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座敷童のいち子  作者: 有知春秋
【東北編•平泉に流れふ涙】
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ページを開いていただきましてありがとうございます(^^)


拙い文章ですがよろしくお願いします。

 

 関山中尊寺と毛越寺の間には金鶏山があり、名称は山頂に雌雄一対の金の鶏を埋めた事に因んでいると伝わる。

 その金鶏山の麓、千手堂境内には朱色の柵に囲まれた二基の墓石がある。形状は一般的な墓石とは違い、一段一段に地水火風空と意味を含み形が異なる、五輪塔。名前は刻まれていない。

 この五輪塔は(さと)御前(ごぜん)とその子供の墓だ。


 【郷御前】——源義経の正室であり短い人生の中で女児を生み、布川の合戦で藤原泰衡の軍勢に追い込まれた源義経と共に自害した、と人間側の歴史に残る。


 しかし、人間側で伝わる歴史の裏には真の歴史である座敷童の歴史がある。

 郷御前、座敷童さとの壮絶な最後。人間側には伝わらない真実を見たのは三人の座敷童。いち子、八太、巴はその時の惨状をこう語る。

 いち子は……

「アーサー、ワタキがオロチを倒したんじゃ!」

 八太は……

「アーサー違うぞ! いち子は遊んでいただけだ! 俺が倒した!」

 巴は……

「大臣。二人はこの話になると毎度こうやって口喧嘩をするのだが、真実はさとを危険視したオロチが脱皮した抜け殻でさとを封じ込めた後、二人が攻撃しオロチが沈黙、そして私が封印した。誰が倒したか……と言うのならオロチの力をその身で受け止めたさとだ」

 巴の話た内容から、いち子と八太がオロチを倒したと主張するのは勘違いとしかアーサーには思えない。普段のいち子や八太を少なからず知るため、発言に説得力が無いと思ってしまうのもあるが……

 アーサーは五輪塔の前で言い争ういち子と八太を見ながら巴に聞く。

「どうして二人は自分が倒したと主張してるのかしら?」

「八太の放った右拳といち子の投げた石が同時に当たりオロチが沈黙した。私から見たら脱皮で消耗し沈黙しただけとしか思わないが……二人はさとの仇を取ったのは自分だと言い張っているのだ」

「…………仇って、さとちゃんは生きてるのよね?」

「わからぬ。だが、大臣も知るとおり近畿のオロチが蘇った際、腹の中からお濃が生還した。この結果は、脱皮した皮の中でさとや子も生きている可能性があると思えないか?」

「可能性は高いわね。……でも、脱皮した皮ってどこにあるの?」

 アーサーは周囲を見渡す。しかし、座敷童が見える側の人間なら見えるであろうオロチの抜け殻は無い。

 巴は視界を上に右手人差し指を視線の先に差す。

「この金鶏山が脱皮した皮だ」

「藤原秀衡が平泉の繁栄のために作った人工の山だって話は知ってるけど……脱皮した皮が金鶏山になったということ? でも、オロチが脱皮したのは秀衡の死後、藤原泰衡の時代でなかった?」

「私の伝え方が悪かった。大臣も知っている翔の作った【八岐大蛇の櫛】は、八枚の鱗をいち子が育てた木に融合させて作られるのだが……」

(なんで私が八岐大蛇の櫛を知った事をわかってるのかしら?)

 巴の発言に疑問符を浮かべる。

「通常の蛇が脱皮したとしてもその皮は微生物の栄養になり土の栄養になるが、オロチが脱皮した皮はあらゆる物を癒着させ、土の栄養にはならずに地面と融合、そしてオロチの封印になる」

 アーサーは巴の情報網を知りたい気持ちもあるけど今は棚起きし、融合に対しての疑問を聞くことにする。

「あらゆる物を癒着さして融合するなら、さとちゃんも融合したって事になるけど?」

「…………」

 先ほどや今の質問にアーサーの知識の足りなさを感じた巴は、朝食の時に翔が頭を下げようとしたアーサーを止めたのを思い出す。回りには気づかない微笑だが巴の口を動く。まるでさとと会話をしているようだ、と……

