るという難題を巴に出されていたのを思い出した。「龍馬と八慶は一緒に行動する事が多くなかったかよ?」とお濃の言葉が耳に届くと「はい。龍馬と八慶は一緒にいなくなる事が多かったです」と答えた。
「目の届かない場所で弥生の子孫と策を練っていたのよ。しかも、井上文枝が平泉にいれば座敷童の目は井上文枝へと集まる、それは巴も例外ではない。時間に限りはあるが、秘密裏に毛越寺の魔獣を一掃するのは可能よ。あっぱれ、あっぱれ」
「坂本龍馬、健在ですね」
「今となっては策が崩壊しておるから褒められたものではないかよ。今回の騒動は龍馬の策が生んだモノ、梓が反省する必要はないかよ」と平泉の話、過去の話で梓が反省するのではなく龍馬が反省するのだと伝える。升を傾けながらチラと梓を見ると、気持ちが楽になっているのがわかったため話題を、これからどうするか、に変える。「おそらく、信長がオロチから手を引いたのも理子という者が弥生の子孫だと確信し、達也に危害が無いとわかったからよ」
「万事という事になりますね」
「今のところは万事よ。しかし、白オロチが近づくほどに佐渡島のオロチと共鳴し、二首になるという懸念があるかよ。三郎がなんとかするとは思うが、二首になれば毛越寺と中尊寺の魔獣は飛躍的に強くなるよ。龍馬の策では、佐渡島まで白オロチを行かせないために足止めする予定だったはずよ」
「問題が大きくなった気がしますが?」
「それもこれもいち子の世話役と達也が尻尾切りだと思い込んで動いたからよ。世話役といち子が動けば弥生の子孫も動かなければならない……まったく、松田家の子孫はいつの時代も梅田を振り回してくれるかよ」
「大丈夫でしょうか?」
「いち子が怒るような不祥事を誰もしていなかったら……」ふともう一つの争いが起きているのでは? と思い「手遅れよ」とはぁぁぁぁとため息を吐く。
「手遅れ?」
「平泉では中尊寺と毛越寺の他にどこかで縄張り争いをしているかよ?」
「金鶏山で八慶と金時が縄張り争いをしています。六対一〇〇〇だとメールできました」
「信長から聞いた話では、井上文枝がいる時に喧嘩は御法度よ。いち子が知ったら激怒よ」
「八慶と金時の縄張り争いは因縁の対決だと聞いてますが……」
「どんな因縁があろうと、いち子が御法度だと決めているなら、井上文枝がいない日にしなくてはならんよ。しかも魔獣が蘇っている今、一〇〇〇人の座敷童が縄張り争いをしているなど言語道断、東北座敷童は何を考えておるよ。……むっ! そうなると…………梓、佐渡島から逃げるかよ」
 お濃は両脇に酒瓶を抱えながら立ち上がる。
「逃げる?」
「いち子は佐渡島にいるかよ。佐渡島で激怒されたら……むっ? 信長は何故、いち子と一緒にいるのに逃げないかよ?」
「たぶん、私の知る平泉の情報は世話役を通して神童いち子も知っているはずですが」
「いち子は縄張り争いに怒っていないのかよ……? いや、怒っているはずよ。いち子がすぐに怒らない時は、それ以上に何かがある時になるかよ。梓、いち子に何かなかったかよ?」
 梓は携帯情報端末の画面にある緊急メールを見ながら「神童いち子が怒るような情報は入ってきていません」と言う。
「嫌な予感がするよ。何か……」ピコーンと梓の携帯情報端末からメール音が鳴ると、嫌な寒気を感じながら「新しい情報かよ?」と言い、寒気を誤魔化すように酒瓶を口に付けてラッパ飲みする。
「はい。……」端末の画面をタッチしてメールを見ると「お濃様、コレを……」気まづい表情を作りながら端末をお濃に向ける。
「私は、ゴクゴク、現代の字は、ゴクゴク、読めない、ゴクゴク、かよ、ゴクゴク」
「失礼しました。いち子激怒情報、巴としずかの白天黒之米がいち子に没収された、と……」
「ぶっ!」酒を吹き出すと「巴としずかは、何を、やらかしたかよ? と、とりあえず、佐渡島は平和よ。うむ。平泉に頑張れと言っといてくれよ。うむ。とりあえず佐渡島は平和よ。うむ。うむ。うむ」
「お濃様?」挙動不審なお濃を訝しむ。
「白天黒之米を没収したほどの怒りよ。まぁ、大丈夫よ。元々は龍馬と八慶の二人で魔獣を相手にする予定だったよ。巴としずかは最初から戦力に加えていないよ。大丈夫大丈夫大丈夫」
「あの、大丈夫に聞こえないのですが?」
「大丈夫かよ!」
「あの、先ほどまでの話は……まさか酔って適当な事を言ってたのですか! それか巴としずかがいる前提だったとか!」
