EP−0 旅立ちの前日譚
初めまして、作者のテトラです。
初心者が書いた作品ですので、至らない点があるかもしれませんが、宜しくお願いします。
主人公達が冒険に出発する前日のお話ですので、長いです。
セントラル大陸南部、トール村。
農業と畜産が主な産業の長閑で平和な村の昼時に……
ぼふん! という爆発音ともに一軒家の離れの錬金工房から吹き出す黒煙と……
「しまった! やっちゃったよ〜!」
1人の錬金術師の少女の声が響いていた。
錬金工房の窓からはまだ黒煙が吹き出しているが、煙の勢いは弱まってきており、すぐに止まるだろう。工房の爆発事故は何度も起きているらしく、村人達には見慣れた光景であるようで、
「ドジっ娘錬金術師、また錬成失敗してるよ」
「何度失敗してもあきらめない、その心がけは見事だと私は思うが」
「また錬成失敗からの爆発、これで何度目?」
ちなみに上記の台詞は誰のかというと、
上から雑貨店の店主、村の自警団の団長、親友の薬師ロアの順である。
そして錬成失敗からの爆発を起こした錬金術師の少女は何をしているかというと……
「わわっ! 大変だ! 大切な上級レシピに火が! ウォーター! 消火、消火ぁ〜! あと換気も!」
大慌てで水魔術で消火作業をしていた。
■□■
[Side:錬金術師]
視点は変わって錬金工房内。
私はメル。駆け出しの錬金術師です。何処からかドジっ娘錬金術師、という声が聞こえた様な気がしましたが、今はそんな事より目の前の惨状をなんとかしないといけません。
「火はなんとか消火出来たけど、上級レシピはもう駄目かも……」
私が錬成していたのは鉱山の坑道で使われている火薬で材料となる硝石、硫黄と木炭を一定の割合で混ぜて完成するのですが、その錬成作業中に事故が起きてしまいました。その後すぐ水魔術で消火出来たのが功を奏し、燃えたのが木製の作業机と、机の上にあったレシピだけで建物と錬金釜は無事だったのは不幸中の幸いでした。
「覚悟はしていたけど、上級レシピの焼失は痛すぎるよ……あのレシピにはハイポーションの調合法が載っていたから……」
これからどうしよう、そう思った時でした。
実験室の入口のドアが開いたのと同時に、
「ちょっとメル、どうしたの? 何かもの凄い音が聞こえたけ…ど…って、えっ? 何で室内が水浸しになってるの?」
「実はお母さん、錬成作業中に……」
私はお母さんにこれまでの経緯を説明しました。
錬成作業中に爆発事故が起きた事。
上級レシピを焼失させてしまった事。
消火の為に水魔術を使用した為、水浸しになってしまった事。
「メルが無事で本当に良かった……でも、錬成の作業は慎重にやらないと駄目よ、一つ間違えたら怪我だけでは済まないのよ」
「お母さん、ごめんなさい」
「次から気をつければ良いからね。とりあえず室内を綺麗にしないと。メルはガラス片の掃除を。お母さんは床を拭く布とバケツを持ってくるから」
そう言うと、お母さんは私の頭を優しく撫でて実験室から出ていきました。
「改めて見ると結構、酷い状態だよ……本当、実験室内だけで済んで良かった……」
室内の状況はと言うと、入口ドア周辺と錬金釜は大丈夫でした。しかし、机は燃えて使い物にならなくなり、上級レシピは灰になり、室内の壁は消火の時使用した水魔術でびしょ濡れに。床はガラス製器具の破片が散乱していました。
「とりあえず、大きな破片は割れ物入れの木箱へ捨てて、細かい破片は箒で掃いてちりとりで……と、ん? これ何だろう?」
破片を室内の隅にある木箱に捨て、ふと見ると木箱と壁の間に1枚の紙が落ちていました。拾って見てみると……
「あっ、これ何かのレシピだ……けど、読めない箇所が多すぎるよ」
拾ったレシピですが、酷い状態でした。変色している上に破けていて、重要な所は読めませんでした。それでも分かる部分を読んでみたのですが……
「…薬…リ……ー…の調……料? 全然分かんない。多分、文の最後は調合材料……だよね」
駄目です。何らかのレシピなのは間違いないのですが完成品の名称どころか、材料、調合手順すら不明でした。
「ガラス片の掃除は終わって……るわね。後は布で濡れている所を拭いたら終わり……って、メル、その手に持っているものはもしかして……ちょっと、お母さんに見せてくれるかしら?」
「お母さん、これが何だか知っているの? レシピに間違いないのだけど……紙の状態が酷くて……」
バケツと布を持って部屋に入って来たお母さんはバケツを床に置くと、レシピを受け取って品名を確認してから私にレシピを返してくれたのですが、この時のお母さんの表情はいつもの優しい感じではなく真剣な表情でした。
「これは……メル、今からお母さんの言う事、良く聞いて。あなたが見つけたこのレシピはただのレシピじゃないの」
「お母さん、ただのレシピじゃないって……」
「このレシピに記されているのは霊薬エリクシールといって、あらゆる病気や怪我を完治する事が出来る、伝説の品なの」
霊薬エリクシール……名前は知っているけど、まさか伝説級の品のレシピが家にあったなんて……でもどうしてお母さんは霊薬のレシピの事を知っていたのかな?