「?」……アーサーは疑問符を浮かべる。

 細かな説明が必要だな、と思った巴は抜粋した説明を止めて、一つ一つ説明していく。

「わかりやすく言うと、お濃が消化されずに生きていたのは【神器】が関わっていると思う」

「神器?」

「私やしずかの刀、お濃が持っている鼓は元々いち子の宝物であり、神器と呼ばれている。おそらく、神器には消化や融合を阻害する力もあるのだと思う」

「神器が消化や融合を阻害……それなら巴ちゃんの刀で脱皮した皮を斬れないの?」

「斬れる。だが、オロチが再生するのと同じく、斬った先から癒着が始まり元に戻る。オロチのように斬り続ければ再生(癒着)が遅くなると思って試したが……斬撃で斬れる範囲など爆弾のような破壊とは違いたかが知れている」

「破壊して抉ったら広範囲に穴は空くけど、斬撃だと線が入るだけだから癒着する範囲が狭い分、元に戻るのも早いって事ね」

「うむ。しかし、神器が八岐大蛇に唯一対抗する武器に間違いはない。その神器の一つに【竹由(ちくゆい)】という笛があり、いち子がその竹由を穴に投げていた」

「穴?」

「いち子とさとと子が八太を嵌めるために作った落とし穴だ」

 真面目な表情であっさりと返答した巴は呆気にとられたアーサーの表情を見て、

「難しい事ではない。大臣が思っているとおりの事だ」

「自分達が作った落とし穴に自分達が落ちたの?」

 いっちゃんらしい、と思うアーサーの背後では加納と梓が額に汗を溜めていた。

 巴は、それがいち子でありさとだ、と言うように表情を変えず、

「うむ。さとの能力に危機を感じたオロチがさとを執拗に狙い始めたため、いち子のいる金鶏山に逃がしたのだが……それが失敗だった」

「し、神童いち子や巴がいたなら松田家や竹田家もいたはず……それにお濃様も」

 加納が疑問を口にするが……

「今もそうだが、松田家と言ってもいち子と行動するのは世話役だ。それは当時、さとの家主だった竹田家も変わらない」

 それ以前に、と加え、

「お濃を含めたこの三人は三家の当主の許可なく御三家を結成し、まだお濃を座敷童にするか思案している最中にも関わらず酒盛りで羽目を外して座敷童にした挙句、翌朝オロチが蘇り封印する夕刻まで二日酔いで寝ていた。結果、世話役のいなかったいち子とさとと子が穴に落ちたのだが……翔や小夜や達也を見ていたらわかると思う、世話役やお濃がその場にいても一緒に落ちていた」

(((御三家って……)))

 御三家の結成もさる事ながら、お濃を座敷童にする思案があったとはいえノリで座敷童にした経緯はけして知ってはいけない事だったと思うアーサーと加納と梓だった。

 確かに、いち子や巴が翔や小夜をお風呂に入れてやってる、という感じに発言したことに疑問があった。小夜に関したら見た目から巴が小夜の世話をしているとしか思えない。過去の世話役がどうであれ、たとえ優秀な世話役でも、世話役の間は世話をしなければならないと思われても仕方がない。

 何故、当時も今も当主が一緒にいないのか? いち子と松田家当主が一緒にいれば、さとと竹田家当主が一緒にいれば、巴は一緒に落ちていたと言っているが、穴に落ちることもなかったかもしれない。

 何故、当時も今も当主は一緒にいないのだ……と三人は思うが、答えは簡単に導き出せた、いや、当たり前の事なのだ。

 大人になれば働いてお金を稼がないと生活できないし、子供も育てられないのだ。

 そんなごく当たり前な事を考えていた三人に、それが御三家だ、というように巴は表情を変えず、脱線した話を戻す。

「私と八太は八慶としずかにオロチの足止めを任し、三人を助けに穴に入ったのだが、狙っていたかのようにオロチは脱皮を始めた。私の方が素早く動けるため途中で引っかかっていたいち子を八太に任し、穴の奥へと行った。悪戯の度を超えた落とし穴は思いのほか深く、さとと子を連れ出して脱出を試みたが……間に合わなかった」

「間に合わなかった?」

「少し話は逸れるが、大臣には前もって知っていてもらいたい事がある」

 何かしら、と疑問符を浮かべるアーサーに、

「大臣にわかりやすく言うと、さとの能力はお濃のような騒音とは違い、笛で曲を奏でる事で音色の届く範囲にいる座敷童や人間に癒しを与える。癒しで体力や気力が回復した座敷童や人間が再生を繰り返すオロチと闘い続けられるということだ。そして、曲を変えればお濃のような直接的なダメージではないがオロチの動きさえ鈍らせられる」

