086 賭博場
GM「賭け事は怖いですね。身を滅ぼさない程度にほどほどにしましょう」
ミオ「競馬だけはお勧めするよ! ばんえい競馬が迫力あっていいね!」
GM「地元にあるから応援してますね」
ミオ「正確には“あった”だけど。……時代の波は厳しいね」
冒険者ガイナスとの別れから2週間。依頼をこなしたりごろごろしたりしていたミオ達だが、この日は新たなチャレンジを行っていた。
何を隠そう、賭博である。
「……次こそダウン……いや、アップッ!」
「――残念。また嬢ちゃんの負けだぜ」
「~~~、ああ、もうっ」
リュシノン王国は近隣の国家群の中では最大の規模を誇る。王都ともなればその広さは《始まりの街》の10倍以上にも及ぶ。街の端から端まで歩いて、4時間ほどはかかるだろうか。
ミオ達が普段生活している場は王都の最も外側、《外街》と呼ばれる部分である。受付嬢リーサが勤める冒険者組合も正式名称は“冒険者組合王都外街支部”となる。王都は他に、中心の王城周りにある《中街》を含め、区画ごとに名前が付いている。その名前は区画の特徴を表すものであったり、なんの関係性もない名前であったりもする。
そのうちの一つ、《華街》は王都の中でも危険な場所の一つとして住民から認識されている。この区画はとにかく荒っぽい。この区画にある華街支部の冒険者組合も、所属しているメンバーはすぐに暴力沙汰を起こすことで有名だし、住民の方も職人気質な無骨な男たちが多い。よく言えば“男らしい”男たちに寄って来るのか、夜を売る商売の女性たちの姿も多い。そしてその区画で何より有名なのは大規模な賭博場がいくつも存在することだった。
そんな街の賭博場に年端もいかない少女がいる光景は酷く不釣合いで、なにかと注目を集めていた。少女が高そうな衣服に身を包んでいることや、少女自身の美貌、ぽんぽんと賭け金を上乗せするのも耳目を集める一因だろう。
その少女自身はどうやら注目を集めていることには気が付いていないようで、テーブルに突っ伏してだらけた姿をさらしている。4連敗で負けが込んでいるためだ。
「だめだぁ。わたし、賭け事の才能ないやー」
すでに所持金は半額以下になっている。アイテムボックスの中の使っていなかった素材アイテムもほぼすべて放出した。ちなみに、冒険者も多く利用するこの賭博場では素材アイテムは賭け金の代わりに使うことができる。そのための鑑定士が常駐しているほどだ。
ミオは顔だけを横に向けて、頼れる従者たちを眺める。
――オニキスは理知的な風貌とは裏腹に少し頭が弱いところがある。しかし、そのLUCはミオの4000をはるかに上回る実に10000越え。その豪運をもってすればギャンブル程度など……。
ミオが見たのはず~んという効果音を身に纏いテーブルに突っ伏しているオニキスの姿だった。ここらへんはさすが主従と呼べるだろうか。
オニキスはミオの視線を感じたか、彼女のいるテーブルまでふらふらと歩いてくる。そのさまは生気のない顔とあいまってさながら幽鬼のようである。
「すまぬ、我が主よ……有り金すべてむしりとられたのである……」
「……よしよし、泣かないのー」
普段はあまり見せないオニキスの弱弱しい姿に、期せずして体の奥の方がキュンと高鳴るミオ。この少女、見た目はちんちくりんでも母性本能は人一倍強い。そのためか自分の前で弱い部分を見せてくれる人に対しては、無条件で愛情を注ぐきらいがある。もっとも、見た目のせいであまりそういった相手はいないのだが。彼女の弟くらいだろうか。
今も自分が負けたことなどとうに忘れ、オニキスを慰めるのに夢中になっている。
……なお、言うまでもないかもしれないが、レベル1のスライムであったジェードに対して彼女がなぜああも親身になっていたかという理由はこのあたりに存在する。
「うぇ~ん、ご主人様ぁ~」