「お母さん、なんでそのボロボロの紙が霊薬エリクシールのレシピだって知っているの?」
「そうね……あなたももう12歳になるんだし、そろそろ話しても良い頃かもね。でもその前に拭き掃除を終わらせて夕食にしましょ。もう夜五ノ刻よ、詳しい話は食事が終わった後でね」
お母さんに夜五ノ刻だと言われ、窓の外を見ると、日が沈んで周りは暗くなっていました。
「あっ、本当だ、片付けに集中してたから全然気が付かなかったよ」
「拭き終わった布はバケツに入れておいて。後で洗っておくから。でも夕食の前に湯浴みで身体の汚れを落としてきなさい」
「はーい! それじゃこういう時はパパッと! クリーンアップ!」
クリーンアップというのは、生活魔術の一種で身体の汚れを落とす魔術です。魔力消費も少なく使い勝手が良いのでこの魔術を使える冒険者の人達は野営の時、湯浴みの代わりに使っているそうです。
「ちょっと便利過ぎない? クリーンアップの魔術で綺麗になるなら、もう湯浴みは要らないんじゃない?」
「でもやっぱり私は湯浴みはしたいなぁ。魔術で綺麗になっても、疲れは取れないから」
「それはそうだけど。魔術で何もかも済ませてしまうのも考えものね」
お母さんと話しながら廊下を歩いているうちに食堂に着きました。
「うわぁ! 凄く良い匂いがするよ!」
ドアを開け入ると、オーブンからは焼けたパンの香ばしい匂いが、コンロにかけられたお鍋からはスープの良い匂いがしました。
「あなたが掃除を頑張っている間に調理を進めていたのよ。ちなみに夕食のメニューはジャガイモとチーズのコンソメスープ、バゲット、チキンのオーブン焼きよ」
テーブルに置いてあるバスケットの中には食べやすいサイズにカットされた焼き立てのバゲットが盛りつけられていました。
「メル、食器棚からチキンを盛りつけるためのお皿と、スープを入れるカップを取って頂戴、あとスプーンとフォークも」
「はーい、お皿とカップはここ、スプーンとフォークはこっちの引き出しの中に……お母さん、もうテーブルに並べても?」
「良いわよ、もう手伝える事は無いから、メルは席に掛けて待ってて」
夕食の準備も整い椅子に掛けて待っていると、お母さんがオーブンで焼いたチキンが乗ったお皿をテーブルに置き、ナイフで切り分け始めました。
「お待たせ。さあ、どうぞ召しあがれ」
「いただきます! はむ……チキンだけでも美味しいけど、バゲットと一緒に食べても合うと思う」
「そりゃそうでしょう! バゲットとチキンの組み合わせも良いけど、コンソメスープとの相性も最高よ」
バゲットにチキンを乗せて食べてみると、スパイスの良い香りが口の中に広がりました。チキンはジューシーで柔らかくて美味でした。
「お母さん、チキンのおかわりお願い」
「少食なあなたがおかわりなんて、珍しいわね。何切れカットするの?」
「あと2切れだけ、美味しいけどこれ以上食べたらスープが飲めなくなっちゃう」
バゲットとチキンの相性は完璧でした。これだけ美味しいのなら、バゲットにチキンを挟んで食べても……でも我慢です。それを食べるとスープが入らなくなっちゃうので。
「はい、チキン2切れと、スープは今入れてくるけど量はどうするの?」
「カップ半分くらいで。これでお腹いっぱいになるから」
バゲットを一口食べて、チーズとジャガイモの旨味が溶け込んだスープは絶品でした。でも私が気になる事、それは……私より後に食べ始めたはずのお母さんですが、私より先に食べ終わってる事です。
「あれ? お母さん早いね。もう食べ終わってるよ」
「食器の洗い物や片付けがあるからね。でも、今すぐ洗う訳じゃないから、メルはゆっくり食べてなさい」
「もぐ……もう食べ終わったよ、ごちそうさまでした。食器は洗い桶の中に置いておけば良いの?」
「後で洗うから、中にそのまま置いて。あ、桶にお湯だけ入れておいて」
「はーい」
食器を洗い桶に入れ、お湯を入れると食器の油汚れが少しずつ剥がれて浮かんできました。
「食器の油汚れがこんな簡単に……」
「これが家庭を守る主婦の知恵、覚えておいて損は無いわよ」
「へぇ。色々あるんだね、主婦の知恵って」
「そりゃあね。家事の数だけ知恵があるって言っても過言ではないわよ。さて、話は変わるけど夕食の前に私が言った事、覚えてる?」