「東大寺のオロチを見たけど、再生を繰り返してもダメージは蓄積されて再生スピードが落ちていたわ。それに、動きも鈍らせられるなら……さとちゃんはオロチにしてみたら驚異だわ」

「オロチだけではない。さとは座敷童側や人間側問わず驚異なのだ。箱入り娘のまま京都から出さずに、被害を京都だけにしておこうとしていたのに、どこかの親バカと寺で謹慎していたバカとその兄がしずかの目を盗んでさとを京都から出したから……」

 巴が舌打ちすると八太は額に大量の汗を溜めて申し訳なさそうにしていた。それを見たアーサーは、

「八太君。さとちゃんは危ない座敷童なの?」

「側から見たら危なくてもさとから見たら楽しいし……何故かさとのやる事が悪い方に流れていくけど……それはいち子もだし……やる事なす事問題は付いて回るけど……巴と兄者は怒りすぎというか……アーサーが喋ると翔が怒るのと似てる」

「さとちゃんの行動には意味があるって事ね」

「……、そうだ……」

 たぶん、と気まずそうにゴニョゴニョと濁す。

「八太。私等が穴から脱出した時にいち子とお前がとりもちのように脱皮した皮に癒着されていたが、その時さととお前の子は穴に逃げて行った。それも、今に至るまで、さとにしたら、意味があり、楽しい事、なのか?」

「あ、アレは……俺といち子を見た巴がバリバリしそうだから、バリバリの嫌いなさとと弥生は逃げたんだ!」

「確かに、さとと弥生がいなかったから遠慮なく放電しお前等を助けられた。そのおかげで、穴に戻って連れ戻す事ができなくなったがな。あの時、私ではなくしずかが助けに行けば、さとと弥生は逃げる事はなかっただろうと思う……普段から度がすぎる程の悪戯に叱っていた私が行くべきではなかったと今だに後悔している」

「そ、そうだな。でも、巴だったから外に出られたし、俺といち子は助かったし……さとと弥生はかくれんぼ中だから……あんまり気にするな」

 申し訳なさそうに言葉を並べる八太。

 アーサーは梓に内緒話をするように、

(巴ちゃんに非は無い気がするけど?)

(放浪型の座敷童だった巴は全国の座敷童を見て回り、親のように教師のように座敷童を導いていました。それをお濃様が継ぎ、梅田家が継いだと聞いてます。……さとから穴に入って行ったかもしれませんが、巴の中では結果が全てであり自分の判断が生んだミスだと思っているのでしょう)

(責任感が強いのね)

(いち子やしずかを筆頭に座敷童は自由奔放ですから巴のような抑止力がなければ……)

 アーサーと梓が内緒話をしているとその背後から、

「かくれんぼ中なら見つけてあげないとね」

 振り向くと梅田達也が左手に黒の鱗が入った大きな布袋、右手に薙刀を持って立っていた。

 巴は布袋を一瞥すると、

「達也、小夜と翔は?」

「小夜ちゃんと翔はコレで気絶したよ」

 黒の鱗三◯枚分を宿した薙刀を差すようにクイッと上げる。

「なんだと?」

 小夜が気絶した事にピクッと反応する。

「翔は騙し討ちみたいにしたけど小夜ちゃんは自爆だよ。自分から三◯枚に挑戦して気絶したんだ」

「翔は兎も角、小夜を気絶さしたのは私に殺されても良いということだな」

「オロチの鱗を融解したのは翔だし融合したのは龍馬だから、小夜ちゃんの自爆に関したら俺は一切関与してないよ。それよりも、八太の嫁さんをオロチの封印から出すから手伝ってくれ」

「……、何を言ってる?」

 突拍子もない発言に怪訝な表情になる。

「少ない可能性だけどオロチの封印を破壊する方法がある」

「……、その方法とは?」

「オロチと座敷童に相性があるようにオロチとオロチにも相性がある。まぁ、八岐大蛇は相性を超越した存在になるんだけど、その辺は巴の方が詳しいよね?」

「……、八岐大蛇の話が必要ないなら封印の破壊方法を簡潔に言え」

 達也の言葉に一拍置いて返答する巴。間髪入れず否定しそうな達也の言葉に、どこか言葉を選んで話しているように思える。まるで、難題に挑む生徒に応えても答えないというような……