そして、また一人ミオの可愛がる相手が追加される。
メンタルラットのハウライト。レベルは80ほどではあるものの、稀少個体のためステータスは100レベル相当で高いLUCを持つ。もっとも、LUCがギャンブルに関係ないことはオニキスが半ば証明しているのだが。
また当初ミオを罠にはめようとしたことからも分かる通り、小賢しい知恵を持つ。頭の回りは決して悪くない。バカではないのだ。
……しかし、現在は“隷属の調べ”“魂の隷属”により性格も改変され、そういった知恵は使わなくなってしまっている。仮に性格がそのままであったなら精神操作を含むイカサマで無双していたかもしれないが、いまのハウライトは端的に言ってただのアホの子である。そもそもが幸薄い彼、ギャンブルで勝てるはずもなかった。
ちなみに、イカサマというならミオは《天眼》を駆使すれば相手のわずかな動きから心の微妙な揺れさえ見抜けるし、カードなども透視まがいのことができる。オニキスだってその高すぎるステータスに物を言わせれば誰にも気づかれずにすり替えなどのイカサマを行うことは可能だったろう。
彼女らにそんな発想がないだけである。
さて、残る一人、我らが頼れるジェードはどうだろう?
そのジェードはそもそもギャンブルなどに手を出さず、この賭博場へ来た目的を果たそうとしていた。ギャンブル性とは無縁の堅実実直な男である。いや、スライムに性別はないのだが。
彼はようやく目的の人物を見つけると、その対面に腰を下ろす。
「何だ若造。俺と勝負しにでも来たか?」
「ええ。ちょっとあなたの噂を聞きましてね、ケルドさん」
眼光鋭い筋骨隆々の大男。彼こそがそもそもこの賭博場にミオ達が来た目的だった。
彼の主人と2人の下僕は当初の目的などすっかり失念しているようではあったが。
「噂、ねえ。金はあんのかい」
「そりゃあもう、たっぷりと。準備は万全ですよ。もっとも、俺の言ってる噂ってのは、この賭場の元締めであるあなたの事ではなく、鍛冶師としてのあなたのことなんですがね」
「……てめぇ、俺をおちょくってんのか」
その言葉に周囲にいた荒くれ者たちも剣呑な雰囲気を隠そうともしない。周囲をケルドの手の者に囲まれて孤立無援のジェードだが、その余裕は崩れない。
その様子を見てケルドは目の前の青年の評価を多少は改める。
「噂を聞いてるなら知ってるんだろう。俺はもう槌を握れねぇ。鍛冶師を探してるんなら他を紹介してやるよ」
「いえ。こいつはあなたにしか加工できないでしょう」
そう言ってジェードはどこからか(例によって体の中の収納スペースからだが)取り出したいくつかのアイテムをドンドンドンッとテーブルに積み上げていく。
そのアイテム群を見たとたんにケルドの目つきは変わる。鋭くにらんでいた眼光が、純粋な驚きで丸く見開かれ、再びジェードを見据える。
「こいつは……」
「……できれば、人払いなんかしてくれませんかね」
「――いいだろう」
「お、親方」
「うるせぇ。てめぇら、店のこっち半分は貸し切りだ。客も向こうでとめてろい」
「ああ、あそこにいる可愛い女の子と眼鏡をかけた馬鹿と鼠耳の生えたアホは俺の連れなので追い払わないでもらえます?」
「ああ? まぁいいぜ。で、どういうことだ。話は聞かせてもらえるんだろうな」
「ええ、もちろん。準備は万端だと言ったでしょう?」
大晦日ですね。大掃除は済みましたか?
家具の裏などに一年間たまったほこりは想像を絶する量がありますよね。ちりも積もれば山となるを実感させてくれます。え、普段から掃除しろって?
やだなぁ、大掃除用にあえてとってあるんですよ。
さて、年始も時間の許す限り投稿はしようと思います。話も途中ですしね。
炬燵の中ででもぬくぬくご覧いただけたらと思います。
それではよいお年を。session7開幕です。