「えっと、私が実験室の掃除中に見つけたボロボロの紙が確か、霊薬エリクシールのレシピで……」
「その霊薬のレシピの事をなぜ私が知っていたか、今から話すわね。実はお母さん、引退したけど若い頃は冒険者をやっていた事もあってね。自分で言うのもなんだけど、Aランク冒険者よ。元、だけど」
話を聞いて正直、驚きました。まさかお母さんが冒険者だったなんて……しかも高ランクの。
「お母さんが元Aランク冒険者……ちなみにジョブとポジションは何だったの?」
「ジョブは魔術師。ポジションは後衛でパーティメンバーを魔術でサポートしたり、敵を魔術で攻撃したり結構忙しかったのよ」
「うーん……お母さんの戦う姿が全然イメージできないよ、家事やってる姿しか思いつかないし」
「あなたが産まれる前の話だからね。お父さんと私とフリードとマリア、この4人でパーティーを組んでいたの。お父さんが錬金術師、フリードが剣士、マリアが弓術士よ」
フリードさんとマリアさんは隣の家に住んでいる夫婦で、村で薬店を営んでいます。息子のロア君は私と同じ12歳で、立派な薬師になるため頑張ってます。実は昨日、お母さんが常備薬を注文して、今日持って来るはずなのですが……
「それにしてもロア君、どうしたのかしら? 昨日注文して、今日の夜七ノ刻に持って行くって言っていたんだけど……」
「だったらお母さん、お隣だし私が様子を見てこようか?」
「そうね。頼めるかしら? 何事も無ければ良いけど……」
家を出て、隣に建っている薬店の入口を開けようとしましたが、扉には鍵が掛かっており、開きませんでした。次に扉をノックしたのですが、応答がありません。
「誰もいない…って事は無いはず。ロア君は灯りが点いているあの部屋…調剤室にいるのは間違いないのだけど、正面入口の扉は施錠されてて開かないと……ならば手段は1つね。おそらく裏口は鍵は掛かってないはず」
私は店の裏口に向かいました。裏口の扉のノブを回すと、やはり鍵は掛かってないらしく、扉は簡単に開きました。
「お邪魔しまーす……えーと、ロアくーん! メルだよー! 頼んでた薬、受け取りに来たよ!」
大きめな声でロア君を呼んでみたのですが、応答が無いです。もしかして調剤が終わってそのまま寝ちゃったとか!?
「応答が無い、これは中の様子を見に行った方が良いかも」
調剤室は裏口から入った、すぐの部屋です。私は意を決して、ドアを開けて中に入りました。
「ロアくーん、頼んでたお薬を貰いに来たよ……って、えっ!?」
中に入った私が見たもの……それは、灰色ミディアムヘアの女の子でした。しかも頭に髪と同じ色の狼の獣耳があり、お尻からは灰色のふさふさ尻尾が生えていました。そしてその子は私を見るなり……
「どうしたの? メル、何か用? ボクの顔に何かついてる?」
「何もついてないけど、もしかして……ロア君?」
「そうだけど」
ロア君の身に何が起こったのか、詳しい話を聞いてみる事にしました。
「えっと、ロア君? その姿なんだけど、何が起こったの?」
「新しい薬の実験中、魔力込めたらトラブって薬液入り容器が破裂、中の薬液を浴びた。その結果がこれ」
「えっと、状況を整理すると、新薬の実験中に薬が入っている容器に魔力を込めたら、容器が破裂して中に入っていた薬が掛かって、恐らくその薬のせいで狼の獣人になって、性別まで変わったと。そういう事ね」
「さすがはメル、理解が早くて助かる」
「でもどうしよう、ロア君のこの状態(お母さんなら何か知っているかな? 元Aランク冒険者だったし)」
さすがに女の子になったロア君をこのまま放置する訳にはいかないので、私はロア君を家に連れて行く事にしました。お母さんなら何か解決法を知っているかもしれません。
「ロア君、とりあえず今夜は私の家に来てほしい。さすがに心配だし、お母さんに事情を説明しないと」
「分かった。でも行くのは少し待って、調剤室と裏口を施錠するから。その後、正面から出るから、メルは正面入口で待ってて」
ロア君が調剤室と裏口の扉に鍵を掛け終わるまで、私はロア君に言われた通り、正面入口で待っていました。
「メル、お待たせ。それと、頼まれてたお薬は出来てるから先に渡しておく」