 そんな巴の言葉と希薄な表情に挑むように達也は言葉を並べる。

「オロチの脱皮した皮からできた封印だからオロチの鱗で破壊できない理由はない」

「だが……」

「東北の白色のオロチが相性悪いのは近畿の青色のオロチだ、だろ?」

 巴の言葉を読んでいたかのように繋げると、更に、

「それも青の鱗を使ってすでに試してるし、巴の能力でも試したから相性が悪い同士の破壊は無理。もちろん歴代の御三家も挑戦してるだろうね」

「松田家の融解、梅田家の情報、他の鱗での破壊、思いつくかぎりの方法を試したが結果は今のとおりだ」

「それは御三家も巴もオロチを理解してない証拠だ」

「……、大きく出たな」

 巴なら一蹴しそうな発言にも関わらず微笑を浮かべるその対応は、見ていた一同に意外感を与えた。

「それなら、なんでいち子が北海道にいる?」

「いち子が決めたからだ」

「なんで巴が東北に?」

「竹田家が東北にいるからだ」

「それなら、なんで竹田家が東北に?」

「……、何を言いたい?」

「梅田が各地の座敷童を見て回り、一首のオロチを対処し、竹田家は東北のオロチと二首以上になったオロチの対処。松田家が七首のオロチと北海道のオロチを融合させないために北海道にいる。これでオロチがわかっただろ?」

「オロチの何をわかればいいのだ? 簡潔に言え」

「北海道のオロチが最後なんだよ。どこのオロチが蘇って融合しようとも、いち子のいる北海道のオロチと融合するのは最後なんだ」

「なるほど、北海道のオロチが最後に融合か……何故、最後だとわかる?」

「梅田に残る文献では、一首のオロチが二首や三首になった記録はあるけど、九州から四国、中国から四国、四国から九州、これだけだと四国が激戦区という事しかわからないけど、関東のオロチなら中部、中部から関西そして四国……色々と記録は残るけどオロチは北海道に向かっていない」

「近場から融合しようとしているだけだ」

「それなら関東から中部そして東北という順番になるよ。それに東北のオロチが北海道に向かった記録は梅田には無いけど竹田家にはあるの?」

 問いに対して口を閉じる巴を確認すると、その反応に確信を持ち、

「八岐大蛇を切り分けた時から平安時代まで各地を回っていたのは巴だ。正確には鎌倉時代かな。梅田の始まりは平安時代、巴と放浪するようになり平安時代後期か鎌倉時代にお濃様が座敷童になった。この辺はなんかあやふやにしてる感じがあったんだけど……まぁ、今は関係ない」

「一発芸のために座敷童になった。とは書けないな」

「そうだったんだ。座敷童を楽しませたかったんだね」

「「「…………」」」

 軽く返答する達也に自分のご先祖様がそんなんでいいのかと思う一同だった。

 達也は一同の反応を気にする様子なく、

「お濃様が座敷童になってからは巴が竹田家がいる東北に常駐するようになった」

 でも、と加え、

「竹田家は最初から東北にいた。これは八岐大蛇を切り分けた事によるオロチへの対処が関係するためだ。あくまでも俺の予想だし、巴の方がオロチに詳しいからそれを踏まえてもう一回聞くけど、東北のオロチが北海道に向かった記録、いや、記憶はある?」

「無い」

「それなら、一首のオロチが北海道に向かわないという俺の予想が限りなく正解に近いという事になる。更に、蘇ったオロチは北海道以外の近場の地域に封印されたオロチと融合しようとし、ソレを巴が対処していて梅田が継いだ。梅田の手に負えずに二首や三首になり竹田家、正確には巴が対処。そして、いち子のいる松田家は、梅田や竹田家が手に負えずに七首になったオロチが北海道に向かってきた時の最後の砦。この御三家の役割から北海道のオロチは最後に融合すると予想し、その性質から今回俺が試したいのは……」

 黒の鱗が大量に入った布袋を巴の前に出すと、

「黒の鱗でオロチの脱皮した皮を掘る」

「…………、真面目に聞いた私がバカだった。と一蹴したいところだが、八十八ヶ所巡礼で阿保から梅田家の跡継ぎらしくなった事を評価し、一つ聞く。穴を掘るための道具に黒の鱗を融合したら効率が良い。なのに何故、翔を騙し討ちした?」

