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座敷童のいち子 作者:有知春秋

【中部編•想いふ勇者の義】

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 神使白黒は数分前から同じ場所を旋回していた。
 しずかの能力から東北へ不自然に流れていた風は無くなり、山形県の沖合いと比べると風は弱くなっていた。佐渡島まで一〇キロメートル。白黒は気まぐれな海風の心地良さを感じながら、上空二〇〇メートルから白オロチの動向を観察していた。
 現在、波に逆らいながら佐渡島へ向かっていた白オロチの動きは鈍くなり、数分前から前に進む事もなく、ウネウネと身体を動かしている。白オロチの大きさは一〇〇メートル間近の第二形態。現状から、オロチの動きが鈍くなる原因は幾つかあり、白黒が旋回を繰り返すのは場所が海という理由と不確定な要素があるからなのだが。
『脱皮か……寝ているか……』
 白黒が懸念しているオロチの脱皮は、金鶏山にさとを封じ込めようとした脱皮とは違う。さとを封じ込めた脱皮を防衛本能からの故意的(能力の一つ)の脱皮だとすると、懸念している脱皮は第三形態になるための成長過程に必要な脱皮になる。
 爪楊枝程度の長さから一〇〇メートル間近の現在までに、蛇のような脱皮がない時点でオロチに一般的な蛇の概念は無い。オロチは座敷童の世界の生き物なため、人間側の常識を当てはめてはならない。わかりやすい例を挙げると、蛇やトカゲは定期的に全身をガバッと脱皮するが、オロチはワニやカメと同じく短い間隔でコンスタントに脱皮していく。理子が森の中で白オロチに出会った翌日に、アイヌネギが大量に生えていたのは第二形態までの成長過程でコンスタントに剥がれた抜け殻が栄養素(オロチの恵み)になり、地に吸収され、たまたまアイヌネギが生えるのに適した環境というのも重なり、一晩で大量のアイヌネギがにょきにょきと出てきたのだ。第一形態から第二形態まではワニやカメのようなコンスタントな脱皮なため、行動中や睡眠中にでも脱皮するということだ。もちろん白黒はそんなオロチの生態を理解しているのだが。
 先にも述べたが、白黒が懸念しているのは脱皮になる。そして成長過程に必要な脱皮はコンスタントな脱皮とは違い、蛇やトカゲのように全身をガバッと脱皮する。抜け殻は恵みになるため、魚が美味しくいただくから心配ない。
 さとを封じ込めた脱皮は故意的(能力の一つ)なため相応の対価が必要になり自身の体長を犠牲にした。だが、成長過程の脱皮は文字通りの成長になるため体長を犠牲にしない。そして、人間側の常識が無いオロチが成長過程の脱皮を終わらせると、更なる非常識があり、例えるなら蛹から蝶に羽化するような変貌がある。以上の理由から、白黒は成長過程の脱皮か寝ているかで異なった判断をしなくてはならない。
 脱皮なら、白オロチの観察はヤメて佐渡島へ行く。
 寝ているなら、観察の継続。
 空には月や星が輝いているが、海面が見えるほど明るくない。白黒は夜目のきくカラスなため暗闇でも不便なく白オロチを見えるが、脱皮か寝ているかの区別は違う理由からわからない。白オロチは第三形態になって佐渡島へ到着する、と報告はできるため、今すぐに佐渡島へ向かうのが妥当になる。しかし、白黒は観察に執着し判断に迷う。
 佐渡島まで一〇キロメートル。今のままでは、判断を間違えれば白オロチが深夜に佐渡島へ到着する可能性がある。
 自分は夜行性だとのたまう人間は少なくないが、人間は夜行性ではなく昼行性なため、灯りがないと夜に順応できる視力は無い。そのため、人間は夜に非常事態が起きると対応が鈍くなり、オロチという災害規模の嵐に襲われたら寝耳に水どころではない。
 従って、白黒が判断しなくてはならない答えは【第三形態になるための脱皮を始めたら佐渡島へ向かう】【寝ているなら観察の継続】の二択になり、後者の場合は深夜や朝方に白オロチが佐渡島に到着するようなら足止めしなくてはならない、がその判断が難しい。何故なら、ぷかぷかと海原に浮く姿は小刻みにウネウネし、脱皮する時のような動きにも寝ているようにも見えるからだ。
 陸なら寝ていれば微動だにしないし脱皮なら不自然な動きからわかる。海面では波が白オロチを叩いているから判断が難しいのだ。高度を下げて確認したいと思っても『もしかしたら誘い出す罠かもしれない』と疑ってしまう。現状、白黒は旋回する意外に何もできないのだ。
『どうしたものか……』とやり手の上司が難題に悩んでいる時のような嘆息を漏らし、今は見ている事しかできない自分に苛立つ。能力で放電すれば白オロチも何かしらのアクションはすると思うが、ソレが海上戦の火蓋を切り、佐渡島への到着を早めることになりかねない。更に、平泉の現状をわからない白黒では——魔獣戦よりも縄張り争いに大半の座敷童が参加していると確信はしている——白オロチに対しての攻撃は中尊寺と毛越寺の魔獣戦を悪化させるような事は戦略上できない。