「ありがと。後、ロア君の今後の呼び方だけどさ、変えた方が良いかな?」
「ん? いや、どっちでも良い。できたら呼び捨ての方が楽」
「じゃあお言葉に甘えて、これからはロアって呼ばせてもらうね。それにしても尻尾、感情豊かだね」
私がそう言うと、ロアはふりふりと振っている自分の尻尾を見ると顔がみるみる赤くなり、
「恥ずかしいから言わないで……」
「ごめんごめん、別に揶揄ってる訳では無いんだよ」
「本当かなぁ…」
「本当だって。それより、今のロアの姿をお母さんにどう説明しよう? 解決する方法があれば良いけど」
ロアにジト目で見られ少し焦りましたが、ちょうど家に着き、うまく話を逸らせる事ができました。お母さんはまだ食堂に居るはずです。
「とりあえず食堂に行こう。お母さんまだ待ってると思うし」
「お邪魔します」
私が食堂のドアを開け中に入ると、お母さんは椅子に掛けてお茶を飲んでいました。
「おかえり、メル。ロア君の様子はどうだった……の? ところでメル、後ろにいる狼の耳と尻尾がある可愛らしい女の子は誰?」
「あのね…お母さん、落ち着いて聞いてほしいんだけど、この子がロア君なの」
「………はい? 今なんて? もう1回言ってくれるかしら?」
「だから、この子がロア君なの。実は……」
私はお母さんに詳しく事情を説明しました。薬の実験中にトラブルが起きて狼の獣人になってしまった事。性別が女の子になってしまった事。そして解決する方法など、色々聞いてみたのですが……
「私も冒険者としてあちこち旅したけど、分からないわね。まして、性別まで変わるなんて見たことも聞いたことも無いけどもしかしたら……」
「お母さん、何か分かったの?」
「なんとなく…ね。でも今日はもう夜も遅いわ。今日は2人とも休んで明日、これからの事を考えましょう」
「そうだね。ロア、今日はゆっくり休んで明日いろいろ調べてみよう。お母さん、私は工房の自室で休むから、おやすみなさい。ロア、今から工房にある私の寝室に行くよ」
「ありがと。メル、実はもうかなり眠い。それじゃルイーズさん、一晩、お世話になります。おやすみなさい」
「はい、2人ともおやすみなさい」
ちなみに家の敷地には、両親の寝室と書斎、食堂がある母屋、5メートル離れて実験室と私の寝室がある離れの錬金工房が建っています。ちなみに母屋、離れ共にお手洗いとお風呂はあります。
「はい到着、ようこそ、錬金工房へ!」
「お邪魔します…おぉ、結構広い。あ、錬金釜がある」
錬金工房は、入ってすぐ錬金釜のある実験室、右の通路はお風呂とお手洗いが、正面にあるドアは私の寝室です。
「ロアは私のベッドを使ってね、私はソファで眠るから。広いし、寝る時に尻尾が邪魔しないと思う」
「ん、気遣いありがと、ふわぁ……眠い」
「ふわぁ〜、私も凄く眠い…ロア、ゆっくり休んでね。おやすみ」
「ありがと…メル、おやすみ…」
ベッドに入ったロアは、疲れが溜まってたのかすぐに眠り、私もその後すぐ眠りました。
明日、解決策が見つかりますように。
メル「私も錬金術師として、解決策を探してみるよ」
ロア「ありがと、メルの気持ちは嬉しい。でも無理だけはしないでほしい」
メル「出来る事は全てやるけど、それでも圧倒的に情報が足りない」
ロア「ルイーズさんは何か知っている感じだった」
メル「元Aランク冒険者だったからね。エリクシールのレシピも知っているみたい」
ロア「エリクシール…って、あの伝説級の霊薬?」
メル「そう。錬成作業中に事故ってガラス製の器具が割れて、破片を掃除してたら偶然レシピらしい物を見つけたの」
ロア「どこで? 後、レシピらしいって何?」
メル「ゴミ箱に使っている木箱が部屋の隅にあるんだけど、そこの木箱と壁の隙間に落ちてた。エリクシールの品名は分かるんだけど、それ以外の情報が何1つ不明だったの」
ロア「王都の大図書館に行けば、何か分かるんだけど…」
メル「少し遠いんだよね。朝出発して、お昼過ぎに着く距離だけど、この際行ってみよう! 王都大図書館に!」
ロア「じゃあ明日は旅の準備をして、そのまま出発するの?」
メル「そうだよ。と、言う訳で次回予告だよ。
次回、錬金少女と獣人少女のドタバタ冒険記、EP−1 錬金術師、薬師と旅立つ」
2人「私達の冒険、次も見てください!」