「よ、予想とは、当たらずとも遠からずよ。今が大事よ。今が楽しければ万事よ。うむ。……なにかよ?」
「いえ。なんとなく達也にもある適当さをお濃様にも感じただけです。さすが達也の御先祖様です」
「残念。私に子はおらぬ」
「…………」言葉の意味がわからず「はい?」と聞き返す。
「達也は私の子孫ではない。私が織田家に世話になっている時に、私の兄の子孫と信長の弟がイチャイチャして生まれた子供の子孫が達也かよ」
「……本当ですか?」
「達也は信長の弟にそっくりよ。その内、『兄者、俺は旅芸人になり、女と一緒に生きる。死んだ事にしてくれ』とか言いだすかよ」
「吉法師が座敷童になるから死んだ事にしてくれ、と家臣に言ったのはソコからだったのですね」
「死んだ事にするのは戦乱の世では流行よ。従って、達也のバカさは私の遺伝ではなく、織田家の遺伝よ」
「お濃様の兄……梅田家のご先祖様はどのような方だったのですか?」
「シャレも通じない堅物よ。毎日毎日ガミガミガミガミうるさいから、座敷童と寝室に忍びこんでは太鼓をぶっ叩いてやってたよ」
「まさに梅田家の風景ですね。ちゃんと受け継がれていま……す?」
 お濃の背後、窓から風と一緒にヒュッと入ってきた影を目で追う。巴の神使、白黒は梓とお濃の隣、御膳台を前にして羽をたたむと、チラと梓を見た後にお濃の方へと向いて嘴を動かす。人間の梓には嘴を動かしているようにしか見えないが、神使は座敷童と会話できる。白黒は巴の命令で佐渡島へ来た事、オロチの事、見て来た事をお濃に伝える。
 お濃は眉をピクリと上げて眉間にシワを作ると「それは予想外よ」と言いながら腰を下ろす。酒瓶を畳に置くと、膝に片肘を置いて悩むそぶりを見せる。
「お濃様。白黒はなんと言っているのですか?」
「白オロチは佐渡島から約一〇キロメートルの海上で脱皮を始め、そこに八太、さと、かぼちゃ、美菜が現れた。美菜がいるため、オロチを陸に上がらせないように小木海岸まで誘導すると思うが、第三形態で到着するのは確実と言ってるかよ」
「予想外、ですか」チラと端末を見てから「平泉からの報告にも八太一家や美菜がこちらへ向かっているという報告はありませんから、おそらくは独断ですね。もしくはさとの家主になった大臣が……入院中なので報告が遅れているのだと思います。お濃様、どうされますか?」ぐっと拳を作り、お濃への進言は無礼だと思いながら「佐渡島ではお濃様は闘えませんが、離れた海上なら……」
「必要ないよ」と梓の案を聞き流し、御膳台にある箸を取って馬刺しを白黒の嘴に近づける。白黒が馬刺しを咥えて首を上下させながら咀嚼しているのを見ていたお濃は御膳台に箸を置くと、パンパンと両手を叩く。すると襖が開き、タヌキフードのトキと旅館の主人が入室してきた。
「話は聞いていたかよ?」
 お濃がトキに悪戯な表情を向けると、トキはチラと梓を見てお濃へ向き直る。
「聞こえる範囲の話は聞いてはいました」
 聞こえる範囲の話はとは白黒との会話を差しているのだが、お濃は興味無さげにふふんと鼻を鳴らし「めんどくさい前置きは抜きよ」と言うと更に「今の大事はさとが白オロチと佐渡島へ来る、というだけよ」
「佐渡島のオロチに備えていた我々ですが、さとの介入により白オロチにも備えなければならない、となりましたね。まったく……次から次へと佐渡島へ問題を持ってこないでもらいたいですね」
「ははははは」トキの悪態に気持ち良く笑うと「話が早くて良いよ。ならば、座敷童管理省の大臣、さとの家主が病状の中で最善だと思い、八太一家を佐渡島へ向かわせた。その気持ちは汲まないとならないかよ」
「こちらとしては悪手としか思えませんが、大臣がさとの家主になってから日が浅い事を考慮し、座敷童管理省の好意として受け入れます」梓へ向き直ると「ですが、悪手には変わりありません。良かれと思う気持ちからの悪手に責任追及はしませんが、その代わり、一つ梅川梓さんにやっていただく事があります」
「私にできる事なら、なんでもするわ。言ってちょうだい」
「それでは、松田翔へ『人は心と気を働かすことをもって良しとするものだ。用を言いつけられなかったからといって、そのまま退出するようでは役に立たない』と口頭でいち子に伝えてほしい、とメールで送ってください」
「どういう意味なの?」
「ははははは。梓、明日の楽しみかよ」
+注意+
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