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鬼神と手枷で繋がれた俺は、怪異の未練を解く陰陽師となる  作者: k-ing


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4.陰陽師、霊を祓う

――ピピピッ!


「あー、くそ!」


 スマートフォンから聞こえるアラームを止めて、俺は目を覚ます。

 いつもはスッキリ起きられるのに、今日に限っては全く寝られなかった。


「朔、この箱の中は何で動いてるんだ?」


 朱羅がテレビに興味を持ったからだ。

 寝ようと思って布団に入ったが、朱羅は寝られないのかずっと俺の顔を覗き込んでいた。

 ああ、傍から見たらホラー映画のようなあの状態だ。

 目を開けたら目の前に朱羅の顔があるからな。


 あまりにも目をつぶって無視していたら、朱羅は手枷が届く範囲を歩き始めた。

 テレビに興味を示したから、電源をつけたのが間違いだった。

 静かに見ていればいいものの、やけに寝ようとしてくる俺に話しかけてきた。

 鬼ってこんなにフレンドリーなのかと疑問に思うほどだ。

 今では俺のことを名前を呼んでいるし、あの威張っていた朱羅はどこにいったんだろうか。


「朝飯でも食べるか」

「朝飯……? 朝餉(あさげ)のことか?」


 どうやら朱羅が封印される前は朝飯のことを朝餉というらしい。


「朝飯って朝餉か? なあ、朝餉?」


 朱羅は俺の周りを犬のようにはしゃぎながら付いてくる。

 俺は食パンを焼いて、上に目玉焼きを乗せる。

 ヨーグルトや果物も忘れない。


「これが朝餉なのか?」

「文句があるなら――」

「文句などない!」


 朱羅は胸を張っていた。


「早く座るんだ。さあさあ、今すぐにお供えしてくれ!」


 作ったのは俺なんだけどな……。

 もちろん朱羅の分も用意した。

 よだれが今にも溢れ出そうだから、気になって仕方ない。


「いただきます」


 手を合わせると同時に、朱羅へ供え物をする。

 あれだけ急かしていたのに、ジーッと見つめている。

 目の前にある見たことない食べ物が不思議なんだろう。

 食パンやヨーグルトが昔からあるイメージないからな。


「早く食べないと片付けるぞ」

「ぬぁ!? それはダメだ!」


 朱羅は体で覆い被さるように腕で隠して食べていく。

 よほど取られると思ったんだろう。

 悠真以外で誰かと我が家で何かを食べたのは久しぶりだ。

 まさかそれが妖である鬼だとは思わなかったけどな。


「我は鬼ではなく鬼神だぞ」

「細かいな……」


 しかも、鬼神っていう訳のわからない存在だ。

 それに口いっぱいに食パンを頬張っている姿を見たら、そんな威厳さは見当たらない。


「まずは情報を集めるか」


 学校の帰りに図書館で何か資料でもないか探してみよう。

 除霊して霊力を集めるにしろ、まずは除霊の仕方がわからないからな。

 朝食を食べ終えた俺は支度をして家を出る。


「なあなあ、みんなどこに向かってるんだ?」

『仕事や学校だ』

「学校……それはどんなとこだ?」

『勉学を学ぶところだな』


 もちろん鬼神の朱羅付きだ。

 さっきからずっと質問攻めしてくるから、心の中で答えているけど、とにかくうるさい。


「今の時代は学舎にいくんだな? 陰陽寮はないのか?」

『そもそも陰陽師も存在していないからないに決まってるだろ』

「そうか……」


 俺だけにしか聞こえないから、周囲からしたら無言なのにな。


「なあなあ」

『なんだよ!』

「あやつの後ろにいるのは悪霊じゃないか?」


 スーツに身を包んでいる女性が疲れた顔で歩いていく。

 いつもの風景だけど、俺にとったら悪霊かどうかもわからない。


『何で悪霊かわかるんだ?』

「そりゃー、あんな顔をしていたら悪霊に違いない」

「はぁー」


 俺は思わずため息が溢れ出る。

 この世の中、疲れた姿をした社会人は珍しくない。

 それも週の真ん中にもなれば疲れは溜まってくる。


『あれは社畜ってやつだ』

「なんだそれ……。我の知る人間はもっと楽しそうに暮らしておったぞ」


 朱羅の言葉に俺は何も言えなかった。

 時代が変われば生きている人たちは変わってくる。

 きっと昔は感情が溢れるほど幸せな人が多かったのかもしれない。

 ただ、霊が憑いているから、疲れた顔をしている可能性も捨てきれない。

 俺はゆっくりと近づき、霊の顔を見上げる。


『やっぱり生き霊か……』

「お前、わかるのか?」


 俺は小さく頷く。

 霊でも近くに寄ればよるほど存在が異なってくる。

 生き霊であれば輪郭がぼやけているし、目だけが異様に力強い気がする。

 まるでその人物に執着しているような雰囲気を感じるほどだ。

 一方、死霊になると無表情なことが多く、感情があまり感じ取れない。

 何か意味があってそこにいる気がするけど、何も読み取れないからな。

 ただ、生き霊よりもはっきりと見えるからわかりやすい。


『生き霊にも塩は効くのか?』


 ただの食塩を朱羅は清め塩と言っていたのを思い出した。

 俺は女性の横を通り過ぎた瞬間、背後の生き霊に向かって塩をひとつまみ投げた。

 白い粒が背中に触れた途端、生き霊の目がカッと見開かれる。

 次の瞬間、足元から輪郭が崩れ始めた。


「食塩でもいいのか……」


 俺はボソッと呟く。


「何がいいんだ?」

「うぉ!? びっくりした」


 突然朱羅が背後から声をかけてきたから驚いた。

 チラッと振り返ると、生き霊は何かを訴えるように女性を見つめていたが、やがて薄い霧のようになって消えた。

 まさか本当に食塩で生き霊を祓えるとはな……。


「生き霊は下級の霊だ。我のようなものは祓えないがな」


 そういえば、朱羅に投げた時は効果がなかった。

 霊によっても種類だけではなく、階級もあるのだろう。

 ただ、生き霊がいなくなったことで、女性の足取りはどこか軽く仕事に向かって行ったような気がする。


「どうだ? 霊力は増えたか?」


 朱羅の言葉に俺は首を横に振る。

 そもそも霊力がどんなものか俺にはわからない。

 ただ、塩を振るだけで霊を祓えるなんて聞いたことはあっても、本当に効果があるとは思わなかったな。

お読み頂き、ありがとうございます。

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