084 WCでの戦闘
GM「今回はタイチさんと新キャラのお話です」
ミオ「最近はキャラも増えてきたよね」
GM「ぶっちゃけ主要4人と弟さんと私だけ覚えておけば何とかなります」
ミオ「いや、GMを覚える必要はない」
「タイチごめん。今日オフだったよね? 彼の教育係かわってくれないかな?」
「どーしたよ、ケン。そんなに慌てて」
「うん、ちょっとマスターから呼ばれてね。というわけで、ごめん、キルヤ君」
「あ、いえ」
そんなやり取りがあって、今俺はキルヤという少年プレイヤーと一緒に始まりの街の外に出てきている。
彼は見た目小学校高学年か中学生くらいの幼い少年だ。WCは年齢制限のあるゲームじゃないから、プレイヤー1万人のうちにはこういう人もいる。逆に老人だって見たことがある。
俺たちのギルド、グリフィンナイツはこういったプレイヤーに対して慈善事業のような形で支援を行っている。主にマスターのカイトの提案だけど、みんなノリがいいからちゃんとやってる。この“教育”もその一環で、街の外で戦闘をしたことがない人たちを、俺たち上位のプレイヤーがサポートしつつ、慣れさせるというものだ。
キルヤ少年の職業は騎士×料理人だったから、同じ騎士のケンの担当だった。まぁ、俺もケンと一緒にレベリングしてきたから騎士の特徴はよくわかってるし大丈夫だろう。
「それで、えーと、キルって呼んでもいいか?」
「あ、はい。自分もタイチさんって呼んでいいですか?」
「別に敬語とか気にしなくていいぜ。WCじゃあ年齢なんて気にするもんでもないしな。俺だって多分年上のカイトに敬語は使わねーし」
カイトは見た目、結構童顔だけど、物知りだし大学生くらいじゃないかと思ってる。もちろんゲームの中でリアルの話なんてタブーだから直接は聞いてないけど。
「い、いえ、自分はタイチさんのこと尊敬してるのでっ。ハイランカーの剣闘士で、PvPならレベルでトップのアルベルトさんにも負けないんじゃないかって」
「掲示板の情報か。まー、あんまり鵜呑みにしない方がいいぜ」
「す、すいません」
「いや、責めてるわけじゃないんだ。尊敬してくれてるってのは正直嬉しいよ」
というか照れる。ゲームの中なんだから、強さは絶対的なステータスになる。そして俺はそれなりに強い。そう客観的に認識してても尊敬とか言われれば顔も緩む。
……レベルだって、姉さんのあの事件があってからは、積極的に上げてるからもう少しであの野郎にも追いつくし。もう、自分の力不足で誰かを守れないなんてこと、経験したくない。
「まぁいいや。それでキル、戦闘の経験は全くないんだったよな?」
「はい、それで今日はじめて街の外に出るって話だったんですけど……」
「いま何レベだっけ?」
「いまは42レベルです」
「結構高いな」
「はい。このゲームが始まってから5か月間、街からは出ませんでしたが料理人のスキルは上げていたので……」
「なるほどな。それだけありゃ十分だ。んじゃまあ最初の相手はあれだな」
俺は目の前に現れたスライムを指さす。経験値は自身のレベル-5の敵までしか+補正がかからないので倒してもほぼ無意味ではあるが、戦いのやり方を教えるには丁度いい。適度な緊迫感もあるしな。
「スライム、ですか。スライム料理は作ったことありますけど、生きてるのは初めて見ました」
「油断するなよ。あれはレベル1だが俺だって負ける可能性はある」
「え? レベル80越えのタイチさんがですか?」
「ああ。スライムの攻撃方法はスキル《吸収》によるHP吸収攻撃だけど、これは固定ダメージじゃなくて相手のHPを割合で削る。だからどんな上位の相手だって倒せる可能性があるんだよ、スライムは」
「なるほど……」
「まぁ、DEXもAGIも1だからまず攻撃は当たらないけどな。そういうのを無視して当っちまうことになるような外部要因だけは注意しておけ」
「は、はい」
「んじゃ、初戦闘してみるか」
《システムロール:戦闘開始。味方、タイチ・キルヤ VS 敵方、スライムA・スライムB 行動はAGI順、タイチ→キルヤ→スライムA→スライムBになります》
「話には聞いてるかもだが、一応全部説明しておくぞ」
「はいっ」
「WCはもとになってるのがTRPGだからか、戦闘はターン制だ。これは、一般人の俺たちにはとてもありがたい。行動を決めるのに時間制限こそあるが、デスゲームになっちまったこの世界で問答無用の斬り合いなんかは御免だからな」
「そうですね。僕も、それでこうやって戦おうと思ってる部分もあります」
