14(ゼインside)
私は努力をしない者が嫌いだ。ヘラヘラと笑い、才能に甘んじる者が。そんな奴らが、必死になっている自分よりも優れている事が。心底腹立たしかった。
私より早く生まれただけの兄が、次期当主となることに不満を持っていた。努力を怠らない自分の方が、当主に相応しいと思っていた。
学園の成績で証明して見せようと思っていたのだが、首席を奪われ落胆した。
ーーアメリア・エルヴァン。
公爵家の令嬢でありながら、優秀な魔法使い。初の女性魔法学士の座に、一番近いと噂される令嬢だった。ニコニコと笑いながら挨拶する様子に、何故だと疑問が浮かぶ。前列に座っているが、私のことなど目にも入らないという態度に、イライラとした。
教室に入り、席に着くとエルヴァン嬢は自ら後ろの席へ座った。
目立ちたいのかとも思ったが、ただただ静かに本を読んでいる様子に、人の目を気にしないだけだと理解した。
(……おかしな令嬢だ。)
私の彼女への感想はただそれだけだった。
その日の帰り際、廊下を歩いているとふと聞こえた声の方を見た。エルヴァン嬢が、自分勝手に話す令息にニコニコと笑っている。
何も反応をせず笑っている様子に、気味の悪さを感じた。
(……なんなんだ。)
するとエルヴァン嬢の後ろから現れた人物に驚いた。
ーーシリウス・ヴェルディア。
彼は恐らく学園で一番有名だろう。文官家系でありながら剣と魔法も一流。私の目標でもあった。
そんな彼は、エルヴァン嬢の肩を抱き、彼女を守っているように見える。
(……なんだ。彼に守られているだけじゃないか。)
心底軽蔑した。
ただ他人に守られているだけの存在なんて、私の敵では無い。そのまま抱えられたエルヴァン嬢を見て、鼻で笑った。
次の日、席につき静かに本を読む姿に、余裕そうだなとつい本音を漏らしてしまった。嫌味で言ったのだ。それが伝わっただろうが、それでも表情が変わらない様子に悔しさが込み上げる。
(なぜ反応を見せない。)
顔色を変えない彼女が苦手になった。
そんな中、社交ダンスの授業で、彼女とペアを組まされ見本をと言われた。ただでさえダンスは苦手だった。それを悟られないように練習は行っていたが、どうにも体が思うように動かないのだ。
彼女と組み、渋々踊り始める。段々とスピードが上がる曲に、やはり苦手だと感じた時だった。
ほんの少し、私にしか分からない程度だろう。
彼女の動きが変わった。格段に踊りやすくなり、驚いて彼女を見てしまった。チラリとこちらを見た彼女は、表情を何一つ変えず視線を逸らした。
(……なぜ、わざわざ。)
不思議だった。
私がダンスが苦手なのを、わざわざ隠すような動きに変えたことが。
嫌味まで言った自分にそこまでする意味が。
(分からない。)
それから彼女の噂がよく飛び交うようになった。
ーー大怪我で背中に大きな傷がある噂。
ーー魔法学士を目指していること。
ーーシリウス・ヴェルディアの恋人だろうこと。
どれも彼女が言ったわけではないが、真実味がある内容だった。
夏の暑さが続いた昼下がり。ふと周りを見渡した時、フラフラと歩くエルヴァン嬢を見かけた。生徒会に入ったらしく、騎士団との仕事で忙しく駆け回っていた。すると、彼女の体がぐらりと揺れてそのまま宙に浮いた。
(えっ……。)
流石にマズいと駆けたが、間に合わず、彼女は地面に倒れたまま気を失っていた。
(とりあえず、治癒室へっ……!)
そのまま彼女を抱え治癒室まで走った。
「すいません!彼女が階段から落ちてっ……!」
ドアを勢いよく開け、息を切らした私へ教員が落ち着くように言う。彼女をベッドまで運び、息を整えて状況を説明した。
「っ……!この傷……。」
カーテンの奥で、彼女を確認しているであろう教員の声に、噂の一つが頭を巡った。
すると入り口のドアが大きな音を立てて開いた。
「……リアはっ!?」
慌てた様子のヴェルディア様が教員へ確認する。教員も噂を知っているのか、彼女の状態を説明した。打撲と擦り傷だけだと分かると、ほっとした顔をしてこちらを見る。
教員が私が運んだのだと説明すると、ピリピリとした雰囲気で近づいてくる。
「……ありがとう。運んでくれて助かったよ。」
そう言って差し出された手を、おずおずと握ると、ぐいっと引かれそのまま耳元で囁かれる。
「……君、リアに敵意持ってたよね?」
その言葉でぎょっとして見上げると、表情の消えたヴェルディア様にじっと見られている。嫌味を言ったことを、エルヴァン嬢が言ったのかと思っていると、冷たい声が降ってくる。
「リアが言うわけないだろ?僕が勝手に調べているだけだよ。……リアに余計なこと言わないでくれる?」
そう無表情で言うヴェルディア様に、頷くことしか出来なかった。私の反応に満足したのか、パッと手を離した後、彼はエルヴァン嬢の目覚めを待つと椅子へ座った。
「……どうしたんだい?僕がいるから授業へ戻るといい。」
こちらを見た彼に睨まれた私は、そのまま退出する事にした。
(…………おかしいのはヴェルディア様の方なのか。)
閉まる扉の外でそう理解した。
その日の放課後、どうしても彼女が目覚めたかが気になり、足が治癒室へ向いた。教員に目覚めたかだけを確認して、戻るつもりだった。扉に手をかけたところで、聞こえた会話に手が止まった。
「……どうして、いつも一人で何とかしようとするんだ。」
「……貴方に見合う人になりたくて。自信が無いの。私は『傷物』という評価がついてくる。……私のせいで貴方が揶揄されるのは、耐えられないの。……せめて他の部分は完璧で居させてよ……。」
手を下ろした私は、そのまま駆け出した。
誰もいない廊下を息を整えながら歩き、激しく後悔をしていた。
エルヴァン嬢の苦しげな声で、彼女は誰よりも努力をしていたのだと悟ったのだ。私よりも完璧に。
全てが彼女より劣っていた。
何よりも、人のために頑張る彼女は、誰よりもその心根が美しいと感じた。
(……ヴェルディア様が守るわけだ。)
納得出来てしまった私は、息をついて空を見上げた。もやもやとする気持ちをなぎ払い、寮までの道を一人歩いた。




