009 反抗、そして
GM「あなたはこれから大変な目に会うでしょう」
ミオ「わかった、魔物に襲われるんでしょう。エロ同人みたいに!」
GM「はい。その通りです」
ミオ「……え?」
足元に違和感を感じて見てみると、ジェード君の体の一部が細長くのびてわたしの足首に絡みついていた。なんだか震え方もいままでと違う。なんとなく嫌な感じがしたので、わたしはジェード君のステータスを確認するために右手を伸ばす。すると突然ジェード君の腕(触手)が数本わたしの手にもまとわりついてきた。
「わ、わっ、ジェード君どうしたの」
最初はただじゃれているだけかと思ったけど、なんだか気分が悪い。そして、視界左上に表示されているわたしのステータスを見た瞬間にじゃれているわけではないことを悟った。
わたしの15しかないHPが減っているのだ。それはいまも。13、12、……。
これは、じゃれているんじゃない。今日ラピッドラビット相手に何度もやっているのを見た。そう、これは。
――捕食。
「ジェード君、ふざけているなら、やめなさい。怒りますよ」
若干低くなったわたしの声にもジェード君は止まらない。
ジェード君の流動する体はわたしの右手どころか既に右足も飲み込んでいる。
わたしは力づくで逃げようと思ったけど、右手と右足をガッチリと拘束されていて動かない。スライムは柔らかいけれど、一旦中に取り込まれてしまえばなかなかの拘束力をもつみたい。ならばと左足で蹴ってもスライムは粘性生物。打撃攻撃は意味がないのかHPが減らない。……ああ、これなら別にラピッドラビット相手に心配することなかったな。
《システムロール:“打撃”発動判定。基準値60。判定。60→37 成功しました。続いてダメージ判定。STR10対VIT1の対抗。10-1=9により基礎ダメージ1d3。ロール…2。スライムの種族特性によりダメージ3点減。ダメージは発生しません》
違った。打撃攻撃が意味ないわけじゃない。わたしのSTRがジェード君のVITを上回ってるから2のダメージは与えられている。けど、スライムの種族特性とやらで効かなかった。種族特性が恒常的にダメージを3点減らすという効果なのかどうかもわからない上に相手のダイスロールは見えないので対処の仕様もないけど。
ダメージの1d3という表記は3面ダイスを1回振るという意味。実際にはまぁ3面ダイスなんて存在しないけどシステムで振ってくれるからそこらへんは気にしない。問題は、わたしのキックじゃ最大でも3ダメージだってこと。この攻撃が通らない以上わたしにジェード君を倒す手段はない。左手でメニューは開けるから武器――弓を取り出すことはできる。でも弓を使おうにも右手が使えないし、だいたい矢がない。だれさこんな欠陥武器考案した人。
《あなたは絶体絶命の危機に陥りました。突然の仲間の裏切り。原因がわからずに混乱しつつもこの事態を切り抜けたいと頭を回転させるあなたはあることに気が付きます》
ジェード君に常に触れている、というか囚われているわたしにはずっとジェード君のステータスが見えている。ヘルプによれば状態異常のときはステータスにアイコンが表示されるはずだ。ジェード君が魅了や混乱といった状態異常をいつの間にか受けていたのならこの状態にも納得がいく。でも、ジェード君のステータスは正常。つまり、これはジェード君の自由意志ということ。
……ああ、そうかいそうかい。
数分後には死んでしまうだろうこの状況で、不思議とわたしは冷静だった。
わたしのHPはすでに半分を割り込み残りは6……いま5になった。いつの間にか左足も飲み込まれていて右肩から腰の下はすべてジェード君に覆われている。ああ、なんか違和感があると思ったらジェード君が大きくなっているんだ。さっきまではせいぜいうさぎを一匹飲みこめる程度の大きさだったのに、いまじゃ多少小柄とはいえ人間のわたしを飲み込めるサイズにまで成長してる。レベル上がったからかな……。
もうわたしの体で動くのは頭と左腕だけ。この状態を現実世界でたとえるなら、ライオンに体の半分を喰われた状態とでもいえばいいのかな。
でも、ここは現実じゃない。ゲームの中だ。ここで死ねば現実でも死ぬ、とはいっても、所詮ゲームの中だ。
そう、ゲームの中なら。
まだ、助かるかもしれない道はある。もちろん失敗したらその時はおとなしくエサになるけど。
助かったら覚えてろよ、ジェード君?
わたしは左手を振り、メニューを開き……ハーモニカを取り出す。
ああ、これはボーナスポイントを幸運に全部振っておいたおかげかな。ハーモニカが左手と口だけでも演奏できる楽器で良かった。
わたしが吹くのは《隷属の調べ》……ではなく《戦慄の調べ》。一か月のハーモニカの練習の間、手持ちスキルには2曲あったんだから当然こちらも練習している。むしろこっちの方が曲的には好きだったんだ。聞く者に原始的な恐怖をもたらすようなあの旋律が。
スキルの効果はそのまま、《対象に状態異常“恐怖”を与える。判定はPOW&LUC対POWの対抗ロール》だ。
さぁ、運命のダイスロール行こうか。
《システムロール:スキル“戦慄の調べ”発動。
プレイヤー“ミオ”POW10+1/2LUC22+楽器演奏スキルボーナス9 =41
-対抗-
個体名“ジェード”POW1+種族値ボーナス10 =11
判定。41-11=30 → ロール…16 成功。個体名“ジェード”は状態異常“恐怖”を得ました》
――お仕置きの時間だ。
ダイスは全部実際に振ってます。今回の最後のロールは一応、失敗しても別の展開でどうにかするプランはあったのですが、無事30%を引けてよかった。ミオは強運ですね(LUC重点なので当然かもですが)。
次回は視点変更してちょっとだけ過去に戻ります。