「ああ。多分、WCの仕様がガチの戦闘なら今よりも街に引きこもってる奴は多かっただろうし、街の外で死んだプレイヤーも増えたはずだ。でも、プレイヤー1万人の内、死んだ奴なんて例のグリードグリムの事件に関わった奴や、本当に運が悪かった奴くらいだろ。あとは自殺した奴かな。ゲーム開始から5か月たった今でも死んだプレイヤーは200人にも満たないらしいしな」
《行動“タイチ”:スライムAに通常攻撃。基準値70。AGIの対抗ロール。対抗勝利により基準値+20 →42 成功。ダメージロール……》
「あれ、タイチさんのシステムメッセージって数値でないんですか?」
「ああ、そこらへんはカスタムできるんだよ。いちいち細かい数字見えても鬱陶しいだろ。ちなみにこれでも結構残してる方なんだぜ。ギルメンの中には最終的なダイスロールの結果だけ表示されるようにしてるやつもいる」
「なるほど……。でも、細かい数値分からなくて困ることってないんですか?」
「ないなぁ。そもそもこのゲームは細かい数値で勝ったり負けたりの対抗ロールは基準値に補正をかけるためのものだからな。最後のダイスさえわかれば困ることはないよ」
《スライムA撃破。続いてキルヤのターンに移ります》
「えーと、それじゃあ」
《行動“キルヤ”:スライムBに通常攻撃。基準値90→29 成功。ダメージロール……》
《スライムB撃破。戦闘終了》
「あ、ほんとだ、設定いじったら数値の表示が無くなった」
「そ。まぁ、これで初戦闘終了だ。最初に脅かしたけど、レベル80超えてる俺も、40超えてるキルも負けるわけはないわな。この世界の戦闘なんてこんなもんだ」
「そ、そうですね。でも、なんか面白いですね。ダイス振った後に自分の体が勝手に動いて通常攻撃してくれるって言うのは」
「まぁな。剣道含め武道なんてやったことない俺でも、この世界でならオリンピックの剣道選手……はいないか、フェンシング選手にだって勝てるだろうしな。あ、でも、自分の意志で動くこともできるんだぜ。慣れてきたらそっちの方が気持ちいいかもな」
「そうなんですか?」
「ああ。ダイスで命中って判定されればどう剣を振っても当たるし、ダメージが算出された後ならどう斬っても与えるダメージは変わらない。結果が分かってる分気兼ねなく剣を振り回せるからな。ここらへんは有志で検証して、掲示板にも載ってる情報だぜ」
俺たちはスライムをいじめた後、さらに森の奥へと進んで色々な魔物と戦う。その中でキルには騎士の持つスキルの使い方なんかも教えていく。最終的には自分のレベル-5の敵を倒して経験値を手に入れられるようにまで育てられれば目標達成だ。
『やっほータイチ、元気してるー?』
キルと別れて、グリフィンナイツの拠点、ギルドホールに戻ってきて一息ついていたころ、姉さんからフレンドコールが来た。
姉さんはいま、ジェードさんオニキスさんとともに旅に出ている。プレイヤーの中には、俺たちグリフィンナイツのようにMSQを進めるために始まりの街周辺を拠点として活動している勢力と、この世界を自由に楽しみたいということで旅に出ている姉さんのような勢力がある。
WC世界は広く、NPCの活動も活発なため、旅に出るのはとても楽しいらしい。俺はちょくちょく掲示板を覗いているが、そりゃあもう賑わっている。
ちなみに、今の俺のレベルは80を超えているが、それでも最近のMSQを攻略するのは厳しくなってきている。そこで、マスターからはしばらくギルドとしてのクエスト攻略は中断して、各々レベル上げをしようかという話になっている。この話が正式に通ったら俺は姉さんを追っかけてみようかと思っている。
「元気だぜ。姉さんこそ、こないだは火山に行くとか言ってたけど、大丈夫だったか?」
『あははー。いやぁ、火山は怖いね。タイチも行くときは注意した方がいいよ』
「行くことなんてそうそうないだろうけどな」
『それもそうかー。あ、コールしたのはね、ペット手に入れたの。自慢したくって』
「おー。ユキみたいな?」
『そうそう。ユキそっくりなの。てっきり噛みつかれると思ったんだけど、なんか懐かれちゃって』
「よかったじゃん」
カイトと話したばっかりのユキの名前が出てくるとは。随分とタイムリーだったなぁ。
『今度会ったときは乗せてあげるねー。それじゃまたー』
「おう、じゃあな、姉さん」
……ん?
乗せてあげるって、そのネズミ(推定)はどんだけでかいんだ……?
あれ、ミオさんっていままでの戦闘でターン制じゃなかった気が……。
はい。つまりミオさんは意識せずにシステムの外で戦闘をしていることになります。というか彼女はこの世界の一般的な戦闘がターン制であることも気づいてないでしょう。
初期のころはそもそもジェード君使ってシステムの穴をついた一撃必殺でしたし、最近はダイス振らないし……。
システムに縛られないミオさんがいかに強いかわかろうというものです。