「そうだね」

 巴の言葉を肯定し、背広の裏ポケットから一冊のボロボロになった手帳を出すとパラパラとページを捲りながら、

「でも、融解をできる松田家がオロチの封印を破壊できないのは巴が一番わかってるしょ」

「……、簡潔に言え」

「簡潔に、は無理かな」

 手帳を捲る手を止めて巴に意識を向けると、

「さっきも言ったけど、オロチの封印はオロチの脱皮した皮なだけだ。そして、脱皮した皮が鱗よりも硬いという理屈はない」

「硬さを言うならそうかもしれない。だが、鱗一枚一枚で削ったところで癒着が始まり、削った先から傷や穴は埋まっていく」

「御三家と座敷童がお手上げ状態なのはその癒着が原因って事だね」

「お手上げではない。今は準備期間なだけだ」

「準備期間? ……それは予想外だ。お手上げだと思っていた……その方法を教えて」

「準備期間の方法など話しても時間の無駄。お前の方法を簡潔に言え」

「まぁいいか……」

 とりあえず、と手帳のページを捲り、

「翔に聞いてないし、梅田の情報からの俺の予想になるけど……八岐大蛇の(くし)(かんざし)は相性の良し悪しや分量を割り出しながら計算、いや、感覚で割り出し、時間をかけて七種の鱗を融合。というより七枚の鱗を馴染ませて黒の鱗を融合できるまでにするって感じだと思う。【八岐大蛇の櫛】という名前だし、オロチ同士の融合もこんな感じなんじゃないかな。当たらずとも遠からずだと思う」

 この予想から、と右手人差し指を立てながら、

「鱗を融合した道具を作れるのに、今だに八太の嫁さんが外に出れないのは何か他に問題がある、と簡単に予想ができる。それが癒着であり、癒着に備えるためのモノが必要という事だ」

「お濃が最初に考えた方法は鱗を融合した道具で掘る単純作業だった。結果は癒着が始まり、単純に穴を開ける方法では癒着を遅らせるためのモノが必要とわかり『東北のオロチとは相性の悪い近畿のオロチの鱗が必要』だと答えが出た」

「穴を掘るのに最適な黒の鱗を集めるためにしずかが北海道に移住して、癒着を遅らせる青の鱗を集めるために八太と八慶が東大寺に移住って事だね。さすがご先祖様、黒と青の鱗が大量にあればオロチの封印に風穴を開けれる。寿命のない座敷童だからできる方法だ」

「達也。お濃が考えた方法以上なら別だが、私が準備期間と言った意味がわかるな?」

「あくまでも俺の予想だし、試して失敗だったら鱗を食べてオロチだけでも倒そうと思ってる」

「愚答だ。鱗を食った後どうなるか知らないわけではあるまい。そんな考えを持つ阿呆が思いついた方法など座敷童は聞き入れない。お前を買い被っていたようだ。去れ」

 巴は糞虫でも見るように達也を睨み、踵を返す。

「待て待て、お濃様が考えた方法を阿呆の俺も思いついたんだ。その辺も評価してくれてもいんじゃないの?」

「簡潔に言え」

「だから簡潔には無理だって」

「……、言え」

「お濃様が考えた穴を開ける方法はあくまでも当時の知識からだ。俺の方法は現代の科学を使う」

「……、科学ではオロチはおろか座敷童やその事象も解明できない。それを理解して言ってるのか?」

「もし成功したら杏奈ちゃんに感謝しなよ。杏奈ちゃんが座敷童側と人間側との壁の破り方を俺に教えてくれたから、八太の嫁さんを封印から出す方法を思いついたんだから」

 自信満々な表情を作り、微笑した巴に言い放つ、

「方法は二つ。一つは、松田家がオロチの鱗を融解させる方法で脱皮した皮を融解させる」

「幼少期のお前の父親が現松田家当主に散々やらせた方法だ。結果、松田家の力が弱いのが原因だという答えを導き出し、松田家と梅田家の確執を深くした。翔と確執を作りたいなら後日試してみろ」

「やばいな……親父が幼少期にこの方法を思いついていたなら俺が思いついた方法にも……」

(((絶対思いついてる)))

