010 とあるスライム
ミオ「スライムに捕食とかほんとに18禁みたいな展開……。冗談だったのに」
GM「心が汚れている人にはそう思えます。普通は純粋に命の危機です」
ミオ「」
俺はスライムだ。うじゃうじゃいる魔物のうちの一匹でしかなく、特に自我があったわけでもなかった。普通に初心者冒険者なんかに狩られて終わるような取るに足らない存在だった。
そんな俺が運命の出会いをした。
スライムという種族はなんでも食べる。有形無形問わず、なんでもだ。スキル《吸収》によってあらゆるものを己の糧にできる。けれども、その食事の中での最上級食《経験値》だけはいまだに食べたことがなかった。
当然だ。スライムなんてこの森の中で……いや、この世界で最弱の存在。他の魔物に手を出そうものなら返り討ちだ。唯一この森のラピッドラビットならばHP1、VIT1だし攻撃さえ当たれば勝てるかもしれないが、奴らはレベル1の魔物にはありえない100もの経験値をもっている代わりにAGIが200もある化け物だ。
ちなみに俺のAGIは1、倒して得られる経験値も1だ。参考までに言っておけばこの付近のフィールド、《試練の森》の主たるレベル5《ジャイアントオーガ》のAGIは3、補正なしで得られる経験値は20。ラピッドラビットがどれほど規格外かわかると言うものだ。
そんな底辺の俺がある日、一人の少女に出会った。格好からして人間の冒険者。
そいつは見るからに初心者・レベル1といった出で立ちで、警戒心もなくすぐにゴブリンあたりの魔物に殺されてしまいそうだった。最弱種スライムの俺でもなんとかなるかもしれない相手。俺は勇気を振り絞って近寄って行った。
だが近づけば近づくほど自分が最弱の魔物だということを自覚してしまって、俺は結局少女を襲えなかった。
逆に少女は俺に触ってきた。攻撃性のない行動だからHPは減らないが、内心では冷や汗たらたらだ。踏みつぶされればダメージを負うし、逃げようにもこちらのAGIは1。HP10では死ぬかもしれない。
そしてしばらくしてから少女は楽器を取り出した。まずい、冒険者の使う楽器には対象を攻撃するものもあるという。逃げなければ……。
しかし、そんな考えは少女が演奏を始めたとたんすぐに忘れ去った。その旋律は俺の心の奥底まで深く響く、とても綺麗なものだったから。俺を求めているような気がして。誰にも気にかけられすらしなかった底辺の俺が、求められている気がして。
俺は気がつけば、彼女に隷属していた。足元にすり寄っていた。隷属でも、何でもよかったのだ。体を撫でる優しい手。他人に求められるこの感覚さえあれば、他者から肯定されるこの悦びさえあれば、俺は俺でいられた。
その上彼女は俺に名前を与えた。魔物にはもともとシステムに与えられた個体名がある。最底辺の俺にも当然あった。しかし、魔物使いの冒険者が魔物に名前を与えるということは特別な意味を持つ。
魔物の隷属支配ではなく、魔物との契約。契約は初級でも主人の持つ特長、つまりはボーナスポイントによる強化値を魔物側にももたらせる。自由な経験値の分配も可能だ。これは、魔物の得た経験値すら主人が得ることができるということ。契約のレベルが上がれば、魔物とスキルを共有したり、魔物と一時的に一体化することも可能になる。
しかしこの名付けによる契約はメリットばかりではない。デメリットとして、魔物に自我が宿り高度な知性を獲得し、そして、主人への反抗を可能とすることがある。
隷属状態では大した知性もないままに主人の命令には絶対服従となる。使い勝手のいいコマだ。しかも魔物は死んでも新たに補充可能。これが魔物使いの一番の長所であるのに、契約はこの長所を粉砕してしまう。
契約では、主人への反抗が可能になる。程度は命令無視から、それこそ命を奪い契約自体を解除することも可能だ。主人を食った魔物はレベルアップどころか進化すら可能であると聞く。この世界では“名”とはそれほどの意味を持つ。
彼女は俺とそんな危険極まりない契約を交わした。まぁ、俺が最弱のスライムだから行ったことかもしれないが……。それでも、俺は彼女を襲わないだろう。
ジェード。この名が俺を示す限り。名をくれた彼女を、俺が俺であることを肯定してくれた主人を裏切らない。
俺には元の個体名があった。だが、今ではそんなものは忘れてしまおう。
俺は、俺の名はジェード。彼女、ミオの忠実なる下僕。
次回もジェード君の視点続き。話をおさらいしつつ、裏の事情説明回です。