 しかし、白黒だけでなく平泉にいる杏奈や巴や八慶、指揮権を継承された美代や加納、佐渡島にいる翔や吉法師や達也や理子、お濃や梓に至るまで予想できなかった戦略を行使した者がいたとしたら?

「……むっ?」
 白黒は背後から聴覚器官に響く規則正しい機械音が向かってくるのに気づく。視覚で捉えるために旋回していた方向を変え、その音源を見る。
「なっ!!?」と驚愕した視線の先では、日本海では飛んでいるはずのない軍用機、日本では災害支援機として進発しているオスプレイが上空二〇〇メートルという超低空飛行で向かってきた。小夜が見たら興奮して眠れなくなりそうな光景に白黒は危機感を覚える。
 オスプレイはライトを煌々と海面に当てながら白オロチの真上に来ると、プロペラを真上にしてその場に留まる。嫌な予感しかしない、と白黒が思うと同時にオスプレイの扉がバンッと開け放たれる。機内との気圧差と揚力の拡散から機体は揺れ、上下左右と機体を大袈裟に踊らせる。この時点で本物の軍用機オスプレイではなく偽オスプレイになり、とある座敷童が家主から貰った宝物だと白黒は確信する。そして嫌な予感が的中した事に愕然とする。
「とと! オロチだ!」
「やよ、かぼちゃ! 危ないからドアを閉めろ!」
 オロチに興奮するかぼちゃ、かぼちゃを抑える八太、子供に振り回される父親という図に微笑ましくなる。だが、今はそんな場合ではない。白黒は白オロチを刺激しそうな機械音とぎゃあぎゃあとうるさい親子にため息を吐きながら近づいて行く。が、視界の先では嫌な予感の主が、災厄が、八太とかぼちゃの頭上から「わらわが一着じゃ」と言いながら機内から飛び出す。
「「…………」」白黒と八太が絶句する中、「かか、わらっちも!」と八太の腕を振りほどいたかぼちゃも飛び出した。
 さととかぼちゃは海原でぷかぷかと浮いている白オロチに向けて短いスカイダイビングを楽しむと、さとは白オロチの胴体部分に両足を向けてズガンと着地(?)し、かぼちゃは跳ね上がった白オロチの頭部向けて頭突きの体制になり、キランと瞳を輝かせながらズゴンと衝突した。
 四方八方に視界を向けて予期せぬ出来事に対応できるのがやり手の上司だが、白黒は『ぶち壊しだ』と今まで悩んでいた事がバカくさくなった。そして、家庭の問題を鶴の一声で収めるのが大黒柱なのだが「さとぉぉぉぉぉ、かぼちゃぁぁぁぁぁ、大丈夫かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と自分の家族が海上戦の火蓋を切った自覚さえ無い。
 やり手の上司白黒でも八太一家はどうにもできない。さとがいる時点でどうしようとも考えたくない。色々と諦めると、オスプレイの運転席側へ行く。運転席ではラジコンのコントローラーを操作している美菜がいた。
 美菜は白黒の存在に気づくと、短点と長点を表すように目を閉じたり開いたりし、白黒に何かを伝える。
 白黒はモールス信号だとわかり、美菜の瞬きを見る。『サ、ト、゛、シ、゛、マ、二、イ、ケ……か。それしかないだろうな』と美菜の判断に納得すると、鶏冠を短点と長点を表すようにパチパチと放電させリヨウカイと美菜に伝える。美菜の頷きを確認すると、横から「は、白黒、オロチはなんとかするから佐渡島に行け!」とダイブしながら叫ぶ八太の声が届き、ため息まじりに「言われなくても行く」と言うと、チラと海面に目をやる。白オロチは鈍い動きでとぐろを作るように丸まっていた。さととかぼちゃへ大袈裟な対抗をしない事から「脱皮する準備をしていたようだな」と全ての疑問は確信に変わる。羽にパリと電気を走らせ、助動作に羽を一振りすると、刹那、白黒は佐渡島へ伸びていく閃光になる。
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