 アーサーと加納と梓は、梅田家当主が対処できない難題を達也が対処できるとは思えなかった。気を使って口には出さないが……いや、三人が口に出さなくても巴はあっさりと口に出す。

「達也。お前の父親が今だに対処してないという事は、お濃が考えた方法以上は無いという事だ。お濃はおろか幼少期の父親の足元にも及ばないお前の考えなど、その程度なのだ」

 巴は和傘の柄に右手を添える。けして達也を斬るためではなく、自分が否定した後に『鱗を食べて破壊しようと思ってたし』と言った達也の行動を止めるためだ。

「いやいや、まだ二つ目がある。もし親父が俺と同じ方法を思いついていたとしても、試していないって事は、一発勝負だし二次被害になる可能性の方が高いと思ってるからだ」

 巴の柄に添える右手をチラチラと気にしながら言葉を並べる。

「二次被害……? ……」

 達也の発言に怪訝になりつつも、

「簡潔に言え」

「簡潔に、か。……親父が金鶏山を科学的に調べたかはわからないけど、金鶏山は植物が枯れた事による腐葉土で地形の変化はあるけど、その腐葉土の下は『脱皮した皮の恩恵で当時のまま形を変えていない』」

「当時のままという根拠は?」

「ガキの頃に東北のオロチの鱗が金の元になるという話を吉法師から聞いたんだ。大学に通っていた時にソレを思い出して、もしかしたら八太の嫁さんが閉じ込められている脱皮した皮もかな、と思って独自に金鶏山を調べた」

「欲深いヤツだ。そもそも、オロチの鱗が人間側の事象に干渉し金になる過程には果てしない時間が必要だ」

「見事に無駄足だったよ。でも……」

 手帳を開いて巴に向ける。

「!」

 ここにきて巴の表情に変化が現れる。それは眉をピクッと動かす程度だが、希薄な巴の表情を変えるほどの、事象そして干渉。そう、手帳に描かれているのは座敷童側の事象が人間側に干渉した結果で生まれた金鶏山の内部、その分断図だった。

「これは妄想ではなく、科学で判明した事実か?」

「金鶏山は地面から三メートル下までが腐葉土と粘土、その下が当時の地面。その当時の地面の一◯メートル下……現代の頂上近辺の地中一三メートル下には『五◯メートル以上続く半径一.五メートル程の落とし穴』みたいな空洞がある。そして、その空洞の先には空間。その空間の全体図はわからない……もっと高機能な機械を使えばわかると思うけど、専攻してるわけでもない大学生が扱える機械だと空間の天井を写すのでやっとだ。でも、落とし穴みたいな空洞は確実にあり、その下には広めの空間があると予想できる。巴、この分断図は見た事ある?」

「……、無い」

「という事は親父も調べてないって事か……」

「当たり前だ。金鶏山は考古学的遺跡群の一つとして世界遺産に登録されているため、お前がやった無断での地質調査は刑事罰になる」

「そんなことより、座敷童が掘っても人間側には穴は無いのに、なんで人間側の機械で穴があるのを見つけれたのか? が問題だ。予想するまでもなく、年数が経ち、座敷童の事象が人間側に干渉してきたからだろうね。八慶の攻撃みたいに強烈ならその場で干渉してくるけど、穴を掘った程度なら数百年は必要って事だ。鱗が金になるには更に果てしない年月だろうな」

「達也! さとと弥生はここにいるのか⁉︎」

 八太は巴の横から割り込み、達也の手帳に掴みかかる。

「人間側の機械では座敷童は確認できない。でも、座敷童に餓死は無いから生きてる可能性はある。最悪なのは脱皮した皮の癒着に巻き込まれていないか……だね」

「いち子の竹由で癒着はしない!」

「そうだね。お濃様もオロチの腹の中で生きていたから八太の嫁さんも生きてる可能性は高い」

「…………」

 達也が思いついた方法は分断図があった事で、巴の中では思いついた方法から考えついた方法に変わる。何故、考えついた方法になるのか? それは落とし穴と空間を人間側が見つけられたという事は、落とし穴や空間が神器【竹由】の効果範囲であり、地面から三メートル下の『当時の地面から落とし穴までの一◯メートルが地中と融合した脱皮した皮』になるからだ。

 従って、達也の考えついた方法は落とし穴までの一◯メートル、脱皮した皮と融合した地中を破壊する方法という明確なモノになり、ただ単に想像や妄想の範囲で思いついた方法とは違うことになる。しかし……

「達也。分断図があってもお前の考えついた方法が脱皮した皮を破壊できなければ意味がない。そして、夕刻から晩にかけてオロチが蘇るため、二次被害を気にしている場合でもない」

「俺の思いついた方法は、まず脱皮した皮の中に黒の鱗を残しながら掘っていく」

「残しながら掘る?」

「七首のオロチになり黒のオロチと融合できるから、白のオロチだけなら黒のオロチを癒着しても融合はできない。融合できないという事は、脱皮した皮の中に黒の鱗はそのまま残るという事になる」

「なるほど、他の鱗なら時間の経過で融合してしまうが黒の鱗は別……そのまま脱皮した皮の中に残る」

「その残し方が大事で、落とし穴までを数箇所から斜めに刺し込んでいく。この分断図よりも当時の落とし穴の位置を知ってる巴や八太の方が正確に刺し込めるはずだ」

「一枚二枚だとただの異物だが、大量の鱗を使い、列を作るように落とし穴まで刺し込んでいけば……」

「ひび割れと一緒になる。そのひび割れを四方、理想は八方に作る。後は、この黒の鱗を宿している薙刀を中心にぶっ刺してワインのコルク栓を抜くようにしてやれば、座敷童だけが通れる風穴が完成」

 達也の考えついた方法なら鱗を融合した道具を使わなくても脱皮した皮に風穴を空けられる。

「抜ける! 巴、抜けるぞ!」

 八太は巴を見上げるが……あくまでも風穴を空ける方法でしかない。それは巴から教えられる。

「融合しないのを利用し、黒の鱗というひび割れを作り、落とし穴までの脱皮した皮を部分的に抜く。オロチの封印に風穴を開ける方法としてはお濃の考えた方法よりも黒の鱗の量は減らせる。だが、青の鱗が無い今、風穴を開けた後には癒着が始まる。どうするのだ?」

「穴が塞がる前に電光石火の早さで巴が落とし穴の底へ行って、八太の嫁さんと子供を連れ出す。癒着の早さが予想できないから、もし巴が戻ってこれなかったら……二次被害だ」

「特務員梅田、その方法は二次被害確実よ」

 アーサーは巴に視線を向ける。達也の考えついた方法に巴の能力が含まれている時点で、達也の方法自体たとえオロチが夕刻ではなく今蘇ろうと、試せない事を知っているからだ。

「?」……達也は疑問符を浮かべながら巴を見る。

「……、八童としての力を失っている私には底まで行って帰ってこられない」

「はっ? 八童としての力を失ってる? なんで?」

「失っているものは失っている。最後の連れ出すところ以外は試す価値はあると思うが……残念だったな。震災前なら実践できた」

「それなら八童になった八太は? 当時は八童ではないし、今なら八童だから……」

「八童は総合的な実力で選ばれるだけだ。そもそも、八太と八慶はしずかの代行なだけで正式な八童ではない。そして、八童だから早く動けるというのは勘違いだ。私は能力を利用して早く動けるだけだ」

「いち子は?」

「座敷童側では御免こうむりたいが、人間側はいち子が一首のオロチに対して動いてもいいのか?」

「ダメダメ! 絶対ダメ!」

「なんでいっちゃんはダメなの?」

 アーサーは疑問符を浮かべながら聞く。

「いや、それは、……いち子は色々と……、前みたいに遊びならいいけど……、下手に本気になったら危ないし」

「大臣。一首のオロチだけで東北に震災を生んだのだが、七首のオロチだと震災ではなく日本が更に分断された島国になる。そんな混沌な状態になっているからいち子も心置きなく戦えるだけで、下手にいち子がやる気になってしまったら東北が地図から無くなる」

「…………、いっちゃんって、そんなに強いの?」

「大陸だった日本を島国にした八岐大蛇に酒を飲まし、酔わして眠らせる作戦を考えたのが松田家。実行したのがいち子だ。それまでに至る経緯はあるが……今は関係ない。そもそも、いち子がやる気になれば脱皮した皮など鮭とばの皮を剥くのと同じだ。その後の東北は太平洋を彷徨う浮島になるがな」


 ズゴォン。


 巴とアーサーと達也の視線の先では地面に両拳を打ち込む……青年の姿になった八太。

「俺が行く」

「八太。失敗したら、お前まで穴の中だ。さとはそんな事を望んではいない」

「八重が黒の鱗を大量に手に入れるために北海道に行った! 青の鱗を大量に手に入れるために俺と兄者は東大寺に住む事を決めた! ……師匠しかさとと弥生(やよい)をこのクソみたいな!」

 地面を殴り、

「皮を破壊できないと思った! 俺が穴に入る、達也行くぞ!」

 声を荒げる八太。今まで我慢してきたタガが外れたように冷静さを失っていた。

 達也は現状での諦めを表情に浮かべ、拳を握り締める。チラッと見たのは黒の鱗が入った布袋。意を決したように手を伸ばす。

「慌てるな」

 冷静さを失った八太と黒の鱗を食べて自分の命を賭けようとした達也に、巴は……

「オロチを中尊寺にあるいち子の封印ではなく、毛越寺にある龍馬の封印にそのまま封印する。オロチが蘇る時間はいち子の封印よりも早く、東北に不安を残すことになるが……さとを外に出しておけば封印場所の移動は八太と八慶が東北にいれば可能だ。オロチを毛越寺に封印した後、明日にでも東大寺にある青の鱗を取りに行けば、明後日にはさとと弥生は外に出れる。八太、達也、まずは今晩蘇るオロチを封印するんだ」

「それもそうだ。八太、オロチを封印した後でも嫁さんを外に出せる。次はちゃんと八太と八慶が中尊寺に封印しないとダメだけどな」

「……、わかった。巴、オロチを封印したら俺は東大寺に戻って青の鱗を取りに行く」

「うむ」

 巴が頷きを返すと八太と達也は駆け足で毛越寺へと向かった。

 そんな二人を目で追っていたアーサーは巴に視線を向ける。すると、巴はオロチの鱗が入った布袋を手に取り、歩を進めていた。

「巴ちゃん?」

「今の私はオロチの前では無力だ。黒の鱗でひび割れを作っておく」

「翔君から聞いた話だと、封印の移動にはさとちゃんがいる八太君の本気が必要で、毛越寺に封印するだけなら巴ちゃんも戦力になるって」

「しずかや龍馬、今の八慶や八太だけなら、八童としての力がない私でも戦力になるが……ジョンがいるためそれも必要ない。それに、私の神使白黒が文枝様の警護にいるから毛越寺に封印するぐらいなら心配ない」

「ジョンは北海道のオロチとも闘ってたみたいだし……大丈夫ね。それなら、私もひび入れるの手伝うわ」

「いや、手伝いは必要ない」

「遠慮はいらないわよ。これでも大学時代は採掘のバイトもしてたし」

「神器は八岐大蛇に唯一対抗できる武器。お濃が生存し腹の中から現れるまでは消化を阻害するとはわからなかったが、本来はこのように……」

 布袋から黒の鱗を一枚取り出し、和傘から仕込み刀【白天黒ノ米】の刀身を覗かせ、黒の鱗を付ける。音もなく融解、そのまま刀身へと融合された。

「融解と融合?」

「松田家の融解もこの神器からヒントを得ただけで、神器は無条件でオロチの鱗を吸収できるのだ。もちろん、吸収した鱗を力として排出する事もできる。地面に刀を刺し込み、吸収した鱗を竹由の干渉領域の空間まで排出すればいいだけだ」

「元の地上は三メートル下って言ってたわね。掘るの手伝うわ」

「気持ちだけいただいておく」

「遠慮しない遠慮しない」

「遠慮ではない。金鶏山は国の史跡であり、先ほども言ったが考古学的遺跡群の一つとして世界遺産に登録されている。子供が遊びで穴を掘るぐらいなら親が叱責されるだけだろうが、至る所に三メートルも掘る大人がいたら別。座敷童だから穴を掘れるだけで、人間なら賠償問題や実刑になりかねない」

「金鶏山を買い取るわ!」

((大臣……無理です))

 携帯端末を右手にどこかに繋げるアーサーに加納と梓は額に汗を溜める。

「達也は一枚一枚刺し込んでいこうとしていたみたいだが、鱗の力を使えば地面を掘らなくても放出するだけで……」

 巴の視線の先では「官房長官、金鶏山を買うわ。いくら?」と無茶な事を口走るアーサーがいた。


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